26:それとこれとは
「イサさん、大変ですわ」
「何が」
なんでもう少し気を遣わないんだろう?
姫さまがこんなに困った顔をなさってるのに、あんなぶっきらぼうな答え方をしなくたっていいじゃないか。
本当におばさんって生き物は、繊細さとか思いやりに欠けると思う。
僕がそんなことを思ってる間に、姫さまが問いかける。
「私、もし父上に国のことをお話いただいても、何も返せませんわ」
「なんで? そういう話がいちばん集まるのがお城で、あなたお城の姫さまでしょ?」
「たしかにそうなのですけど……」
少しだけ言い淀んでから、姫さまが続けた。
「先日、私の立場ではあまり政に口を出せないとお話したのは、覚えてらっしゃいます?」
「うん」
さすがにこれはイサさん、覚えてたらしい。
というかもし姫さまの言ったことを忘れてたら、文句のひとつ……せめて半分くらいは言うところだ。
「ですから私、そういうことをあまり学んでませんの」
「それとこれとは別でしょ」
間髪入れず、イサさんが返す。
言われた姫さまのほうは、驚いた顔だ。
「別、なのですか?」
「別に決まってるじゃない。知ってても口を出さないことはできるし、知らなくたって口出すヤツは出すわよ? 要は立ち回りの問題で、知ってる知らないは別よ」
「言われてみればそうですわね」
姫さまが納得する。
「では、これからそういうことを学ぶことに致します。けれど、いまはどうしましょう? 答えられないことは変わりありませんわ」
「そんなの、一緒に考えますとか、私も考えるから時間をくださいとか、言っときゃいいのよ。で、その間に信頼できる知ってそうな人に訊くか、書物で調べるの」
ぱっと姫さまの顔が輝いた。
「それなら、無学な私でもできますわ!」
「そそ。誰にでもできるわよ。簡単かんたん」
すごく嬉しそうな姫さまと、楽しそうなイサさん。
いい光景だと思う。思うけど――何かコワいものを感じるのはなんでだろう?
でもとてもそんなことは口に出せなくて、お礼を言う姫さまに見送られながら、僕らは部屋を後にした。
「あーもう、こういうのヤだ」
「諦めてくださいよ」
このやり取り、何度繰り返しただろう?
姫さまや領主様と親しくなって数日、僕らは晩餐に招待されることになった。
厨房おばさんなんかが言うには、僕らみたいな平民が招待されるのは、かなり珍しいっていう。
でもこういうお城って言うのはけっこう日々は退屈で、みんな楽しむ口実を探してるんだとか。
そんなわけで晩餐って話が出たらしいのだけど、イサさんが最初はかなり渋った。
理由は「面倒くさい」。
こんな理由で領主からの晩餐を断ろうとするなんて、さすがおばさんだ。
誰だって駆けつけるくらい栄誉なのに、その辺の花ほどにも感じてない。
けっきょく姫さまがわざわざ説得してくれて、なるべく内輪の、気軽でささやかなものにするってことで、折り合いがついた。
そして今、その席だ。
「気軽なもの」ってことで立食式で、取り立てて席順とかは無い。
たしかに気楽で気軽だ。
でもささやかって言ってた割には、なんだかんだで二十人以上いる。
まぁ領主様や姫さまからすれば、たしかに「ささやか」なんだろうけど……。
「食べないんですか?」
「食べてるわよ」
相変わらずイサさんの食欲は、小鳥並みだ。
料理が、手元のお皿にほんの少しだけ乗せてあって、それをつついてる。
ただこういう席じゃ食べたい分だけでいいし、イヤなら手をつけなくてもいいから、好きなようにやれてるみたいだった。
けど、壁際の椅子に座ったきりなのはどうかと思う。
だいたいこういう席じゃ、立って談笑するのがマナーなのに。
それを言ったら、あっさり「できないから」と返ってきた。
「ずーっと立ち続けなんて、あたし、途中で具合悪くなるもの」
「そうかもしれませんけど、でも少しは立って、いろんな方と話しないと」
じゃないと、領主様の顔が立たなくなりそうだ。
まぁおばさんが、そんなもの気にするとは思えないけど。
会場は、お城の一室。式典とかをする感じの、でもそう大きくはない広間だ。
っても今回は少人数だから、広さとしては十分だった。




