空を往く者
今回現れたモンスターはあまりにも素早く、そして姿がはっきりと見えない謎多き存在だった。
リヒト達探査隊と、ラウンドナイツのトリスタン小隊も全く手が出ずお手上げ状態と化してしまう。
万策尽きたかに思えたその時、リヒトがとんでもないことを言い始めて……。
いつもなら今日もアーブ王国の平穏な日常の一部になるはずだった。
だがそれは青空を凄まじい速度で突っ切る謎の飛行物体により破られてしまった。
ただ飛ぶだけなら構わない、だが謎の飛行物体は時折地面すれすれにまで降下し、ソニックブームで周囲の物体を薙ぎ払うのだ。
爆風と衝撃波であらゆるものが破壊され、観光用の空飛ぶガレオン船がこの飛行物体に次々と襲撃され、アーブ王国の民は恐怖に包まれた。
この報せを受けた対モンスター国営組織エクスレイドは、事態を収束するべく早速調査に乗り出したのだが。
「ダメです。奴が速すぎて姿を捉える事が出来ません」
最高で音速の数十倍以上という驚異の速度で休みなく動き続ける存在を捉える事は、魔術を以てしても困難を極めた。
「既にギルモアス、ナヴェー連邦、アマティスタ学園都市、そしてエフェル・スタンドで奴が目撃されている。一刻も早く事態を収束させないと、ハイポリア全部が滅茶苦茶にされるぞ」
「ナヴェー連邦とエフェル・スタンド⁉ ハイポリアの東端と西端をこんな短時間で行き来するなんて……」
「奴の姿を捉えるには……どうにかして奴を止める必要があるな。それが出来たら苦労はしないけど」
「まるでレーヴァテインみたいですね~」
レーヴァテインとは北欧神話においてヴィゾフニルという雄鶏の怪物を殺すために必要な剣とされているが、これを作るにはヴィゾフニルの尾羽が必要とされるという矛盾を孕む武器である。
「いや、動きを止めるだけなら案外出来るかもしれねぇぞ」
「ヴェルク、何か思いついたか?」
「一瞬にはなりそうですけど、俺が考えた方法で行けると思いますよ」
かくして作戦はベースアヴァロンからベースキャメロットへ伝えられ、攻撃隊が招集された。
「今回は空の任務だ、そして敵の詳細も分からないまま戦いに挑む、だから稀に見る困難な戦いになるだろう」
バーンズが眉根に皴を寄せつつ腕を組んで十八名の隊員を見ながら、今回の任務に適した小隊を考える。
「……そうだな、トリスタン! 前に出ろ」
トリスタン小隊、全員人間の女性で構成された異色の小隊である。
彼女たち三人を見たバーンズはニヤリと笑って言った。
「困難な任務ほどお前達が燃えるのは俺もよぉ~く知ってる。だが油断するな? 今回は相手も分からないんだからな」
「わかっていますキャプテン。期待には必ず応えますよ」
「その意気だチャーリー、では行ってこい!」
送り出されたトリスタン小隊が任務の支度をしている最中、小隊メンバーのマルヴィナ・フレッチャーが眼鏡をかけながら小さく漏らした。
「ねえ今回……思ってるより大変そうじゃない?」
マルヴィナの弱気な発言に、同じメンバーにして彼女の幼馴染でもあるカリスタ・グレンが小さく息を吐いて肩を叩いた。
「大変そうじゃなかった戦いなんて、今までも無かったでしょ?」
「でも今までは探査隊の皆がどんなモンスターかある程度解明してから私達の出番だったじゃん? 今回は違う、相手の事を何も知らずに戦うのは危険だよ」
「まあ、そうか。でもね、探査隊の皆も出来ると信じて私達に今回の作戦を伝えて、キャプテンが私達に任せてくれたんだからさ。きっとうまく行くよ」
カリスタの言葉に頷きながら、リーダーのチャーリー・サトクリフがマルヴィナに兜を差し出した。
「マルヴィナ、君の懸念は正しいよ。そういう危険信号も任務には大事だ、けれど私達はエクスレイド。そういうのもどこかで乗り越えないといけない。今日も頑張ろう」
「はっ……はいっ!」
チャーリーは容姿端麗かつレヴュー風、いわゆる王子様系の容姿をしているため、隊を組んで一年と半年が過ぎても同性ながら時折ドキッとなる時がある。
「行こう、探査隊が待ってる」
「ええ、私達は違うって……ラクスなんかに頼らないでやれるって所を見せないとね」
