第4話 純粋人間による噂話は制御不能
学園の図書館はこの国でも有数の所蔵数であると言われています。実は伝説級の魔導書があるなんて噂もあったりなかったりと忙しい限り。
私は、昼休みに男子部が見える席と抜け道を確認しに図書館へ来ていました。
まず席は窓際にあるとのことでしたが、そのあたりはなんかこう、人が密集しています。
窓沿いに席が10席ほど並んでいましたが、すべて埋まっています。このうち一番端の席には一つの椅子を二人の女子学生で座っていました。いわゆる半ケツです。二人は窓を見ては小さな声で話しています。
「あの、窺いたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「え?何でしょうか?」
「あ、この人、例の男爵家の……!?」
「嘘っ!?握手してください!」
席に座ると具体的に何が見えるのか聞こうとしたのに、なぜか握手を求められてしまいました。しかし私はいずれ権力を手中に収める女。そのころには握手など誰からも求められるようになるでしょう。ここは堂々と応じます。
彼女たちは私よりも下の学年のようでした。この学園では学年に応じて制服のリボンの色が違うので、それを見て判断することができます。
「うわあ!実は恋人がいて、男爵家に引き取られるときにプロポーズされたって本当ですか!?」
なにそれ知らない。
「私は、その恋人が実は平民のふりをした由緒正しきお家の殿方で、『これで一緒になれるね』って手紙をもらったって聞いたけど……、きゃー!」
誰だそいつ。
……おっと、母から矯正された口調が、動揺のあまり戻りかけました。
小さい頃に首都を縦横無尽に駆け回りつつ、色んな地区を支配下に置こうとしていた時、母から人には丁寧に話すように、としつけを受けたのです。基本放任主義の母でしたが、こうして時折ドロップキック式教育をしてきたのは懐かしい思い出ですね。
さて、自分の全く身に覚えのない話が広まっているようです。
「私、恋人なんていませんよ。その噂は全部でたらめです」
「そ、そんな……!」
二人の少女は雷を受けたかのような衝撃を食らっていました。ちょっと純粋すぎて私は彼女たちが心配です。
しかし、噂話ですか……。自分に有利になるように、うまくコントロールしていきたいものです。今流れている私に関連した噂はロマンチックな妄想みたいですので、害はないですね。うまいこと、これで有力者から権力をむしり取れたらいいなとと思ったりもしますが。
話を戻しましょう。
「そこの席って人気みたいですね。何が見えるんですか?」
私は守ってあげたい系美少女キーラちゃん。何も知らない体を装います。
「ここはですね、実は隣の男子部が少しだけ見えるんですよ!」
「ほんのちょっとだけですけどね、ちらっとだけ見えるのがこれまた良い……!」
彼女たちの指差した方向は、立っている私からは塀や建物の壁しか見えません。
ただ、建物配置に塀の形状を考えると、やはり男子部側が見えそうです。
「男子部の校舎裏がちらっとだけ見えるんです!たまに小さくですけど、何人かが集まっておしゃべりしたりしているので、たぎります!」
何がたぎるんですかね。
「校舎裏……、ゴミ箱なんかも置いてあって……、掃除なんかでゴミ捨てにワイワイ来ている男の子たち……。ふう」
「ゴミ箱が見えるんですか?」
「はい、たぶんですけど……」
レクラッツさんは妹さんが図書館の裏のゴミ箱を漁っているとも話していました。
しかし彼女たちが話しているのは図書館ではなく校舎。ゴミ箱になにかありそうな予感がしてまいりました。
彼女たちに別れを告げて奥の本棚に向かおうとしたところで、そろそろ昼休みが終わりそうになります。抜け道は放課後に回したほうがいいですね。ああ、それと花壇の物置からの地下通路もちゃんと捜査しなくては。
午後の授業もいつも通りに受けます。優等生らしく振舞うことで、教師からの評価はうなぎ上りです。
さて、午後は『魔法総合論』について。
今日『魔法』と呼ばれるものは、ほとんどが『自然魔法』に属します。幻素を操作し、望みの現象を引き起こす、というものですね。しかし、実はこれ以外にも魔法の種類はあります。それが『神的魔法』と『悪霊魔法』。どちらも自然魔法と同じように望みの現象を引き起こすものですが、そのプロセスが違うらしいです。「らしい」というのは、どちらもまだわかっていないことが多いのです。神的魔法は未だにしっかりと体系立てられておらず、その使い手は己の感覚の身でその魔法を行使しているらしく、悪霊魔法はそもそも使用を禁じられています。
この授業ではそういった三種類の魔法の違いを大まかに扱っていますが、結局七割くらいは自然魔法の話になってしまっています。担当の先生は授業中に、「ある団体がですねー、神的魔法のことを牛耳っていて、我々が参入するのを嫌がっているんですよー。はあ……。それに悪霊魔法は禁忌ということで、調べることすらなかなか難しい……」などとぼやいておりました。
いつか私が権力を手にしたときはそのあたりもメスをガンガン入れていきたいものです。力の独り占めとかズルいですからね。私はいいですが、他の人はダメです。
ただ、現時点でわかっている、魔法が発動するまでのプロセスを考えるに、自然魔法よりも神的魔法と悪霊魔法は使い方を気を付けなければならないことは、何となく察せます。
自然魔法が発動するまでの具体的なプロセスはこうです。
①必要な情報が付与されるように発動式を組み立てる。
②この世界から仮想領域に発動式を送る。
③仮想領域内の目的の幻素に到着したら、発動式を紐解いて幻素に働きかける。
④操作された幻素の影響がこの世界でも具現化する。すなわち魔法の発動。
私はいずれ、力、知、権力を手に入れる者なので、魔法の発動を頭の中で処理しますが、基本的には詠唱を行います。強力な魔法ほど、使用者は仮想領域に引っ張られてしまうので、それを防ぐ意味合いもありますけど。ちなみに私は確固たる己を持っているので問題ありません。
一方の神的魔法や悪霊魔法は、『感情を乗せる』んだそう。これは使い手の意見をまとめただけでまだしっかりとは証明できていません。しかし、その結果、仮想領域の変化が起きているので、何らかの形でこちらの世界から仮想領域に情報を送っているのか、それとも仮想領域に直接介入しているのか……。
感情というのは急に高まったり、落ち込んだり、意図せず湧き上がったりと、真にコントロールするのは難しいです。自然魔法は身の丈に合わない使い方をしてしまうと頭がパーになりますが、神的魔法や悪霊魔法に感情を用いているのなら、思い通りにコントロールできずに無理な魔法を使うことになり、大変なことになってしまうかもしれません。
だからこそ、ちゃんと調べたほうがいいんじゃないかと思うんですけどね。やれやれ、世の中やっぱり権力です。




