第3話 発狂お姉ちゃん
勢いよく開け放たれた教室のドア。入ってきたのは後ろ髪をドリルのように巻いているクラスメートでした。
「レクラッツさんっ!?」
シエナさんが目を丸くして、彼女の名前を呼びました。
ネア・レクラッツ。この国でも有数の豪商の娘です。ホーンボーン男爵もそれなりに事業に成功していますが、彼女の父が会長を務めるレクラッツ商会は冒険者連盟とも提携して、この国のあちこちで商売をしているという、とんでもなく大きな商会です。
まさに権力。うらやましいかぎりです。
レクラッツさんはふうと溜息をつくと言います。
「最近ずっと妹のことで悩んでいたのだけれど、今朝ちょうどいいところに投書箱があったので入れてしまいましたわ」
「なんでそんなに悩んでることをひょいっと書いて入れちゃったの……?」
カイネさん、目が死んでますよ。しかし、ここでいちいち突っ込んでいては話が進みません。彼女を手で制して、レクラッツさんに話しかけます。
「それでここに来たということは、具体的なお話を聞かせてもらえるということでしょうか?」
「ええ、ワタクシより3つ下の妹のことです。あの子もこの学園に在籍しているのですが、最近どうも行動が怪しくて……」
「どんな行動をとっていたのかしら」
「ゴミを漁ってましたわ」
「なるほど。どこで?」
「男子部側の図書館です」
学園の敷地内はまず、女子部と男子部の間を塀で隔てられています。そしてそれぞれに学舎やカフェテリア、屋外運動場などが別々に存在しているのですが、図書館だけは男子部と女子部の境にあります。構造は男子部側、女子部側に1棟ずつあり、空中廊下で繋がれていて、学生の行き来はないものの、片方の棟にしかない本を借りたい場合には司書さんが持ってきてくれます。
そのため、女子学生が男子部側の図書館のゴミ箱を漁るのはほぼ不可能だと思うのですが。
この学園、秘密裏に双方の行き来している人、意外にいるんでしょうか。
「ワタクシの大事な大事な妹が、なんだか瞬きの回数や歩幅に変化がみられておかしいなとと思って後をつけてみたら……、ああ」
レクラッツさんはそこまで言うと、ふらふらと机に手をつきました。
もう、ちゃんと最後まで話してくださいな。
私は彼女の肩に手を置いて、
「それで、どうしたんですか?」
「図書館の窓から、男子部側を見ていたのですわ!!!!」
レクラッツさん、魂の叫びです。
それに対してイオリ・モノルが腕を組んで思案気に言います。
「そこからどうやってゴミ漁りとストーカーにつながるのかしら」
私は疑問に思ったことを聞きました。
「カイネさん、男子部側を見ることのできる場所があるんですか?」
「うん、図書館の窓際の一席だけね。いつも席の争奪戦になってる」
「レクラッツさん、妹さんがそこに座っていたという認識でよろしいですか?」
「よろしいですわ」
レクラッツさんは教壇のほうにつかつかと歩いて、くるっと私たちの方に向き直ると、
「あの子、男子部側を見た後、人気のない本棚の前へ向かいましたの。その本棚を押したら抜け道があって、ためらいなく進んでいっていたのでワタクシも追いかけました。抜け道の先は男子部側の図書館のゴミ捨て場でしたの。そしたら、ゴミ箱に迷わず手を入れていて……、あああああああああああああ!これは男の臭いがしますわっ!!!!!!!」
イオリ・モノルが黙って首を振っています。
レクラッツさんからこれ以上話を聞くのは難しそうですね。なんか発狂しちゃいましたし。
肝心のストーカー行為まで話が進まなかったことは少々痛手ですが、それよりも私は図書館の抜け道が気になります。思ったよりも男子部と女子部間の行き来ガバガバじゃないですか。
「とりあえず私は、図書館の抜け道が本当にあったことに驚いたよ……」
カイネさんはレクラッツさんから目を逸らしながら呟きました。ということは噂自体はあったんですね。
「まあ、大体わかったわ。じゃあ私はもう行くから。じゃあね、ホーンボーンさん」
イオリ・モノルは教室内に視線を一巡させたのち、そう言って教室を去ろうとします。
なんかむかついたので、軽く喧嘩を売っておきましょう。
「大体わかったっていう人は大体わかってないと思いますよ」
「それはあなたと私の『大体』の感覚が違うことから生まれる認識の差よ。ごめんなさいね、そのあたりがあなたと違って」
「人間1人1人違うのは当たり前じゃないですか。はー、そういうことなんで言っちゃうかなー。これだからモノルさんは」
「ああ言えばこう言う……っ!」
いやー、イオリ・モノル煽るの楽しいー!
イオリ・モノルはイライラした顔で教室を去っていきました。
「キーラさんは反射的にモノルさんに喧嘩売るのやめようね?」
「それは無理ですね」
「だよねぇ!そうでなきゃ決闘なんてしないよねぇ!」
カイネさんも、うわあああああと頭を抱えてしまいました。
一方のシエナさんは、
「……」
完全に空気と同化しています。さすがオブザーバー。
さて、私はどう動きましょうかね。




