コウカイノハナ
ヴェルクとピースの奮闘により、チキの脅威が弱まっていく。
そんな最中、璃人は謎の存在に導かれ、現在認識している世界が偽りだと知る。
偽りの世界を抜け出す方法は、ここが夢だと強く認識する事。
果たして璃人はこの偽りの夢から抜け出す事が出来るのか?
エクスレイド探査隊を襲うモンスターの正体、それは異様な成長を遂げた幻覚植物チキだった。
夢を見続け、今にも取り込まれんとしている仲間達を救うべく、眠りの帳から抜け出して立ち上がったヴェルクとピースに、チキの魔の手が迫る!
前代未聞の危機を迎えたベースアヴァロン、果たしてヴェルクは状況を脱することが出来るのか、そして夢の檻に囚われた五人のエクスレイド探査隊の運命は?
「うおおおおおおおおおおっ‼」
チキのツタがヴェルクに迫ったその時、どこかから金色の光線が放たれてツタを吹き飛ばしてしまった。
「え? は?」
ヴェルクが振り返ると、なんとピースが目から光線を放ってツタを吹き飛ばしているではないか。
「ピ……ピースお前……そんな事出来たのか⁉」
ピースの光線によりチキのツタがあっという間に後退し、完全にチキを追い払う事に成功した。
「……フッ、お前すげぇな」
ピースはぴぃと鳴きながらサムズアップを返し、ヴェルクは喉を撫でてやってから、術式のインストールを終えたワンドブラスターを手に取る。
「お前に特化したとっておきの魔術式を作ってやったぜ。すぐにでもここから追い出してやらぁよ」
ヴェルクはピースを小脇に抱えると、わざと扉を蹴破って自分の姿をさらけ出し、チキのツタの触手に向かってニヤリと笑いかける。
「よう薬物野郎、俺の方から来てやったぞ」
チキのツタの先端が一旦後ろを向いた後、無数の仲間を引き連れてヴェルクへと迫る。
「来やがったなマヌケ! オラよ!」
ヴェルクのワンドブラスターから茶色の光条が迸り、ツタに命中するや否や枯れ落ちてしまった。
「お前専用の枯葉魔術式だぜ。ぐずぐずに溶かしてやるから覚悟しな」
まるで火炎放射器のようにワンドブラスターを振り、壁に張り付いた根っこを枯らしてしまう。
「効果覿面だな。さてと、ケイに行くぞ」
ヴェルクが格納庫へ向かおうとした途端、ピースが腕の中で足をばたつかせて抗議の意を示した。
「おうおうどうした、なんだ? 先にリヒト達を助けたいのか?」
ピースが頷いたのを見て、ヴェルクは一旦ワンドブラスターを仕舞ってからピースを抱き上げて諭すように言った。
「いいか? 皆の周りに張り付いているツタはな、頭の中に直接作用してんだ。ここでもし俺が無理に取っちまったら、医学的に良くないかもしれねぇんだ。だから周りから弱らせていくって算段よ、わかったか?」
ピースは首を傾げて不服の意を示すも、最終的に頷いてヴェルクに従う事にした。
「よしいい子だ、ケイに巻き付いたツタを枯らすことが出来れば、あいつらへの影響も弱まるだろうからな。急ぐぞ!」
ピースはヴェルクの腕の中で腕を上げて力強く鳴き、それを見たヴェルクはピースを頭の上に乗せてワンドブラスターとハンマーを構えた。
「よっしゃ救助隊! 行くぜ!」
気が付くと璃人は図書館に居た。
(ん? 僕はさっきまでCDショップに居たんじゃなかったっけ?)
