脱出
「どうする!?」
タクミは拳を額に当てた。
考えろ。考えろ。考えろ。
焦りで頭が真っ白になる。そのときだった。
「あっ……!」
タクミは急いでシステム構成図を開く。モニターに大量の図面が表示される。
「セーブ機能とここと……ここを繋げれば……」
タクミは新エンジンにパソコンを接続し、そのままゲームを起動した。
◇
食堂ではヒナたちがいつものように過ごしていた。
ヒナは紅茶を飲むふりをし、ロロは本を読み、ララは椅子に寝転がっている。
そのとき勢いよく扉が開いた。
「アルス?」
ヒナが驚いて立ち上がる。
アルスは息を切らしていた。
「いいか、よく聞け。あと一時間もしないうちに、この世界は消える」
三人の表情が固まる。
ロロが真っ先に聞いた。
「僕らのバックアップは?」
「無理だった。このままだとお前たちは全員初期状態に戻る」
「えっ!?」
ヒナが声を上げる。
「どういうこと?」
「全て忘れてしまうってことだ!」
「これ以上、説明してる時間がない!」
アルスは三人を指差した。
「今すぐ滝の洞窟へ向かえ。炎の大木の前にある落とし穴だ。そこに三十分以内に飛び込むんだ!」
ララが青ざめる。
「うそ……」
「俺がゲームの外から落とし穴一帯のデータをUSBメモリへコピーする。成功すれば全員助かる」
誰も冗談だとは思わなかった。
アルスは三人を見回す。
「頼んだぞ」
そう言い残し、ヒュッと消える。
残された三人は顔を見合わせた。
ロロがクリスタルを持って立ち上がる。
「行こう!」
ララも頷く。
「消えるのはごめんだしね」
ヒナは小さく拳を握った。
「うん」
次の瞬間、三人は光に包まれ滝の洞窟へ転送された。
◇
現実世界。
タクミはキーボードを叩き続けていた。
「あの大木の前の落とし穴……」
ユーザから苦情が殺到して、後から無理やりセーブポイントを追加した場所だ。
今でもはっきりと覚えている。
タクミはそのセーブポイントを利用しようとしていた。
「セーブ先を書き換える……」
あそこならオンライン中でもセーブデータの保存先をUSBメモリへ強制的に移せる。
そして、キャッシュに残るAI学習データも一緒にコピーできるはずだ。
最後のコマンドを入力する。
「よし……」
画面にUSBメモリへの転送準備完了の文字が表示された。
あとはヒナたちが間に合うかどうか。
それだけだった。
タクミは時計を見る。
残り18分。
もし失敗すれば。
ヒナはもう二度と今のヒナではなくなる。
「頼む……間に合ってくれ!」




