第137話 ああ……
「浮け」
ホワイトハウス――いやホワイトハウスだった物と言っておこうか、それらが落ちていく中、オレたちも魔法に助けられながらゆっくりと降下する。
やがて日の光はほとんど届かなくなり、巨大な空間に出た。コンクリートの巨柱だけが何本かある空間だ。
これは、そうか、日本と同じで水害対策の空間だ。いざと言う時ここに水を流し込んで街が水没するのを防ぐ為の空間。
落下物が落ちていく。落ちて溜まって、オレたちの足場として機能する。
「こっちだよ」
着地したオレたちを先導するのはユーリアだ。彼は迷う事なく空間を横切り、鉄扉を見つけ、『レイ・ガン』で撃ち壊して尚も進む。
「……ここ、本当はホワイトハウスからの脱出用じゃないかな?」
通路の壁をこんこんと拳で叩く石見。
「ちゃんとした素材で出来てる。きっと上から続いていたんだと思う」
「そうか、有事の際の避難通路」
「うん」
とは言え、まるで迷路だ。道が交差しすぎていて道案内なしで入ったら出られそうにない。
オレたちも出られるか不明だな……まあいざとなったら一直線にぶち破ろう。
「ストップ。ユーリア、待て」
「うん?」
「人がいるぜ」
「グリムもだよ」
どうやらカノが感じている人の気配とユーリアが感じているグリムの気配は同じ場所からのようだ。オレもなんとなくだが感じ取れた。なんと言うか、人が“動いている”感じがする。足音だったり、服が擦れる音だったり。話し声も聞こえるか?
「ここだね」
幾つかの扉を無視し、一つの扉の前で完全に足が止まった。
扉にはなにも書かれておらず、金庫のような分厚そうな銀の扉だ。
「鍵は当然かかってる、と」
ユーリアがドアノブを握るもビクともせずに。
「オレが壊そう。みんなちょっと離れていてくれ」
言われ、オレの銃弾の威力が及ばないところまで後退するみんな。
充分離れたのを確認したオレは『ギフト・バレット』の銃口を銀の扉に向けて――撃つ。
やはり分厚かった扉は炸裂に負けて内側へと飛んで行き――銃声。
「うぉう!」
扉が破られた途端部屋の中から銃を乱射された。
咄嗟に横に跳んだから良かったものの危うく蜂の巣だ。
「撃つよ」
そう言うと誰の返事も待たずに『レイ・ガン』を一発、ユーリア。
光弾は通路から放たれた。が、部屋の前まで行くと直角に曲がって部屋へと侵入。そして悲鳴。中で誰かに当たったようだ。
一瞬だけ銃撃が止んだ。この隙に――
「痺れろ!」
部屋の中に電気を流す石見。
今度は複数人の悲鳴が。高圧な電流によって意識を失う者が出たのか人が倒れる音がした。
少し待ってみたが銃撃は再開される事なく。
電気も収まったようだ。
それでも充分注意しながら部屋を覗いて――固まった。
「糸掛?」
石見がオレの名を呼ぶ。固まってしまったせいで石見が部屋を見るのを止められなかった。後悔する。これは見せるべきではなかった。
「……みんな、見ない方が良い」
「すまないね糸掛。それは聞けない」
オレを超えて、ユーリアが部屋に入り込んだ。続いてクノイストも。
カノたちも後に続こうとしたから肩に手をやって一度は止めたが、首を横に振られ払われてしまう。
最後に心樋とチャーミングも。心樋に目を配るオレだが、こちらも首を振られてしまう。ここまで関わって今、子供扱いはイヤだと。
「ああ……」
先に部屋に入ったユーリアからの声。
落胆した声に思えた。それ以外の感情は乗っていないように。
それは……そうだろう。
だって捕えられたグリムたちは、見る影もなかったのだから。
吊られ、首を落とされ、横にされ、手足をもがれ、薬品に浸かり、腹を裂かれ、殴られ、蹴られ、眼球を抜かれ、繁殖に使われ。
とてもではないが“対話可能”の相手として扱われてはいなくて……。
「……ひでぇな」
これが、一人の男の野心の果てか……。
「奥に部屋があります」
確かに、ここから続く部屋がもう一つあった。正確に言うなら扉が、だが。こちらも銀の扉だ。オレはなんの遠慮もせずにそいつに撃ち、破る。
途端何人かが転がり出て、獣人化する。
が、『レイ・ガン』によって即座に殺されてしまう。
「ユーリア」
「見なよ、糸掛。
あいつだ」
続く部屋の中を銃口で差す。
その先には、十三人の男女が。そして銃口を向けられているのは一人の男。大統領だ。




