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ハイポリアの勇者 ~超空想綺譚~  作者: 南乃太陽
再始動

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デルゴラスの怒り

ウェンディの弟ギデオンから齎されたのは、大地の番人たる神獣デルゴラスに関する話だった。

鉱脈開発の為に眠りが妨げられ、怒りに満ちたデルゴラスが大暴れするかもしれない。

神獣を相手取るかもしれないエクスレイドは万全の状態で事態に臨むが……。

 国営対モンスター災害組織エクスレイドの基地(ベース)は、基本的に団員のみ入る事を許されている。

 だが例外として入館証を持つ家族ならば制限付きで入ることが出来、稀に団員の伴侶が忘れ物を届けに来たり、団員の同僚と親睦を深めたりなどしている。

 しかし殆どの隊員が現状独身者で、実家ではなく団員寮に住んでいる者が多い探査隊はこの制度とは無縁である。


 一人を除いて。



 

「こんにちは~」


 特に通報も無く暇を持て余していた探査隊の退屈を打ち破るように、まだ幼さの残る少年の声が響いた。


「おお、来たのか!」

「へへ、来ちゃいました」


 彼の名はギデオン・スターリング。

 イーライの助手兼探査隊オペレーター担当のウェンディの弟で、アーブ王立魔術学校の中等科の一年生である。

 

「久しぶりね、どうして今日は来たの?」

「いやー姉ちゃんに宿題手伝ってもらおうと思って」

「お姉ちゃん今休憩スペースでサボってるからちょっと待っててね」

「そうなんですか、じゃあちょっと失礼して」


 ギデオンは仕切られた休憩スペースの方へ向けて叫んだ。


「またお菓子食べてんだろ! 太ンぞ!」


 仕切り越しにどんがらがしゃんと騒がしい音が聞こえ、頬にクッキーの欠片をつけた鬼の形相のウェンディが仕切りから顔を覗かせた。


「何を言うか小童め!」

「へへ~ん、コソコソ毎日スノーシュガーばっか食ってるから太るんだよ! この前だって一週間でひと缶無くしちゃってさ、控える控える言いながら結局誘惑に負けて体重は……」

「それ以上言ったら口縫い合わっぞ!」


 そのまま室内で追いかけっこを始めたスターリング姉妹をピースが物珍しそうに見る中、ヴェルクとヒオが囃し立て、イーライとリヒトが肩を竦めて苦笑する。


「ベースの中では……」


 アイリスがワンドブラスターの機能を切り替え、天井辺りを狙って撃つと金盥(かなだらい)が二つ生成され、ウェンディとギデオンの頭上に落ちてきて二人とも大きなたんこぶを作って撃沈してしまった。


「お静かに」

「はひ……」

「ごべんなさい……」


 

 

「あのねぇ、お姉ちゃんも暇じゃないんだからね?」

「いやいや暇でしょ、モンスター出てないしさ、出現予報もオールグリーンだよ」

「まあそうだけどさ……隊の皆さんに迷惑が掛かっちゃうでしょ」

「迷惑ですか?」

「いいや全く?」


 イーライが否定したのを皮切りに、全員が首を振って見せる。


「宿題を見るぐらい良いじゃないか。今日はこれから仕事も無さそうだし」

「隊長までぇ……」

「良ければ僕が見ようか? 分野によっては役に立つか分からないけど」

「イーライさん良いんですか! やっぱハイポリアにその名轟く仕立人(シュナイダー)は一味違うなぁ!」

「調子いい事言って! ほら、早く終わらせちゃうよ!」



 

 学習用のクォーツパッドと、各種教科書とノートを広げてギデオンの宿題が始まり、最初はウェンディとイーライのみが見ていた所、アイリスを皮切りに徐々に人が加わり始め、最終的にピースまでもがギデオンの宿題を見るようになった。


