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怪物

翌日。


食堂の扉が開いた。


赤いマントを翻したアルスが入ってくる。


ロロとララは立ち上がり身なりを整える。


「勇者アルス様、お待ちしておりました」


二人とも急に堅苦しい。


ヒナは呆れた顔で見ていた。


なにも出てこないビンを口元へ運び、酒を飲むふりをする。


アルスは苦笑した。


「どう? 少しはこの世界に慣れた?」


「慣れるわけないじゃない」


ヒナは即答する。


「早く外の世界に出すように運営に言ってよ」


「まぁまぁ」


アルスは椅子へ腰掛けた。


「ゲームだと思えばいいじゃないか」


「思えないわよ」


ヒナは机を叩く。


「食べ物だって全部プラスチックみたいだし」


「ゲームだもの」


「それが嫌なの!」


アルスは肩をすくめた。


そして不敵に笑う。


「じゃあ面白いものを見せてあげるよ」



「ロロ、街の外へ転送してくれ」


「承知しました」


ロロの胸元のクリスタルが光る。


次の瞬間。


四人の景色が変わった。


城壁の外。


草原が広がっている。


「えっ!?」


ヒナは驚いて辺りを見回した。


アルスが遠くを指差す。


「あれ」


ヒナも視線を向ける。


そこには巨大な一つ目の怪物がいた。


身長は六メートル近い。


巨大な棍棒を持っている。


「ひっ……」


ヒナが思わずアルスの後ろへ隠れる。


アルスは剣を抜いた。


「サイクロプスだ」


そして笑う。


「今から倒す」


「え?」


「ロロ、ララ」


アルスは振り返る。


「手出しするなよ」


「了解しました」


アルスは一人で走り出した。


サイクロプスが棍棒を振り回す。


だがアルスは軽々と避けた。


そして。


光の剣が走る。


雷のような轟音。


サイクロプスの身体が大きく揺れた。


ドォン。


巨体が倒れる。


アルスはその上へ飛び乗った。


「ねぇ!」


アルスは満面の笑みでポーズを決める。


「俺すごくない?」


ヒナは引いた顔で見上げる。


「ねぇ、そこからどうする気?」


「どうするって?」


アルスは首を傾げる。


「とどめを刺すんだよ」


「かわいそう…」


アルスは固まった。


「は?」


「もう動いてないじゃない」


ヒナはサイクロプスを見る。


「やめてあげてよ」


「なに言ってるんだ? ただのゲームのモンスターだよ?」


「それでもかわいそうよ」


アルスは困った顔になる。


ロロとララが横から口を挟んだ。


「サイクロプスが動かないのは」


「ターン制だから待機してるだけです」


アルスはため息をついた。


「せっかく君のために用意したのに」


「私のため?」


アルスはサイクロプスから飛び降りた。


「僕が作ったんだよ」


「作った?」


「そこに出るようプログラムした」


ヒナは目を丸くした。


「あなた、このゲームの開発者なの?」


「そうだよ」


ヒナは身を乗り出した。


「ねぇ」


「なに?」


「タクミって知ってる?」


アルスが固まった。


ヒナは気付かない。


「お願い」


「彼と話したいの」


アルスは黙ったまま聞いている。


「タクミもこのゲームの開発者なの」


「だから何か知ってるかもしれない」


ヒナは少しだけ照れたように笑った。


「それに」


「私の恋人だし」


数秒後。


「そのタクミって」


アルスがようやく口を開く。


「君は好きなのかい?」


ヒナは不思議そうな顔をした。


「当たり前じゃない」


即答だった。


「恋人って言ったでしょ」


アルスの表情が止まる。


ヒナは首を傾げた。


「どうしたの?」


アルスは答えない。


ただ少しだけ目を伏せる。


そして。


ヒュッ。


その場から姿を消した。


「え?」


ヒナは呆然と立ち尽くした。



現実世界。


タクミはヘッドセットを外したまま固まっていた。


モニターにはログアウト画面が映っている。


「どういうことだ……」


誰もいない部屋で呟く。


「ゲームの中のヒナは……」


タクミは拳を握った。


「まだ僕を好きでいるのか……」



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