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メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~  作者: 紙木 一覇
第二章

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141/145

第141話 気づいた?

「どこだ!」

「こっち」


 声は全方位から聞こえている。一体どこに?


「こっち」


 上を見て下を見て左を見て右を見て前を見て後ろを見る。

 何度もそれを繰り返し、ようやっと一粒の光を見つけた。

 太陽に思えた。向かわなければと思えた。この心の嵐から脱出するには光に向かうしかないと。

 だからオレは足を動かす。ふらふらと、心に殺されないよう歯を食いしばりながら、体を揺らしながら。

 まだだ、まだ光には届かない。もっと近くに、もっと、もっと、もっと。

 光に向かって手を伸ばす。掬い上げるように手を伸ばし、遂に、触れた。


「!」


 暗闇が消えた。真っ黒だった世界は真っ白に移り変わり、なんと目の前には真っ白な館が。洋風で三階建ての大きな館。白い鉄柵に囲われていて、庭には樹木で象られた巨大迷路がある。葉も咲いている花も白く見覚えがない植物だった。


「これが……『世界牢』」


 その十四番目!


「いらっしゃい、糸掛(いとかけ)」

「――天使……ヤーコプ」


 館の門、の前にいるのは天使。

 縛られる事なく、繋がれる事なく、翼を手折られる事なく、きちんと二本の足で立って、真っ白なドレスをつまんで軽く頭を下げる姿は優雅。


「歩きながら話しましょう。

 その物騒なモノはそのままでも良いわ」

「え?」


 気づけばオレの右手に『ギフト・バレット』が。それも天使に狙いをつけていた。天使の胸の中心を射抜くかのように。


「ここでは誰もが心に正直になってしまうの」


 ……つまり、オレは天使を撃ち殺したいと思っているのか。


「さあ、こちらへ」


 歩き出す天使。足音――靴音を立てずに静かに門の内へ。


「……」


 警戒する必要はないんだろうな。そう思ったオレは銃を構えたまま、降ろせぬままに天使の後に続いて歩く事にした。

 迷路に入った。この迷路を抜けないと館には辿り着けそうにない。侵入防止用か天使の娯楽用か。

 一歩、二歩。天使の横に並ぼうかとも思ったが、射撃に必要な距離から近づけずに。

 天使が苦笑している。微笑みに似ているが苦笑だ。


「どうしてこの銃をオレに?」

「ごめんなさいと、ありがとうの為。詫びと自分の為。両方よ」

「……天使。ヤーコプ。貴方は、貴方の体は完成しているのか?」


 人から様々なモノを奪っていたんだ。現状はどうなっている?


「体。いいえ、まだよ」


 天使が左腕を横に伸ばす。先にある人差し指もまっすぐ横に。

 目を向けてみると、いつの間にかベッドがそこに。

 天蓋つきの真っ白なベッドには女性が一人眠っていて。天使とそっくりだ。


「見かけはね。けれど、うらはどうしても入れない。

 まだまだうらとの波があっていないの」

「……これからも奪い続けるのか?」

「うらは、人間の体が欲しいの」

「……石見(がらみ)と一緒にいたいから?」


 天使は石見に恋している。同じ人の体を求めている。


「いいえ」


 しかし天使は首を横に振る。


「うらはね、呪われているの」

「呪い?」

「歳を取る事もなく、老いる事もなく、若返る事もなく。

 天使の姿になった時から一切の成長がないの」


 ……ルンも言っていたな、【メルヒェン・ヴェルト】を最期まで見届けろと“変えられた”、と。


「ただグリムの女王として、存在する事だけが求められているの。

 けれどね、記憶の貯蔵には限界があるの。

 だからゆっくりと消えていく。ゆっくりと“今のうら”が消えていく」


 ……ああ、消えたくないとはそう言う意味か……。

 自分の人生を忘れ続ける、想像しか出来ないが、怖そう――ん?


「……ちょっと待て」

「気づいた?」


 ああ、天使は前にオレに言った。

 自分とオレが同じになったと。それならば。


「オレも……変われない?」

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