「こんなに見られるとちょっと緊張しちゃうなァ」

「あのねぇ、イーライ・ゴルドスタインに宿題見てもらえる中等生ってハイポリア探してもあんたぐらいなもんよ。贅沢言わないの」


 なんやかんやで宿題が終わり、ギデオン含めて皆は雑談を始めた。


「いやー新鮮だったな、魔法の授業って」

「そっか、リヒトって現実世界(あっち)から来たからそういうの無いのか」

「そうそう、僕も通えば魔法使えるのかな」

「さすがに年齢制限に引っかかりますよ」


 手をうねうねと動かして魔法を使う素振りをするリヒトを見て、皆はくすくすと笑い合う。


「いやー勉強になりました、皆さんありがとうございました」

「礼儀正しいね、姉も見習ってほしいもんだ」

「ここだけですからね! 家じゃひどいもんです!」


 そろそろ帰ろうとなった時、ギデオンのMQ(マルチ・クォーツ)にメッセージが入り、それを見たギデオンの顔が曇る。


「あれ、どうしたのギデオン?」

「……これさ……うーん……」


 何か言い出しにくそうにしているギデオンだが、椅子に座り直してから口を開いた。


「みんなに相談があるんです、多分モンスター絡みの」




「神獣デルゴラス?」

「それが怒るって……」

「うん、近いうちデルゴラスが怒って目醒めるかもしれない」


 ギデオン曰く、友人のレジー・パートリッジの父が勤めている鉱石場で、近いうちに新型掘削魔術砲による開発が行われようとしているという。


「それとデルゴラスに何の関係があるんだい?」

「現場がクライト鉱山地帯で、開発する予定の場所がデルゴラスが眠る場所を突っ切っちゃうみたいなんです」


 クライト鉱山地帯、アーブ王国と隣国ギルモアスの間に跨る巨大鉱山で、それに隣接する形でアーブ王国の魔法技術や工業を支える工業地帯の「アーブファクト」が存在する。

 レジーの父はそこに勤めているのだろう。


「クライト鉱山地帯……確か俺の親父がデルゴラスがそこに眠ってるって言ってたっけ」


 以前なら眉唾物の話だったが、バリードが覚醒して姿を現した事で一蹴できる話でもなくなってきたのだ。


「でも本当にデルゴラスはクライト鉱山に居るのか?」

「居ますよ! レジーとフレッドおじさんが嘘を言う筈ないですから!」


 真剣な調子のギデオンに、アイリスは困惑しながら頷いた。


「わ、わかったギデオン。デルゴラスの存在の根拠を聞きたいんだが、いいかな」

「鉱員って基本工業用の魔術車に乗って作業するんですけど、偶に身一つで鉱脈の奥に行かないといけないみたいで、そんな時に落盤に巻き込まれて生き埋めになりかけた時、何かに引っ張られたように吹き飛ばされて生還したって経験があるんですよ」


 鉱山神獣デルゴラスは山に眠る宝、即ち貴金属や宝石の番人であり、同時に山の中に入る者の守り神でもあるとされている。

 落盤事故や鉱毒、強い魔鉱が発する魔法線の被曝(ひばく)から多くの鉱夫を守って来たという言い伝えがいくつもあり、今でもその信仰は色濃く残っている。


「デルゴラスに助けられたのか」

「確かデルゴラスは触れずに大岩や、果ては複数の山を動かす力があったって聞いたことがあるからな、レジーの親父さんが助かったのもその力のおかげかもな」


 確定した訳ではないが、どうやらクライト鉱山にデルゴラスが眠っている可能性が非常に高い事はわかった。


「レジーの家族、デルゴラスの事を信仰してて、俺に何回か相談してたんですよ。さっきのチャットは開発がもう確定したっていう連絡だったんです」


 レジーの父を中心に多くの鉱員が開発に反対していたが、ついに会社の上層部によって押し切られてしまい、しかもリーダー的な役職だったレジーの父が魔術砲の引き金を引くことになってしまったという。


「ひっどい! 反対してた当てつけのつもり⁉」

「作業員のリーダーだったのと、なんか皆にその任を背負わせるぐらいなら自分が……って事みたいで」


 とにかくデルゴラスが暴れ出したらひとたまりもない、なにせ相手は神獣であり、自然の化身たる神の怒りに触れる事になるのだ。


「予防策を打っておこう、レジーのお父さんの会社を教えてくれるか?」



 

 アイリスからの連絡を受けたバーンズは、ラウンドナイツを集めて事情を説明した。


「神獣デルゴラスが……」

「ああ、もしもに備えて我々が待機するべきと判断した」

「神獣相手かぁ……畏れ多いがやむ無しかな」

「待て待て、今回は空が主戦場ではない」


 デルゴラスは物を触れずに動かす力を持つ、それ故に空中に居れば容易く叩き落とされてしまうとバーンズは判断したのである。

 

「今回はパロミデスに行ってもらう。地上戦、地中戦ならお前達の右に出る者は居ない」


 サーリア・アディーブ小隊長と、ハイダラ・フーリーとドワーフ族のルーバンの三人で構成されるパロミデス小隊は、飛行能力を持たない代わりに地底潜行能力を備えたパロミデスモデルを駆り、主に地上での戦闘を展開する。


