AIのヒナ
周囲の人々は勇者が通るたびに拍手喝采だった。
「勇者様だ!」
「勇者アルス様!」
アルスらはそれらを無視して城の奥へ進んでいく。
途中で大臣や騎士が声を掛けてくるが、一切相手にしない。
王様の横すら素通りした。
「ちょ、ちょっと!」
「説明はあと」
アルスは笑った。
やがて豪華な部屋へ入る。
アルスはヒナをソファへそっと降ろした。
「ここはどこですか?」
ヒナが尋ねる。
アルスはあっさり答えた。
「フロンティアクエストのゲームの中だよ」
ヒナは固まった。
「……ゲームの中?」
「そう」
「何を訳のわからないこと言ってるのよ」
アルスは肩をすくめる。
「じゃあ逆に聞くけど、君は自分を何者だと思ってる?」
「私は普通の日本人よ!」
ヒナは立ち上がった。
「東京のアパートに住んでるし、仕事もしてる!」
「じゃあ、なんでここにいるの?」
「それが分からないから困ってるんじゃない!」
ヒナは頭を抱えた。
従者の少年ロロが口を開く。
「少し、落ち着いてください」
「落ち着けるわけないでしょ!」
「街の人も変だし!何を聞いても同じことしか言わないのよ」
「それは当然よ」
今度は少女ララが口を開く。
「街の人は、私達みたいにAIが搭載されてないの」
「は?」
ヒナは目をぱちくりさせる。
「さっきからみんな何を言ってるの?」
アルスが苦笑した。
「よし、じゃあ説明してあげる」
アルスは続ける。
「フロンティアクエストは知ってるよね?」
「知ってるわよ。発売日から何年もやっているゲームだもの」
アルスは大げさに両手を広げた。
「このゲームに新しい機能が追加されたんだ」
「新しい機能?」
「ゲーム内の住人。NPCが自分で考えて行動できる機能さ」
ヒナは首を傾げる。
「それで?」
「NPCを作る時に、本物の人間のデータを使うとどうなると思う?」
アルスは指を折りながら数えた。
「写真」
「SNS」
「メッセージ履歴」
「そういう個人情報を学習させるんだ」
ヒナは黙って聞いている。
「そしてAIをもつNPCにこう命令する」
「君は、本物の人間だと思って行動しなさいってね」
アルスは笑った。
ヒナは下を向いて数秒考えた。
「だから?」
アルスは頭をかいた。
「鈍いな。本人そっくりだ」
その瞬間。
ロロとララが同時に言った。
「ヒナ」
「あなたは私たちと同じAIを持ったNPCです」
部屋が静まり返った。
ヒナは立ち上がる。
そしてアルスの鎧を掴んだ。
「ふざけないで!」
声が震えていた。
「私がAIなわけないでしょ!」
「お願い」
「元の世界に返して」
アルスは困ったようにヒナを見る。
「やっぱ、言葉だけじゃ分からないか」
次の瞬間だった。
アルスはロロの襟元を掴んだ。
「じゃあ証明しようか」
「え?」
ヒナが声を上げる。
そのままロロを壁へおもいっきり叩きつけた。
鈍い音が響く。
ロロは崩れ落ちた。
「なっ!?」
ヒナは声にならない悲鳴を上げる。
恐怖のあまり立ち尽くす。
動かなくなったロロへララが近づく。
杖を掲げる。
するとロロの身体が光に包まれた。
ふわりと宙へ浮く。
数秒後。
ロロは何事もなかったように立ち上がった。
ヒナは言葉を失う。
アルスはヒナの肩へ軽く手を置いた。
「少しは信じてもらえたかな?」
ヒナは答えられなかった。
アルスはひょいっとテーブルに腰を下ろした。
「僕は一旦いなくなるから、ここの生活に慣れておくといい。」
ロロとララを見る。
「ヒナのおもりを頼むよ」
「承知しました。勇者アルス」
二人は声を合わせて言った。
「じゃあまた後で」
次の瞬間。
アルスの姿は光となって消えた。
◇
タクミはゲームをログアウトした。
コントローラーを机に置き、ヘッドセットを外す。
そして大きく息を吐く。
「それにしても、よくできてるな……」
本当にヒナと話しているみたいだった。
タクミはスマホを取り出す。
画面には笑顔のヒナ。
そして皮肉っぽく笑った。
「なかなか調教しがいがありそうだ」
そう呟きながら、ヒナの写真を指でつついた。