乙葉が近くに居ることから一緒に来た事は確かなのだが、いかんせんここまでどんな道を使ったとか、何を話しながら来たとか、そんな記憶が全くと言っていいほど無いのだ。
「乙葉……うおっ!」
乙葉に声をかけようとした途端、本の何冊かが落ちてきて、璃人の足元に転がった。
「なんだなんだ? ん?」
よく見てみると本のタイトルがおかしい。
「静かに……よく聞け……この本を取れ?」
落ちた本のタイトルはまるでこちらへ語り掛けるような内容になっており、璃人はなんだか気味の悪いものを覚えてしまう。
訳が分からないがなんとなく逆らえず、璃人は落ちた本を戻してから『この本を取れ』というタイトルの本を開いた。
「君は違和感を抱いているだろう、それは正解だ……おいおい、本が僕に語り掛けてきたぞ」
なんとなく次のページに目をやると、璃人は思わず息を飲むことになった。
「こうする事でしか……今君に語り掛けることが出来ない。次のページを捲れ?」
さっきまで別の内容が書かれていた筈だが、それらが僅かな瞬きの瞬間に消失して、さっき璃人が読み上げた内容に変化したのだ。
今日はなんだか変な事ばかり起こるが、ここまで来るととことん付き合ってやろうという気分になり、璃人は素早く周囲を見てからページを捲った。
「今君は命の危機に晒されている。待ってくれ、そもそもお前は誰だ?」
次のページに目をやると、文字が消えて変わり始めた。
「私の名は……肝心なところが文字化けしてるぞ……なに? 弾かれるって? 何から?」
璃人へと語り掛ける者曰く、今璃人は夢の中に閉じ込められていて、それを助けるために語り掛けるべく様々な方法を取っており、今こうして本を使ってやっとコンタクトが取れたらしい。
「どうして今までコンタクトが取れなかったんだ? はあ……影響力が一時的に弱まったからと。その~これが夢の中って実感がイマイチ湧かないんだけど」
そう言いながらページを捲ると『証拠を見せよう』という見出しから始まり、目を滑らせて続きを読む。
「乙葉に気付かれないように周囲の客を観察してみるといい……観察ね」
本を取りに行くふりをして、素早く周囲の情況を確認すると、すぐに違和感に気付いた。
「これは……」
客は全員全く同じ姿勢で机に向かっているか、本棚の方を見て本を探している。
持っている本を見ているふりをしながらよく観察すると、全員の目は虚空を見ており、身じろぎ一つしていない。
(こうして見ると呼吸音すら聞こえてこないような気がするな)
再び本を開くと、白紙のページに徐々に言葉が浮かび上がってくる。
「ここから抜け出すには、君がこの世界を否定して拒絶する必要がある……否定っつったって……」
璃人は乙葉の方をちらりと見て、すぐに本へと視線を移す。
「彼女は偽物だ、君を夢の中に縛り付けるために奴が生みだした幻……乙葉が?」
信じられなかった、会話もできるし料理も作ってくれた。
味もしっかり乙葉のベーコンサンドだった、手のぬくもりも頬の柔らかさも、あれが幻とは璃人には到底思えない。
「彼女の幻を君自身の手で打ち破れ、証拠なら無数に転がっている……証拠証拠……思い当たるものはあるけど、家に行かないと無いぞ」
ページを捲ると、短い文章が二つ書かれていた。
「家に行きたいと強く念じてみろ……健闘を祈る」
そんな事だけで家に行けるわけがないと思ったが、とことん付き合ってやる気分だった璃人は、目を瞑って家に帰りたいと念じてみる事にした。
「はっ⁉ えっ⁉」
「どうしたの璃人?」
瞬きした一瞬の間に、本当に家に移動しているではないか。
「今僕達……どうやって」
そこまで言いかけた所で、璃人は口を噤む。
璃人に語り掛けた者曰く、この乙葉は璃人の愛する篠崎乙葉という個人ではなく、璃人を夢の牢屋に閉じ込めている看守そのものなのだ。
信じたくはなかった、目の前の彼女がただの幻に過ぎないという事を。
(証拠を……探すんだ……証拠を探れば本物の証明にもなる!)