「デルゴラスの相手は我々ですか……」


 傷の残る顔を撫で、サーリアが小さく呟いた。


「お前達なら出来ると、俺は思っているぞ」

「分かりました、期待は裏切りません。二人ともいいわね?」

「了解ですっ!」

「ええキャプテン、必ずみんなを守ってみせます」


 こうしてエクスレイド側の準備は整い、残すは新型掘削魔術砲が起動する日を待つのみとなった。




 数日後、レジーの父のフレッド・パートリッジは重い気分で出社し、部下や同僚達の同情の眼差しや(いたわ)りの言葉を受けながらついにその時を迎えた。


「鉱山長……」


 自分を呼びに来たロドリゲス鉱山長に対し、フレッドはダメもとで最後の交渉に出た。

 

「なんだねパートリッジ君、もう中止要請は聞かないぞ」

「しかしエクスレイドまで動いたんですよ?」

「それが大げさだと言っているんだ」


 ロドリゲスは数日前に本社の方にエクスレイドから連絡が入り、急遽探査隊とラウンドナイツが新鉱脈開発に同行する事が決定したことを未だに快く思っていないのだ。


「だいたい神獣が何だというんだ。何百年も前に勝手に姿を消しておいて脅威の前には姿を現さず、今更になって敬え(へつら)えなどと宣うとは……」

(へつら)えと言っているのではありません、わざわざデルゴラスの眠りを妨げるような行為をしなくても良いのではないかと言っているのです」

「そこにデルゴラスが眠っている事は確定していないんだろう? 我々のラインが止まればどれほどの企業が困ると思っているんだ。我々はアーブの……いや、ハイポリアのインフラを支えているんだぞ、君にはその自覚がないんじゃないのか?」


 そんな立派な事を宣っているが、フレッドはロドリゲスが出世欲の為にこの案を強引に通した事を知っている。

 出世の為なら平気で山を穿ち抜き、神獣の眠りを妨げる涜神的な行為を部下にやらせるのを良しとする、こいつはそういう男だとフレッドは見抜いていた。

 

 せめて開発に同席するだけマシかと内心で留飲を下げ、フレッドはヘルメットの位置を調整した。


「わかっておりますよ。仕事ですから」


 


 そうして作業員やロドリゲスを始めとした本社の人間、そしてエクスレイドが見守る中、フレッドは新型掘削魔術砲のコントロールルームに入り、安全確認作業を始める。

 

 そんなフレッドを二人の少年が双眼鏡越しに見ていた。


「父ちゃん……」


 フレッドの息子のレジーとその親友であるギデオンだ。


「やっぱり止められなかったみたいだな」


 二人は先生に交渉して自主課外授業による公欠を貰い、アーブファクトを抜けてクライト鉱山に潜入したのである。


「てゆーかさ……もしバレたらどうなるかな? 俺達退学かな」

「それどころじゃないって今……」

「ゴメン……」

「いいよ……俺が全部悪いって言うからさ……」

「バカだな、一緒に怒られようぜ。お前に着いてきたのは俺の選択だし」

「ギデオン……」

「そろそろ始まるっぽい、デルゴラスが怒らない事を祈ろうぜ」



 

 様々な思いが交錯する中フレッドはてきぱきとコンソールを動かし、魔術砲のエネルギーを充填していく。


「掘削魔術砲、魔力充填完了、発射指示願います」

『五秒後に発射してください』


 カウントダウンが表示され、フレッドのレバーを握る手が手汗によって湿っていく。

 

「デルゴラス様……申し訳ありませんっ!」


 レバーが押し込まれると同時に眩い光が地面を穿ち、数秒後、照射による轟音が止むと共に大地に大穴がぽっかりと口を開けていた。


「……クッハハハハハ! やった! やったぞ! 成功した、成功したんだ!」


 沈痛な様子な周囲に構う事なく、ロドリゲスはただ一人開発が成功したことに大喜びしている。


「あいつか、この開発を指示したの」

「念のためマギスリング持ってきたよ。あいつの足元にぶっぱなしとく?」


 ギデオンが魔術エネルギーを利用するスリングショットを持ち出したが、レジーはその手を抑えて言った。


「いいよ、バレちゃうだろ」

「でもこのままあいつがお咎め無しってのもシャクじゃない?」

「いいんだよ、デルゴラスが怒らないに越したことはないじゃないか」

「まあ確かにそうだけ……ん?」


 ギデオンの身体が、地面の揺れを捉えた。


「レ、レジー!」

「う、うん……俺も感じる! 揺れてる!」




 やがて地面の揺れはあっという間に大きくなり、三機のパロミデスとケイは一斉に展開し、スピーカーからイーライの声が響く。


『地震が発生しています! 速やかにシェルターへの避難をお願いします! 緊急事態です!』


 その数分後、体の芯を揺らすような爆音が穴から響き渡り、粉塵と土塊を巻き上げながら巨大な影が地底からその姿を現した。


「あれが!」

「鉱山神獣……デルゴラス!」


 全体的なシルエットは翼を持たない二足歩行のドラゴン型のモンスターで、頭部には兜を思わせる上に伸びる三本の角と下に伸びる二本の角を持ち、何より目を引くのは両肩と背中に生えた巨大な魔鉱石である。


