第121話 英気を養って、また歩くんです
「それじゃあまたね」
「ああ」
特に男女別に文句はなかったので素直に指定された家に。
ドアは木造りで、開くとドアについていた鈴が鳴った。
「へぇ、整って――ませんね」
「うん……」
どう言えば良いだろう? 家具にキッチンに階段に、色んなところがぐにゃりと曲がっていて、すっごい酔いそう……。
「ユーリア、グリムの感覚ってこうなのか?」
「いや? かえるの王子は奇特だね」
とか言いながら真っ直ぐ歩いてキッチンへ。冷蔵庫からアルコール缶を取って食器棚からはグラスを取ってテーブルに行き、注いで一杯やり始めた。ユーリアに続いてクノイストも。もう慣れたのか……。
「オレはもうちょい見て周って風呂にするよ」
「あ、おれも付き合います」
一階には他にだだっ広いリビングとトイレがあって、どれもが酔いそうになるレベルで曲がっていて。せめてトイレくらい落ち着いた空間でさせろやと思う。
階段を上がって二階へ。
そこはトイレとベッドルームが五つあるだけだった。内装に少しずつの違いがあるが大きさはおおむね同じ。ベッドにも違いはない。
おや? 一階に続く階段が他にもあるぞ?
それを下って行くと――なんと温泉施設が。
「そう言えばお風呂って見てませんでしたね」
「ああ」
脱衣所を通って横に開く扉を開けてみると、立派な岩風呂がドンと構えていた。
いや、マジで岩だ。
大きな岩があったり小さな岩があったり、横になっている岩があったり。
温泉と言うより手入れされていない自然の中に湯が沸いているって感じ。
そしてそこは。
「でっか」
家本体と同じくらいの広さがあるのではなかろうか。
ちゃんと体を洗う場所はあって、シャワーがあって、サウナまでついている。
岩の温泉全体は竹林で囲まれていて覗き防止はきっちりとしていた。
湯に手をつけてみると、
「ちょっと熱め」
湯に浸けられていた温度計を確認すると四十五度。冬には良さそうだが近くに火山があるからかこの空間は意外と暑い。湯に長く浸かっていたら汗をかくだろう。
汗を流すお風呂で汗をかく。意味なくない?
「いやぁ温泉は熱くてなんぼですよ」
「「うわぁ!」」
オレたちの他に誰もいないと思っていた。
だから湯気の向こうからの声に心の底から驚いてしまい。
「ふふふ、驚かせて申し訳ない」
軽く平泳ぎを一回して現れたのは――おっちゃん。
頭にはもう髪の毛がほとんどなく残った毛も白。白人のようだが湯のせいで肌は赤くなっていた。
顔には長い年月を生きてきた証拠でもある深いシワがあって、長いまつ毛に眼は隠れている。
柔和な表情を保っていて善い人代表に見えた。
おっちゃんと言うかおじいさんと言うべきか、その人は湯から出ると軽く水で体を流す。
きちんとシャワーを止めて、
「しっかり疲れを取りなさい。英気を養って、また歩くんです」
オレたちに顔を向けて教師のような言葉を投げると、
「ではお先に」
出て行った。……誰やねん。
すぐに追いかけるのもあれかと思ったのでおじいさんが服を着る少しの時間を置いて、温泉から離れてこっそりと見ていると一階に一度顔を出し、ベッドルームの一つに入って行った。
……他にも客がいるなら教えといてくれ……。
「あぁ、ここの政王だよ」
「「せ――」」
ユーリアたちから驚きの言葉が。
顔が赤くなっているな。どんだけ飲んでんだ。
やそれは良くて、あのおじいさんが? 政王?
「他で入ると騒がれるからここに良く来ているんだってさ。
腰痛に湯が効くとか言ってたよ」
「へぇ……」
有名人なら、確かに人の眼は避けたいか。
強い政治家は強面だってイメージを勝手に持っていたが、ああ言うタイプもいるんだな。
「……二人共、酔ったままお風呂に入らないようにな」
「明日の朝に入るとするよ」
それなら、まあ。アルコールも抜けているだろう。
キッチンに向かったオレは冷蔵庫を開けてみる。
冷凍食品が少しと果物の缶詰と飲み物しかない。贅沢は出来そうにないがタダで泊めてもらっているのだから文句は言うまい。
「フォゼ~どれにする~?」
「ええと」
オレに手招きされて寄ってきたフォゼも冷蔵庫を見て。
「最近ちょっとだけ体重増えたんで軽く、これで」
グラタンか。
「んじゃオレも軽くにしとこう」
明日は動くから朝しっかり摂るとして、今夜は“カロリー控えめ! 塩分控えめ! 栄養バランスばっちり!”と書かれたお弁当にした。パスタがメインで野菜が少し。
「あとは」
デザートに桃の缶詰を。
「ユーリアとクノイストは~?」
「飲み終わったらちょっとだけ食べるよ」
「そっか。ほどほどにな」
「うん」
では、レンジでチンしていただきますか。




