ネット弁慶
タクミは仕事が終わると急いで帰宅した。
靴を脱ぎ捨てるように部屋へ入り、すぐにパソコンの電源を入れる。
フロンティアクエストオンライン。
ログイン。
勇者アルス。
ゲームが始まると、アルスはすぐにマップを開いた。
ヒナたちの位置を確認する。
王妃の部屋。
「いたな」
アルスは走り出した。
◇
扉を開く。
ロロとララが一斉に頭を下げた。
「勇者アルス、お待ちしておりました」
そして。
「おかえりー」
ヒナが元気よく手を振った。
アルスはヒナを見つめる。
「……アップデートは終わったみたいだな」
「うん」
ヒナは頷いた。
アルスはヒナの全身を眺めるように見る。
「ところで」
「なに?」
「なんでバニーガールになってるんだ?」
ヒナは机を叩いた。
「こっちが聞きたいわよ!」
ロロとララが、アルスに見つからないようににやける。
◇
アルスは咳払いする。
「タクミの件だけど」
ヒナが身を乗り出した。
「会えたの!?」
「いや、まだだ」
ヒナは露骨にしょんぼりする。
アルスは少しだけ視線を逸らした。
「でも同じ会社だからな」
「そのうち会えると思う」
「ほんと?」
「たぶん」
ヒナは少しだけ安心したようだった。
アルスはソファへ腰掛ける。
「ところで」
「なに?」
「タクミのこと教えてくれないか」
ロロとララを見る。
「二人とも外へ」
二人は頭を下げてそろそろと部屋を出ていった。
扉が閉まる。
アルスは改めてヒナを見る。
「タクミとはどうやって知り合ったんだ?」
ヒナは少し考えた。
そして懐かしそうに笑う。
「このゲーム」
「私、フロンティアクエストが大好きだったの」
アルスは頷く。
「近所でイベントやるって聞いてね」
「友達と一緒に行ったの」
ヒナは少し笑った。
「そしたら開発スタッフの中に1人だけ若い人がいたのよ」
「それがタクミ?」
「そう」
ヒナは頷く。
「私とそんなに年変わらないのに、リーダーやってて」
「すごいなって思った」
アルスは黙って聞いている。
「それで友達がさ」
「レアアイテムもらえるかもって話しかけたの」
「もらえなかったけどね」
ヒナはクスクス笑った。
アルスも思わず苦笑する。
「そこから仲良くなったのか」
「うん」
「二人ともゲーム好きだったから」
ヒナは楽しそうだった。
その表情を見ながらアルスは考える。
記憶に矛盾はない。
本当にヒナと話しているみたいだった。
◇
「他には?」
アルスが真顔で尋ねる。
「他?」
「タクミの好きなところ」
ヒナは少し照れた。
「うーん」
「忙しい人なんだけどね」
「ちゃんと私のこと気にかけてくれるの」
アルスは黙って聞いている。
「誕生日もクリスマスも絶対忘れないし」
「毎回びっくりするようなプレゼントくれるし」
「優しいし」
「頼りになるし」
アルスの口元が緩む。
「へぇ」
「なかなかいい男なんだな」
ヒナは眉をひそめる。
「てか、さっきから何にやけてるのよ」
「いや別に」
それでもアルスはにやけるのを止められない。
「それに」
ヒナはアルスを指差した。
「タクミとあんたじゃ比べ物にならないんだからね」
「はぁ!?」
アルスが立ち上がる。
ヒナも負けじと立ち上がる。
「ゲームばっかりしてないで働きなさいよ!」
「ぐっ」
「早く行って!」
「タクミ連れてきて!」
「どうせゲームの中でしか偉そうにできないくせに!」
「このネット弁慶!」
アルスは後退る。
そして。
ヒュッ。
その場から消えた。
◇
現実世界。
タクミはヘッドセットを外した。
しばらく無言だった。
そして小さく呟く。
「……悪口まで本人そっくりだな」