「一目でわかるぜ、桁も格も違うって」


 リヒトがそう呟いた時、デルゴラスは天に向けてひとつ咆哮を放った。


「うっ!」

「うわっ!」

「くぅっ……」


 デルゴラスの咆哮はその場に居た者全ての鼓膜どころか骨身を震わせ、もうもうと舞っていた粉塵を吹き飛ばすだけに留まらず、近くにあった岩を粉砕してしまった。


「こりゃ相当怒ってるぜ!」

「総員攻撃開始! デルゴラスの体力を消耗させ鎮静化させるぞ!」


 パロミデスがうなりをあげて地中へ潜り、デルゴラスの足元へと向かって行く。


「魔術砲展開!」

「ジュースティングバスターで背中の魔鉱石を狙うわよ!」

「了解! ジュースティ……うおおおっ!」

「フーリー! ああっ!」

「うっ! なにこれっ!」


 まるで何かに引っ張られるようにパロミデスが上昇していき、潜行モードを切り替えて外を確認すると、デルゴラスがこちらに手を翳して機体を浮遊させていた。


「これが……デルゴラスの力!」


 デルゴラスが手を振ると三機のパロミデスが全て吹き飛び、なんとか横転は免れたが機体に少なくないダメージが入る。


「イーライ! 今の攻撃は!」

『これは……重力魔法です……重力魔法を念力の如く使えるのは……大地の元素魔法を極めに極めた領域に達しているという事です!』


 これで納得がいった、山を動かしたり、鉱夫を助けた伝承は重力を操る力によるものなのだ。


「重力操ってくるのか」

『ただ操るのではなく向きや強弱すら思いのまま、言うなればデルゴラビティ……気を付けてください、神獣を相手取るという事は自然界の法則に立ち向かう事と等しいのです!』


 リヒトがワンドライフルのアタッチメントを切り替え、ヴェルクと共に突っ込んで攻撃を仕掛けるも、まるで何かに阻まれたかのように光条と火炎球が空中に縫い留められてしまった。


「なんだよ!」

「重力のバリアだ、ありとあらゆる攻撃を容易く弾いてしまうって事だな」


 ヒオの矢の雨やアイリスの斬撃飛ばしも、果てやパロミデスとケイによる魔術砲の一斉発射も全て重力バリアに阻まれてしまう。


「どうにか出来ねぇのか!」

『僕達チャリオッツでデルゴラスの前面を一斉攻撃します、若干後ろのバリアが薄くなる筈なので、背中の魔鉱石を狙ってください!』


 パロミデス三機とケイが歩き始めたケイの前に陣取ると魔術砲の掃射を始め、一瞬でも時間を無駄にするまいと、アイリスとヒオ、そしてヴェルクとリヒトがそれぞれの場所からデルゴラスの背中を目指して走り出した。


「おおおお!」

「急げぇぇぇえええっ!」


 重力バリアの境界までもう少しという地点でデルゴラスの尻尾が地面へ潜り、行く手を阻むかの如く四人の近くの地面から先端が飛び出してきた。


「うおあっ!」

「があっ!」

「きゃあっ!」

「うぐっ!」


 地面から屹立したデルゴラスの尻尾は、吹き飛んだ四人へと追い打ちを掛けるように魔鉱石のエネルギーを込めた光線を放つ。


「くぅっ! ああっ!」


 ヒオが放った矢から展開したバリアが光線を一時遮断するも、容易く破壊されて地面に一筋の線を描き、そこが連鎖爆発を起こした。


「ぬあああああっ!」


 四人は大きく吹き飛んで倒れ、今自分が何と戦っているのか骨身に刻み込まれた。



 

