39:騎士は生贄に
「こんなに急いで捕まえようとしたってことは、あなたたち、何か掴んでるわよね?」
「それは言えん」
間髪入れずに若い騎士。
それに対して、イサさんがにまぁ、と笑った。魔女の笑みだ。
「言えん、ってことは、知ってるってことよね。さぁ言ってもらいましょうか?」
「女などに言えるか!」
この騎士、本当におばさんの扱いを知らない。
僕みたいにいつも気を遣ってないとひどい目に遭うのに、それが分かってない。
「女、ねぇ」
イサさんの、心底楽しそうな顔。
でもそれより早く、厨房おばさんが動いた。
「さっきから聞いてりゃ、女、女って。女をどこまで馬鹿にしてるんだろうね。どうしてやろうか」
「女は女だろう、我らは騎士だぞ!」
「ほーお、料理長のあたしにそう言うかい」
厨房おばさんの目が細くなった。
まずい、こっちもかなり怒ってる。
僕は関係ないはずだけど、これはとばっちりがきそうで怖い。
厨房おばさんが頷いた。
「分かったよ。今日からあんたたちの食事、肉抜きにするさ。会計役も喜ぶだろうしね」
「――っ!」
居合わせた騎士全員が、文字通り硬直する。
「そっ、それだけは勘弁を……」
「馬鹿っ、早く謝れ!」
「すみません、こいつ好きにしていいんで、肉だけは!」
おばさん族にたてつくという無謀をした容姿端麗な騎士が、夕食のおかずのために、あっさり生贄として差し出された。
いい気味だ。清廉潔白な僕を疑ったりするからだ。
「じゃぁ、この人ちょっと借りてもいい?」
イサさんが差し出された騎士を指さす。
「ゆ、夕食の肉を勘弁していただけるなら」
「肉なしじゃ、さすがに力が出ません」
面々が口々に言い、それを聞いた渋騎士が頷いて、生贄の騎士の肩に手を置いた。
「お前の働きに、夕食の肉がかかっている。必ず汚名を返上しろ。失敗は許さん。いいな」
「は、はい……」
生贄騎士がうなだれる。
渋騎士がため息をつきながら言った。
「まったく、厨房には逆らうなと常日頃から言ってたのを忘れおって――というわけでミセス・ペーデル、肉の件はよろしくお願いします」
「分かった、今回は大目に見てやるよ。でも次は承知しないからね」
『はいっ!』
厨房おばさんの寛大な処置に、騎士たちの敬礼が揃った。
「……というわけですの。みなさま、どう思われます?」
新作お菓子をお供にしてのお茶会は、つつがなく進んでた。
「ミセス・ミュルダール、よろしいですか?」
縦長おばさんが口を開いた。
「その生地でございましたら、首都よりケルベクの町のほうが、安く良いものが手に入ります。あちらが産地ですので。そのあたりはおそらく、貴家の女中頭が心得ていると思われますので、いちど意見を訊いてみることをお勧めします」
「まぁ、知りませんでしたわ。ありがとう」
黒髪の貴婦人が優雅に頷く。
「うちのミセス・ストールと相談してみるわね。それから、仕入先のことを主人に言ってみるわ」
「それがよろしいかと。それから、ミセス・エーベルゴート」
縦長おばさんが、別のご婦人に向きなおる。
「何かしら、ミセス・メルバリ」
「そういう開墾の仕事でしたら、北の荒れ地出身の者が向いております。彼らは石ころだらけの土地に慣れておりますから。お屋敷の下女には、その方面の出身者がきっといるはずですから、彼女らの親類か同じ村の者を探すとよろしいかと」
なるほど、とミセス・エーベルゴートが軽くうなずいた。
「たしかに育った土地が違えば、慣れていることも違いますものね。わたくし、そこまで気が回りませんでしたわ」
ご婦人がたもうなずきながら、「そうですわね」「大事なことですわ」等々、互いに言葉を交わす。
(姫さまとご婦人がたが集まっての、お茶会じゃなかったのか?)
女性陣からはほんの少し離れた場所、僕の隣に座らされて、居心地悪そうにしていた例の騎士が、小声で訊ねてきた。




