18:あぁ愛しの君よ
「今日はどっか行くんですか?」
「そうねぇ。貯蔵庫でも見られたらいいんだけど」
「そこはさすがに、ムリだと思いますよ」
おばさんはこの間から切望してるけど、貯蔵庫って言ったら高価な食材もあるし、備蓄量から篭城できる期間も分かる。
だからたいてい、部外者は入れない。
それを言うと、おばさんがふくれ面――この人ホントに子持ちなんだろか――をした。
「つまんない」
「つまんなくても、そういう決まりです」
さすがに僕だって命は惜しい。
だからこっそりそんな場所へおばさんを連れて入るなんて、ぜったいに願い下げだ。
「だったら、どこ行こうかなぁ……」
そのとき、ドアがノックされた。珍しい話だ。
「イサさんはいらっしゃいますか?」
「いますけど、何の御用ですか?」
おばさんには任せたくないから、僕が応対する。
ドアの向こうにいたのは、最初に厨房に連れてってくれた、あの案内人だった。
「実は」
そこでどういうわけかもったいぶって、案内人は小さく咳払いをした。
そして言う。
「姫が、お会いしたいと申されております」
やった、と思った。僕の念願がいま叶う。僕は人生の賭けに勝ったんだ!
「来ていただけますか?」
「はーい」
まるで子供みたいにおばさんが返事して、僕も慌てて立ち上がった。
姫さまのところへ、おばさんだけ行かせるなんて、小鳥のカゴに猛獣を入れるようなもんだ。
僕だけダメって言われたらどうしようと一瞬思ったけど、それは言われずにすんだ。
ツイてる。
僕はすごくツイてる。
きっと父さんの言うことを守って地道にやってたから、神様がご褒美をくれたんだ。
あとで念入りに、お祈りをしなきゃだ。
おばさんのほうは、言われたことの重大さがちっとも分かってないみたいだった。
まぁ、おばさんだから仕方ない。
おばさんってのはいつだって傍若無人で、周りの人の立場なんか、一切理解しない生き物なんだから。
「ねぇキミ、いま何考えてたかなー?」
はっと気付くと、おばさんが僕の前に立って笑顔を見せていた。その笑顔がとっても怖い。
「な、何も考えてません!」
「そぉ? まぁ、そゆことにしとこうか」
そうとだけ言うとおばさんは、くるりときびすを返して、案内人の後を小走りで追いかけてった。
怖い。怖すぎる。
おばさんって種族は、全員読心術を心得てると思う。
じゃなきゃこっそり食料を食べたのがバレたり、何か思ったことを見抜かれたりしない。
僕の母さんもそういう人で、父さんの思ったことなんてぜんぶ言い当ててたし。
今度は考えてることがバレたりしないように、覚えた防御魔法――いろんなものの干渉を防ぐヤツ――をこっそり使って、おばさんたちの後ろを歩いてく。
幸い今度は魔法のおかげか、考えてることを見抜かれずにすんだ。
これからはこの方法を使えば、大丈夫そうだ。
そうやって用心しながら延々と歩いて階段を昇って、おばさんが息が切れてきたころ、やっと大きな扉が見えてきた。
ただ大きいって言っても、大広間ほどじゃない。
僕が手を広げたよりは広いくらいの、両開きの扉だ。
花や鳥の装飾が繊細な感じで施されてるから、きっとここが姫さまの部屋なんだろう。
案の定、案内人が立ち止まって、ノックしながら声をかける。
「姫、お連れしました」
「お通ししなさい」
澄んだ声が扉の向こうから聞こえる。
きっと姫さまだ。
扉が音を立てないように開けられて、部屋の中が視界に入る。
今まで見たこともないような、豪華な、でも繊細さも兼ね合わせたタペストリーや細工物で飾られた、素晴らしい部屋だ。
姫さまに似合いすぎてる。
その奥の長椅子に、姫さまは優雅に座ってた。
栗色の髪に緑翠の瞳。綺麗な濃緑の、裾がゆったりと膨らんだドレス。
耳には耳飾り、胸には胸飾り。
手指は白くて細くて、花瓶を持ったくらいでも折れちゃいそうだ。
――やっぱりこうじゃなくちゃ。
おばさんたちと姫さまはぜったいに別種だ。
というか、おばさんと姫さまをいっしょに考えること自体が冒涜だ。