「自然界の法則を相手にするのと等しい……か。神の名を冠した獣なだけある」

『リヒト、融合だ。もはや人の手には負えない』

「そう……いや、ちょっと待ってくれ」


 一瞬あり得ないものが目の中に飛び込み、振りかえったリヒトは絶句してしまう。


「あ……い……あう……えぇ⁉」


 二人の少年が揺れる地面に耐えながらどこかを目指して歩いている、しかもその少年の片方はギデオンだった。


「おい! こんな所で何やってる!」


 リヒトは驚愕のあまり口調が荒くなり、それを聞いた二人は心臓が縮み上がらん程に驚いて飛び上がる。


「ああ、なんだ。リヒトさんか」

「なんだじゃないだろ! 君達……学校は? いや違う! 何でここに居る?」

「僕のお父さんがデルゴラスを目覚めさせちゃうんじゃないかって……心配で見に来たんです!」


 どうやらギデオンの連れはレジーらしい。


「君がレジーか、うぅ……わかったこうしよう、僕が君達をお父さんの所に連れて行く。絶対に離れるな」

「いいんですか⁉」

「なんだ? まともな装備が無い子供二人だけで、揺れる地面と降り注ぐ岩石の中お父さん探すか?」

「ご一緒させていただきます……」


 リヒトは現在の位置とコントロールルームの距離を把握すると二人を先に行かせ、自分はその後ろから飛来する脅威を排除せんとワンドライフルを構えてついて行く。


「なるべく姿勢を低くするんだ、岩が飛んで来るぞ」


 十数分かけてコントロールルームに着き、丁度シェルターへと向かおうとしていたフレッドに合流した。


「レジー!」

「父ちゃん!」


 フレッドは何故かここに居る息子に困惑していたが、とりあえず抱き着いてきた息子の頭を撫でる。


「父ちゃん無事で良かったよ……でもデルゴラス様……怒っちゃったね」

「ああ……覚悟はしていた。恩を仇で返したようなもんだからな」

「フレッドおじさんのせいじゃないっすよ! 全部あのいけすかねぇ眼鏡野郎のせいだ!」


 そうこうしていると、誰よりも取り乱して騒ぎながら逃げているロドリゲスがこちらに向かって逃げてきたのが見えた。


「あっ! テメェ!」


 ギデオンはロドリゲスにタックルを見舞い、フラフラと走っていたロドリゲスは簡単に転倒してしまった。


「な……なんだこのガキは!」

「俺が誰かとかはどうでもいい! それより見ろ!」


 ギデオンはロドリゲスの胸倉を掴み、怒りに任せて大暴れするデルゴラスとエクスレイドの戦いの様子を見せつける。


「お前のせいで! お前のせいで今こうなってるんだぞ! お前が無理に開発案なんて通さなければこんな事にはならなかった!」


 子供とは思えない気迫でギデオンはロドリゲスに向かって吠え立てる。

 

「今どれだけの人が危険に晒されてると思う! 今戦ってるエクスレイドには俺の姉ちゃんも居るんだよ! お前がフレッドおじさんの手を汚してデルゴラスを怒らせたせいでこうなってんだ! なのにみっともなく人一倍喚きながら逃げやがって!」

「こ……こんな事になるとは思わなかったんだ! 仕方ないだろう!」

「父ちゃんとみんなは散々あんたに反対して警告してたじゃないか! 耳を貸さなかったのはあんただろ!」


 それでもなお不貞腐れた態度を改めないロドリゲスに激怒したギデオンが思い切り拳を振り翳すも、リヒトが腕を掴んで制止した。


「リヒトさん!」

「いい、こんな奴殴ったって仕方ないだけさ」

 

 ギデオンの手を離させ、リヒトは四人を安全な場所に避難させようとした所、デルゴラスがこちらに気付いて射貫かんばかりの鋭い眼光を浴びせてきた。


「ひっ……ひいいぃ!」

「デルゴラスは誰が今回のコトを起こしたかはっきり理解してるみたいだな」


 ロドリゲスを見据えたデルゴラスは地面に手を翳して巨岩を引き寄せるとデルゴラビティによって投げつけてきた。


「ああああああっ!」

『ソルティア! 頼む!』

『わかった!』


 リヒトの背後からエメラルドグリーンに輝く巨大な腕が現れて巨岩を粉砕し、何とか事無きを得たものの、ロドリゲスとレジーが腰を抜かしてしまった。


「フレッドさん、レジー君を頼めますか」

「え、ああ! 勿論ですとも、息子ですから」

「おいほら立て、大の大人だろうが!」


 ロドリゲスを立たせてからリヒトは四人と別れ、物陰に隠れてスパークルトランサーを出現させる。


「勝てるかは分かんないけど……やってみるしかねぇ!」

『あのバリアを破るにはエーテルバーストが良いかもしれない』

「わかった!」


 真珠色のジェムを装填し、レバーを押し込んで拳を掲げた。


「ウオオオオオオッ‼」


 リヒトとソルティアの魂が融合し、体が光に包まれて大きく強く変わっていく。


 


