第140話 こっちよ、糸掛
「お腹空いたな」
一度魔法陣を通って戻ってきたオレ。家に着いてみるともうフォゼ・ユーリア・クノイストも起きていた。新たに加わったチャーミングも。
が、テーブルに用意されている朝食を摂っている様子はない。
「一人でも多い方が良いでしょう」
とはフォゼの弁。
どうやらオレを待っていたようで。すまん、ってかありがとう。
「いただきます」
急ぎ席に着いて、みんなでいただく。
トーストとミルクと目玉焼き。簡単な食事だが、充分だ。朝の量的にも気分的にも。
これらを食べ終えるときちんと歯磨きを。
それも終えるとちょっと休憩し、外に出て女性陣と合流し、再び魔法陣を通ってばか大きいコンピュータのあるかえるの王子の研究室に。
最初に新品の四輪駆動車を気になる人に見せてワイノワイノとお喋りを。
そうして九時になったところで、パチンとかえるの王子が指を鳴らす。
「さあ、天使への面会を用意しよう」
ピタリと止まるお喋り。一瞬で空気が変わった。
なんとなく、みんなの視線がオレに集まる。
天使ヤーコプ。
オレの親を殺した仇。
先日カノとフォゼはかえるの王子を前に気を新たにし、同じく先日ユーリアたちはグリムを実験材料にしていた人間たちを殺した。
オレは、天使を前にどう言った行動をとるだろう? 今は心臓が早鐘を打っている。これは緊張からだ。冷静ではいる、と思う。
「……はぁ」
大きく息を吐いて吸って、深呼吸を一つ。
「かえるの王子、道を」
開いてくれ。天使に会う覚悟は出来ているから。
「了解。と言うかまず『世界牢』第十四区がどこにあるかについて。
それはね、キミたちの心の中だよ」
……は?
「心の深層、これらを繋げて世界を一つ作ったんだ。小規模だけどね。
天使は吸収魔術によってグリムの女王としてグリムの心を把握し、人に童話への夢を忘れさせないよう人の心を把握する。ダイレクトに人にこっそりと語り続けるんだ。それには心の中にいるのが一番良い。
安全だし、見つからないだろうしね」
そりゃ自分の中にいるとは思わんわ。
「なので今からキミたちは心の中に入ってもらう。
行くのは糸掛・石見・心樋・カノ・フォゼで良かったよね?
ハインリヒちゃん、おいで」
「ん」
かえるの王子の傍に寄る、ハインリヒ。
「心の中は思いの嵐だ。
呑み込まれないように気をつけてね」
パチン、指が鳴るとハインリヒがかえるの王子にもたれかかるように気を失って。
「ハインリヒちゃんを起点に心を“開く”よ。
さ、行っといで」
パチン、と指が鳴った。と思ったら一瞬で暗闇に。
「え?」
なんだ? なにが……。
喜
怒
哀
楽
「!」
なんっだ? 人の声が、感情が“聞こえる”。心に直接ぶつけられる。
嬉しいし、怖いし、涙が溢れて、喜ばしい。
ぐちゃぐちゃだ。オレの感情がぐちゃぐちゃになる。
「あ……ああああああああああ!」
これが、心の中なのか。
「こっちよ、糸掛」
叫ぶオレと、オレを呼ぶ声。
今の声は――天使だ。




