第136話 ……行けってさ
ドラゴン男の喉にヒビが入る。そのヒビは一瞬で全身に広がり、赤く発光していた。
「逃げろ!」
「「「!」」」
ド―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
爆音、豪熱、大火。
ドラゴン男の最期の一撃が周囲一帯を燃やし尽くす。
瓦礫も、カメレオン女も、カマキリ女も、熊男も、地面に大気すらも。
つまりはこうだ、「巻き込んですまない、許せ」と部下三人に謝罪していたのだ。
断末魔ではなく人生最期の誇りとして放たれた火炎はなにもかもを焼き、灰にした。
「ぐっ」
そんな中でオレたちは一塊になって何重にも張られた魔法の球の中でこれを耐えた。
一人は魔法の障壁を、一人は水を、一人は空断を、一人は跳躍を。魔法士たちの咄嗟の判断で張られた魔法の球。
しかし急ぎ放たれた魔法は少し不安定で、飛んだ先にも火炎はあって、熱は確かに肌を焼いた。
軽い火傷だが日焼けよりは格段に痛い。
だけれど文句を言う者は一人もおらずに。命あっただけでもありがたいからだ。
車は――ダメだな。火炎に巻き込まれた。愛車だったが諦めよう……。
「……治れ」
空中を浮かぶ球の中に暖かな光が燈る。石見の治癒魔法だ。
「……治すのに時間がいる。このままホワイトハウスにゆっくり向かおうと思うけどそれで良い?」
「あ――」
ああ、と言おうとした。
しかし、四方八方から放たれた青白いレーザーが魔法の球を貫いてしまう。『ガロウズレーザー』!
球が破裂する。幸い誰も貫かれなかったから良かったものの治療は途切れてしまった。
「浮け!」
落ちるオレたちにかけられるのは心樋の魔法。落下速度は弱まり、誰も叩きつけられる事なく灰となった地に降りる。降りて一斉にホワイトハウス目指して駆け出して。
まだまだ狙われるだろう。打たれるだろう。『ガロウズレーザー』は避けるしか手はない。
なら少しでも前に進むしかない。
「来たぜ!」
オレたちを追撃する第一陣の接近を確認しカノが振り返った。『ブリンク』を撃とうとしたのだ。だが、準魔法士、獣人魔法士たちの動きを他のグリムたちが波となって受け止める。
「……行けってさ」
苦笑しながら、ユーリア。
「そのようだ」
こちらは歯軋りしながら、クノイスト。
「……チャーミング、残りたい?」
「ううん。俺は心樋と行くよ」
振り返らずに、しかし厳しい表情で、チャーミング。
そんな中第二陣・第三陣の追撃が現れるが、子供たちによる『フェイザー』を喰らって視力を台無しにされて。
更に、空より戦場に深々と一振りの剣が突き刺さる。機械製の剣だ。通常の西洋剣ではなく魔法具とも別。
そんな剣を機械を纏う一人の騎士が手にして。機械を纏う、これもまたアメリカの準魔法士とは別。
聖騎士――『人赦聖騎士団』と名乗る魔法具を介しても魔法を使えぬ人間が機械で魔法を再現する世界的な財団、これに所属する騎士だ。
聖騎士が大地に刺さっていた剣を抜き放つ。と、二十名程度の聖騎士が戦地に降り立った。
「七つの“王属聖騎士”の一つ、ヴェイラだ。
遅れた分は働きで返す」
王属聖騎士! 団長である“聖騎士王”シエル直属の騎士! が来てくれるとは!
「礼を言う! ありがとう!」
オレの礼にヴェイラは背を向けて敵と向かい合う。
仮面と鎧を纏っているから男性なのか女性なのか判別出来ないが、どっちでも良いか。とにかく無事で切り抜けてほしい。
「往け」
「ああ!」
グリムと人が共に行けと言っている。
ならば。
「さっさと行ってグリムたちを助け出そう!」
オレの言葉に全員が思い思いの言葉で応える。肯定を主張する。
誰も足を止めずに、ホワイトハウスへと向かいながら。
そうして駆け続けてオレたちは、遂にホワイトハウスへと到着した。
門をオレの『ギフト・バレット』でぶっ壊して一斉にアメリカ政治の中枢へ突入。
だが。
「誰もいない?」
人の気配はゼロだった。
廊下も、部屋ももぬけの殻。
既に放棄されている?
「いや……グリムの気配はあるよ。ずっと下だね」
『レイ・ガン』の銃口で廊下の床を軽くつつくユーリア。
下、か。
「階段を探すのは面倒だね。ぶち抜こうか」
「え?」
こちらの返事を待たずにユーリアは『レイ・ガン』をぶっぱなつ。
何度も、何度も。大穴が空いてもまだ止めない。
次第に反響する音が変わってきて――成程、下に空洞がある音になった。
「って、なんかあちらこちらにヒビ入ってきましたよ?」
「ん、ああ。ユーリアストップ。建物が――」
壊れかねない、と言おうとした矢先だ。マジでぶっ壊れて下へと落ちていったのは。
「「「おおおおおおお?」」」
落下物は柱や壁、土も混ざっている。ひょっとして建物だけじゃなく庭まで陥没したか?
……もう知らね……。




