30:魔法じゃない魔法
魔導師だと知れて、城の人の僕を見る目はだいぶ変わった。
――微妙な気分だけど。
というのも態度が変わったのは、出世欲満々って感じの人ばっかりだったからだ。
特にひどいのが例の会計役で、翌日にはなんだか分からない貢物――たぶん――を持って、僕にあいさつに来た。
自分のお抱え魔導師にならないか、若いから優遇するとか、そんな話までオマケにくっつけて。
他にもいろいろ、領主に仕官できるよう取り計らうから自分を引き立ててくれとか、魔導師ギルドに自分を紹介してくれとか、ともかく利益を狙うヤツばっかりだ。
師匠があんな片田舎に引っ込んだ理由が、ちょっとだけ分かる気がする。
もっとも師匠の場合、人づきあいと性格が悪すぎて、首都にいられなくなっただけの気もするけど。
「たいへんねぇ」
例のお茶会へ向かう道すがら、話を聞いたイサさんがけらけらと笑う。
「ちっとも大変だと思ってないようにしか、見えないんですけど」
「大変なの、あたしじゃないもの」
嫌になるくらい、魔導師ってものを理解しようとしない。
でもおばさんっていうのは、こういうものなんだろう。なら考えるだけ無駄だ。
「そういえば貢物持って、例の会計役も来てたわよね?」
「ええ」
あんまり楽しい人じゃなかったけど。
おばさんがさらに訊いてくる。
「なんの話をしたの?」
「大した話じゃないですよ。お抱え魔導師にならないか、って。断りましたけど」
「お抱え? なんで?」
「なんでって言われても……」
僕に会計役の頭の中なんて、分かるわけがない。
けどおばさんはなにか引っかかったらしく、首をかしげてる。
「お抱え魔導師って、宮廷とかで雇うんじゃない?」
「そうですね。たいていはどこかの国王が雇います。領主が雇うこともあるけど、今は少ないかな」
「なら会計役の言う話、変じゃない? それとも、個人で雇うの?」
言われて考える。
たしかに個人で雇う、っていうことはある。
雇い主が何か研究してほしいものがあるとか、そんな場合だ。
でも、そう多くはない。
研究するには素材やら施設やらでやたらお金がかかるから、お金がありあまってしょうがない人か、全財産はたいても研究してほしいことがあるお金持ち、くらいだ。
僕は単純に後者かなと思ってたけど、イサさんは首を振った。
「あの人、そういう人に見えないわよ。全財産はたくどころか、あの世まで抱えてくタイプじゃない?」
「そうですねぇ……」
小者なのに出世欲抜群な人が、たしかに何か研究してもらうようには思えなかった。
病気を抱えてて、それを治したくてってことも、考えられなくはない。
でも見た目、すっごく元気そうだし。
何よりそれなら僕みたいな見習いじゃなく、師匠レベルを雇うだろう。
じゃなきゃ完璧にお金の無駄になることくらい、誰だって知ってる。悔しいけど。
「魔導師って宝石みたいに、持ってると何かいいことあるわけ?」
「人を石扱いしないでください」
ほんとにおばさんっていうのは、他人を人として扱うのが苦手らしい。
父さんが言ってたように、犬に吠えられたくらいに思ってないと、こっちの心が折れそうだ。
でも黙ってると何言われるかわかんないから、きちんと説明する。
「魔導師が配下にいれば、たしかに箔というか……ハッタリは効きますよ。奥の手がある、って、相手に思わせられますから」
実は、別に大したことはできないけど。
魔法はまずは下準備。
だからとっさに何かっていうのは、けっこう苦手だ。
それが分かってるから僕だってああやって、イザってときに備えて魔力込めた玉を持ってたんだし。
でも知らない人が見たら、いきなり使ったように見えるから、効果は抜群だ。
人前ではともかく意表をつけ、そのためにしっかり準備しろ、そうすれば女の人にやられっぱなしにならずにすむ、父さんの言ってたとおりだ。
とはいえ、出会い頭に何かできるわけじゃないのは、まったく変わらないわけで。
「じゃぁ、それ知ってる相手なら意味ないわね」
「ないですね」
「会計役は知ってるの?」
「さぁ……」
その辺はさすがに、当の会計役に訊いてみないとわからない。
訊いても教えてくれないだろうけど。
ただたしかなのは、たとえいま知らなくても魔導師と関わってたら、必ず「魔法は即応は苦手」を知るっていうことだ。