璃人は素早く室内を見回し、証拠と成り得る物がある場所へ目を向けた。
「乙葉、部屋入るよ」
「えっ? あっ!」
制止しようとした乙葉に構わず、璃人はクローゼットを開いて衣装ケースを取り出し、その中に仕舞われていた手帳サイズのホルダーに入った手紙の数々を開いた。
「!」
これらは全て、乙葉が教育実習生だった頃に受け持った生徒から受け取った手紙である。
以前璃人は乙葉が教育実習生時代に受け持った生徒の名前を未だに全て覚えていると言っていた事を覚えており、もしこの乙葉が本物ならばこれらの手紙の生徒の名前を覚えている筈なのだ。
「乙葉……今から質問をする。大切な質問だからしっかり答えてくれ」
「えっ……うん」
「君の教育実習時代、城南大学付属小学校。覚えてるだろ?」
「まあうん」
「四年C組、出席番号十三番、この生徒の名前は?」
乙葉は困惑を顔に張り付けたまま笑顔を作り、首を振りながら言った。
「そんなの、覚えてるわけないじゃん」
璃人の目の色が完全に変わり、部屋の空気がぐんと下がる。
「どうして? 前覚えてるって言ってたろ?」
「さすがに覚えてないよ」
「本当の乙葉ならすぐ答えられた筈だ、まあもっともこれじゃ答えられないだろうけど」
「本当のって……」
流石に怒ったような表情を浮かべた乙葉が璃人に詰め寄ろうとした途端、璃人が手紙を突き付けた。
「白……紙?」
「そう、白紙だ」
璃人は白紙だらけのホルダーを後ろに投げ捨て、衣装ケースに入った乙葉が受け取った手紙を全てぶちまけながら捲し立てた。
「白紙、白紙、全部真っ白! 詰めが甘かったな!」
「えっ……う……なんで」
「なんでだと? とぼけるなよカスが」
璃人は怒りに満ちた目で乙葉に詰め寄り、指を突き付けて半ば怒鳴るように続けた。
「僕の心に侵入するぐらいだったら見逃してやった! だがな! お前はよりによって僕が最も愛した人の姿を使った! 絶対に許さないッ!」
泣き出す乙葉を見て、璃人はむしろ怒りを増した。
「同情心を買うつもりか! 僕は……うっ!」
強烈な頭痛と共にリヒトの一気に脳内に映像が流れ込み、ふらつきながらもなんとか姿勢を維持する。
「そうかそうか、全部思い出したよ……すぐに気付けなかったとは恥ずかしい限りだ」
「璃人……」
乙葉の顔をしたナニカが、涙でぐちゃぐちゃになった顔を向けながらリヒトに迫る。
「なんで私を……置いて行ったの……」
「黙れ!」
渾身の力で乙葉だったものを殴りつけた途端、空間がひび割れてありとあらゆるものに亀裂が走る。
「この道を行くと決めた覚悟も、それに伴う後悔も、全て抱えて生きていく! 僕だけのものだ、お前なんかに利用されてたまるか!」
割れた空間が徐々に崩壊を始め、真っ白い空間の中にリヒトは一人立っていた。
「……一度だって、君を忘れたことは無い。これって……弱さなのかな」
「そうだな、だがそれは強さでもある。この弱さを知った先に、本当の意味での強さを得ることができるんだ」
振り返ると、エメラルドグリーンの光の炎を纏い、銀色の瞳を持つ女性の姿をした美しい人型が立っていた。
「私の事、覚えてるか?」
「いや……まだ……」
「そんな……」
「フッ、嘘だよソルティア」
ソルティアは腰に手を当てて頭を振って笑うリヒトを見る。
「全く君は……冗談が過ぎるぞ」
「ごめんごめん」
「どれだけ私が心配したと思ってるんだ」
「悪かったよ、もっと早く気付くべきだった」
「でも自力で抜け出すことが出来たじゃないか。誰にもできる事じゃない」
「そっか……それじゃ」
リヒトはソルティアに向けて手を差し出し、力強い笑みを浮かべて言った。
「また力を貸してくれるな」
「ああ、当然だ!」
ソルティアがリヒトの腕を取ると同時に、リヒトの体に莫大な力が流れ、体の芯から熱が迸っていく。
「……うぅ」
目を覚ますとベースアヴァロンのいつもの部屋の中に居り、リヒトは頭を振って部屋を見回すとヴェルク以外の仲間達が全身をツタに覆われて昏睡している。
「みんな! うっ!」
