52:渦中の地へ
「今日はどこまで行くのー。疲れた」
「あと一息です、イサ殿」
「その一息がいつも長い!」
前の方から、イサさんの不機嫌な声が聞こえる。
僕らはお城を出て、東へ延々旅をしてた。
住んでた村なんてとうに通り過ぎて、もう国境近くのの山岳地帯の、山道だ。
最初は馬車だったけど、麓の村でそれは置いて、今は馬だけになってる。
前の馬に乗ってるのは、あの容姿端麗な生贄騎士と、イサさん。後ろが僕だ。
驚いたことにイサさん、馬に乗れなかった。
あんなヘンな乗り物は、平気で乗り回すのに。
なので頑丈な軍馬を選んで、生贄騎士と二人乗りだ。
ぽくぽくと音を立てて、馬が坂道を登ってく。
地図を見る限り、そろそろ最奥の村に着くはずだ。
国境付近は当たり前だけど、他国からの侵入が怖い。
だからもちろん、魔法でそれなりの防備をしてる。
幸いこの国は国境が険しい山脈で、通れるところが限られてるから、防備は逆に万全だ。
でも国境の村でこんなヘンなことが起こってるとなると、その防備も怪しかった。
だから、見に行く最中だ。
途中で師匠のところへ寄って、いろいろ心当たりを聞いて道具も持って、それから出発して半月ちょっとは過ぎてる。
ホントこの国、東西にばっかり長い。
「あぁ、あれですね」
前の方から、生贄騎士の声がした。どうやら目的の村が見えたらしい。
「すごいとこにあるわねー」
「確かに。僻地とは聞いてましたが……」
細い道が開けた先に見えたのは、ほんの少しの山間の平地と、山肌に張り付くように建ってる家、それに僅かな段々畑だ。
家の数は見える範囲だと、全部でせいぜい二十件だろう。
でもこんな山奥なことを考えると、ずいぶん人がいる方だ。
「あの大きい家が、村長の家?」
「たぶんそうです」
言いながら彼は馬をいったん止めて、自分だけ降りた。
「行きましょう」
馬に乗ったまま村へ入るのは、失礼に当たる。
ただ女性と子供、それに騎士と貴族、あと魔導師は除外だ。
だからいま降りなきゃいけないのは、雇われ護衛に扮した彼だけだった。
いい気味だ。
イサさんは手綱を生贄騎士に任せて、鞍に捕まってた。案外上手だ。
これで馬が暴れたら速攻で落ちるんだろうけど、訓練されてる馬なだけあって、そういうそぶりは全くない。
通りすがりの家の窓から、こっちを見てる人がいる。
なんか見世物の気分だ。パレードならいいのに。
あと不思議なことに、誰も出てこない。
たいていの村だと、人が駆け出してくる。けどここは、家の中から見てるだけだ。
首を傾げながらも進んでくと、目星をつけた家から人が出てきた。
来てるものがちょっとだけ立派だから、村長だろう。
「これはこれは、魔導師様方、よくぞおいでくださいました」
村長がそう言ってくる。
僕とイサさんが、黒のマントを羽織った魔導師スタイルだから、何者なのかは一目瞭然だ。
というか、それ以外に間違えられたら困る。
「こんな辺鄙なところへ、どんなご用で」
「研究のためにこの近くに幾つかあるはずの、祠を見に来ました」
僕が予定通りの台詞を言う。
村長が一瞬びっくりした表情を見せたけど、すぐ笑顔になってうなずいた。
「かしこまりました、お部屋を用意させていただきます」
魔導師がどこかの村を訪ねて、滞在を断られることはほぼ無い。
魔導師がいる間に村の結界や魔法の道具を直してもらえるし、薬ももらえるからだ。
だから辺境になるほど、来るのは大歓迎だ。
逆にヘタに断ると、魔導師の間に「あの村は泊めてくれない」という噂が広がって、誰も寄り付かなくなる。
そうなったら村は立ち行かない。
だからまず喜んでいいのに、村長は何を驚いたんだろう?
祠を見られるのが嫌だったんだろうか?
いろいろとおかしな村だ。
「ささ、どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
馬から降りて、案内されるままに離れへ入る。