 チャリオッツが激しい攻撃を加えている間、アイリスら三人はデルゴラスの背に近付こうとするものの、重力バリアに阻まれて全く身動きが取れないでいた。


「これで薄くなってるの⁉」

「原理が……重力操作だからな! 僅かに強くするだけでもひとたまりもねぇってこった!」


 悪戦苦闘しつつもなんとか道を開こうとしている最中、上空彼方の一点が光り輝き、そこから一筋の流星が飛来してくるのが見えた。


「あれは!」


 流星は徐々に大きくなり、光を纏った人型に変わる。


「ラクスだ!」

「来てくれたか!」

「オオオオオオッ! ゼィヤァァァアアアアアアアアアアッ‼」


 足に炎を纏ったラクスがデルゴラス目掛けて急降下蹴りを見舞おうとしたものの、デルゴラスは重力波を放ってラクスを逆に吹きとばしてしまった。


「ヌゥンッ!」


 空中で体勢を整えて着地すると、両腕を広げて戦いの構えを取ってデルゴラスと睨みあう。


「フッ!」


 両者同時に走り出して腕を振りかぶり、ラクスは両手から放つ光弾スクリューバーンを、デルゴラスは魔鉱石の力を収束して口から光線を放ってきた。

 

「ゼヤッ!」


 両者の間に大爆発が起こった隙にラクスが畳み掛けて光線抜刀術・桜花を放つも、デルゴラスはそれを受け止めて威力を倍増して投げ返す。


「ゼッ⁉ フッ!」


 投げ返された自分の技をラクスは受け止め、更に威力を上乗せして今度こそ決めるべく投擲する。


「クオォッ‼」


 しかしまたもや投げ返され、ラクスは胸に光弾を受けて吹き飛んでしまった。


「ラクスが競り負けた!」


 何とか片膝立ちで起き上がったラクスは、腕を振って光の刃クラッシャーエッジを立て続けに放つも、全て重力波で撃ち落とされてしまう。

 


「ダメだったか……」

「ブリザニングだ、得物が使えるか試してみようぜ」



 ラクスはエーテルバーストからブリザニングに形態を変化させると、超高速でデルゴラスの周囲を回り、グリッドミサイルマイトを連射する。


「あの爆発ならバリアを破れるかもしれない!」

「援護したいけど……ラクスが速すぎて当たっちゃうかも」


 デルゴラスは重力波を放ったり、地面に突き刺した尻尾で攻撃しようと試みるも、あまりにもラクスが速く動くため捉えられずにいた。


「すげぇ、ラクスが押してるぞ!」

「いや違う、これで拮抗だ。ラクスの方もデルゴラスの重力バリアを破れず攻め込む機を伺うしかないみたいだ」


 ついに痺れを切らしたラクスはグリッドミサイルマイトと同時にラピッドバレットを放ち、同時にミサイルマイトをスパークランスに変化させてデルゴラスのバリアに向けて振りかざす。


「ゼェイヤッ‼」


 凄まじい反発を無理に抑え込んでラクスがグリッドスパークランスを振り下ろすと、ついにデルゴラスの重力バリアに切れ込みが入り、そのまま自壊してしまった。


「バリアを破った!」

「ゼッ!」


 グリッドスパークランスを振り下ろした勢いを利用し、ラクスは遠心力を乗せた斬撃をデルゴラスに叩き込もうとするが、デルゴラスが手を翳した途端まるで戒められたかのように動かなくなってしまった。


「ンンッ⁉ ヌゥンッ!」


 デルゴラスが手を動かすとグリッドスパークランスの穂先が上を向き、それに伴ってラクスの胴体に大きな隙が出来てしまう。


「まずい! 逃げてラク……」


 ヒオが言い終わる前にデルゴラスの角から強烈な光線が放たれてラクスの胸に直撃し、グリッドスパークランスを取り落しながら大きく吹き飛ばされて倒れ伏した。


「ギヨワァッ! アアアッ!」



 ラクスの精神世界内部で胸を押さえて片膝をついたリヒトは、自分の胸を強く叩くと頭を振って立ち上がる。


「液状化して逃げようとしても……ダメだった」

「体ごと重力操作で抑えつけてきたな」

「最後に残るは……力技のみ!」


 グランサンダージェムを装填し、レバーを押し込んで風と大地の力を開放する。


「大地と風の力! 味わってみろ!」



 再び形態を変化させてグランサンダーとなったラクスは、拳を打ち鳴らすとデルゴラス目掛けて走り出し、これに対しデルゴラスは一際強烈な重力波を放つも、グランサンダーの装甲は簡単に弾き返してしまう。