立ち上がろうとしたが、まだツタが下半身に絡みついていて身動きが取れない。
というかむしろツタが成長し、リヒトを完全に覆い尽くさんと更なる成長を始めた。
「精神攻撃が無効だから物理的手段に訴えてきたか!」
腰が完全に覆われる前になんとかスパークルジェムを一個だけ取ることが出来たが、思った以上にツタの成長が早く、あっという間にリヒトの胸元まで迫ってくる。
「クソッ……早くみんなを助けないと!」
リヒトは必死に身を捩るも、意地でもリヒトを取り込まんとツタはより強く締め付けてくる。
「仕方ない! ハッ!」
ジェムをスパークルトランサーに装填するも、それを察したツタは更に締め付けを強くし、両手が離れてついに顔以外は完全にツタに覆われてしまった。
「みんな……ごめん……」
完全にツタに覆われたリヒトの視界は、一切の光無き世界へと誘われていく。
再びリヒトの精神に入り込んだチキは、次の幻覚の材料となる後悔の記憶を探り出すも、突如何かに阻まれる。
「まんまと騙されたな愚か者め、これ何だと思う」
精神世界に現れたリヒトが、スパークルトランサーを見せつけるように掲げた。
「スパークルトランサーはな、レバーを押し込まないとラクスに成れないけど、装填しただけでジェムに秘められた能力が使えるんだ」
チキは焦るがもう遅い、リヒトに完全に捕捉されて逃げられなくなってしまった。
「今度は僕がお前を利用させてもらう、お前を辿ってみんなの夢に入り込む!」
リヒトは手を伸ばしてチキを鷲掴みにし、自分の精神をその中へ投影した。
チキの精神の中に入りこむと、アイリス、イーライ、ヒオ、そしてウェンディが見ている夢の内容が見えてきた。
「なるほど、お前の手口が分かったぞ。お前に入って初めて分かった」
チキは後悔の記憶を読み取って、それを基にしてその後悔が解消されたイフの未来を形成して夢の牢屋を作り出し、それに意識を閉じ込める事で取り込んでしまう。
そして取り込んだ人々を栄養にしつつ、配下にして操るのである。
「今朝のモンスターも被害者だったのか。考えたな!」
急がなくては探査隊全員が取り込まれてしまう、リヒトはエーテルバーストジェムに手を翳してから四人に分身し、それぞれの夢の中に近付いていく。
「今助けるぞ!」
それぞれの夢の世界で違和感を覚えながら、ただただ泥の中へ沈むように思い思いに過ごしていた四人だったが、突然聞き覚えのある声が響いた。
『みんな聞いてくれ! 僕の事を覚えていなくても構わない、でもきっとこの言葉が届いてくれると信じて呼びかける!』
四人のうちアイリスとイーライに頭痛が走るも、それは先程感じていた気分が悪くなるようなものではなく、まるで殻を破るかのような心地よいものだった。
『みんなにはいろいろな後悔があるのは知ってる、人間生きてきたらそんな経験の一つや二つあるもんだ! けどそれに惑わされちゃいけない、なにをしたってあの時ああすれば良かったっていう生き方の選択は変える事は出来ない! けれど現在その後悔をしない生き方なら出来る筈だ! どうか頼む、今に目を向け、今後悔しない選択をしてくれ!』
聞き覚えの無い筈なのに、どこか心温まるその男の声を聴いた四人は、どこか引っかかっていた部分に目を向け始める。
「私達の現在」
「後悔に惑わされてはいけない」
「後悔をしない生き方」
「現在に目を向け、今後悔しない選択を……」
四人がそれぞれ心の深い場所に思考を向け始めた事で、徐々に夢の牢屋が崩壊し始めめる。
「そうだ! 私はロックワース家を勘当されてからアーブで新しい道を切り拓いたんじゃないか!」
「僕はまだネイトと仲違いしたままだ!」
「このままじゃダメだ! お父さんとお母さんの遺志を継いで広い世界を知らないといけない! 私は森を飛び出していろんな人たちと生きていく!」
「私まだ! センパイに告白してないじゃん!」
真上から突き出された光の手を取り、皆の意識が急上昇していく。
四人の意識を掬い上げる事に成功したリヒトは、スパークルトランサーのレバーを押し込んで腕を力強く掲げる。
「今度こそ、お前を倒す! ラクスゥゥゥゥゥウウッ‼」
