29:おぉ神よ
「いまね、みんなに話聞いてたのよ」
前置きもなく、イサさんが僕に言う。
「何の話です?」
「この国の話」
相変わらず支離滅裂なうえに、内容が脈絡のないところへ飛びまくりだ。
「意味が分からないんですけど」
「もう。魔導師って言うのに、なんで人の考えが分かんないの?」
イサさん、無茶苦茶だ。
けど指摘はしない。
女の人に間違いを指摘すると、ずーっと根に持つって、父さんが言ってた。
そしてその言葉通り母さんや近所の人は、夫婦喧嘩のたびに「あなただってあんな些細なことを、とんでもないことみたいに指摘したじゃないか」と、反論を封じ込めてた。
おばさんに弱みを握られるなんて、ぜったいにイヤだ。
だから言わない。代わりに違うことを言う。
「すみません」
情けない。
見習いとは言え魔導師の僕が、なんでおばさんに頭下げてるんだろう?
でも父さんがいつも言ってたとおり、頭を下げるのはタダだ。
タダでおばさんの敵に回らずにすんで、しかも情報が手に入るなら、これ以上いい話はない。
だから下げる。
だいぶ虚しいけど。
おばさんは父さんの教えどおり、気が済んだみたいだった。
「しょうがないわねー。実はね」
そう言いながら話しだす。僕の思惑通りだ。
けどおばさんの話は、頭を下げるほどの内容じゃなかった。
「みんなでたまに、集まりましょ、って話してたの」
貴婦人がたが一斉にうなずく。
「私たち、いつも館にばかり籠っていて、なかなか外へ出る機会がありませんものね」
「お互いにあまり、顔を合わせることもありませんし」
「でも姫さまからのお誘いなら、主人もイヤとは言えませんもの」
「新しいふわふわのパンというものが、楽しみですわぁ」
何のことはない、ただのお茶会の相談だ。
これじゃ僕の頭の価値は、お茶会のお菓子より下だ。
ところが思わぬところで、思わぬ方向へ話が転がった。
「そうだわ、えぇと魔導師の――ともかくあなたも、ご一緒にいかが?」
「いいんですか?」
やった! これなら姫さまのお茶会に出られる。
姫さまがいい、って言えばだけど。
「でも彼、男なのにいいの?」
イサさんうるさいです。そこは言っちゃいけないところです。
黙っててください――と大きな声で言いたいけど、言えない自分が悲しい。
ただ、大丈夫だろうとは思った。
異世界から来たイサさんは知らないだろうけど、ここじゃ魔術師は基本、男女どっちにもカウントされない。
というのも魔力を持つ人間が限られてるうえに、男女どっちに出るか分からない。
だから男だ女だ言ってると、男子禁制や女人禁制の場所に魔導師が入れない事態も起こる。
そんなわけで魔術師は、男女どっちの扱いもしないのが慣例だ。
あとは姫さま次第だ。
「そうですわね……みなさま、どう思われます?」
「よろしいんじゃございません? 魔術的観点、というのもたまには伺ってみたいですし」
ご婦人の誰かが口添えしてくれる。
ありがとうございます! 名前分からないけど。
「では、彼にもお城にいる間は、来ていただきましょうか」
「賛成ですわ」
「私も。何より可愛いですし、悪さする度胸は、なさそうですものね」
何かヒドい言葉を聞いた気もするけど、僕はちっとも気にならなかった。
姫さまのお茶会に行ける。
これはきっと、ふだんから師匠やおばさんの横暴に耐えてたご褒美だ。
やっぱり神様は、日ごろの行いを見てくださってるんだ。
ここのお城の礼拝堂はどこだろう?
明日行ってお祈りしなきゃ、そんなことを思いながら僕はその夜を過ごした。




