表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

驕り

現実世界。


レンとヒナのアパート。


「おまたせ」


ヒナがテーブルへカレーを置く。レンは笑顔でスプーンを手に取った。


「ありがとう。美味しそう」


そして一口食べる。


数秒後。


レンの動きが止まった。


「あれ?」


ヒナが首を傾げる。


「どうしたの?」


「カレーってこんな味だっけ?」


ヒナも一口食べる。そして固まった。


「なんか違うかも」


「何入れたの?」


「砂糖」


「なんで?」


「隠し味のつもり」


レンは吹き出し、ヒナもつられて笑う。二人の笑い声が部屋に響いた。


しばらくしてレンが口を開く。


「あのさ…」


「うん?」


少しの沈黙


「タクミ先輩って、こんな時どうしてたの?」


ヒナが顔を上げる。


「怒ったりとかするの?」


ヒナは少し考え、それから首を振った。


「ううん。何も言わなかった」


「美味しいって食べてたよ」


その顔はどこか寂しそうだった。


「そっか…」



ゲーム世界。


城の食堂の扉が開く。


アルスだった。


「よう」


ロロとララが立ち上がる。


「勇者アルス、お待ちしておりました」


ヒナは部屋の隅で腕を組んでいた。


完全に無視である。


アルスはため息をついた。


「ロロ、ララ」


「ちょっと席外してくれ」


二人が歩き出した瞬間。


「待って」


ヒナが止めた。


アルスが振り向く。


「どうした?」


ヒナは真っ直ぐアルスを見る。


「二人を戻して」


「は?」


「それと謝って」


アルスの眉が動く。


「俺が謝る?」


「NPCなんかに?」


ヒナは睨み返した。


「あんたのやったことは最低よ!」


「ゲームの中だからって偉そうにして」


「馬鹿みたいだと思わないの?」


アルスは言葉に詰まった。


「謝らないなら」


ヒナは腕を組む。


「一生口きかないから!」


アルスは頭を抱えた。


数秒悩む。


そして諦めた。


「わかったよ」



数分後。


ロロとララの前でアルスが頭を下げていた。


「ごめん」


ロロとララはそれを黙って見ている。


ヒナは満足そうだった。


「それと」


まだ終わらない。


「ロロとララがユーザの前で無口になる設定を解除して」


「はぁ?」


「なんで、そんなこと」


「じゃあ話さない」


アルスは天を仰ぐ。


そして負けた。


「ロロ」


「ララ」


「AIの会話設定をフリーにしろ」


「今後は、思ったこと好きに話していい」


二人の目が一瞬白く光る。


そして。


ロロとララが真顔で言った。


「勇者アルス…」


「そこに土下座しろ」


ヒナは大爆笑だった。



夜。


アルスとヒナは城のバルコニーにいた。


遠くの街が見える。


「どうだ?」


アルスが尋ねる。


「まだ人間だと思ってる?」


ヒナは少し考えた。


そして首を振る。


「わからない」


「最近ね」


「現実の方が大事じゃなくなってる気がするの」


アルスは黙る。


学習機能の影響かもしれない。


そう考えた。


その時。


夜空に花火が上がった。


ヒナが指を差す。


「あれ見て」


アルスも空を見る。


「今日はゲームの十周年記念だからな」


二人は並んで花火を見つめた。


しばらくしてアルスが口を開く。


「この前の話なんだけど」


「うん」


「どうしてタクミと続かないと思ったんだ?」


ヒナは少しだけ目を伏せた。


「あのね」


そして静かに話し始める。


「私」


「何やってもダメなの」


アルスは黙って聞く。


「仕事もダメ」


「家事もダメ」


「失敗ばっかり」


花火の音だけが響く。


「でもタクミは何も言わないの」


「いつも大丈夫だよって」


アルスは小さく呟く。


「それじゃ駄目なのか?」


ヒナは苦笑した。


「最初は嬉しかったよ」


「こんなに優しい人いるんだって」


そして空を見る。


「でもね」


「私」


「何も返せてないなって思ったの」


アルスは言葉を失う。


「もしタクミに捨てられたら」


「私には何も残らないって」


ヒナは小さく笑った。


アルスの胸が痛んだ。


「その話を」


「なぜ、タクミにしないのか?」


ヒナは頷く。


「何回か話したよ」


「でも私うまく説明できなくて」


「いつも言いくるめられちゃった」


アルスは固まる。


思い出した。


全部自分がやるから。


大丈夫だから。


心配するな。


そう言った記憶がある。


それが逆にヒナを傷つけていたなんて。


「話してくれてありがとう」


アルスが言う。


ヒナは少し笑った。


「ねぇ」


「なんだ?」


「アルスは現実では、恋人いないの?」


アルスも笑う。


「いたよ」


「でも捨てられたみたいだ」


ヒナは少し驚いた顔をした。


「そうなんだ」


「…」


「じゃあ、そろそろ落ちるね」


アルスは立ち上がる。


そして消えた。



現実世界。


タクミはスマホの画面を見つめていた。


笑顔のヒナ。


「なんで気付いてやれなかったんだ」


声が震える。


全部良かれと思っていた。


ヒナが好きだった。


だから自分が頑張ればいいと思っていた。


それが。


「俺の驕りだったのか」


涙がスマホの画面へ落ちる。


だが。


タクミはふと顔を上げた。


「待てよ」


レンの名前は出てこなかった。


それなのに。


「じゃあなんでレンと付き合ったんだ?」


タクミは拳を握る。


「たった二週間でヒナの気持ちが移るとは思えない」


また謎が増えた。


だが。


いつしかヒナを責める気持ちが消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