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20/59

20:今日も我が身が心配

「んー、どうするかなー」


 ベッドに寝転んで、おばさんが独り言を言ってる。

 姫さまのところから戻ってから、ずーっとこんな調子だ。


「悩んでないで、早く何か考えてくださいよ」


 瞬間、おばさんが微笑んだ。


「そこのボク、自分じゃ何も考えつかないクセに、なに偉そうに言ってるのかなぁ?」

「ごめんなさいすみません、僕が悪かったです」


 反射的に謝る。

 そして謝ってから気づいた。僕、なんで謝ってるんだろう?


 そうは言っても、おばさんの迫力にはかなわない。

 この人が何歳だか知らないけど――怖くて訊けるわけがない――子供がいるのは確実で、父さんみたいな大人でさえ逆らえないおばさんって種族に、僕が逆らえるわけもなかった。


「でも、本当にどうするんですか?」


 それでも心配で訊く。

 姫さまに約束したのに、何もできなかったら大変だ。僕の印象まで下がる。

 おばさんがちょっと肩をすくめた。 


「領主に会ってから考えるつもり。いま分かってるのは状況だけで、領主自身がなに考えてるんだかわかんないもの」

「そりゃそうですけど。でも、会えるんですか?」

「だから姫さまに頼んだの。そしたら、今日の午前は空いてるらしいのよね。寝坊しなきゃ、みたいだけど」

「寝坊……」


 まぁ気持ちは分かる。あの寝坊の心地よさは、まるで天国にいるみたいだ。


 ――たいていは目が覚めてから、青ざめるんだけど。


 けど最初から空いてる日なら、そりゃ寝坊するのも仕方ないと思う。

 何の心配もなくただ寝てられる日なんて、本当に幸せとしか言いようがない。

 と、ドアがノックされて、例の案内人が顔を見せた。


「領主様がお会いになるそうです。こちらへ」

「はいはーい」


 ホントにこのおばさん、神経があるんだろうか?

 姫さまのときもそうだったけど、今度もぜんぜん緊張した様子がない。

 というか、その辺の酒場のおじさんと会うくらいにしか、きっと思ってない。


 もうだいぶ探検して覚えてきた城内を、案内人に付いて歩く。

 回廊を抜けて、螺旋階段を上がって、また廊下を抜けて……。


 そこまで来てはっとした。

 僕、今日はついてこなくてよかったんだ。


 姫さまならともかく、領主様に会ったって、別に楽しくない。

 というか、気が疲れるばっかりだ。

 しかも呼ばれたのはおばさんだけなんだから、僕は来る必要なんてない。

 

 でもここまで来て、「部屋に帰ります」なんて言えないわけで。

 だから仕方なく、僕は二人の後をついて行った。


 姫さまのときよりなぜか下の階に案内されて、でも姫さまのときより豪華な扉の前で移動が終わる。


「お連れしました」

「ここへ通せ」


 仰々しくドアが開けられて、部屋の中が露わになる。

 奥にはこの間の姫さまと同じように、長椅子に掛けた中年男性がいた。


 けど「おじさん」とはなんだか言い難い。

 中肉中背に茶色の瞳。

 姫さまによく似た栗色の髪は目立つほどの白髪もなくて、貴族のぼっちゃん、という感じだ。


 街中でばったり会って、この人がここの領主だって言われても、信じる人のほうが少ないだろう。

 そのくらい威厳がない。


 ――たしかに人はよさそうなんだけど。


 見るからに騙すよりは騙されるほうで、世の中に自分からむしり取ろうって人なんかいるわけない、そう思ってる感じだった。

 姫さまが心配になるのも分かる。


 というか、娘に心配される領主って、ホントに大丈夫なんだろか?

 まぁダメだから、心配されてるんだろうけど……。


「そなたがイサか?」

「はい。異国の出身なので、しきたりを知らないのはご容赦くださいね」


 またさらっとおばさんが、嘘じゃないけどホントでもないことを言う。


「異国か。遠いのか? そなたが作った保冷箱を見たぞ。面白い造りだった。あれがそなたの国では当たり前にあるのか?」

「冷やすための動力が魔法陣じゃないですけど、似たようなものがありますよ」


 なんで案外簡単に会えることになったのか、僕はやっと理解した。

 この人、子供みたいな見かけどおり、好奇心旺盛で新しい物好きみたいだ。

 だからおばさんの破天荒さを聞いて、惹かれたんだろう。


 ぜったいやめといたほうがいいと、僕は思うけど、とてもここで口には出せない。

 出したら僕の命が危ない。

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