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43/59

43:救世主は白馬に乗って?

「意中の相手が誰かと恋仲なら、浮名を流して裂こうと思う方も、いるでしょうけどねぇ」

「でも姫さまとなんて噂、流すだけ無駄じゃありません? 魔導師さんが姫さまと恋仲というわけでもなし」

「だからあたし、誰かに好かれたって路線はない、と思うわけ」

「同感ですわ」


 ――誰かこの、僕の壊れて傷ついた心を癒してください。できれば姫さまがいいです。


 でも、そんな白馬の女性は現れなかった。


「ともかくそういうわけだから、別の理由で嫌がらせしてるか、姫さまあたりに汚名を着せたいか、だと思うのよね。ただ噂を流してるのが男の人だとしたら、姫さまに汚名着せようと思うかなぁ……」


 汚名って何だと。

 なんで僕がそんなに汚れてるんだと。


 そりゃたしかに、姫さまと釣りあう地位じゃないけど。

 というか姫さまのことは好きだけど、誓って僕は何もしてない。


 そして何もしてない事実に気付いて、また悲しくなった。

 おばさんたちの井戸端会議は続いてる。


「男の方でしたら、それはないと思いますわ。万一自分が流したと知られたときに、城詰めの騎士たちを敵に回してしまいますもの」

「彼らを敵に回したら、それこそ命が危ういですものねぇ」


 領主様はあんなだけど、この領地の騎士――つまるところ夕食の肉を人質に取られたアレ――は、じつは勇猛果敢だ。


 理由はきっと、あんな綺麗でしとやかで慈悲深い姫さまに、忠誠を誓ってるからだと思う。

 そんな彼らが姫さまを冒涜されたと知ったら、きっと骨のかけらも残さないだろう。


 ――って待て。


 怖いことに僕は気付いた。


「もしかして僕、すごく危なかった……?」

「そーねー」


 他人事みたいにイサさんが言う。


「でもまぁよかったじゃない、騎士さんたちの誤解は解けて。城のお歴々の誤解は残ってそうだけど」

「え……」


 それはまずい。

 城のお歴々って言ったら、領主様とはいちばん親しい人たちだ。

 そこに、僕が姫さまを籠絡しようとしたなんて噂が流れてたら、僕は――。


「城から、退去……?」

「そうなるかもしれませんねぇ」


 あっさりとご婦人の一人が肯定した。


「本当かどうかはともかくとして、姫さまを篭絡しようとしたなんて話を聞いたら、ねぇ」

「領主様、姫さまのことは本当に大事にされてますものね」


 口々に言われて、背中を冷たいものが伝う。


「ど、どうしよう……」

「それこそ、汚名を晴らすしか」

「そんな……」


 相手もわからないのに、そんなことができるわけがない。

 そのとき、縦長おばさんが慎重な面持ちで言った。


「――もしかしたら、わかるかもしれません」


 救世主だ。

 白馬に乗ったおばさんが、僕を助けに来てくれた!

 縦長おばさんが続ける。


「この城の侍女たちに聞けば、何か分かるかと。それにこの件、どうにも噂の出どころが気になるので、調べておきたく存じます」

「あたしも賛成。さっきの領主が意見翻す件といい、なんかすごく気になるのよね」


 姫さまがうなずいた。


「イサさんとミセス・メルバリの二人が同じ意見なら、調べるべきでしょうね。ミセス・メルバリ、お願いできるかしら?」

「お任せを」


 縦長おばさんが一礼する様は、どんな騎士より頼もしく見える。

 厨房おばさんも横から口を挟んできた。


「なら、厨房周りは任せとくれ。出入りの業者たちなんかに、それとなく聞いてみるさ」


 厨房おばさん、体つきも相まって、頼りがいがあることこの上ない。

 そんな一連を見ていた、ご婦人の一人が言った。


「私も、うちの女中頭に調べさせてみようかしら。召使いたち、噂話が好きですし」

「でしたら私も。人数が多いほうが、きっといいですもの」


 おばさんたちすみません。今までごめんなさい。

 これからは神様じゃなくて、おばさんたちに祈りをささげることを検討します。


「あなたたちも当然、協力するわよね?」


 イサさんが生贄騎士に向って言った。口調は疑問形だけど、拒否権はなさそうだ。

 おばさんたちの視線の中、彼が頷いた。


「ぜ、全力で協力させていただきます……」


 ここで協力しなかったら夕食の肉が無くなるから、彼もかなり必死だ。


「働きが悪かったら、分ってるだろうね」

「も、もちろんです」


 厨房おばさんに睨まれていい気味だ。

 その日はそれで、お茶会はお開きになった。

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