カリスタの発言にチャーリーは少し危険なものを覚えたが、ここはあえて言わないでおいた。
探査隊と合流したトリスタン小隊は、早速準備に取り掛かった。
「聞いているとは思いますが、念のため僕から説明を。カリスタさんのGイゾルテとマルヴィナさんのWイゾルテがキャプチャーネットを空中に張り、対象が網に掛かったらチャーリーさんのトリスタンが後ろから、僕達のケイが下からキャプチャーネットを張り、奴を閉じ込める作戦ですね。かなり強く引っ張られるのが予想されますので、気を付けて」
それぞれ自分のイゾルテに乗り込んだカリスタとマルヴィナは空中へ向かい、機体下部に特殊魔術砲を展開して待機する。
「トリスタン準備完了」
『こっちも準備万端だぜ』
『奴の到達予測時間まであと五分』
魔術通信で流れる声を聞きながら、三人はグリップに込める力を強めていく。
「来た!」
遠方から凄まじい速度で迫る赤い物体が見え、一瞬でこちらに迫って来る。
「カリスタ!」
「ネット展開!」
GイゾルテとWイゾルテの特殊魔術砲から光の網が展開されて飛行物体はそれに引っかかるも、それでも無理に進むべく前へ向かおうとしたため、二機のイゾルテは大きく揺れた。
「なんて馬鹿力!」
「耐えなきゃ……耐えるッ!」
即座にトリスタンが動いて後ろを固め、ケイも下からネットを展開して完全に封じ込める事に成功した。
「二人ともよく頑張った! 探査隊! 奴について何か分かりましたか⁉」
『いや……なんだこれ!』
その未確認飛行物体は生物であるらしいことは分かったが、超高速で横旋回しているためどんな姿をしているか全く分からない。
『弾丸みたいに旋回してより遠くに行けるようにしてるのか』
前には進めないという事が分かった空飛ぶモンスターは、方向転換するとネットの内側をめちゃくちゃに飛び回って荒らし、耐え切れなくなったネットが破れ、逃走を許してしまった。
「アアッ!」
カリスタが悔しそうに自分の乗機の壁を叩き、チャーリーも眉根を顰めて遠くなっていく影を見送る。
『作戦の練り直しが必要だな』
その形状からバレットテイルと名付けられたモンスターへの新しい対策を練るべく、探査隊とトリスタン小隊は簡易テントを張って話し合いを始めた。
現状報告の後、有効な対策が中々出せずに停滞していると、リヒトがとんでもない提案をしたことで一同は驚愕してしまう。
「な……なんだって⁉」
「そんな……無茶だよリヒト隊員!」
チャーリーの制止に腕を組みながらリヒトは首を振って答えた。
「もはや奴を倒すにはどうにかして地上に叩き落とす必要がある。だからその役を僕がチャリオッツに乗って担うって言ってるんじゃないか」
「でもチャリオッツの中で最速なのは、私達が使うトリスタンモデルだ。バレットテイルは私達ですら追うのがやっとなのに、どうやってケイで追いつくんだい?」
「使うのはケイじゃない」
「じゃあ……トリスタンに?」
「いいや、トリスタンでもない」
皆が首を傾げる中、リヒトがイーライの方を見る。
「前に話してくれただろ? アレに僕が乗る」
「まさかっ……モルドレッドの事を言ってるんですか⁉」
平然と頷くリヒトにイーライは驚きを隠せない様子で頭を抱えた。
「ちょっ……ちょっと! さっきから聞いてれば、あなたチャリオッツを舐めてるんじゃないの?」
カリスタがリヒトとイーライの間に割って入り、半ば怒鳴りつけるように諭した。
「厳しい適性試験を乗り越えて私達はラウンドナイツになった。簡単に飛ばせると思わないで!」
「分かってる、その適性試験なら僕も受けた」
「えっ?」
「そうか、確かリヒト君は……」
イーライのクォーツパッドにリヒトの適性試験の結果が表示され、皆それを覗き込む。
「これって……」
「おいおい……マジか!」
なんとリヒトのチャリオッツのパイロット適正は最高クラスのSであった。
「リヒト、君はパイロット適正Sだったのか⁉」
共に戦ってきた探査隊やカリスタは勿論のこと、チャーリーやマルヴィナも驚く中、リヒトはフッと笑って言った。
「僕の母は航空自衛隊のパイロットだったんだ。適性が高かったのは多分血筋かな」
「そうだったんだ……ごめんなさい、怒鳴ったりして」
