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19/21

本物の彼女

翌日。


休日だったタクミは昼近くまで寝ていた。


目を開けると枕元にUSBメモリがある。


中身を確認したい。


だが新エンジンがなければ見ることはできない。


「あとは神頼みか」


そう呟いて洗面所へ向かう。


歯を磨いているとインターフォンが鳴った。


口をゆすぎ玄関へ向かう。


「はーい」


ドアを開ける。


そこにはヒナが立っていた。


「ヒナ……?」


タクミは固まった。



タクミは何も言わずヒナを部屋へ入れた。


ヒナも何も言わない。


ただ部屋を見回し、少しだけ笑った。


「ひどい部屋」


コンビニ弁当の容器。


空き缶。


洗濯物。


タクミは頭をかく。


「だって、いなくなっちゃったんだもん」


ヒナがくすっと笑った。


テーブルを挟んで向かい合う。


沈黙。


先に口を開いたのはヒナだった。


「手紙読んだよ」


タクミは静かに頷く。


「ごめんな」


「何も分かってなくて」


ヒナは首を振った。


そして涙を流す。


「私こそごめんなさい」


「黙って出て行っちゃって」


タクミは少し笑った。


「もしあの時話しててもさ」


「俺、きっと怒鳴ってただけだと思う」


ヒナは黙って聞いている。


「だから、これで良かったんだよ」


ヒナは涙を拭いた。


「手紙に書いてくれたよね」


「私がいたから頑張れたって」


タクミは頷く。


「うん」


「だからもう自分を責めないで欲しいって」


「うん」


「私の気持ち、ちゃんと分かってくれてたんだね」


ヒナは立ち上がった。


そしてタクミの肩へ額を押し付ける。


タクミは少し驚いたが、そっと抱きしめた。


ヒナの肩が震えている。


「戻ってきちゃ……ダメかな……」


タクミは目を閉じた。


ゆっくりヒナを離す。


数秒の沈黙。


「ダメだよ」


ヒナが顔を上げる。


「君はレンのところへ行け」


涙が零れる。


「もう…私のこと好きじゃないの?」


タクミは首を振った。


「大好きだよ」


「じゃあ…」


「でも」


タクミは笑った。


少し寂しそうに。


「人を二回も裏切っちゃダメだよ…」


ヒナは唇を噛む。


そして黙って頷いた。



月曜日。


タクミは会社へ向かった。


不思議なくらい気分は軽かった。


レンと目を合わせる気にはなれなかったが。


午後になる。


メンテナンスを終えた新エンジンが戻ってきた。


タクミは会議室で急いでセッティングを始める。


その時。


ドアが開いた。


レンだった。


何かを言おうとするレンを見て、タクミは先に口を開く。


「手紙渡してくれてありがとな」


レンは固まった。


次の瞬間。


タクミの胸ぐらを強く掴む。


「どうしてですか!」


会議室に声が響く。


「どうして先輩は普通でいられるんですか!」


タクミは黙っていた。


レンの目は赤い。


「俺は殴られる覚悟もしてました」


「怒鳴られる覚悟もしてました」


「なのにどうして何もしないんですか!」


タクミは小さく息を吐く。


「最初はそのつもりだったよ」


レンが顔を上げる。


「でも」


「ヒナが出て行ったのは、自分のせいだって分かったから」


レンは言葉を失う。


「でも……」


「勘違いするなよ」


タクミは真っ直ぐレンを見る。


「今でもヒナが好きだ」


「じゃあ何で!」


レンが叫ぶ。


タクミは少し考えた。


そして笑った。


「いろいろ考えたんだけどさ」


「好きだから」


「幸せになってほしい」


「結局それだけだった」


レンは俯く。


肩が震えている。


「僕は……」


「僕はそこまで大人になれません」


レンは続ける。


「さっき部長に辞表を出しました」


「今週で会社を辞めます」


「えっ?」


「この一か月ずっと考えてました」


「俺なりの先輩へのケジメなんです」


「すみません」


長い沈黙。


やがてタクミは頷いた。


「わかった」


レンが顔を上げる。


「今までありがとう」


レンは会議室を出る。


そして深々と頭を下げた。


その時だった。


タクミのパソコンから小さな起動音が鳴った。


戻ってきた新エンジンが、静かに立ち上がっていた。



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