リヒトとソルティアの魂が融合を始め、二人の姿が大きく強く変わっていった。
ベースアヴァロンの中を走り回ってピースと共にチキのツタや根と格闘していたヴェルクだったが、突然ツタが輝き始め、ヴェルクはピースを抱えて後退する。
「なんかツタがパワーアップを始めた臭いな……クソッタレ、ここまでかよ!」
だがヴェルクの予想に反し輝き出したツタは一際強烈な光を放つとその場から消えてしまった。
「……消えた?」
記録水晶の映像を見るために持ち出していたクォーツパッドを見ると、敷地内を覆い尽くしていたツタがすべて消失しているではないか。
「なんだ……一体何が起こってんだ? 俺達は……助かったのか? おお、ピースどうした?」
ピースはヴェルクの腕の中で足をばたつかせ、しきりに天井と斜め上を指し示している。
「上? 上に行きたいのか?」
肯定の意を示す鳴き声を発したピースの意を汲み、ヴェルクはピースに言われるまま上に向かった。
「上って……屋上じゃねぇかよ」
屋上に出たヴェルクが見たものは、絡み合ってボール状になってもなお蠢き続ける植物の根と、その前で片膝立ちになっているエメラルドグリーンの輝きを放つ巨人だった。
「まさか……あれは!」
巨人の放つ輝きが徐々に収まり、遂にその美しい姿を外界に晒した。
「ラクス! ラクスが来てくれたんだ!」
ヴェルクの声に振り返ったラクス・エーテルバーストは少し驚いたような反応を見せるも、すぐにもう大丈夫だと言わんばかりに頷く。
「良いかラクス‼ 奴を爆散させるとまた種をばら撒いちまう! だから爆散させずに倒すんだ!」
ラクスはヴェルクにサムズアップを返し、腰を低く落として腕を開き、戦いの構えを取った。
「ゼッ‼」
絡まり合ったチキの根は徐々にその形を変え始め、複数の突起を形成してついに体を作り出した。
「フッ⁉」
「ラクスに対抗して……戦う為の体を作りやがった!」
トカゲを模した不格好な籐人形のようなそれは、古代ガリアのドルイド僧が儀式で使ったとされるウィッカーマンを思わせる不気味な形状をしていた。
「言うなれば、モンス・チキか。頼むぜラクス、あんな奴に負けるな!」
体の形成が済んだところで、モンス・チキは身体を構成している根を擦り合わせて不快な〝鳴き声〟を発してラクスへと向かい、ラクスも即座に反応して走り出す。
「オオォッ!」
伸縮自在のツタの攻撃をラクスは瞬間移動で背後に回り込んでから回避し、蹴りを背中に叩き込んでモンス・チキをうつ伏せに倒してしまった。
「ゼェェッ! ハァァァアアッ!」
そのまま背中へうつ伏せになると、周囲のエーテルを操作して手から火炎を放ってモンス・チキを火達磨にしてしまった。
「確かに植物に火は有効だ! 行けラクス! 完全に燃やし尽くせ!」
ヴェルクとピースの声援によって更に奮起したラクスは火炎放射の威力を上げ、炎の色は徐々に青くなり、モンス・チキの表面は黒焦げになっていく。
「オオオオオオッ……グオォッ⁉」
「ああっ!」
やはり基地を一度制圧しただけあり、チキは次の手を打っていた。
炎にその身を焦がされながらもツタを腹部から伸ばして地面に潜り込ませておき、後ろからラクスの首を締め上げたのだ。
「ギヨワッ……アアアァッ!」
「まずい! ラクスが!」
ヴェルクが援護しようとしたその時、更にツタが伸びてラクスの四肢を拘束し、空中で磔にしてしまった。
「クソ……どこ狙えばいいんだ」
ワンドブラスターの光条は一筋で、リヒトやヒオならば速射で細かい標的全てに当てることが可能だろうが、ヴェルクの腕ではそれは不可能である。
せいぜい首か四肢のどれかを拘束しているツタを撃ち抜くのが限界で、これではどこを狙ってもラクスの拘束は解けそうにない。
「ああもう! こうなりゃヤケクソ! 本体狙いだ!」
ヴェルクがワンドブラスターから枯草魔法をモンス・チキの本体目掛けて放ち、それに気を取られたことで一瞬拘束が緩んだ。
「フゥワッ! ゼィヤッ!」
ラクスがエーテルを操作して全身に電撃を流し込み、それが伝ってモンス・チキは感電し、ラクスを離してしまった。