「ゼェルァッ!」


 ラクスは強烈なチョップをデルゴラスに浴びせ、ここでようやくデルゴラスが怯んだ。


「デルゴラスが!」

「後退した!」


 しかしデルゴラスも黙ってはいない、重力波を自分の拳に纏ってラクスを殴りつけ、続け様に体をぐるりと回して尻尾を叩きつけてまたもや吹き飛ばしてしまった。


「ギヨワッ!」


 ラクスが身を起こすよりも早く、デルゴラスは地面から複数の巨岩を浮遊させると、ラクス目掛けて投げつける。


「フッ! ヌゥオッ!」


 即座に地面を転がってラクスは第一陣を(かわ)し、やって来た第二陣をトライスラッガーで次々と切り裂き、第三陣も額から放つ磁力光線のマグメーザーで粉砕し、更に威力を上げてデルゴラスの左肩の魔鉱石を撃ち抜いた。


「あっ!」


 魔鉱石は割れこそしなかったものの、デルゴラスにとっては無視できないダメージだったようで、左肩を押えて苦悶の咆哮を上げる。



「今だリヒト!」

「ああ!」


 リヒトは側頭部に人差し指と中指を添えると、デルゴラスに向かってテレパシーを飛ばした。


「デルゴラス、聞こえるか? 僕は今目の前に居る巨人だ、攻撃したことは悪いと思っている、申し訳ない。差し出がましい願いだとは思うが、どうか怒りを鎮めてはくれないだろうか」


 デルゴラスの返答はない。


「彼らも悪気があってやった訳じゃない、仕事として上司に命じられたからやったんだ。それが結果的にあなたの眠りを妨げてしまった、この引き金を引いた男は、自分の選択を最後まで悔いていたんだ……どうか頼む、暴れるのはやめてくれ。何より僕は……あなたと戦いたくない!」


 リヒトの必死の呼びかけにも、デルゴラスの返答はなかった。


「ダメか?」


 ソルティアの焦りを感じつつ、リヒトは懸命にテレパシーを送り続ける。



 揺れが収まり、ラクスとデルゴラスが突如動かなくなったことで、この戦いを見ていた全員は周囲を見回しながら困惑の表情を浮かべる。


「急に……静かになったぞ」


 その時、レジーがフレッドの元から駆け出し、デルゴラスに向かって声の限り叫び出した。


「デルゴラス様~ッ‼ 聞こえてますか~ッ!」


 そのままレジーは両膝をついて土下座の体勢になると、続けて叫ぶ。


「父ちゃんは、ずっとこの計画に反対してました! けどいざやるって段になったら他の人の手を汚さないように、自ら引き金を引く役割を申し出たんです! ここの人達も! 父ちゃんも! みんなみんなあなたを信じて感謝してきました! お願いします! 怒りを鎮めてください!」


 息子の様子を見て居ても立っても居られなくなったフレッドも隣で土下座の体勢になってデルゴラスに向かって叫び始めた。


「デルゴラス様! 掘削魔術砲の引き金を引いたのは私です! 私の事はいいので……息子と同僚達は見逃してください!」


 二人の男の声が、静まり返った採掘場に響き渡る。


「あっ! おい!」


 ギデオンが目敏(めざと)くろりそろりと逃げ出そうとしていたロドリゲスの襟首をつかんで引き寄せ、覚えたての身体強化魔術とリヒトに以前教えてもらった投げ技でロドリゲスを地面に転がしてしまった。


