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ティアラ

[ 現実世界 ]


レンとヒナが暮らすアパート。


ヒナはテーブルに突っ伏していた。


顔色が悪い。


その時、玄関のドアが開く。


「ただいま」


買い物袋を抱えたレンが帰ってきた。


ヒナは顔を上げる。


「あ、おかえり」


レンは荷物を置きながら近づく。


「あれ? まだ調子悪いの?」


「ううん」


ヒナは首を振った。


「もう大丈夫」


「買い物ありがとう」


レンは少し安心したように笑う。


「夕飯は僕が作るからさ」


「まだ休んでなよ」


「ありがと」


ヒナはそう答えたが、またぼんやりと椅子へ座り込んだ。


キッチンから包丁の音が聞こえる。


しばらくしてレンが口を開いた。


「あのさ」


「なに?」


「やっぱりタクミ先輩と話した方がいいんじゃないかな」


レンは振り返らない。


野菜を切りながら話していた。


ヒナは少し考える。


「どうだろう」


「今はまだ話したくないかな」


「そっか…」


レンはそれ以上何も言わなかった。



キュッ。


ヒナは壁に掛かったカレンダーへ印を付ける。


大きなバツ印。


十個目だった。


「今日で十日目か」


ため息をつく。


「いつになったら出られるのかしら」


「相変わらずだね」


ロロが呆れた顔をする。


「そろそろ諦めたら?」


「冗談じゃないわよ」


ヒナは即答した。


「こんな退屈なところに一生いるなんて嫌」


ララが笑う。


「アルスに頼んでクエストでも追加してもらえば?」


ヒナは首を横に振った。


「モンスターは嫌よ」


「なんで?」


「なんかね」


ヒナは少し考える。


「モンスターが敵って感じしないのよ」


ロロとララが顔を見合わせた。


「どっちかっていうと」


ヒナは続ける。


「同じ生き物みたいな感じ」


ララが首を傾げる。


「でもゲームやってた時は普通に倒してたでしょ?」


「それはそうだけど」


ヒナも困った顔になる。


ロロが腕を組んだ。


「それってさ」


「君もプログラムだからじゃないかな」


ヒナが眉をひそめる。


「どういうこと?」


「君もモンスターも同じような仕組みで作られてるって意味」


「あー、なるほどね」


ララが頷く。


ヒナは納得できないまま黙り込んだ。



その時だった。


「おっす、久しぶり」


聞き慣れた声がした。


ヒナが振り向く。


アルスだった。


「おっすじゃないわよ」


ヒナは立ち上がる。


「タクミには会えた?」


アルスは首を振った。


ヒナは露骨にがっかりする。


「かわりにプレゼント持ってきた」


「いらない」


即答だった。


「ゲームの中の物なんてもらっても嬉しくないわよ」


アルスは苦笑する。


「そう言うなって」


そしてロロを見る。


「僕とヒナをモモンジュの大木まで転送して」


「承知しました」


ロロのクリスタルが光る。


次の瞬間。


景色が変わった。



そこは幻想的な場所だった。


暗闇に桜吹雪のような花びらが舞っている。


そして目の前には巨大な樹木。


柔らかな光。


ヒナは思わず息を呑んだ。


「ここって……」


アルスが笑う。


「知ってるはずだよ?」


ヒナはゆっくり頷く。


「こっち」


アルスが手招きする。


二人は大木の根元へ向かった。


そこには一つの宝箱が置かれていた。


「開けてみて」


ヒナは恐る恐る蓋を開く。


中から光が溢れた。


「えっ」


ヒナは目を見開く。


そこには眩い光を放つ銀色のティアラが入っていた。


「モモンジュのティアラ!?」


アルスは得意げに笑う。


「出現率0.1パーセント」


「超レアアイテム」


ヒナはティアラを両手で持ち上げる。


そして小さく笑った。


「ゲームでこれ取るのに一か月かかったんだよね」


アルスも笑う。


ヒナはティアラを見つめる。


「実物見てみたいと思ってたんだ」


アルスはティアラを受け取った。


そして。


そっとヒナの頭へ乗せる。


ヒナは少し照れくさそうに笑った。


その表情はどこか嬉しそうだった。


しばらく穏やかな時間が流れる。


しかし。


「あ」


アルスが口を大きく開ける。


「やばい」


「仕事の時間だ」


「じゃあ!」


ヒナが顔を上げる。


「え?」


次の瞬間。


ヒュッ。


姿が消えた。


数秒の沈黙。


ヒナは周囲を見回した。


「ねぇ」


返事はない。


「ねぇ!?」


そして叫ぶ。


「これどうやって帰るのよ!」


どこからともなくロロとララの声が聞こえた。


『そこ出たところに毒の沼地あるからさ』


『死んだらお城に戻れるよー』


ヒナは固まった。


「は?」


桃色の風だけが吹いていた。



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