38:翻りし布地の下
「あんたみたいなガキが、何を偉そうに。どっから産まれたか分かってんの?」
容姿端麗の面々が、怪訝そうな顔になる。
そのままずっと、阿呆面を晒してればいい。
「あんたたちなんてね――」
そして言葉と共に僕の目の前で、翻る布地。
「こっから産まれてぴーぴー泣きながら、チ●●●まで拭いてもらってたんでしょうが! それが少々図体でかくなったからって、何威張ってんの!」
――あぁなんて羨ましい。
翻ったのは、イサさんのスカートだ。
たぶんきっと、かなり豪快に前をめくってる。
だから正面の騎士ども、中身がきっとよく見えてる。
神様はなんて不公平なんだ。
騎士連中は凍りついてた。
でも視線が釘付けなあたり、やっぱり悔しい。
こんなことなら僕も、さっさと前へ出るんだった。
イサさん、おばさんの割に細いから、きっといい感じに違いない。
僕の深い深い後悔をよそに、おばさんたちと騎士どもは、一歩も引かず睨み合ってる――というか、視線が行き違ったまま固まってる。どうしよう。
その時、大喝が響き渡った。
「お前たち、何をしている!」
後ろのほうから年かさの人が、騎士どもをかき分けて前へ出てくる。
今度はなんとも渋い。刻まれた皺と蓄えた鬚が、ご婦人がたが頼もしく思いそうな貫録になってる。
やっぱり神様はエコヒイキだ。
「そろって部屋に居ないから、何をしているかと思えば――そちらの御婦人、非礼は詫びる。が、その前にその、なんだ、その足をだな」
「あら失礼」
曲ったリボンを直すような調子で、イサさんがスカートから手を放した。
恥じらいなんてどこにも無い。海に捨てたに違いない。
渋い人が咳払いをして、改めて訊ねた。
「で、何がどうなってる。説明しろ」
「あたしも訊きたいわ」
「実は……」
左右から睨まれて、若い騎士が縮こまりながら口を開いた。
ざまぁみろ。
「実は、そこの魔導師がスパイで、姫さまに取り入ろうとしているという話が……」
「それは裏を取ってからだと言ったろう!」
腹の立つことに、僕に疑惑がかけられてたらしい。
ザヴィーレイの弟子で魔導師の僕を、何だと思ってるんだろう。
だいいち姫さまに取り入るなんて、出来たらとっくにやってる。
「このボウヤが? 無理無理」
イサさんがけらけらと笑った。
「そんな度胸ないわよこの子。姫さまとあわよくば――って考えてはいるだろうけど、実行できないタイプだし」
イサさんひどい。
おばさん族にデリカシーが無いのは知られてるけど、無いにしたって程がある。
いくらおばさん族特有の読心術が使えるからって、僕の考えをバラさなくてもいいじゃないか。
「だから心配するだけムダよ」
「我らが心配しているのは、それだけではないぞ。万が一スパイだったらどうする」
「この子が? ムリでしょー。そんなことするには、度胸なさ過ぎだもの」
イサさんが一笑に付したけど、僕としては複雑だ。
というかここでそんな容疑をかけられたら、お城に居られなくなる。それは困る。
だから僕は仕方なく、指摘してやった。
「先日の晩餐の席でも言いましたけど、僕、セルベル学院の出身です」
いちど言ったんだから覚えとけと思うけど、聞こえなかった可能性もある。
だから今回は、それ以上指摘しないことにする。
「セルベルがどういうところかは、お分かりですよね?」
「知らない」
「イサさんは黙っててください……」
まぁ異国のおばさんじゃ、知らないのも無理はないけど。だから僕は説明した。
セルベルは魔法学院で、国立で、才能さえあればタダで行ける学校だ。
代わりに卒業したあと、もしも国に何か被害を与えたら、牢に入れられるだけじゃ済まない。
なんとタダだった学費まで、全額支払う羽目になる。
そんなの死んでもお断りだ。
だから僕が、スパイなんてするわけがない。
そう力説すると、みんながうんうんと頷いた。
「この者が、裏切り者のわけがないな」
「だから言ったじゃないー」
みんな僕の潔白を納得してくれたみたいだ。
ただ視線が、気の毒な人を見る雰囲気なのはなぜだろう?
けど気にしてもしょうがない。真の僕を理解してくれただけで良しとしよう。
イサさんが考え込みながら言った。




