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44:情報戦は厨房で

「なんで俺がこんなことを……」

「ミセス・ペーデルに言いますよ」

「そ、それだけはやめてくれ。肉が無くなる」


 僕らの手にはナイフ。

 テーブルの上には大量の、例のコロコロしたお菓子。


 なのにここがおばさん族の最前線だなんて、絶対に誰も信じないだろう。

 断言してもいい。


 僕が今いるのは厨房だ。

 他にイサさん、厨房おばさん、縦長おばさん、渋騎士、あと僕の隣に例の生贄騎士。

 その全員が、お菓子にクリームを詰める作業の真っ最中だった。


「なら、その御用商人もシロね」

「そうですね」


 あのお茶会の後、イサさんはじめおばさん族は、せっせと噂を集めてくれた。

 そしてその結果を、持ち寄っては検討してる。


 その噂の持ち寄り場所に選ばれたのが何を隠そう、この厨房だ。

 他にお茶会の席や、僕たちの部屋ってこともあるけど、厨房が一番多い。


「噂自体は、広まってるのよね?」

「そのようですな」


 答えたのは、例の渋騎士だ。


「若いのを出して聞き込みさせたところ、貴族向けの盛り場で、魔導師殿の噂が出ているそうです。女たちが教えてくれたとか」


 貴族向けの盛り場ってどこだろう、そう思ったけど、誰も教えてくれなかった。

 でも問題は、そういうことじゃなくて……。


「それだと僕、どうなるんでしょう」

「まぁまだ大丈夫でしょ。広まってるの、貴族だけらしいから。姫さまも領主に、言ってくれてるって言うし」


 姫さまありがとうございます! 

 やっぱり姫さまは、おばさん族なんかとは違う。人としての思いやりと優しさをお持ちだ!


「他には特になかった?」


 イサさんの問いに、厨房おばさんが言う。


「んー、関係ないかもだけど、麦がヘンに上がりだしたことかねぇ」

「え?」


 一瞬の間。


「待ってよ。麦、今年は豊作で値が下がって困る、って話してなかった?」

「あたしもそう聞いたんだけどねぇ。どうも商人どもが買い占めてて、それで値上がりしてるんだとさ」


 ずいぶんおかしな話だ。

 麦が余ってるのに買い占めるなんて、何がしたいんだろう? 


「買い占めねぇ……兵法じゃ戦争の前哨戦ってなってたけど、まさかねぇ」


 イサさんの言葉に、はっと渋騎士が顔を上げる。


「たしかに、兵法書にはそうありますな。敵を攻める前に、国内を混乱させよと」

「うん、基本よね。間者を使って噂を流して、人心を煽って離反させて、それから攻める」

「そのとおりです。よくご存じですな」


 イサさん、何者なんだろう?

 おばさんなのに兵法収めてるとか、おばさんらしくない。

 元のところで、スパイでもやってたんだろうか?


「やっぱりどっか、ここを攻め落としたい国があるのかな……他にはなんか聞いた?」


 イサさんの問いに、縦長おばさんが考えながら口を開いた。


「それとは関係ないかもしれませんが、神殿が寄進を募っているそうです」


 あれ、と思う。

 だから僕は訊いてみた。


「なんて言って募ってます?」

「何でも、寄進をすれば天変地異や戦争があっても、神が守ってくださると」

「それ、禁止ですよ」


 みんなの手が止まった。


「そなの?」


 子供みたいに無邪気に、イサさんが訊いてくる。

 この人には聖典さえ、撃退の効果はないらしい。


「神殿って、寄進募るもんじゃないんだ?」

「いいえ、ダメです。聖典で禁じられてるんです」


 不思議そうなイサさんに、もう少しだけ説明することにする。

 異国出身だから、こういう常識を知らないんだろう。


「正確に言うと、一般信徒が寄進することそのものは、禁じられてません。むしろ推奨されてます。ただ『神殿側から募ること』は、禁止事項として書かれてるんですよ」

「――それは知らなかったな」


 渋騎士がうなった。まぁ仕方ない。

 これは僕が魔導師で、そのために聖典を勉強したから知っていることで、一般が読む簡単なほうの聖典には書いてないんだから。


「だとすると、どこだかわかんないけどその神殿は、禁止事項を堂々とやってるのね?」

「そうなりますね」


 まったく、聖典に背くなんて、聖職者の風上にも置けない。

 おばさん以下だ。

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