20:今日も我が身が心配
「んー、どうするかなー」
ベッドに寝転んで、おばさんが独り言を言ってる。
姫さまのところから戻ってから、ずーっとこんな調子だ。
「悩んでないで、早く何か考えてくださいよ」
瞬間、おばさんが微笑んだ。
「そこのボク、自分じゃ何も考えつかないクセに、なに偉そうに言ってるのかなぁ?」
「ごめんなさいすみません、僕が悪かったです」
反射的に謝る。
そして謝ってから気づいた。僕、なんで謝ってるんだろう?
そうは言っても、おばさんの迫力にはかなわない。
この人が何歳だか知らないけど――怖くて訊けるわけがない――子供がいるのは確実で、父さんみたいな大人でさえ逆らえないおばさんって種族に、僕が逆らえるわけもなかった。
「でも、本当にどうするんですか?」
それでも心配で訊く。
姫さまに約束したのに、何もできなかったら大変だ。僕の印象まで下がる。
おばさんがちょっと肩をすくめた。
「領主に会ってから考えるつもり。いま分かってるのは状況だけで、領主自身がなに考えてるんだかわかんないもの」
「そりゃそうですけど。でも、会えるんですか?」
「だから姫さまに頼んだの。そしたら、今日の午前は空いてるらしいのよね。寝坊しなきゃ、みたいだけど」
「寝坊……」
まぁ気持ちは分かる。あの寝坊の心地よさは、まるで天国にいるみたいだ。
――たいていは目が覚めてから、青ざめるんだけど。
けど最初から空いてる日なら、そりゃ寝坊するのも仕方ないと思う。
何の心配もなくただ寝てられる日なんて、本当に幸せとしか言いようがない。
と、ドアがノックされて、例の案内人が顔を見せた。
「領主様がお会いになるそうです。こちらへ」
「はいはーい」
ホントにこのおばさん、神経があるんだろうか?
姫さまのときもそうだったけど、今度もぜんぜん緊張した様子がない。
というか、その辺の酒場のおじさんと会うくらいにしか、きっと思ってない。
もうだいぶ探検して覚えてきた城内を、案内人に付いて歩く。
回廊を抜けて、螺旋階段を上がって、また廊下を抜けて……。
そこまで来てはっとした。
僕、今日はついてこなくてよかったんだ。
姫さまならともかく、領主様に会ったって、別に楽しくない。
というか、気が疲れるばっかりだ。
しかも呼ばれたのはおばさんだけなんだから、僕は来る必要なんてない。
でもここまで来て、「部屋に帰ります」なんて言えないわけで。
だから仕方なく、僕は二人の後をついて行った。
姫さまのときよりなぜか下の階に案内されて、でも姫さまのときより豪華な扉の前で移動が終わる。
「お連れしました」
「ここへ通せ」
仰々しくドアが開けられて、部屋の中が露わになる。
奥にはこの間の姫さまと同じように、長椅子に掛けた中年男性がいた。
けど「おじさん」とはなんだか言い難い。
中肉中背に茶色の瞳。
姫さまによく似た栗色の髪は目立つほどの白髪もなくて、貴族のぼっちゃん、という感じだ。
街中でばったり会って、この人がここの領主だって言われても、信じる人のほうが少ないだろう。
そのくらい威厳がない。
――たしかに人はよさそうなんだけど。
見るからに騙すよりは騙されるほうで、世の中に自分からむしり取ろうって人なんかいるわけない、そう思ってる感じだった。
姫さまが心配になるのも分かる。
というか、娘に心配される領主って、ホントに大丈夫なんだろか?
まぁダメだから、心配されてるんだろうけど……。
「そなたがイサか?」
「はい。異国の出身なので、しきたりを知らないのはご容赦くださいね」
またさらっとおばさんが、嘘じゃないけどホントでもないことを言う。
「異国か。遠いのか? そなたが作った保冷箱を見たぞ。面白い造りだった。あれがそなたの国では当たり前にあるのか?」
「冷やすための動力が魔法陣じゃないですけど、似たようなものがありますよ」
なんで案外簡単に会えることになったのか、僕はやっと理解した。
この人、子供みたいな見かけどおり、好奇心旺盛で新しい物好きみたいだ。
だからおばさんの破天荒さを聞いて、惹かれたんだろう。
ぜったいやめといたほうがいいと、僕は思うけど、とてもここで口には出せない。
出したら僕の命が危ない。




