23:ピンチしかない?
「そういえば」
僕の国を思う深慮を破ったのは、おばさんの声だった。
「この国って、どうなってるの?」
「どうって、どういう意味です?」
こんな訊かれかたしたって、分かるわけがない。
おばさんがやれやれって顔で説明した。
「この国の政治とか、国境とかよ。あたし何も知らないんだから」
それは威張ることじゃないと思う、そう思ったけど言えない。
「あなた、知ってるんでしょ。教えなさいな」
「そりゃ教えますけど……」
なんで、教える側に命令口調で言われなきゃならないんだろう?
でもやっぱり逆らえない自分が悲しい。
「えぇと、何から説明すればいいかな……まず、領主様は分かりますよね」
「分かる。ここのヌシよね」
「はい。で、ここにはほかに王様がいます」
「なにそれ」
ちょっとこの辺は、おばさんには分からなかったみたいだ。
まぁ複雑な話だから、しかたないだろう。
「この地方はもともと、小さな領主がいっぱいいたんですよ。でも百五十年ほど前に今の王家の祖、イングヴァル王が統一したんです」
「あぁそういうことね」
おばさんが説明の半分までで勝手に納得する。
けど、本当に分かってるんだろうか?
まぁおばさんって生き物はもともと、人の話なんて聞かないわけだけど……。
イサさんが訊いてきた。
「だとするとここの領主は昔はともかく、今は国王から領地を預かってる身、でいいわけ? まぁ建前上だけで、実質所有なんだろうけど」
「そうなります」
ちょっと内心驚く。
まだ半分しか説明してないのに、なんで分かっちゃったんだろう?
おばさんの半分ひとり言らしき言葉は、まだ続いてた。
「そういうことなら、ここは半独立ってことよね……ねぇキミ、国王が支配してる国って、どのくらい? あと国境はここからどの辺?」
「それは地図がないと……」
僕は書くものを手元に寄せて、この近辺の大雑把な地図を描いた。
「僕たちがいたユラの村をこの辺だとすると、ここらが今いるお城です。首都はもっともっと西ですね。あと村の東の山脈の向こうは、違う国王の国です」
「ちょっと待ってよ、じゃぁここ、すごく国境近いんじゃない」
なぜかおばさんが慌てて、さらに訊いてくる。
「東のほうに山があったのは分かるけど、北は? 南は?」
「えーと、描くとこうなるんですけど……」
僕は描き足した。
ユラの村のずっと東は南北に長く連なる山脈だけど、山脈の一部がこの領地の北端と南端の両方で、東西に突き出てる。
というかこのヤルマル領の東半分が、山脈の大きな谷に入り込んでる格好だ。
「で、山の北がドグエ領。南はマグヌス領。どっちも戴く国王は同じです」
「了解。そうなるとこのヤルマル領がいわゆる異国と接してるのは、この東の山脈部分だけってことね」
「そうなります」
ユラの村始め、ヤルマル領がどこものんびりしてるのは、この地形のおかげだ。
東から攻めるには、あまりにもここはやりづらい。
おばさんは何が気に入ったのか、僕が書いた地図をじっと眺めてた。
何かぶつぶつ言ってるもいるけど、よく聞き取れない。
そのうちぽふっと音を立てて、ベッドに突っ伏した。
「ここが落ちれば隣国としては万々歳だから、何か介入してんじゃないかってのは思うんだけど……対処法がねー。どうするかな」
ただぶつぶつ言ってるのかと思ったら、そうじゃなかったらしい。
対処法を考えるために、原因を突き止めようとしてたみたいだ。
と、おばさんがぽんと手を打った。
「――とりあえず領主を阻止できれば、隣国がどうだろうが当座いいのか」
「そういうことにはなりますけど……できるんですか?」
「それを考えてるんじゃない」
おばさんの声が硬くなった。
「と言うかね、何をどうするかまだ見当つかないから、考えてるワケ。それとも、キミは何か考えついたの?」
「いえ……」
それが分かったら苦労しない。
というか、城の誰もが苦労してない。
なのにおばさんときたら、僕を冷ややかな目で見た。
「考えつきもしないのに、何とか何とかって。まったく、なんでみんなそうなのかしらね? 頭は飾りじゃないだろに」
かなりおかんむりだ。
まずい。
ここはそれこそ何とかしないと、僕が地獄を見る。
必死に考えた僕は、閃いた案を言ってみた。




