40:恐るべきお茶会
(これは本当にお茶会なのか?)
なぜかイサさん、この容姿端麗騎士を借りると言った後、このお茶会に連れてきたのだ。
困る、とても困る。
姫様がコイツを見て、気に入ったりしたら困るじゃないか。
でもコイツは僕の苦悩なんかまったく知らないで、ひそひそと続けた。
(お茶会というより、戦略会議だぞ、これは)
(たしかお茶会のはずなんですけど……)
というか、縦長おばさん怖い。この人のせいで、今までも十分怖かったお茶会が、もっと怖くなってる。
ミュルダール夫人が、満足気にうなずいた。
「本当にミセス・メルバリは物知りね。素晴らしいわ」
「そんなことはございません」
縦長おばさんが即座に否定する。
「女中頭でしたら、たいていはこういうことを知っております」
「まぁ……」
ご婦人がたが顔を見合わせた。
「私たち、今までずいぶんな損をしておりましたのね」
「本当ですわ。これなら家で女中頭に尋ねるだけで、半分くらいのことは分かりそうですものね」
縦長おばさんが首を振る。
「私どもが存じているのは家の中と、それに関係することだけでございます。麦の作柄は分かりません」
「それもそうですわね」
ご婦人がたが優雅に笑った。
ひとしきり笑った後、姫さまが口を開いた。
「私はやはり、お父様のことが心配ですわ」
そりゃそうだ。心優しい姫さまにとって、これ以上の心労はないだろう。
「姫さま、何かありましたの?」
「実は――」
姫さまが話しだした。
「私もみなさまがやってらっしゃるようなことを、このところやっているのですけれども。何というかお父様は……すぐに意見を変えられてしまって」
なんでも、そのときは膝を打って納得するのに、数日すると元に戻ってしまうんだっていう。
とんでもない父親だ。
というか領主、あんなに娘を可愛がってる――領主の姫さまへの溺愛はよく知られてる――のに、なんで娘の助言を無にするんだ。
姫さまがため息をついた。
「先日も、橋のどちらを先に直すか、という話を、みなさまにしましたでしょう?」
もちろん僕も覚えてる。畑の中の橋と神殿近くの橋を、どっちを先に直すかって話だった。
で、みんなで持ち帰っていろいろ考えて、麦や何かを運ぶのにしょっちゅう使ううえ、刈り入れの時期が迫ってるから、畑の中の橋を先にしたほうがいい、ってことになった。
「それでお父様にお話ししましたら、その時は『たしかに畑の橋が先だ』と、納得くださいましたのに。数日経ったら、『そんなことは言っていない』と」
「まぁ……」
領主様ヒドすぎる。単に前言撤回するだけならまだともかく、『言ってない』ってどういうことかと。
と、プラチナブロンドに薄い青の瞳のご婦人が、姫さまと同じようなため息をついた。
「うちの主人も、同じようなことをしますわ。なぜかしばらく経つと、意見が元に戻ってしまいますの。それで訊くと、逃げると言うか話をしないというか……」
たしかに「自分が不利と思ったら女の人とその件は話すな」って、父さんも言ってたけど。
けどそれにしたってあからさまだ。
そんなことするくらいなら、最初から考えを変えなきゃいいのに。
「ねぇ魔導師さん、男の方って、そういうものなのですか?」
「え?」
いきなり話が振られて、思いっきりうろたえる。落ち着け自分。
姫さまの前でカッコ悪いところを見せたら、嫌われてしまう。
「そうですね……」
少し間をおいて――その間に急いで考えた――から、僕は答えた。
「人に、よるとは思うんです。最初から、すぐコロコロ変える人もいますし。ただ領主様なんかの件だと、何で考えを変えたのかが、僕は気になります」
気まぐれとか、伝統とか、そういうことに既に決めたから今更、とかいうならまだ分かる。
でもあの橋の件はまだ何も決まってなくて、これから両方やるけどどちらを先にするか、って話だった。
そして麦の刈り入れがある以上、畑が先は理にかなってる。
なのに翻すんだから、何か理由があるはずだ。
「そういえば」
考え込んでしまった僕に代わって、ご婦人の一人が口を開いた。




