表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/59

18:あぁ愛しの君よ

「今日はどっか行くんですか?」

「そうねぇ。貯蔵庫でも見られたらいいんだけど」

「そこはさすがに、ムリだと思いますよ」


 おばさんはこの間から切望してるけど、貯蔵庫って言ったら高価な食材もあるし、備蓄量から篭城できる期間も分かる。

 だからたいてい、部外者は入れない。


 それを言うと、おばさんがふくれ面――この人ホントに子持ちなんだろか――をした。


「つまんない」

「つまんなくても、そういう決まりです」


 さすがに僕だって命は惜しい。

 だからこっそりそんな場所へおばさんを連れて入るなんて、ぜったいに願い下げだ。


「だったら、どこ行こうかなぁ……」


 そのとき、ドアがノックされた。珍しい話だ。


「イサさんはいらっしゃいますか?」

「いますけど、何の御用ですか?」


 おばさんには任せたくないから、僕が応対する。

 ドアの向こうにいたのは、最初に厨房に連れてってくれた、あの案内人だった。


「実は」


 そこでどういうわけかもったいぶって、案内人は小さく咳払いをした。

 そして言う。


「姫が、お会いしたいと申されております」


 やった、と思った。僕の念願がいま叶う。僕は人生の賭けに勝ったんだ!


「来ていただけますか?」

「はーい」


 まるで子供みたいにおばさんが返事して、僕も慌てて立ち上がった。

 姫さまのところへ、おばさんだけ行かせるなんて、小鳥のカゴに猛獣を入れるようなもんだ。


 僕だけダメって言われたらどうしようと一瞬思ったけど、それは言われずにすんだ。

 ツイてる。

 僕はすごくツイてる。


 きっと父さんの言うことを守って地道にやってたから、神様がご褒美をくれたんだ。

 あとで念入りに、お祈りをしなきゃだ。


 おばさんのほうは、言われたことの重大さがちっとも分かってないみたいだった。

 まぁ、おばさんだから仕方ない。

 おばさんってのはいつだって傍若無人で、周りの人の立場なんか、一切理解しない生き物なんだから。


「ねぇキミ、いま何考えてたかなー?」


 はっと気付くと、おばさんが僕の前に立って笑顔を見せていた。その笑顔がとっても怖い。


「な、何も考えてません!」

「そぉ? まぁ、そゆことにしとこうか」


 そうとだけ言うとおばさんは、くるりときびすを返して、案内人の後を小走りで追いかけてった。

 怖い。怖すぎる。


 おばさんって種族は、全員読心術を心得てると思う。

 じゃなきゃこっそり食料を食べたのがバレたり、何か思ったことを見抜かれたりしない。

 僕の母さんもそういう人で、父さんの思ったことなんてぜんぶ言い当ててたし。


 今度は考えてることがバレたりしないように、覚えた防御魔法――いろんなものの干渉を防ぐヤツ――をこっそり使って、おばさんたちの後ろを歩いてく。


 幸い今度は魔法のおかげか、考えてることを見抜かれずにすんだ。

 これからはこの方法を使えば、大丈夫そうだ。


 そうやって用心しながら延々と歩いて階段を昇って、おばさんが息が切れてきたころ、やっと大きな扉が見えてきた。


 ただ大きいって言っても、大広間ほどじゃない。

 僕が手を広げたよりは広いくらいの、両開きの扉だ。

 花や鳥の装飾が繊細な感じで施されてるから、きっとここが姫さまの部屋なんだろう。

 案の定、案内人が立ち止まって、ノックしながら声をかける。


「姫、お連れしました」

「お通ししなさい」


 澄んだ声が扉の向こうから聞こえる。

 きっと姫さまだ。


 扉が音を立てないように開けられて、部屋の中が視界に入る。

 今まで見たこともないような、豪華な、でも繊細さも兼ね合わせたタペストリーや細工物で飾られた、素晴らしい部屋だ。

 姫さまに似合いすぎてる。


 その奥の長椅子に、姫さまは優雅に座ってた。

 栗色の髪に緑翠の瞳。綺麗な濃緑の、裾がゆったりと膨らんだドレス。

 耳には耳飾り、胸には胸飾り。

 手指は白くて細くて、花瓶を持ったくらいでも折れちゃいそうだ。


 ――やっぱりこうじゃなくちゃ。


 おばさんたちと姫さまはぜったいに別種だ。

 というか、おばさんと姫さまをいっしょに考えること自体が冒涜だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