22:僕の利益、誰かの利益
「ところでイサとやら」
領主様が口を開いた。
「そなたが先ほど言っていた不思議な乗り物、作ってみてはくれないか?」
「ごめんなさい、それは難しすぎて無理です」
あっさりおばさんが謝る。
「あれを作るとなると、こっちで言う熟練の鍛冶屋以上の者が、何人も必要なんです。でもあたし、そういう技術屋じゃないから、保冷箱がせいぜいで」
「そうか、それは残念だ」
さすがの領主様にも、おばさんがそういう技術屋じゃないのは分かるんだろう。
暴れだしたりしないで、無理って話を受け入れてくれた。
「だったら……いや、今日はもうダメだな、時間だ」
領主様が残念そうに、水時計に目をやりながら言う。
「また話を聞かせてほしいものだ。この城には当分おるのか?」
「いつまで、とは決めてません」
「ならば好きなだけいるといい。そう城の者にも言いつけておこう」
「ありがとうございます」
その日はそこまでで、僕らは領主様の部屋を後にした。
「……どーすんですかあれ」
「困ったわねー」
領主様と会った翌日、僕らはそんな会話をしてた。
姫さまなんかからある程度は聞いていたけど、あれほどとは僕だって思ってなかったし、おばさんにも予想外だったみたいだ。
「まさか、アレを超えるのがいるなんて思わなかったわよ。世の中って広いわねぇ」
おばさんが妙なことを言う。アレって言うのが誰だか知らないけど、広いも何もここは異世界だ。
比べるようなもんじゃない。
「まー領主があんな、頭がお花畑な人じゃ、先が思いやられるわよね」
「それじゃ困るんですってば」
おばさんは異世界の人だから他人事だけど、僕には死活問題だ。
何より領主様があんなだったら、姫さまの苦労が絶えない。
それだけは何とかしないと、姫さまが可哀想すぎる。
「にしても、わっかんないのよねー」
「何がですか?」
言ってることが分からなくて、僕は訊いてみた。
んーとか言いながら、おばさんが答える。
「領主がお花畑なのは分かったとして、あれ、悪気はないわよね」
「ないですね」
これは断言できる。
あれで悪意があってやってたら、相当の役者だ。
でもそうすると、今度は自分で自分の国を窮地に追い込んでるわけで、さすがに代々領主って立場を考えると無いだろう。
「でも実際には、みんな困ってるわよね」
「困ってますね。というか僕も困ります」
これも確かだ。
領主様があの調子じゃ、いつ隣国に攻め込まれるか、分かったもんじゃない。
おばさんが肩をすくめた。
「こういうコトが起こってるときって、たいてい、それで得する人がいるのよね。でも今回、すぐ近くに見当たらなくてねー」
「得する人、ですか……」
いちばんありそうなのは大臣とかだけど、あくまでもそれは私腹を肥やせた場合だ。
でもそれとなく下働きの人なんかに聞いて回った感じじゃ、それはなさそうだった。
というのも領主様が人がよすぎて、まったくえこひいきをしないんだって言う。
「頑張ってないヤツが口利きで報償頂くと、そりゃ腹立つんだけどね。ただねぇ……次のときはちゃんと領主様、『彼は先日報酬をやったから、別の人じゃないと不公平だ』って言って、結局平等なんだよね」
そう言ってたのは厨房おばさんだ。
で、良くも悪くも平等だから、ヘタに贔屓されるよりいい、ってことでおさまってるらしい。
この状態で一方的に得する人は、この領地内にはいなそうだ。
というか、このまま続いたらみんな、得をしそうで結局損をする。
もし一方的に得する人がいるとしたら、国が盗れるかもしれない、隣国のスパイとかだろう。
それを僕が言うと、おばさんもうなずいた。
「あたしも同じこと考えた」
おばさんが腕組みしながら、天井を仰いで言う。
「なんていうのかなぁ……うちの国でもあったんだけど、黒幕が操縦しようとしたらお花畑すぎて、御しきれなくなったのよね。それに感じが似てるの」
「あー、言われてみれば」
ことごとく的は外すけど、けっきょく最後には平等。
何もかも一緒。
それがいいとは思わないけど、黒幕の予想は裏切ってるはずだ。
利益を狙ってるのに、なにもかも平等にするよう仕向けるなんてあり得ない。
「……考えれば考えるほど、情けなくなってくるんですが」
「まぁ良かったじゃない、今まで国がなくならなくて」
「ですけど……」
予想以上に頭が悪くて企みを阻止とか、まるでどこかのおとぎ話だ。
というか今回はよくても、次はどうなるか分らない。
それはすごく困る。
敵国に占領なんかされたら、僕が師匠の研究を盗めなくなる。




