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メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~  作者: 紙木 一覇
第二章

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138/145

第138話 全員で!

 確か今年で六十になるんだったか。老いてはいるが、眼光は鋭く、しかし濁っても見えた。

 そいつが口を――開こうとしたところでユーリアが男の胸を撃った。何度も、何度も、何度も。

 上がる悲鳴、阿鼻叫喚。

 残った十二人は泣き、喚き、一人が銃で自死して。

 それを見て更に混乱は広がり、二人が部屋から逃げようとし、背をクノイストに踏みつけられ、『レイ・ガン』によって撃ち抜かれる。

 そうして全員が殺され。

 それでもユーリアは死体を撃ち続けた。


「……ユーリア、もう良い」

「……糸掛(いとかけ)。彼らを殺したのは俺だ。

 日本ではなくね。

 それで良いかい?」

「……」


 返り血を浴びて、悲しげに笑むユーリア。滴る血が涙にも思えた。


「……ああ」


 オレは、日本を守らなくてはならない。大統領を生け捕りには出来なかった。だから……。オレもオレで非情だな……。


「火よ(ベーテン)」


 チャーミングが魔法を放った。

 壊されたグリムたちの体に火を燈したのだ。中にはまだ息のあるグリムもいたが、それでも。

 もうこれ以上苦しませない為に。生きて苦しまなくて良いと……。

 そんなチャーミングの手を握ってあげる心樋(ことい)。二人の表情に、笑顔はなく。

 ……辛い経験をさせてしまったな……。

 オレたちは暫く誰もなにも発する事なく、ただグリムたちが焼かれ、消えていくのを見届けた。

 けれどずっとここにいるのはダメだ。上ではまだ戦闘が続いている。


「……上がろう。

 石見(がらみ)、転送出来るかい?」

「うん……」


 そうしてオレたちは地上へと舞い戻った。

 が、戦闘はもう終わっていた。兵たちは無気力に座り込み、グリムたちは気力あるままに座り込み、子供たちは笑っていたり、聖騎士たちは剣を構えたまま戦地を見回っている。

 上を見ると宙にホロウィンドウが幾つか。

 そこに映されていたのはアメリカ政府の機密情報。そして大統領含む十三人の遺体。

 加えて、大統領がやろうとしていた魔法毒による世界隷属計画の詳細。

 更に、地下で行われていたグリムたちに対する非道まで。

 誰がやったのか? かえるの王子だろう。彼以外には出来まい。

 兵たちは守る対象を失い、その対象に利用されていたのを知り、敵だからと実験材料にしていたのを知り、戦闘を止めたのだ。

 兵を除くみなに礼を言う必要があるな。シエルにもメールを出そう。

 ……一応は……勝利、した。

 後味は悪いな……。


「こんにちはみなさん」


 そんな中で場違いに元気の良い朗らかな声が響いた。

 顔を上げるとホロウィンドウに一人の老人が映っていて。

 あの人は!


「初めましての人、お久しぶりの人、色々いらっしゃると思います。

『ドーン・エリア』政王(せいおう)、イシルジールです」


 温泉で出会った人、で間違いなかった。


「『ドーン・エリア』とは? それについては近いうちに。

 アメリカ中央の事情は把握しています。

 これよりこのイシルジール、祭姫(まつりひめ)、軍神がそちらに向かいましょう。

 必要であれば、国民が望まれるのであれば大統領の椅子を継がせて頂きたく思います。

 だからみなさん、顔を上げてください。

 どんなに辛くともまだ生きているのですから、しっかり活(い)きましょう」


 そうして笑う、政王イシルジール。


「しっかり疲れを取りましょう。それが出来たら笑いましょう。

 英気を養って、また歩くんです。

 大丈夫、国は我々が責任もって立て直します。大丈夫。

 これからは、グリムと共に歩む国であるようにします。

 区別も差別もなく、認めあえる国にします。

 世界で最も誇りある国に、誇られる国にしていきましょう。

 全員で!」


 貴方たちは強いのですから! と言葉は続けられ、最後に、


「この国は強いのですから!」


と鼓舞された事により幾人かは立ち上がった。

 勿論座り込んだままの人もいる。すぐに全員が歩むのは無理だろう。

 それでも。

 この国はきっと歩み続けるのだろうな。

 新たなリーダーたちの元で。きっと、力強く。

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