第142話 希望だ!
「そうよ」
バカな……。
「糸掛、貴方はもう変わらない。
永遠にそのまま存在し続けるの」
「……っ」
「でもね、うらは疲れた。
もう、良い。老いる人の体に入れるなら、きっとうらは“今のうらのまま”死ねる」
「!」
右手が動いた。オレの右手、銃を握った右手が力強く勝手に動いて、左手でそれを支え、撃とうとしている。
「……殺してくれるの、うらを」
「いや」
違うと言っても無駄だろうか。オレの両手が動くのはこれがオレの本音だから。だけど。
「オレは、天使を殺しに来たんじゃない」
「自分の心に決着をつけに来たのでしょう?」
「そうだ」
そのはずだ。
殺して終わりにしたら、きっとオレは壊れてしまう。
あの日石見がオレを立たせてくれたのはオレに天使を殺させる為では決してない。
なのに!
「やめろ」
自分で自分に言う。
「やめろ!」
トリガーに指がかかり、引かれていく。
「待て……!」
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
『ギフト・バレット』が撃たれた。撃ってしまった。
銃弾はまっすぐ飛んで、炸裂する。
天使の胸に――穴を開けて。
倒れ行く天使。背から真っ白な大地に倒れ込んで、しかし血は一滴も流れずに。
「!」
ベッドに寝ていた体が動いた。なにかに押し上げられるように浮いて、胸の一部が光となって分離。倒れた天使に空いた穴に向けて収斂しこれを塞ぐ。
「ダメなの」
天使、復活。
「どれだけ自分を傷つけても、どこかの誰かの体を貰って蘇ってしまうの。
今は傍に体があるからそこからだったけれど、初めては母からだったわ。
自分で銃を口に含んで、撃って死んで――母から喉の一部を奪ってうらは甦った。母の命を奪って」
「……それも」
「吸収の魔術。
うらはもう、死ぬのが赦されない」
ゴトン、重い音が。オレが銃を落としたからだ。
天使と同じになったオレもこうなってしまうのか……。
「同時に、ルンも死なせてあげられない。
あの子の記憶も消えていく……あの子も何度死のうとしたか……その度にうらが甦らせてしまうの。父の命を奪った日のように」
死ねず、死を与えられず、ただ犠牲だけは生み落とす、か……。
自分を苦しみや悲しみの元凶だと思っているのだろうな……。
「……ヤーコプ」
「なあに」
体を起こし、ドレスについた真っ白な砂を振るい落とす。
「ここを出よう」
「……」
「ここを出てみんなで考え――」
「考えたわ。何十年も。
アメリカを満足させる為に入った牢だけれど、考えるのには充分な場所でもあった。
どうしようもないの」
「人の技術は進歩する! グリムの魔法だって進歩するはずだ!
オレたちの状態だってきっとどうにかなる!」
「願望ね」
「希望だ!」
希望は決して消えない。きっと、絶対。
「……オレの吸収で、天使の呪いを取り除けるかも」
「そうしたら貴方がうらになるだけ。
それにうらが自分の吸収魔術でやってもダメだったの。
だから、だからね、糸掛」
天使が手を伸ばす。オレへと向けて両手を伸ばす。
「一緒に生きましょう」
「オレは!」
出来ない。だって外にやりたい事をたくさん残している。
大切な恋人がいる。友がいる。家族がいる。仲間がいる。
全て棄てるなんて……出来ないんだ。
「ヤーコプ」
だからオレは手を伸ばす。天使に向かって両腕を、両の手を。
「オレの手を取れ、ヤーコプ。
ここを出よう」
手を取るのはオレではなく、ヤーコプ、貴方の方だ。
「無理。無理よ、糸か――」
「無理じゃないよ!」