「いいや、やっぱり甘く見ていますよリヒト君」
今度はイーライがリヒトの前に出る。
「モルドレッドモデルは速度と空中軌道の試験の末に生まれたもので、ピーキーすぎてほとんど誰も乗りこなせない危険な機体なんです」
「だからこそ僕が行くんだ、この作戦を提唱した者の責任だから」
リヒトの強い意思を感じ取ったイーライは、引き下がる事しか出来なかった。
「分かりました……モルドレッドを持って来てもらいましょう」
モルドレッドが運び込まれ、リヒトはイーライから兜を差し出される。
「チャリオッツの操縦は試験機以来ですか?」
「そうだね、乗りさえすればあとは母さんの血が教えてくれる」
「万が一があればすぐに転移脱出してくださいね」
「ありがとう、行ってくるよ」
イーライから兜を受け取り、トリスタン小隊と共にリヒトはチャリオッツへと乗り込んだ。
「行こう、奴は今にもハイポリアを荒らして回ってる」
「ああ、お手柔らかに頼みますよ先輩方」
「先輩⁉ あぅ……頑張りますっ!」
マルヴィナに二本指でハンドサインを送り、リヒトはモルドレッドに乗り込んだ。
「モルドレッド、オールグリーン」
「ゴールド・イゾルテ、オールグリーン」
「ホワイト・イゾルテ、オールグリーン」
「トリスタン、オールグリーン……チャリオッツ、発進!」
空へ向かって行く四機のチャリオッツを見送り、探査隊は互いに顔を見合わせた。
「我々も合流地点に向かおう」
「了解ッ‼」
四機のチャリオッツは空を突き進み、火吹きイルカの港近くでついにバレットテイルを捉えた。
「リヒト隊員、調子はどうだ?」
「絶好調だよチャーリー、空を飛ぶってのは最高だね」
「調子に乗らないの、これからが本番なんだからね」
「私達が全力でサポートしますからねっ!」
「ありがとう……さあ、始めよう!」
四機同時にスピードを上げてバレットテイルへ追いつくと、一斉に特殊光子魔術砲を浴びせる。
しかしいかに特殊光子魔術砲が貫通力に優れたものとはいえ、バレットテイルはその全ての攻撃を弾いてしまう。
「硬い!」
「硬いだけじゃない、旋回する事で攻撃を弾いてるんだ」
「だったらこれを……喰らえっ!」
モルドレッドのノーズと両翼に二つある砲門が展開し、五つの強力な光条がバレットテイルへと直撃した。
「効いたか⁉」
バレットレイルの速度が明らかに落ち、どうやら苦しんでいるらしいことが分かる。
「カリスタ、マルヴィナ、特殊魔術砲の出力を向上! このまま畳み掛けるぞ!」
「了解!」
「魔力向上!」
トリスタン小隊が一斉に放った魔術砲がバレットテイルの尾部に直撃し、更にスピードを上げようとする前にリヒトが動いた。
「超幻想的高速軌道! GO!」
その瞬間バレットテイルをも凌ぐ速度でモルドレッドが動き、バレットテイルの前に躍り出る。
「最終魔術砲展開! クラレントッ……ブラスタァーッ‼」
五つの砲門が一斉に閃光を伴う魔術弾を放ち、バレットテイルの正面を撃ち抜く。
「行けた!」
「あんな無茶苦茶な軌道だけじゃなく、バック飛行もやりこなすなんて!」
モルドレッドはトリスタンモデルをも超える高速移動性能を持つだけではなく、瞬間的に複雑な軌道を描いて飛行する機能を併せ持っている。
よってパイロットには高度な技術は勿論の事、驚異的な反射神経や身体能力が要求されるため、イーライとバーンズによって汎用的ではないと判断され、不忠の騎士モルドレッドの名を与えられ半ば封印状態になっていた。
だがリヒトは母譲りの操縦センスと、ソルティアとの融合で向上した身体能力によってそれを乗りこなしているのだ。
しばらくクラレントブラスターを浴びたまま耐えていたバレットテイルだったが、頭部らしき場所で小さな爆発が起こった事で徐々に降下を始めた。
「高度が下がってる!」
「フェイルノートシューター起動!」
トリスタン小隊からの追撃を喰らい一瞬回転速度が落ちたものの、バレットテイルは向きを変えて先程以上に体の回転速度を上げて空中で静止した。
「なに⁉ こっちを見てる⁉」
「バレットテイルの回転速度……加速度的に上昇中ですっ!」
「これから何をするつもりだ?」
