第115話 面白いから放っているけれど
声は、たむろするオレたちのど真ん中から。
少女だ。いつの間にか少女が現れていたのだ。
年の頃は心樋と同じか少し上くらいに見える。
髪の色と眼の色は鮮やかな黄系・シトラス。ぬいぐるみたちとは違う。白いメイド服を着用するこの子は、グリムだ。
ただ手に持っている大きなお盆にはオレンジジュースの入った人数分のコップとお菓子の皿が乗っていて、敵と言う気はしなかった。
「ん」
そんな少女、ハインリヒがお盆をオレたちに突き出してくる。
コップとお菓子、自分で取って と言う意味だろう。
なのでオレたちは少しばかりぎこちない動きでそれらを取り、着席する。
「星綴澪はどうだった?」
は?
オレたちが座って、こんな事を言うかえるの王子。
どうだった、どう言う意味だ?
「彼女も俺ちの子供だよ。製作者。父であり母」
え、そうなん?
「そうなん。彼女は俺ちの作った骸牢に人工霊魂を入れて生み出した唯一の成功個体さ」
人工――霊魂。
「おや? AIが組み込まれていると思ってた? 違うさ。俺ちでもまだまだあれ程自然な心を有すAIロボットは作れていないんだ。
プログラムだけで心を作り出す。不可能に挑戦するのは好きだけれど心は神秘の側に傾きすぎていてね。難解難解。
けれど!」
パチン! 大きく指が鳴る。
「グリムと日本の付喪神を参考に人工霊魂を作るのは可能だった。
特に人の想いを束ねて生まれる付喪神。素晴らしいシステムだと思うよ。これを考えた古代の日本人には敬意を払う。
星綴澪はね、人からの“夢”を集めて束ねた霊魂が組み込まれているんだ。だから彼女は歌う。歌い続けて夢を見させ、自らの霊魂の力とする。
まあ、彼女自身にはそんな意図はないし、夢を見させるなら俳優業でも良かったんだけど俺ちの事情でそっちはダメにした」
「事情?」
「そ、事情」
パチン。フォゼの呟きに指を鳴らす。
「俺ちは俺ちが思っている以上に嫉妬深かった」
……つまりラブなシーンに耐えられないと……。
「そ。想像するだけでもおぞましい! 我が子が男と或いは女とイチャコラする! 見たくないねそんなん!
そこで気づいた。俺ちって欧米人よりも日本人の感覚に近くね? って。
だからアメリカにある『ドーン・エリア』にいながらも日本を思わせる部位を随所に残した。無意味に誇り高いアメリカ人からしたら頭痛の種だろうね。面白いから放っているけれど」
それ理由にアメリカが日本に八つ当たりしてないだろうな……。なんか思い当たる節が幾つかある気がしないでもないが。
「まあそれは良いんだ。
日本人のキミらに星綴澪が自然に見えているなら俺ちは嬉しい」
「……見えてるよ。自然な女の子に見えた」
口の中をジュースで潤してから、石見。
「そうかそうか。それは良かった」
「……あのさ、さっき星綴澪を唯一の成功って言ってたけど、オレの目には機械獣たちも自然に見える。人型と獣型で違いはあるけど、機械獣は成功じゃないのか?」
満足そうに頷いていたかえるの王子に質問を。
自分たちの事に話が及んだと察したのか何体かの機械獣がこちらを気にする素振りを見せた。え、人の言葉解るんだ?
「星綴澪と機械獣の差は一つ。“自らの意志で自身を成長させられるか”って点。
機械獣は『ワールド・ダウングレード』以降アメリカからの要請で作ったんだ。俺ち的には成長可能な個体にしたかったんだけど、アメリカがいらないと断ってきた。
獣はあくまで人間に付随する生き物であり、地球の長は我ら偉大なアメリカ人だ。ってさ。時々傲慢だよね」
苦笑しか出来ない。
「まあそんなわけで機械獣の人工霊魂はアメリカ人を超えないよう成長しないタイプにした。俺ちにとっては不満足だから成功とは言わない。けれど失敗と言う気もないよ。機械獣も俺ちの子供。欠点はあっても失敗作と言う気はない」
「成功とは言うくせに」
「あうちっ。ハインリヒちゃん言葉で刺してこないで」
「一つ訊いて良いか」




