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37:スカートの陰

「あの……ぼ」

「そうですね、たしかに姫さまが変わられたのですから、私たちが古きやり方に囚われる必要はありませんね」

「あたしゃ賛成だよ。もうね、下働き通してやりとりとか、まどろっこしくてさ」


 ――えっと、僕の勇気と立場は。


 おばさんなんか嫌いだ。

 大嫌いだ。


 でももう誰も、僕の存在さえ気にかけてない。

 気にしてるのはお互いと、手元のお菓子だけだ。

 イサさんが満足げにうなずいた。


「二人とも、そうこなくっちゃ」


 いたくご機嫌だ。

 そんなイサさんを縦長おばさんが、またじろりと見てから言う。


「で、イサどの、何を企んでいるのです? 私の目はごまかせませんよ」

「大したことじゃないわよー」


 大したことじゃなくてもなんでも、やっぱりイサさん企んでた。

 父さんの言うとおりだ。


「で、何なのです? 早くおっしゃいなさい」

「うん、だから大したことない。二人に、お茶会に来てほしいだけ」


 おばさん二人が固まった。

 しばらくしてやっと、縦長おばさんのほうが口を開く。


「私たちは、そのような身分ではありませんよ」

「分かってる。でも来てほしいの。というか身分って言うなら、あたしなんてもっと胡散臭いんだし」


 無茶苦茶な理屈だ。

 だいいちイサさん、たぶん「魔導師ザヴィーレイの客人」ってことで、ここに紹介されてるはずだ。


 そうだとすれば、身分なんて関係ないのに。

 でもこの人が、そういうことを気にかけるわけがない。


「姫さまがたには、あたしからちゃんと話すから。だから今回だけでも、来てくれない?」

「――分かりました。今回だけですよ」


 縦長おばさんが折れる。


「あたしもお菓子持ってくから、今回は行くけどさ」


 厨房おばさんも折れる。

 けどこっちは苦情がついた。当たり前だ。


「ただ、話に加わるのはね。そんな姫さま方がするような高尚な話、分かるわけもないし」

「大丈夫、大丈夫。その辺はぜったいヘーキ」


 何が大丈夫なんだか。

 ホントにおばさんっていうのは、根拠のない自信でなんでも押し通すから困る。


 縦長おばさんが立ちあがった。


「これからの指示をしてきます。では後ほど」


 音も立てずに部屋を出てく。


「あたしたちも、これ持って行きましょ」

「そうだね。姫さま方が、きっとお待ちだろうから」


 残る二人も立ちあがった。



「そこの魔導師、ちょっと来てもらおうか」


 姫さまの部屋へ行く途中、僕たちの前に立ちはだかったのは、どう見ても友好的とは言い難い言動の男性陣だった。


 たぶん、ここの騎士だと思う。

 この間のむさ苦しい晩餐会で見た顔が、幾つかあるし。


 なのにみんな、こうして見るとどういうわけか、ご婦人がたが顔を赤らめそうな容姿だから余計に腹が立つ。

 神様はえこひいきだ。


 そこの魔導師、って言うからには、たぶん僕のことだろう。


 困った。

 父さんはずいぶんいろいろ含蓄のある言葉を残してくれたけど、こんな時の対処法は教えてくれなかった。


 なにより僕は今、姫さまのところへ行こうとしているわけで。

 ここであのお茶会へ行かなかったら、ご婦人がたの不興を買って、二度と呼んでもらえなくなるかもしれない。


「聞こえないのか、そこの魔導師!」


 どう答えようかと、僕が頭を高速回転させているその時。


「ちょっと、何の用よあんたたち!」


 言い返したのはイサさんだった。


「人の邪魔して、ずいぶん失礼な言い草ね。それともここの男どもってのは、挨拶の仕方も知らない野蛮人なの?」


 一気にまくしたてる。

 怒ったのは騎士たちだ。


 一瞬動きが止まった後、全員がものすごい形相になる。

 中には、剣の束に手をかけてるのまでいる。


「お前に用はない。あるのはそこの魔導師だ」


 それでも自制してるんだろう、全員動かず、いちばん前のけっこう若い騎士――これがまた輪をかけて容姿端麗で、不幸を願いたくなる――が口を開いた。


「そこをどいて、その魔導師を引き渡せ」

「何言ってんの、彼はそれこそスカートの陰に、勝手に隠れてるだけよ。でもね、はいそうですか、って従う云われもないんだけど」

「たかが女が何を――」

「うるさい」


 いったいどこから、そう思うほどの、イサさんの低い声。

 まずい、かなり怒ってる。


 いや、よく考えたらまずくない。

 対象は僕じゃないんだから、ここは喜ぶべきだ。

 容姿端麗よ、おばさんの怖さを思い知れ。

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