53:不穏な村とヌシ
「ここをご自由にお使いください。食事はお持ちしますので」
「わかりました」
この辺はごく普通の対応だ。
でもなんだか、値踏みされてる気がする。
僕がザヴィーレイの弟子だって知らないせいかもしれない。
「ヘンな村ね」
「そうですね」
今までにも幾つか違う村に寄ってるから、イサさんでも雰囲気の違いが分かったんだろう。
というかいくらおばさんでも、この違いがわからないようじゃ困る。
「来られたら困ることでもあったのかな?」
「まぁ、あると思いますよ」
麦の件でここへ来たの、もう忘れたんだろうか?
おばさんというのが忘れっぽいのは知られてるけど、こんな大事なことを忘れるようじゃ問題だ。
でも、言わないでおく。
言ったらあることないこと責めたてられて、言い負かされるのがオチだ。
「女性の勘違いは指摘しない方がいい」って、父さんも言ってた。
だから賢明な僕は、父さんの言いつけを守ることにする。
「馬を置いてきました」
そう言いながら、生贄騎士が入ってきた。
「妙に警戒心の強い村ですね」
「ラウロもそう思う?」
「はい」
生贄騎士――そういえばラウロって名前だったっけ――もうなずいた。
「他の村がもっと歓迎してたことを思うと、ずいぶん異様だなと」
「そうよねー」
ここまで来る間に、生贄騎士はすっかりおとなしくなってた。
おばさんの怖さを思い知ったからだろう。
おばさん族に逆らうなんて無謀、やるもんじゃない。父さんだってそう言ってた。
きっとこいつの親父さんは、そういうことを教えてくれなかったに違いない。
ただ「異様」はわかっても、理由はわからなかった。
「様子見るしかないかなぁ」
「それ以外、やりようないと思いますけど」
と、ドアがノックされる。
「はーい」
僕が何か言うより早く、イサさんが答えた。
同時に生贄騎士が、警戒しながらドアの脇に寄る。
この辺はさすがだ。
文明的な僕と違って、荒事三昧なだけある。
「すみません魔導師様、洗い水とお茶を……」
「はいはーい」
イサさんがドアをそっと開けた。
――またおばさんだ。
見た目は師匠の家の隣の、縦横大きいあのおばさん似だ。
それが水の入った桶を二つ、平然と手に提げてる。
「ありがとう、重いでしょ? さすがねー」
「いえ、そんなことは」
言いながらおばさんが、桶を置いた。
「お疲れでしょう、手足をこれで洗ってくださいな」
「ありがとう、助かるわー」
言いながらイサさんがまず手と顔を洗い、それから靴を脱いで、ぽちゃりと桶に足を浸す。
「あー、楽。ほんと楽。――あら?」
もう一つの桶で手と顔を洗う僕の横で、イサさんが不思議そうな声を上げた。
「えぇと……あらごめんなさい、お名前聞いてない。ところで、あなたの後ろにいらっしゃるのは?」
言ってる内容が支離滅裂だ。なのにここのおばさんには、意味が通じたらしい。
ホントにおばさん族というのはよくわからない生物だ。
「娘ですよ。ほらお前、お茶をお出しして」
おずおず、という感じで、後ろから娘さんが出てきた。
横に幅を取るおばさんの影に完全に隠れてて、今まで見えなかった。
この山沿いに住んでる人たち特有の、青い瞳に黒くて長い髪。
ただその髪は邪魔にならないように、後ろで三つ編みにされてる。
姫様とはまた違った感じの、朴訥な感じのかわいい子だ。
こういう子がイサさんみたいにならないように、世の中は何か手を打つべきだ。
あとこの子、僕の見立てが間違いじゃなきゃ……。
僕の思いを知ってか知らずか、彼女は盆に乗ったポットとカップ、それにお茶請けを差し出した。
「ここに、置きますから」
「ありがとう、おいしそうねー」
おばさんという存在、食べ物にはホントに目がない。
今ももう、お菓子に視線が釘付けだ。




