第5話 放課後地下探検
授業後、私は花壇の物置の地下通路入口前にいました。ここを調べることは、男子部への調査の近道となることでしょう。あらかじめ準備したものを背負い、さて入ろうかとなったとき、
「あれ、キーラさん何しているの?」
気配を感じたので、振り返るとそこにはシエナさんが立っていました。
「あっ……、もしかして、一人でそこ行こうとしてたの?危ないよ」
眉をひそめて、苦言を呈してきます。
「ふっ。いずれは全ての権力をこの手に宿すこの私を、さえぎる物は何もありません」
「最近それ隠さなくなってきたね」
「夕食までには戻りますので、カイネさんによろしくお願いします」
今度は入口が閉まらないようにする用途の物品に、ろうそくやロープ、マッピング用のアイテムを多数リュックサックに入れているので、バリバリ探索しちゃいますよ。もちろん時計も適宜確認し、帰ったら夕食を美味しくいただきます。
いざ行かん!
「待って」
足を踏み入れようとすると、シエナさんから呼び止められました。なんでしょうか。
「私もついて行っていいかな……?」
うーん……。正直、自分一人ならどうとでもなりますけど。
私のためらいを汲み取ったらしいシエナさんはにっこりと笑います。
「エンバートさんから色々聞いてきた話もあるんだけど、どう?」
エンバートという人はカイネさんのお兄さんでしたね。
「なるほど、行きましょう」
シエナさんはおっとりとして大人しそうな感じですが、意外としたたかなところがあることが、最近わかってきました。
今度こそ、いざ行かん!
コツコツと、私達の足音のみが通路の中に響き渡ります。一定の歩数ごとに壁にマーキングをつけていき、紙に道を記録していく作業をしていると、シエナさんが珍しそうに覗いてきました(ちなみに、彼女にはろうそくを持ってもらっています)。
「なんだか冒険者みたい」
「そうですね。この装備は冒険者ご用達のお店から購入しているので、実際に彼らもこんな感じで洞窟探索をしていると思いますよ」
この国エタナンヤルクは、砂漠だったり、豪雪地帯だったり、超田舎な山奥だったり、年がら年中雨が降り続く湿原だったりと、ありとあらゆる環境の地域が、国土のあちこちにあります。そのため、『世界のミニチュア』とも呼ばれたりすることもあるのだとか。自然豊かなのはいいのですが、豊かすぎるあまりに外敵もわんさかいるため、古くから自警団的な存在として活動している者が、他国に比べて多くいました。
さて、そんな歴史的背景の中、近代国家の成立後にそれに見合う軍が出来ます。個人的に活動する者たちをどうするかという話題が上がり、かつては『お前ら勝手なことしてんじゃねーよ』と弾圧の動きもあったそうなのですが、国民から多くの反発がありました。
そこで現在は、彼らを『冒険者』と公認し、冒険者連合がメンバーを登録・管理しています。冒険者には実力に応じて、上から第一等、第二等、第三等、第四等(上)、第四等(下)、第五等、第六等と、等級があったりするのはまたべつのお話。まとめますと、冒険者という名前がついた職業は、我が国にしか存在していません。
「キーラさんはこういうの慣れているみたいだけれど、冒険者連合に登録しているの?」
「私は基本的に王都を庭として、外での活動はあまりしていなかったことから、していません。……まあ、実のところモグリです」
あと、いかに冒険者連合が民間団体だとしても、組織の下につくのは、後に全ての権力を手に入れる女として性に合わなかったんですよね。加えて、以前、冒険者のとある人間と大喧嘩したので、そいつと同じ屋根の下にすら入りたくないのです。
「モグリって……、バレたら大変じゃない?」
「そのあたりはうまいことやれば、なんとかなります。バレる人間は大体やることが派手なんですよ」
「もう……、気を付けてね」
後方心配友人の女の子ムーブがうまいです。やること自体は否定せず、それでも心配していますアピール……。ためになりました。
「分かれ道ですね」
「エンバートさんは壁をずっと右手に歩いたって言ってたから……」
「思った通りの壁の位置に、土がついています」
前回ここに来たときに見た、壁についている土は、やはりエンバートさんの物のようでした。折り返しを含めてもまだまだ時間的な余裕があるため、探索続行です。
「カイネさんとは、小さいころからの長い付き合いなんですか?とても二人は仲がいいですよね」
「えへへ、そうかな。実はこの学園に入ってから、お友達になったの」
「あらびっくり」
「昔の私って、あ、今もまだまだなんだけど、人付き合いがあんまりうまくなくて……。入学当初は誰とも話せなかったし、領地も王都から離れてたから、一人で心細かったなぁ。でもそんな時、あの花壇で先輩と出会ったんだ」
「地下通路の噂を聞いた人ですか」
「うん。私が一年生の頃に最高学年で、卒業後はクシュタントに留学していったの。今、どうしてるんだろう……」
「かの有名な、魔法大国……。すごいですね」
空中浮遊大陸に唯一存在する国、クシュタント。世界の国と地域の中で、魔法について最先端の技術を持つ都市国家です。いつか支配したい国ナンバーワンです。
シエナさんはクスクス笑います。
「その人、ほんとにすごいのかなー?って思うくらい、ちょっと変わった人だったの。お花は水あげすぎて枯らしちゃうし、色々大雑把だし……。でも、先輩と会えたお陰で私、勇気をもらって、お友達ができるくらい、人と話せるようになったの。それがきっかけで、よくお喋りするようになったのがカイネさん」
「カイネさんがその先輩とお知り合いだった、というのは不思議な運命を感じますね」
「本当にね。カイネさんに聞けば、きっと今の先輩のことも、わかると思うんだけど……。私、自分の力で先輩を見つけたいんだ」
その心意気、よし。己の力で、欲しいものを掴み取るの嫌いじゃないですよ。私だったら近道しますけど。
「今どのあたりかな」
「私の歩数感覚と方向認知能力、及び地図作成能力が正しければ、女子部建物の端、つまり図書館の辺りです」
「そっかー、キーラさんには驚かされるなぁ」
若干乾いた笑いになったのを、私が見逃すはずがないのですが、この素晴らしく寛大な心により、許そうではありませんか。
「また分かれ道?えっと、エンバートさんが使ったのは……」
「シエナさん。ちょっと今回はこちらの道にいきます。風の流れからして、出口が近い。つまり、図書館の近くに繋がっている可能性が高いです」
「……あっ、レクラッツさんの妹さんの」
そう、私はあの妥当しなければならない女、イオリ・モノルと決闘中。片時も忘れることはありません。地下通路の調査と、今回の決闘の案件は両立すると踏んだので、わざわざ装備を整えたわけです。
行くべき道を進むと、入り口と同じようなはしごが見えました。……おや、あの場所にいたる道がもう一つあります。方角的には女子部図書館。
「さあ、シエナさん。この先は男子部。気を引き締めて行きましょう」




