おかえり
翌週。
予告通りレンは会社を辞めていった。
送別会もない。
花束もない。
最後までレンらしい、あっさりした終わり方だった。
レンは帰る前にタクミを見る。
お互い軽く会釈する。
それだけだった。
ヒナをよろしく頼みます!。
任せてください!。
そんなドラマみたいな会話はない。
ただ、それだけで十分だった。
「でも、これでもうヒナとレンに会うこともないんだろうな」
タクミは窓の外を見る。
不思議なことに、そこまで寂しくはなかった。
◇
家へ帰る。
タクミはパソコンの電源を入れた。
ヘッドセットを付ける。
コントローラーを握る。
そしてフロンティアクエストにログインする。
ゲームが始まる。
城の中を歩く。
食堂の前まで来る。
そして扉を開いた。
誰もいない。
がらんとした食堂だった。
テーブルの椅子に腰かける。
タクミは深いため息をつく。
「もういいから出てこいよ」
沈黙。
すると。
鎧の陰からロロとララが現れた。
「ばれたか」
「つまんないの」
二人はクスクス笑う。
「あれ?」
「もう一人は?」
その瞬間だった。
テーブルの下からヒナが飛び出す。
「わっ!」
そのままタクミへ体当たりした。
二人まとめて床へ転がる。
「いてて……」
タクミが顔を上げる。
目の前でヒナが満面の笑みを浮かべていた。
「びっくりした?」
「びっくりしたよ」
ヒナは声を上げて笑った。
ララが首を傾げる。
「あれ?」
「アルスの名前が変わってるよ」
タクミが立ち上がる。
「ああ」
「ヒナに合わせたんだ」
ロロが呆れた顔をする。
「本名でやるとか小学生かよ」
「うるせーな!」
ヒナも笑う。
タクミも笑った。
誰もいなくなったと思っていた世界は。
ちゃんとそこに残っていた。




