27:偉大なる魔法使い
――けっこう、似合ってるかな?
ドレス姿のイサさんを見て、ちょっとそんなことを思う。
この人子持ちのくせに、樽体形じゃないから、貸してもらった深い赤のドレスがいい感じだ。
なのに、壁の花。
いや、花って言うには花盛りすぎてるけど。
それでも立って談笑すれば、もう少しサマになるのに。
そんなこと考えながらイサさんの隣でぼーっとしてたら、声をかけられた。
「よろしいですか?」
当然だけど、見たことない人だ。
年はたぶん、四十代。
横幅が広めで、髪はまだ多いけどだいぶ白髪で、でも全体的に脂ぎった感じの、まさに「おじさん」。
間違ってもカッコいい、って言葉じゃ形容できない。そんな人だ。
話しかけられたイサさんのほうは、きょとんとしてた。子供みたいな表情が妙に可愛い。
「ごめんなさい、どちらさま? あたし、顔と名前覚えるのが苦手で」
イサさんの言葉に一瞬遅れて、話しかけてきた男の人が答えた。
「ここの会計役をしております、ボドウィッド・カルネウスと申します」
イサさんが「あぁ」という顔になる。
「お話は伺ってますわ。イサと申します。こちらの領主様のご厚意で、このお城に寄せていただいてます」
この人、ほんとに何者なんだろう?
よくまぁこんな言葉が、さっと口から出るもんだ。
「私も、貴女の話は領主より伺っております。なんでも、遠いお国の出だとか」
「ええ」
にこやかに話が進んでく。
それにしても会計役って言えば、あの厨房おばさんが言ってた、無駄にケチな会計役のことだろう。
見た目は少なくとも「切れ者」って感じじゃない。
小者感満載ですぐ怒りだしそうで、けどお世辞やおべっかで上の人に取り入って出世しそうな、いちばん下で働きたくないタイプだ。
これなら実力があるぶん、師匠にコキ使われるほうがずっとましだろう。
おばさんはにこにこした顔で、会計役と話してた。
「大変な倹約家だと伺いましたわ。さぞかしお金の管理は、大変なのでしょうね」
「大変ですとも!」
会計役の声が高くなった。
そして延々と、自分がどんなに苦労してるか、遣り繰りに精を出しているかを言いたてる。
まるで何かの叙事詩みたいだ。
でもきっと、口で言うほどにはやってない。
――あー、それでか。
僕の頭の中で、今のこの国の状況が繋がった。
きっとこの人、こういうふうに自分がどんなに頑張ってるかをいろいろ言って、人を疑わない領主に気に入られたんだ。
ただ領主はあんなお人よしだし、この人は仕事なんてできそうにないから、みんながため息つく状況になったに違いない。
そんなことを考えながら眺めてたら、会計役と不意に目が合った。
「おや、こちらの方は?」
いま気付いた、そんな言い方をされる。ヒドい。腹が立った僕は、まっすぐ会計役を見て言った。
「かの魔導師ザヴィーレイの弟子、スタニフです。今回はこの国に不慣れなイサさんに、道案内として同行しました」
「あ、あのザヴィーレイ師の――!」
会計役の顔色が、一瞬だけ変わる。
けどそれはホントに一瞬だけで、すぐに僕を値踏みするような顔になった。
「かの師の弟子と言うと、やはり魔導師を目指しておられるわけですか?」
「ええ。でも、今でもこのくらいならできますよ」
言って僕は懐から、小さな水晶玉を取りだした。
そして、呪を唱える。
「わ、きれい♪」
水晶玉が光り出して宙に浮き、イサさんが子供みたいに喜んだ。
一方で会計役は、今度こそ青ざめる。
「こ、これは大変な失礼を――! どうぞ師には、よろしくお伝えください」
それだけ言って、慌てて去っていく。
「あら、行っちゃった」
「まぁ行くでしょうね」
どうして?
と言いたげな顔で、イサさんが僕を見た。
――チャンスだ。やっと僕を、おばさんって生き物に認めさせるチャンスが来た。
「魔法を使うには魔力が要るんですけど、これは分かります?」
「うん、分かる」
「で、その魔力なんですけどね。ある・なしは生まれつきで、しかも持ってる人はすごく珍しいんです」
「へー」
分かってない。
おばさん、これがどのくらいスゴイことなのか、まったく分かってない。
なので僕は説明をつけ足した。