「さあね、けど恐ろしい事なのは確かさ」
ついに赤い体の色すら分からなくなる程高速旋回した後、衝撃波を放ってきた。
「うわっ!」
「くっ!」
リヒトは咄嗟に超幻想的高速軌道を発動して衝撃波を回避するも、バレットテイルは広範囲へ向けて何十発と衝撃波を放ってきた。
「なんなのこれは⁉」
「多分……ソナーだ!」
「ソナー⁉」
音波を放ってその返響でエサや障害物の位置を探るというコウモリやイルカ等に備わっている器官だが、バレットテイルの放つそれは攻撃力を備えた武器と化してしまったのだ。
「とりあえず避けつつ攻撃だ! フェイルノートレーザーで奴を囲みながら攻撃するぞ!」
「クラレントブラスタァーッ!」
トリスタン小隊によるフェイルノートレーザーと、超幻想的高速軌道を使用した状態であらゆる場所から浴びせられるクラレントブラスターに、バレットテイルも苛立ったのか上昇を始めた。
「逃がすな!」
四機がバレットテイルを追いかけるも、バレットテイルはUターンならぬVターンして方向転換すると真下の四機へ向けて衝撃波を放つ。
「くおっ⁉」
「ぬあっ!」
「ああああああっ!」
その余波で一時的に操縦が効かなくなり、この隙にバレットテイルがWイゾルテに向けて衝撃波を放った。
「いやっ!」
「危ないッ!」
モルドレッドが超幻想的高速軌道でWイゾルテを庇い、吹き飛ばされて海へと墜ちていく。
「そんなっ!」
「リヒト隊員!」
回りながら墜ちていくモルドレッドを嘲笑うかのように、バレットレイルは回転速度を上げていくのだった。
「クソッ! 油断した!」
どうにか体勢を立て直そうとしていると、右腕にスパークルトランサーが出現した。
『行くぞリヒト、私達の出番だ』
「そうだな、もうその時か」
リヒトはジェムホルダーからブリザニングジェムを取り出すと、スパークルトランサーに装填してレバーを押し込んだ。
「おおおおっ! ハァッ‼」
リヒトの体が輝きと共に炎と水に包まれていく。
バレットレイルが二発目の衝撃波を放ち、それがGイゾルテに直撃する寸前、何かが覆いかぶさってそれを防いだ。
「えっ……何?」
見上げると銀色の双眸を持つ巨人が、キャノピー越しにカリスタを見つめていた。
「ラクス!」
ブリザニングの状態で現れたラクスは振り返ってバレットテイルと対峙し、両手を握り拳にして戦いの構えを取る。
「待って! そいつは私達の……」
カリスタの声が届く前にバレットテイルがトリスタンに向けて衝撃波を放ち、それが届く前にラクスは高速で移動して自ら盾になってそれを防ぎ、間髪入れずGイゾルテに放たれた二発目の衝撃波は両腕のグリッドブレスを変形させたグリッドディフェンダーで防御した。
「ゼ……」
ディフェンダーを取ったラクスは高速旋回を続けるバレットテイルと睨みあい、しばらく膠着状態が続く。
「……」
ラクスとバレットテイルの二者間だけでなく、トリスタン小隊の三人にも緊張が走る。
「さあ……どう動く?」
トリスタンのキャノピー越しにチャーリーが呟き、しばらく空気中にバレットテイルの旋回音が響き渡っていたが、突如ターンして逃走を始めた。
「ゼッ⁉ ゼヤッ!」
ラクスは即座に追跡を始め、それにトリスタン小隊が追従する。
「速すぎ!」
「とりあえず限界まで飛ばすよ!」
空中で高速の追走劇が始まり、バレットテイルの軌道をラクスは正確に追いかける。
「ゼヤッ! ハァッ!」
両腕のグリッドブレスを光の刃グリッドスパークとして投擲し、バレットテイルを撃墜しようと試みるが、バレッドテイルは正確に回避してしまう。
「ハァァアアッ! トワッ!」
指を振り抜いて放つ炎と水の力を込めた誘導光弾であるラピッドバレッドを放つも、バレッドテイルの体が高速旋回している為それすら弾いてしまった。
「チッ! ソリッドレイすら弾くとはなんて奴だ!」
「明らかにモンスターの力が増大しているな」
養護施設に配慮しながら戦わなくてはならないというハンデもあったが、ズオーギランはラクスをも圧倒し、メテオシンボルが赤く輝くまでに追いやり、このバレッドテイルもソリッドレイを弾く程の防御力を持つ。
「だったら物理だ! グリッドスパークランス!」