「やってくれたな、エーテルブランチ!」
体勢を立て直したラクスはフィンガースナップを鳴らすと、なんと四人に分身してモンス・チキを囲い込んだ。
「ぶ……分身したぞ!」
分身したラクスは全員一斉に足を開いて両手を左腰に当てて振り抜き、光線抜刀術・桜花を一斉に浴びせ、モンス・チキの伸びたツタを全て切断してしまった。
「ンンッ……ゼヤァーッ!」
「タァーッ!」
「ゼハァーッ!」
「フンーッ!」
続けざまに四人のラクスはエーテル操作により打刀の形状をしたブレードを作り出し、それぞれバラバラなタイミングで次々とモンス・チキへと斬りかかっていく。
「……リヒト、私それ嫌いって言わなかったっか?」
「前から思ってるけどなんで空刀が嫌いなんだよ、色々便利だしかっこいいだろ?」
「私的にあまり好みではないというか……」
リヒトは口角を下げつつ肩を竦めて頷きながら返した。
「わかったよ、じゃあこっちでやるよ」
ラクスは形成したブレードを捨てると腕から青い光の棒を形成し、それを手にモンス・チキへと攻撃を加える。
「ゼッ!」
「ゼヤッ!」
「ゼハァッ!」
「フゥワッ!」
複数個所から斬られて回復も追いつかない程ダメージを負ったモンス・チキは、再びボール状に姿を変えてより攻撃的な新たな姿へと変身を始めようとした。
「ホォォ……ハッ!」
ラクスは念力で捨てた空刀を浮遊させると空中で固定し、そこへエーテルの力を流し込むと、四本の刀から冷凍光線が発射され、モンス・チキを一瞬で氷漬けにしてしまった。
「新しい姿になろうって? そうは問屋が卸さないぞ」
「どうするリヒト、このまま氷漬けにするだけというのも良くないだろう?」
確かにこのまま放置するにも場所を取るし、氷が溶けてまた暴れ出すといけない。
「……そうだ、とっておきのうってつけの技がエーテルバーストにはあるじゃないか!」
「うってつけ! どれだ?」
「ストラングルストリームだ!」
再びフィンガースナップをしてエーテルブランチを解いたラクスは、腕を水平に伸ばして屈みながら頭の上で腕を交差し、そのまま上体を起こすと額から四本の光の筋が伸びて空中で大きくうねった。
「お、おいラクス! 奴を爆散させると……」
「ンンンン……ゼィヤァァァアアアアアッ!」
そのまま頭を氷漬けになったチキの塊へ向けると四本の光の筋が各所に命中し、不安げなヴェルクが見守る中で徐々に縮小を始めた。
「おお?」
光の筋に取り込まれたチキの塊はみるみるうちに小さくなっていき、ついに人間と同じサイズまで縮小してしまった。
「小さくする光線だったのか! そんな事も出来るのかよ! すげぇなぁ……」
ラクスはストラングルストリームで縮小させたチキを拾い上げると、手に炎を宿して握りつぶして灰にしてから、ベースアヴァロンの方を振り返る。
「ゼッ……ハァァ……」
両手から優しげな光の粒子を放ってベースアヴァロン一帯を包み込み、チキの痕跡を完全に消し去ると同時に、中の人々全員を癒した。
「おお……なんか疲れが全部吹っ飛んでいくな」
ピースも空中で体をぐっと伸ばして気持ちよさそうな鳴き声を上げ、それを見たラクスはどこか安堵したかのような仕草を見せた。
「ラクス、ありがとよ! お前のお陰で助かった!」
「ヴェルク……ピースと一緒に頑張ってくれてたんだな」
「一体なぜ彼は夢に囚われなかったんだろうか?」
「さあ? 帰ったら聞いてみるよ」
ラクスはヴェルクとピースへ労いのサムズアップを贈ると、上を向いて空の彼方へと飛び立って行った。
「ゼワッチ‼」
空の帳の彼方へと飛んで行くラクスが見えなくなるまで、ヴェルクは手を振り続けていた。
その後、ベースアヴァロンは大騒ぎになり、派遣されてきた医療隊によって基地内部に居た者全員が診察を受け、事態が収まる頃にはもう夕方になっていた。
「なるほど、夢幻植物獣モンス・チキ……恐るべきモンスターだ」
監視記録水晶とヴェルクの説明によって今回の事件の全容を知らされた皆は、もしかすると全滅していたかもしれない可能性を想像して戦慄した。
