48:ボクの陰謀
ついでに言うとあの助祭長、かなりの小心者だった。
自分の悪事がバレたと知るや、洗いざらい何もかも喋って、画策してた連中は一網打尽。
もちろん会計役もその中にいた。
あと例の噂は、流したのは会計役だったらしい。
僕が自分たちの仲間になろうとしないから、城から追い出すために言ったんだとか。
――馬鹿め。
僕みたいに清廉潔白な人間が、そんな悪事に引っ掛かるわけがないのに。
ともあれ悪事を企んでたヤツらは成敗された。いい気味だ。
ただ同時に、問題も出た。
文官がごっそりいなくなったので、その辺の仕事が回らなくなってしまったのだ。
「特に困っているのが、お金の管理でして」
そう言ってたのは渋騎士だ。
今頃知ったけど、あの助祭、領主からいちばん信頼されてる人だったらしい。
むしろ会計係のほうが、外様だったんだとか。
でもまぁ、そうだろうとも思った。
ああいう混み入った帳簿の計算を教えてくれるのは、実はアカデミーだ。
信者からの寄付金をちゃんと計算して、それぞれの教区に分配――と言いつつ取ってく方が多い――したり神殿の運営をするのに、必要だからだ。
だからどこでも会計係が必要になると、神殿の誰かを派遣してもらうか、アカデミーを出た人を雇ってる。
それが居なくなったってことは、複雑な計算のできる人がお城にいなくなったってことだ。
ついでに神殿も今回あの有様だから、誰か寄越してもらうこともできない。
で、白羽の矢が立ったのが僕だった。
なにしろ自慢じゃないけど、僕はアカデミーを出てる。
だからこういう複雑な計算も、もちろん教わってる。
日頃の行いの良さが、こういうところで出るんだ。
この辺が分かってないあの助祭は、ホントに何を学んだんだろう?
そんなわけで領主立ち会いのもとで、僕は帳簿を付けてた。
いいことだ。師匠のところに帰るのは、一日でも遅い方がいい。
魔法の技術は盗みたいけど、コキ使われるのはゴメンだ。
だから少しでも長くお城にいて、師匠が困ったくらいに帰って恩を売るくらいが絶対いい。
その意味じゃ、騒ぎを起こしてくれた助祭長に感謝だ。
「なるほど、帳簿というのはそう付けてゆくのか」
領主さまが感心したように、僕の手元を覗いてる。
「面白いもんだ」
「面白いですか?」
意外だ。
こういうのは圧倒的に嫌いな人が多いのに。
実際アカデミーでも、この授業は嫌う人が多かった。
でもここの領主様、そうじゃないみたいだ。
「子供のころは、よく会計係の部屋へ入れてもらって、見ておったよ」
「そうなんですか……」
ますます意外だ。
こういう数字の羅列、嫌いな人だと思ってたのに。
「数字が次々変わるのが面白くて、簡単なところはやらせてもらったからの。ただそれ以上は習わなかったゆえ、難しいことは分からんのよ」
「確かに正式なものは、アカデミーでしか教えませんからね」
簡単な足したり引いたり掛けたりは、けっこう教えるところはある。
ましてや領主様だったら、子供のころに家庭教師から、そのくらいは習ってるだろう。
ただ、そこまでだ。
それ以上の学問は、どれもアカデミーの専売特許だった。
――習わせてあげればいいのに。
学問の道は万人に開かれている、聖典にはそう書かれてるくらいだ。
だから貧乏でも領主でも本来は関係ない。
でもこの人は、ちょっと事情が違ったらしい。
「アカデミーは行きたかったんだが……ちょうど父が亡くなって、後を継いでしまってのぉ」
「なるほど……」
確かにそれじゃ、行きたくても行けないだろう。
少しだけ気の毒だ。
「ここは、どうなる?」
「あ、これですか? こちらの品目を買ったことになるので、ここに金額を書いて……」
きちんと説明する。
昔やってみたかったっていう領主様に気に入ってもらえれば、僕はきっとお城に簡単に出入りできるようになる。
そう思えばお安い御用だ。
「ほうほう……」
そうやっていたら、勢いよく扉が開いた。




