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メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~  作者: 紙木 一覇
第二章

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117/118

第117話 でもさ!

 指が、カノの細い指がトリガーから外れない。むしろ力が篭る。


「けどよ……マインは絶対にてめえ以下にはならねえ。

 グリムのてめえがグリムを助けてえ。そりゃ当然だろう。

 人間のマインは『エンゼルエンゲージ』から人間を助けてえ。その為の手段は……てめえの殺害じゃねえ」


 トリガーから外される、指。


「それをやっちまったら最悪の手段を取らねえてめえ以下になる」

「だね。俺ちがもっとうまくやろうと思ったら『エンゼルエンゲージ』をもっとうまくばらまけた。人類の半分を残す形で大気に混ぜる事も出来た。

 やらないのはこれが人を理解しようとしているグリムに合わないから。そして俺ち自身に人への恨みがないから必要以上の人間を巻き込まない手段を選択した」


 かえるの王子が一歩だけ後ろに下がる。銃口に当てていた額を離したのだ。


「マインは……怒りを超えてえ」

「うん」

「復讐に生きるのは割と辛いんだ……今はまだ怒りが優先されてるけどよ……どうしようもないけどよ」


 声が震えている。

 怒りゆえか、自分を律しようと抑えているのか、それともどこか悲しいのか……。


「いつか怒り以外で動けるようになる為に、てめえを殺さねえ」

「うん」

「自分を綺麗事で騙しているだけだとしても、それで良いさ。

 貫いてやる。貫き通してやる。

 絶対にだ」


 銃口が降ろされる。

 ずっとかえるの王子の額に向けられていた銃口だったがようやっと外された。


「だからフォゼ、お前も静まれ」

「……姉さん」


 フォゼの銃口はクノイストに向けられている。

 が。放たれている怒気は、ずっとかえるの王子に向けられていて。ちゃんとカノも気づいていたか。


「すまねえな。マインの復讐に付き合わせてここまで来ちまったからお前にもマインの怒りが移っちまった」

「……違うよ。

 おれは姉さんを抑えようと思って自分からついて行った。

 けど……否定出来ない怒りがあったんだ。

 かえるの王子を前にして、それに気づけた」


 フォゼの持つ銃が、銃口が降ろされる。


「おれはかえるの王子を殺したい。でも!」


 銃声。

 フォゼが地面に向けて一撃撃った。

 だけれど、狂気の音にびくりと体を揺らす者あれどフォゼに続いて撃ってしまう者は居らずに。


「でもさ!」


 更に銃声。

 何発も、何発も撃たれる。

 暫し銃声だけが鳴り響いて――カチン。違う音に変わった。全ての銃弾を撃ち尽くしたフォゼ。そんな彼が、トリガーを引き続ける音だ。

 しかしそれもやがて止んで。

 はぁ、はぁ。

 フォゼの息遣いが()こえてくる。珍しく荒い呼吸だ。こんなフォゼは初めて見た。


「……でも、残念だよ。

 かえるの王子を撃つべき銃弾が空になっちゃった」


 勢い良くあげられるフォゼの顔。かえるの王子に向けられた――のではなく上を見ている。


「だから今は、あんたを撃たない。

 次に撃ちたくなるまでにおれも……きっと怒りを超えるから」


 ごとんと落とされる銃口。地面に当たって重い音が出た。


「ああ……それで良い」


 苦笑するように笑って、フォゼの頭に手をやるカノ。

 撫でたのでない。姉の手はただ弟の髪の毛を雑に乱して。

 ……なんか、良い関係だな……。

 乱暴な姉と冷静な弟。に見えて実は弟を優しさで包んでいる姉。

 オレに石見(がらみ)と言うストッパーと支えがいてくれたように、この姉弟は互いに支え合っている。

 きっと今後も変わらないんだろうな、この二人は。

 なんてしんみりしていると。


「ところでえ、天使ヤーコプってどこにいんのお?」


 ルンがいきなり本題をぶち込んできた。

 雰囲気思いっきり壊したけど、確かにこれも気になる。

 だからオレは各自銃を降ろし、石見とハインリヒが防御魔法を解く中、次に発せられるかえるの王子の言葉に耳を向けた。

 のに。


「……」


 かえるの王子はいつまで経っても口を開かずに。

 こら、どうした。


「おーい、呼吸してるぅ?」


 と、ルンに言われても口を開かずに。

 そんな状況の中でハインリヒがこの空間を忙しなく動いていて。なにやら虫かごと網を持っている。って言うか実際に虫取りをしていた。

 え、こんな時にですか?


「終わりましたよ、虫退治」

「そっか。ありがとさんハインリヒちゃん」

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