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メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~  作者: 紙木 一覇
第二章

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116/118

第116話 俺ちを殺したいかい?

 ドンっ、と音が鳴った。()いて良いかと言ったカノが力強く銃を地面に叩きつけたのだ。

 ちょっとだけ静まり、走る緊張感。


「なにかな?」

「『エンゼルエンゲージ』を作ったのはてめえか?」

「どうしてそう思う?」

「どうしてだ? このぬいぐるみ共、中に人間のガキ共が入ってんだろ」

「「「⁉」」」


 慌ててぬいぐるみを見やるオレたち。

 ジュースのおかわりを注いでくれているぬいぐるみたちは動きを止めずに。

 待て待て、人の気配はしないぞ?


「気配はな。かえるの王子がうまく隠してんだろうがマインは覚えてるぜ。

 ガキ共の視線、所作、悪気のなさ。

 そしてわずかに漂う『エンゼルエンゲージ』の匂い」

「……驚いた。うん、素直に驚いた。

 確かに気配はぬいぐるみで隠しているよ。これらも俺ちの特別製さ。

 それを超えてきたカノ、キミ凄いじゃん」

「応えろよ」

「うん応えよう。

 そうだよ、『エンゼルエンゲージ』は俺ちが作った」

防げ()!」

防げ()


 石見(がらみ)とハインリヒが防御魔法を起動させた。

 なぜこのタイミングで? それは単純。カノが銃口をかえるの王子に向けた。

 そしてそれを見たユーリアとクノイストがカノに銃口を向け、オレがユーリアに銃口を向け、フォゼがクノイストに銃口を向け、子供たちが心樋(ことい)に銃口を向けたからだ。

 まさに一触即発。誰かが暴走したらここはあっさりと戦地に変わり、幾つかの死体が横たわるだろう。


「魔法麻薬『エンゼルエンゲージ』。

 俺ちが作ったこれは――」


 緊張が溢れそうな空間で何事もなかったように言葉が紡がれる。

 お前のせいなんだけど?


「――大人に子供の心を思い出させるモノだ。

 子を想う親の心である篝火が弱まっている。ワールド・ダウングレード以降生きるのに必死で子を思いやる時間が減っているからだ。……いやそれ以前の問題もあるかな。人間の社会がきな臭くなった。あちらこちらで戦争・紛争が起こり、ある国は自国優先の政治に走り、ある国はある国の領土を求め、ある国はある国の人材を求めた。

 その為に金融で苦しめられ、政治で苦しめられ、エネルギーで苦しめられ、宗教で苦しめられる大人たち。

 そんな大人たちに希望を見いだせずに子供たちは気力を失い、大人を信じず、乱暴な手段を以て自身の欲求を満たそうとしていた。金欲性欲支配欲。

 そこに直撃したのがワールド・ダウングレードだね。

 人の心を喰うグリムの出現だ。

 大人は生きるだけで手一杯になり、篝火は弱まり【メルヒェン・ヴェルト】の影響が減少しているせいで魔力生成も難しくなり、ただでさえ童話を楽しむ機会を失いつつあった子供たちがグリムを恐れるようになったからグリムが存在を維持し辛くなっている。新たなグリムも誕生が難しい。

 なら、この状況にグリムである俺ちが手を講じるのになんの疑問が?」

「大人を壊す必要あったかよ」

「あるんだよ。子供の心を思い出し、これにどっぷりと浸かり、一度壊れた大人は周りの人たちが必死に元に戻そうとする。

『エンゼルエンゲージ』は致死の薬じゃあない。治せる症状を与える薬だ。

 子供の心を思い出した大人は治り、後悔する。子供を想ってやれなかった事を。

 そうして子供を大切にする時間を増やし、童話を読み訊かせるようになっていき、篝火は燃え続け、篝火に照らされる子供の願い(おもい)は影を作り、影はグリムとなる。

 見事だろう?」

「だがマインたちは『エンゼルエンゲージ』に苦しめられた」

「一時のモノさ」

「一時で家族が壊れたんだよ!」

「人間のせいで【メルヒェン・ヴェルト】が壊れたんだよ」


 だから責任を取れと、そう言う。

 確かにグリム側からしたら人間許すまじ、か……。

 けれどその怒りを超えてグリムは人を理解しようとしている。手段は心を喰う事。

 そして人はグリムを恐れる。童話の読み訊かせを控える。

 ……悪循環だ。


「悪循環を断ち切るモノこそ『エンゼルエンゲージ』さ」

「かもしれねえ、かもしれねえが!」


 納得など出来ない、か……。


「でもさ、キミも理解は出来ているよね? だから俺ちを即射殺しない」

「違う。マインが撃たねえのは今撃てばこの場が滅茶苦茶になっちまうからだ」


 自分の怒りよりも大切にしなければならない事がある。

 怒りに包まれてもカノはまだ理性で動けている。


「仲間が大事かい。

 けれど違う。キミは(わか)っている。『エンゼルエンゲージ』の効能と影響。

 そして俺ちを殺しても『エンゼルエンゲージ』の蔓延は止められないと言う事が」

「てめえを殺せばいつかは止まるだろうが」

「止まらないよ。だって生成方法はもう世に流しているから。

 キミもその可能性は考えているはずだ。誰よりも『エンゼルエンゲージ』について重く考えているキミならあらゆる可能性を考えているはずだ。

 それでも――」


 こつん、カノが向ける銃口にかえるの王子の額が当たる。自分から当てに行った。


「俺ちを殺したいかい?」

「……ああ、殺してえな」

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