31:お茶会、とは?
「それって、やっぱり意味ないと思うわよ。ハッタリ効かそうにも、効かせられないってことだもの。まぁ知らないから魔法に夢見てるチュウニな病が治らない、可哀想な人なのかもしれないけど」
「なんですかその病」
「んー、ヒーローになる夢ばっかり見えてて、現実は見えない病気かな」
話を聞いて、そういう人ならよくいる、と思ってしまった。
ここの領主様だって、ある意味そのチュウニな病気? と思うし。
そんな話をしてたら、例の案内人が迎えに来た。
姫さまのお茶会に行く時間らしい。
今回は僕らは、黙ったまま廊下を歩いた。
口を開いたら会計役の話になりそうだし、それを誰かに聞かれたら大変なことになる。
なら、黙ってるのがいちばんだ。
沈黙は金、それは父さんの口癖のひとつだった。
うっかり口を開いておかしな誤解をされるくらいなら、黙ってるほうが数倍いい。
それに黙ってると相手が勝手に想像して、適当に都合のいい解釈をしてくれるもんだ、と。
本当に父さんの言葉はどれも、深いものが多い。
「ようこそおいでくださいました」
案内された部屋には姫さまはじめ、貴婦人がたがもう勢ぞろいしてた。
「これからあのパンが来るそうですわよ」
「楽しみですわね」
お茶を口に運びながら、ご婦人がたが言葉を交わす。
師匠の屋敷の居間を占拠してた「おばさん」っていう、がさつな種族とは大違いだ。
言葉づかいも仕草も、すべてが優雅だ。
出されたお茶を飲みながらそんなことを考えてたら、黒髪のご婦人が口を開いた。
「そういえば、先日の夜会で姫さまがおっしゃったことですけれど」
何だろう、と思う。
僕はあの日はほとんど姫さまのそばにいなかったから、内容が見当つかない。
ご婦人がたがうなずいた。
「興味深いお話でしたものね」
「ですけど私、どうやったらいいか分からなくて……」
「私もですわ」
なんのことだか分からないけど、姫さまがおっしゃったことって言うのは、けっこう難しいことだったみたいだ。
と、一人のご婦人が切り出した。
「私、姫さまのおっしゃるとおりにやってみましてよ」
まぁ、とみんながいっせいに声をあげた。
「どうでして?」
「思ったより簡単でしたわ」
やってみたという、金髪に青い目のご婦人が言う。
彼女が言うには、夕食のあと旦那さんの好きなお酒を用意して、晩酌に誘ったんだとか。
「そうしたら、すぐに困りごとを話してくださいましたの。今年の麦の作柄が良くて、という話でしたわ」
「作柄が良くて? 悪くて、ではないんですの?」
「良くて困っているそうですわ。それで私、不思議に思って、あとでうちの家令に訊いてみましたの」
これは何の会合だろう?
ふわふわのパンを食べる、お茶会じゃなかったんだろうか?
金髪碧眼のご婦人の話は、まだ続いてた。
「家令が言うには、豊作だと売れ残りが増えると。そうなると値が下がって、収入が減るとのことでしたわ」
「不作の年なら分かりますけど……不思議なことですわね」
ご婦人がたが、顔を見合わせる。
「いずれにせよ、収入が減るのは困りますわ。そちらが豊作なら、うちの畑も豊作でしょうし」
「でも私、どうしたらいいか思いつきませんの」
お茶会のはずだ。
姫さまのお茶会に誘われて、お菓子とお茶をいただくはずだ。
なのにどうして、麦の作柄の話になってるんだろう?
別のご婦人が喋りだした。
「私のところはまったく違う話で。冬になったら掛ける、橋のことだと」
「まぁ、橋? 掛ければいいんではなくて?」
「それが、人足に支払うお金のことだとかで。それこそ麦が値下がりして収入が減ったら、払うお金がないんだそうですわ」
「それもこまりますわね……」
そのとき、イサさんが口を開いた。
「麦は、余るのよね?」
「ええ。そう主人が申してましたから」
「で、支払うお金が足りなくなりそうなのよね?」
「そうですわ」
「なら、麦で払えばいいじゃない」
部屋が静まり返った。
「ごめんなさい、イサさん。私よく分かりませんわ。説明してくださいません?」
姫さまに言われて、イサさんが説明を始めた。




