33:おいしいハナシ
「私どもとしては、ぜひこの城に来て頂きたいのですがねぇ。魔導師殿がいてくだされば、いろいろとご相談もできましょうし」
別の誰か――会計役に雰囲気が似てて、でも禿げてる――が、また話しかけてきた。
「先日の保冷箱のような、便利な魔法の道具というものも、導入したいですしな」
「はぁ……」
微妙だ。微妙すぎる。
だってあれはイサさんの発案で、僕の発明じゃない。
これでうっかり仕官なんかして、そのことがバレたら、僕の魔導師という立場が地に落ちる。
それだけは何とかして避けないと、姫さまに嫌われてしまうかもしれない。
「まぁまぁ、無理強いしてもはじまらないのでは?」
少し遠くにいた神職から、助け船が入る。
「インゲンソン殿、彼もそのうち気が変わるかもしれませんし、もしかしたら状況が変わるかもしれませんよ」
「確かにそうですな。スタニフ殿、失礼した」
やっと解放される。でも相変わらずむさ苦しくて、食事がちっともおいしくない。
何とかして口実を作って早く抜け出そう。そんなことを考えながら、僕は残りの料理を口に運んだ。
「へぇ、こっちは生地に砂糖も入れないのかい」
「うん。でも丸く膨らんでおいしいのよー」
僕らはまた厨房にいた。振るった粉が、水と一緒に鍋の中に入れられる。
何やら新作のお菓子らしいけど、僕も食べたことがないから、何ができるのか全く見当がつかなかった。
「で、火にかけて、っと」
鍋が火の上に置かれ、イサさんがかき回す。
「こうしてると、だんだんまとまってくるわけ。で、こんなふうに鍋底に少し張り付くようになったら、火から下ろす」
あの怖いお茶会は、まだちゃんと続いてた。
しかも始めたときは「月に一回くらい」って言ってたのに、お茶会が終わるころには「もっと頻繁に」って話になって、けっきょく週に一回ペースだ。
そして今日の新作お菓子も、そのお茶会用だ。
「それで冷めたら、卵を少しずつ混ぜるの」
「じゃぁ、待たないとだね」
「うん、じゃないと卵に火が通っちゃう」
鍋がふきんの上に置かれる。
「そういやね」
待つ間、厨房おばさんが思い出したふうに言った。
「このあいだ姫さまが、どういうお菓子に何をどのくらい使うのか、って訊いてきてさ。びっくりしたよ」
「麦が豊作だからじゃない?」
事情を知ってるイサさんが答える。
「あれ、麦が豊作なのかい?」
厨房おばさんが考え込んだ。
「じゃぁ、それの使い道かねぇ」
内心舌を巻く。
おばさんといえども厨房を預かってるだけあって、食べ物に関しては頭が回るみたいだ。
「けど、お菓子ねぇ。あれは卵をたくさん使うのが多いから、そんだけの卵が手に入るかどうか。麦だけなら、パンを工夫したほうがいいんじゃないか」
「ウッラ、さすがねー。それ、姫さまに進言しなさいよ」
――ここはどこですか?
僕は厨房にいるはずだ。
そしてここの厨房おばさんは、あのお茶会の怖い内容なんて知らないはずだ。
なのにどうして、あのお茶会がこんなところまで這い出してるんだろう?
今のうちに阻止しないと、きっととんでもないことになる。
けど、どうやって阻止したらいいのか分からない。
「もう冷めたかな?」
イサさんが鍋を覗き込んで、ひとりでうなずいた。
「おっけーおっけー、卵たまご」
言いながら、割ってほぐした卵を、少しずつ鍋に入れていく。
「どのくらい卵を混ぜるかが、けっこう重要でねー。あ、もう少しかな」
少しずつ卵が足されて、生地の色が卵色になっていった。
「こうやってヘラですくって落としたとき、こういうふうに三角に残る硬さがいいの。これ以上柔らかいと膨らまないし、硬すぎてもダメ」
「なるほど、ここがコツだね」
よくわからないけど、生地の硬さがキモみたいだ。
ただイサさんや厨房おばさんの作るお菓子は、おばさんなだけあってどれもおいしいから、心配はしてなかった。
「で、これを絞り出し袋……はさすがに無いか。じゃぁスプーンですくって、っと。霧吹きはないから、まぁいっか」
バターを塗った鉄の板の上に、生地が落とされてく。




