ミスターアーチェル
アルスはヒナへ全てを話した。
新シミュレータのこと。AIヒナを作ったこと。
そして、そのヒナから別れた理由を探っていたこと。
ロロが腕を組む。
「この世界のヒナは少し情報が古いのかもね」
ララも頷いた。
「そのレンって男に一目惚れした可能性は?」
アルスは首を振る。
「それはない。俺はレンを半年前にヒナ紹介してる」
三人がアルスを見る。
「もちろん後輩としてだけど」
ヒナは少し考えた。
「レンのことは覚えてる。でも恋愛感情なんて無かったよ」
「それから一度も会った覚えがない」
ロロとララは顔を見合わせる。
「変だな」
「変ね」
アルスはさらに尋ねた。
「誰かに恋愛相談とかしてなかったか? 友達とか」
ヒナは記憶を探るように黙り込む。
「女友達などの記憶も探る」
しかし何も思い当たる節はない。
そして突然顔を上げた。
「あっ」
「どうした?」
「私、このゲームのフレンドに相談してる」
「フロンティアクエストの?」
ララが尋ねる。
ヒナは頷いた。
「うん。ゲーム始めた頃からの友達」
アルスが身を乗り出す。
「男か?」
「うん、私と同じ年齢」
「実際に会ったことは?」
「ない」
アルスの表情が変わる。
「そいつ名前は?」
ヒナは少し考えて答えた。
「ミスターアーチェル」
◇
翌日。
タクミは会議室に籠り、オンラインサーバーへ接続した。
検索欄へ『ミスターアーチェル』と入力する。
検索。
一件ヒット。
「いた」
タクミはすぐにチャット履歴をコピーした。
そして隠すようにヒナのキャラクター『アリス』との
会話履歴をチェックしていく。
「多すぎるな……」
それでも読み始める。
最初は装備やイベント、レベル上げの話ばかりだった。
だが年月が経つにつれ、現実の話が増えていく。
仕事の愚痴。
失敗談。
不安。
悩み。
そして恋人の話。
タクミの手が止まった。
アリス
『あのね、報告があります』
ミスターアーチェル
『どしたの?』
アリス
『実は彼氏と同棲することになりました!』
ミスターアーチェル
『おお!おめでとう! ゲーム開発の人?』
アリス
『うんうん』
タクミは画面を見つめた。
「俺のことか」
さらに読み進める。
そこにはタクミの知らないヒナがいた。
ミスターアーチェルは、いつも真剣に話を聞いていた。
否定せず、馬鹿にせず、一緒になって悩んであげていた。
やがて最後のログへ辿り着く。
アリス
『まだ彼には言ってないんだけど』
『実は、実家に帰るか迷ってるの』
ミスターアーチェル
『えっ、そうなの』
『彼氏とちゃんと話したら?かわいそうだよ』
アリス
『ううん』
『何て言えばいいか分からない』
ミスターアーチェル
『そっか』
そして。
アリス
『ねぇ』
『もしよかったらリアルで会ってみない?』
ミスターアーチェル
『えっ』
『オフ会ってこと?』
アリス
『うん』
『会って顔をみて話してみたいの』
ミスターアーチェル
『わかった』
そこでログは終わっていた。
タクミはゆっくり立ち上がり、廊下のの窓から開発室を見下ろした。
そこにはレンがいる。
何も知らない顔で仕事をしている。
ミスターアーチェル
ヒナが出て行く2週間前に会った男。
タクミは目を閉じる。
二人はオフ会で初めて顔を合わせるはずだった。
しかし、そこで気付いた。
ミスターアーチェルの正体は、タクミの後輩レン。
アリスの正体は、タクミの恋人ヒナ。
十年来のゲーム仲間は、最初からすぐ近くにいたのだ。
タクミは小さく呟く。
「そうか……」
「ミスターアーチェルはお前だったのか」




