怪物
翌日。
食堂の扉が開いた。
赤いマントを翻したアルスが入ってくる。
ロロとララは立ち上がり身なりを整える。
「勇者アルス様、お待ちしておりました」
二人とも急に堅苦しい。
ヒナは呆れた顔で見ていた。
なにも出てこないビンを口元へ運び、酒を飲むふりをする。
アルスは苦笑した。
「どう? 少しはこの世界に慣れた?」
「慣れるわけないじゃない」
ヒナは即答する。
「早く外の世界に出すように運営に言ってよ」
「まぁまぁ」
アルスは椅子へ腰掛けた。
「ゲームだと思えばいいじゃないか」
「思えないわよ」
ヒナは机を叩く。
「食べ物だって全部プラスチックみたいだし」
「ゲームだもの」
「それが嫌なの!」
アルスは肩をすくめた。
そして不敵に笑う。
「じゃあ面白いものを見せてあげるよ」
◇
「ロロ、街の外へ転送してくれ」
「承知しました」
ロロの胸元のクリスタルが光る。
次の瞬間。
四人の景色が変わった。
城壁の外。
草原が広がっている。
「えっ!?」
ヒナは驚いて辺りを見回した。
アルスが遠くを指差す。
「あれ」
ヒナも視線を向ける。
そこには巨大な一つ目の怪物がいた。
身長は六メートル近い。
巨大な棍棒を持っている。
「ひっ……」
ヒナが思わずアルスの後ろへ隠れる。
アルスは剣を抜いた。
「サイクロプスだ」
そして笑う。
「今から倒す」
「え?」
「ロロ、ララ」
アルスは振り返る。
「手出しするなよ」
「了解しました」
アルスは一人で走り出した。
サイクロプスが棍棒を振り回す。
だがアルスは軽々と避けた。
そして。
光の剣が走る。
雷のような轟音。
サイクロプスの身体が大きく揺れた。
ドォン。
巨体が倒れる。
アルスはその上へ飛び乗った。
「ねぇ!」
アルスは満面の笑みでポーズを決める。
「俺すごくない?」
ヒナは引いた顔で見上げる。
「ねぇ、そこからどうする気?」
「どうするって?」
アルスは首を傾げる。
「とどめを刺すんだよ」
「かわいそう…」
アルスは固まった。
「は?」
「もう動いてないじゃない」
ヒナはサイクロプスを見る。
「やめてあげてよ」
「なに言ってるんだ? ただのゲームのモンスターだよ?」
「それでもかわいそうよ」
アルスは困った顔になる。
ロロとララが横から口を挟んだ。
「サイクロプスが動かないのは」
「ターン制だから待機してるだけです」
アルスはため息をついた。
「せっかく君のために用意したのに」
「私のため?」
アルスはサイクロプスから飛び降りた。
「僕が作ったんだよ」
「作った?」
「そこに出るようプログラムした」
ヒナは目を丸くした。
「あなた、このゲームの開発者なの?」
「そうだよ」
ヒナは身を乗り出した。
「ねぇ」
「なに?」
「タクミって知ってる?」
アルスが固まった。
ヒナは気付かない。
「お願い」
「彼と話したいの」
アルスは黙ったまま聞いている。
「タクミもこのゲームの開発者なの」
「だから何か知ってるかもしれない」
ヒナは少しだけ照れたように笑った。
「それに」
「私の恋人だし」
数秒後。
「そのタクミって」
アルスがようやく口を開く。
「君は好きなのかい?」
ヒナは不思議そうな顔をした。
「当たり前じゃない」
即答だった。
「恋人って言ったでしょ」
アルスの表情が止まる。
ヒナは首を傾げた。
「どうしたの?」
アルスは答えない。
ただ少しだけ目を伏せる。
そして。
ヒュッ。
その場から姿を消した。
「え?」
ヒナは呆然と立ち尽くした。
◇
現実世界。
タクミはヘッドセットを外したまま固まっていた。
モニターにはログアウト画面が映っている。
「どういうことだ……」
誰もいない部屋で呟く。
「ゲームの中のヒナは……」
タクミは拳を握った。
「まだ僕を好きでいるのか……」




