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ネット弁慶

タクミは仕事が終わると急いで帰宅した。


靴を脱ぎ捨てるように部屋へ入り、すぐにパソコンの電源を入れる。


フロンティアクエストオンライン。


ログイン。


勇者アルス。


ゲームが始まると、アルスはすぐにマップを開いた。


ヒナたちの位置を確認する。


王妃の部屋。


「いたな」


アルスは走り出した。



扉を開く。


ロロとララが一斉に頭を下げた。


「勇者アルス、お待ちしておりました」


そして。


「おかえりー」


ヒナが元気よく手を振った。


アルスはヒナを見つめる。


「……アップデートは終わったみたいだな」


「うん」


ヒナは頷いた。


アルスはヒナの全身を眺めるように見る。


「ところで」


「なに?」


「なんでバニーガールになってるんだ?」


ヒナは机を叩いた。


「こっちが聞きたいわよ!」


ロロとララが、アルスに見つからないようににやける。



アルスは咳払いする。


「タクミの件だけど」


ヒナが身を乗り出した。


「会えたの!?」


「いや、まだだ」


ヒナは露骨にしょんぼりする。


アルスは少しだけ視線を逸らした。


「でも同じ会社だからな」


「そのうち会えると思う」


「ほんと?」


「たぶん」


ヒナは少しだけ安心したようだった。


アルスはソファへ腰掛ける。


「ところで」


「なに?」


「タクミのこと教えてくれないか」


ロロとララを見る。


「二人とも外へ」


二人は頭を下げてそろそろと部屋を出ていった。


扉が閉まる。


アルスは改めてヒナを見る。


「タクミとはどうやって知り合ったんだ?」


ヒナは少し考えた。


そして懐かしそうに笑う。


「このゲーム」


「私、フロンティアクエストが大好きだったの」


アルスは頷く。


「近所でイベントやるって聞いてね」


「友達と一緒に行ったの」


ヒナは少し笑った。


「そしたら開発スタッフの中に1人だけ若い人がいたのよ」


「それがタクミ?」


「そう」


ヒナは頷く。


「私とそんなに年変わらないのに、リーダーやってて」


「すごいなって思った」


アルスは黙って聞いている。


「それで友達がさ」


「レアアイテムもらえるかもって話しかけたの」


「もらえなかったけどね」


ヒナはクスクス笑った。


アルスも思わず苦笑する。


「そこから仲良くなったのか」


「うん」


「二人ともゲーム好きだったから」


ヒナは楽しそうだった。


その表情を見ながらアルスは考える。


記憶に矛盾はない。


本当にヒナと話しているみたいだった。



「他には?」


アルスが真顔で尋ねる。


「他?」


「タクミの好きなところ」


ヒナは少し照れた。


「うーん」


「忙しい人なんだけどね」


「ちゃんと私のこと気にかけてくれるの」


アルスは黙って聞いている。


「誕生日もクリスマスも絶対忘れないし」


「毎回びっくりするようなプレゼントくれるし」


「優しいし」


「頼りになるし」


アルスの口元が緩む。


「へぇ」


「なかなかいい男なんだな」


ヒナは眉をひそめる。


「てか、さっきから何にやけてるのよ」


「いや別に」


それでもアルスはにやけるのを止められない。


「それに」


ヒナはアルスを指差した。


「タクミとあんたじゃ比べ物にならないんだからね」


「はぁ!?」


アルスが立ち上がる。


ヒナも負けじと立ち上がる。


「ゲームばっかりしてないで働きなさいよ!」


「ぐっ」


「早く行って!」


「タクミ連れてきて!」


「どうせゲームの中でしか偉そうにできないくせに!」


「このネット弁慶!」


アルスは後退る。


そして。


ヒュッ。


その場から消えた。



現実世界。


タクミはヘッドセットを外した。


しばらく無言だった。


そして小さく呟く。


「……悪口まで本人そっくりだな」


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