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25/59

25:見てはいけない世界

「話と言うのは、やはり父上のことでしょうか?」

「ええ」


 おばさんがうなずく。


「聞いた話では、父と会われたとか……どうでしたか?」

「ダメね、あれ」


 おばさん、何てことを言うんだ。

 世の中には言っていいことと悪いことがあるっていうのに、おばさんって種族は本当にそれが分からない。


 こんな言い方して姫さまが心を痛めて、食事も喉を通らなくなったら、どう責任を取る気なんだ。

 さすがに気落ちした顔で、姫さまが言う。


「やっぱりダメですか……どうしましょう」

「イヤなら、何としてでもどうにかするのよ」


 そんなことができたら、誰も今まで苦労してない。

 だいいち姫さまだって、今までいろいろやってきたはずだ。


 なのにどうして、何もしてないみたいな言い方するんだろう。許せない。

 でも寛大な姫さまは、ひとつも怒らなかった。


「何としてでもと言われても、私にはとても。――イサさんでしたらどうなさいます?」


 そうそう、そうこなきゃ。

 姫さまがおばさんに困らされる謂われなんて、カケラもない。

 むしろ、困らせなきゃだ。


 だからイサさんへのこの質問は、とても正しいと思う。

 なのにイサさんは、ちっとも困った顔をしなかった。


「あたしだったら? どうしてもやらなきゃいけないなら、領主のお気に入りになって、いろいろ吹き込むわねー。で、領主様の人気が出るようにしてあげるわ。そうすればあとは思い通りよ」

「はあ……」


 さすがの姫さまも、この答えには呆れたみたいだ。

 というか、そんな娼婦みたいなやり方を姫さまの前で言うとか、領主様にやると言いだすとか、そこから間違ってる。


 こんなおばさん、さっさと追い出せばいいのに。

 ただイサさんが追い出されると僕も追い出されるのが、何とも微妙なところだ。


 けど何事にも姫さまは真摯なんだろう。

 こともあろうにイサさんに、さらに質問した。


「具体的には、それはどのように?」

「そーねぇ、やってみないと分かんないけど……まずはともかく、話を聞くかな。困ってることとか辛いことを訊き出して、可能だったら考え方をひっくり返す」

「ひっくり返す?」


 姫さまが「全く分からない」って顔になった。

 というか、僕もわからない。


 そもそもおばさんの言うことやることは、いちいち分かりづらい。

 もう少し、分かりやすくできないんだろうか?

 イサさんが言葉をつづけた。


「要するに考え方ってね、物の見方とらえ方の問題が大きいのよ」


 そんなもので変わるんだろか?

 そう思う僕をよそに、おばさんが話を進める。


「たとえばお酒の瓶を見て『あと半分しかない』って言う人に、『でも、今まで飲んだのと同じだけ残ってますよ。けっこうありますよ』って言ったら、どうなると思う?」

「たしかにそう言われると、気持ちが明るくなりますわね」


 この人、異世界でなにしてたんだろう?

 どう見てもただのおばさんなのに、ときどき侮れない。


「――だとすると、私が父上の話を伺って同じようにすれば、父上の心労が少しは晴れますかしら?」

「晴れるでしょうね。でもそれだけじゃダメよ」


 おばさんがきっぱりと言った。

 姫さまが不思議そうな顔をする。


「気が晴れるのに、ダメなのですか?」

「ダメよ。だって、何も変わってないもの。お酒くらいなら大した話じゃないけど、大ケガした人に『死ななくてよかった』って言っても、痛いのは消えないわ。手当てするなりなんなり、ともかく何か動かなきゃ」

「たしかにそうですわね」


 何だろう、何か僕はいま、見てはいけないものを見ている気がする。

 話がとんでもない方向へ、向かってる気がしてならない。

 姫さまがひとりごちた。


「でしたら仮に私が父上にするとして……まずお話を伺ったうえで、それに対して何か、動けなければいけないんですね」

「あ、実際に動けなくてもいいのよ。専門家に任せるって方法もあるから。ただ、指針や代案を出せないとね」

「そういうことですのね。イサさんのお話は、分かりやすくていいですわ」


 姫さまいけません、そんなおばさんの言葉を鵜呑みにしたら。

 そういう言葉が喉まで出かかる。


 出かかったけど、必死で飲み込む。

 いまここで言ったら、不興を買うのは僕のほうだ。それはイヤだ。


 姫さまは、ひとつひとつ何か確かめるみたいに、ひとり黙ってうなずいてた。

 そして困った様子で顔を上げる。

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