「後悔の記憶を基に、夢の牢屋に人を閉じ込める……生きてて後悔なんてない者など殆ど居ませんからね。僕は仲違いしたっきり連絡も取ってない次兄の夢を見ましたよ、今思えば違和感で頭が拒絶していたように思えますが、見てる時は分からないものですね」
「私もそうだったな。頭が痛くなって……実際の記憶を思い返したが、すぐに封じ込められたんだ」
「もしよければ、どんな記憶を見たのか教えてくれませんか?」
「実家の夢さ。私の唯一の味方だった兄と……かけがえのない友の夢だよ」
遠い目をするアイリスをよそにイーライが記録を取っていると、ヒオが顔を出して割り込んで来た。
「私のも記録してくれる?」
「いいですよ、今後の対策にもなりますから聞かせてくれるなら記録しておきます」
「私は森の夢を見た。森での生活を続けていた夢」
「アールヴの森か……でもヒオさんって、森の現状に不満があるから飛び出したんですよね?」
「周りの大反対押し切って夜逃げ同然で出て行ったからさ、案外それが心残りになってたのかも。でもやらない後悔よりやった後悔って言うから、今の方がマシだと思ってるかな」
ヒオの方は大丈夫そうだと思いつつイーライがウェンディの方を見ると、思いっきり顔を逸らされる。
「わっ……私は言いませんからねっ!」
「えぇ? なんで?」
「とにかく言いませんっ!」
「そ……そう、まあプライベートもあるだろうし無理には聞かないけどさ」
首を傾げて記録を取るイーライの肩をリヒトが叩き、ヴェルクの方を見ながら言った。
「そんな記録より、なんでヴェルクが夢を見なかったかの方が重要じゃないかな?」
「……確かにそうですね、ヴェルクさん。一人だけ夢に囚われなかった理由に心当たりはありませんか?」
「俺ェ? うーん……心当たりがあるとすれば、父ちゃんと母ちゃんの教えかな」
「どんなのか教えてくれますか?」
「おう『悔いの残るものは作るな』と『人生は自分というモノづくり』っていうな。だから俺はこれまでの人生で、後悔の元になるような芽は全部摘んでからここに立ってるのさ」
自信たっぷりに言うヴェルクを見て、なるほどこれにはチキも太刀打ち出来ないだろうとリヒトとイーライは頷き合う。
「まあ事態収束記念と孤軍奮闘したヴェルクの労いも兼ねて、今夜は皆で焼肉にでも行くか」
「えぇ⁉ 良いんすか!」
「ああ、私が出す、好きなだけ食べろ」
「隊長ォ~! 俺ァ一生ついて行きまさァ~!」
滝のような涙を流してアイリスの足の前に平伏するヴェルクを見て皆が笑っていると、リヒトの膝の上にピースが飛んで来た。
「そっか、お前も頑張ったんだもんな。せっかくだし、ピースも連れて行きません? 小型モンスター可のところいっぱいあるだろうし」
「そうだった! 俺達二人で頑張ったんだもんな~」
ヴェルクに向けてにこりとして頷くピースを見て、ヒオが倍以上の背丈のヴェルクを吹き飛ばしながらピースに駆け寄る。
「ピースも頑張ってくれたのぉ~! ありがとォ~!」
「いてぇ……」
「おいおい、二人で頑張ったんだぞ、二人で……って聞いてねぇな」
「ほらみんな行くぞ。早くしないと席が埋まってしまう」
アイリスの後について行く皆の背中を見て、リヒトは微笑んで立ち上がった。
『嬉しそうだなリヒト』
『皆が無事でよかったと思うと……さ』
『リヒトの言った通り、今に目を向いて歩けるようになってるみたいだな』
『ああ、過去は確かに眩しいけど、今も決して負けてはいない。だって今の積み重ねが、眩しい過去になるんだからね』
今居る大切な仲間へとより絆を育むべく、リヒトは共に晩餐の場へと向かうのであった。
To Be Continued.
後悔は誰にでもある、私にもあります。
大事なのは進むこと、どんな形であれ、未来へ前向きに進んでさえいればきっと大丈夫。
そう思って、この話を書きました。
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ではまた来週お会いしましょう!