「二人が謝ってんだ! 何テメェだけ逃げようとしてやがる! お前も謝れキンキンメガネ!」


 ロドリゲスはギデオンとデルゴラスを交互に見てからデルゴラスの方を向き、土下座して絞り出すような声で謝罪の意を述べた。


「頼むよデルゴラス……もう暴れないでくれ」



 この三人の行動はリヒトにも届いており、それを受けて更にテレパシーを送る。


「今の見ただろ? これ以上は何も生まない。ここいらで矛を収めてくれ」


 これでもデルゴラスからの返答はなく、もう一度呼びかけようとしたその時の事。


『もういいでしょ、デルゴラス』

「え?」


 誰かがテレパシーに割り込んで来た。


『君の怒りは十分伝わった、これ以上やると死人が出る。誰かを傷つけ命を奪ってしまうのは、君の本意じゃないでしょ?』


 声はまだ幼い少年のものだったが、不思議な事にその声には威厳があった。


「……王よ、目醒めていらしたのですか」


 低いがどこか優しげな男声がする、きっとデルゴラスのものだろう。


「星の戦士よ、加減を誤り痛めつけてしまったな。すまなかった」


 まさか謝罪されるとは思わず、リヒトは肩透かしを食らった気分になった。


「少し……弁明させてはくれないだろうか」

「あっ、ああ、どうぞ?」

「私は眠りを妨げられたから(いか)ったのではない、部下の心や思い、そして諫言を無視し私欲の為に動いた者に対し怒ったのだ」


 リヒトは目を見開いて食い気味に言った。


「じゃあ最初からロドリゲスにお灸を据える為に?」

「ああ、そもそも私は誰にも大怪我を負わせるつもりはなかった」


 思えばデルゴラスの力ならば積極的にデルゴラビティを発動すればチャリオッツどころか採掘場全体をひっくり返して押し潰し、魔鉱石の力を開放して光線を放ってしまえばアーブファクトを壊滅せしめることが出来ただろう。

 だがデルゴラスはそうしなかった。


「そうだったのか」

「一応ヤツは反省はしているようだから、私は大地へと帰る事にする。迷惑をかけたな」

「いやいや、大丈夫ですよ」

「ありがとう星の戦士よ、次会う時は共闘したいものだな」


 デルゴラスは去るべく背を向けようとしたが、すぐに振り返ってテレパシーを飛ばしてきた。


「そうだ、迷惑料としてこれを受け取ってくれ」


 デルゴラスの魔鉱石と手から金色の光が放たれてラクスのメテオシンボルに吸い込まれ、リヒトの手に光が収束して一つの物体を生成する。


「これは!」

「スパークルジェム!」


 属性が秘められた形態変化用のスパークルジェムとは異なり、宝石部分に突起が生えている。


「私の力を封じ込めた、必要に迫られれば使うと良い」

「ワオ……マジかよ」


 まさかのギフトにリヒトはニヤケが止まらない。


「その力をハイポリアの守護に使ってくれるのならば本望だ、私は滅多に出て行けぬ身だからな。それでは本当の別れだ、また会おう」


 デルゴラスは尻尾で地面に穴を開けると、背を向けてその中へと入って行き、ラクスもそれを見て上を向き、空の彼方へ飛び去るのであった。


「ゼワッチ!」



 

「なるほど、そうだったのか」


 リヒトから顛末を聞いた一同は、感心したように頷く。

 

「まあ確かに、今思えばデルゴラスってだいぶ手加減してたんだな」

「あれで手加減って本気でかかればどうなってたのよ……」


 森育ちのヒオにとって、今回初めて大地の世界に触れた事になる。

 森や街とのギャップに衝撃を受けるのも無理はない。


「だったらギデオンがロドリゲス鉱山長を謝らせたのって効果的だったのかもしれませんね」

「お手柄という事だな」

「お手柄ならこんなに殴られたの納得行かないんだけど……」


 ギデオンはウェンディから拳骨を喰らい、複数段のアイスクリームのようなたんこぶを(こしら)えていた。


「当たり前よ、危険に近付くなって何回も教えてるのにこんな事するんだから! お姉ちゃんだって面倒見切れないからね!」

「まあまあこれ以上怒らないでやってよ、友達を思っての行動だし、結果論とはいえ無事だったんだから」


 リヒトの取り成しでウェンディは落ち着き、それを見たギデオンは胸を撫で下ろした。


「なにはともあれ、全員無事で良かった! パロミデス小隊も大怪我はなかったようだからな」

「デルゴラスの優しさに感謝だな」

「そうだね、デルゴラスには感謝しないと」


 リヒトの戦いに、神獣由来の新しい力が加わった。

 それにテレパシーに割り込んで来たあの威厳ある少年の声、謎多き存在だがきっと味方になってくれるだろうと、リヒトは不思議な確信を抱いていた。


(この世界は、まだまだ色々ありそうだな)


 これから自分とソルティアを待ち受けるものは何か、好奇心をくすぐられながら、リヒトは夕日を眺めるのであった。



 

To Be Continued.

大地の番人デルゴラス。

厳しくも優しい大地と岩の化身のイメージで書きました。

新しく得たデルゴラスの力、果たしてどのようなものになるでしょうか、お楽しみに。

一応これで本作の第一章は終わりです、次回からは何が始まるかな?

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ではまた来週お会いしましょう!

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