グリッドブレスを取り出して合体させてグリッドスパークランスを作り出すと、逃げるバレッドテイルの前へ回り込んで切り裂こうとする。
「ギヨワッ⁉」
ランスを構えて振り上げた直前、バレッドテイルが軌道を変えてラクスにぶつかって吹き飛ばしてしまった。
「ウオオオオッ!」
ブリザニングはスピードに特化している形態であるため、防御力は他の形態に比べて落ちているのだ。
「リーダー! ラクスが!」
「救助するぞ! 特殊魔術砲展開!」
特殊魔術砲から光の縄が伸び、海へ落ちる寸前のラクスへと巻き付いて救助する。
「オォ……」
「良かった……うまく救助出来たね」
「落ちなくて良かったぁ」
「なんだ……ラクスも何でもできるって訳じゃないのね」
何とか持ち直したラクスは感謝の意を伝えるように頷くと、遠くなっていくバレットテイルを見上げた。
「ラクス、共に奴を倒そう」
今度は力強く頷いたラクスはグリッドブレスをグリッドミサイルマイトに変化させ、腕をバレッドテイルの方へ向け、トリスタン小隊も魔術砲の照準を合わせる。
「フェイルノートレーザー! 発射!」
「ゼェィヤアアアアアアアアッ‼」
フェイルノートレーザーとグリッドミサイルマイトがバレッドテイルに降り注ぐも、やはり高速旋回で全ての攻撃を弾き返し、逃走から一転こちらに向かってきた。
「どうやら本気で闘る気になったらしい!」
トリスタン小隊とラクスが身構えていると、突如雷がバレッドテイルを貫いて吹き飛ばし、高く鋭い鳴き声が響き渡った。
「ゼッ⁉」
「なに⁉」
「これって‼」
「一体どういう事だ⁉」
新しく出現した巨大な翼をもつ鳥型モンスターがバレッドテイルと睨みあっていた。
その鳥型モンスターは鋭い嘴と力強く巨大な翼を備え、頭部の五本の角は王冠を思わせる形状である。
「あのモンスターは一体⁉」
「攻撃しますか⁉」
『待ってください! 待って!』
イーライの必死な声が魔術通信から入り、三人は発射ボタンから手を放す。
『あれはただのモンスターじゃない……当代のハイポリアの神獣です!』
「しっ⁉」
「神獣⁉」
かつてハイポリアには様々な人型種族と、強大な力と高い知性を併せ持つモンスターである神獣が共存していた時代があり、その時代は繁栄を極めていた。
だが神獣の〝暴君〟の登場や、人が増えてきた事もあり、最後の神獣の王の崩御に伴って神獣達は蟄居し、長き眠りについてしまった。
「神獣が……眠りから醒めたのか!」
『彼は当代の天空を支配する神獣……空裂神獣バリードです!』
バリードは向かって来るバレットテイルを強烈な羽撃たきで吹き飛ばし、王冠の如き角から電撃を放って叩き落としてしまった。
『おーい、星の戦士と人間さんよ』
「この声は……まさかあの鳥が?」
『オウそうさ、目の前のデケェ鳥が俺だよ。俺は天を司る神獣バリード! よろしくな!』
まさかバリードが語り掛けてくるとは思わず、リヒトはラクスの精神空間で驚きの表情を浮かべる。
『いいか、俺があの島に奴を叩き落とす、お前さんはあの空飛ぶ戦車と協力して倒すんだ』
「倒す? 倒すってどうやって倒せば良いんだ⁉」
『一瞬に賭けろ、奴を倒すには一瞬の隙を突くしかない。それを見逃すなよ?』
一瞬に賭ける、やけに抽象的なアドバイスだったが、リヒトには何をすれば良いかすぐにわかった。
「ソルティア、エーテルバーストを使うぞ!」
「分かった、ジェムチェンジだ!」
ジェムホルダーから真珠のメタリックカラーのジェムを取り出し、スパークルトランサーに装填してレバーを押し込んだ。
「一瞬を……モノにしてやる!」
落ちていくバレットテイルを追っている最中、ラクスの姿が真珠色の粒子に包まれ始めた。
「ラクスが!」
土を削って巻き上げながら墜落したバレットテイルを追う様に真珠色の粒子に包まれたラクスが着地し、その粒子の中が輝いてラクスが姿を現した。
「これは……ラクスの四つ目の姿か」
このラクスの装甲の範囲はラディアンスと大して変わらないが、全体的に形状が派手になっており、装甲の各所にスパークルジェムと同じ真珠色のメタリックカラーが使われている為、より神秘的な見た目に変化している。
これがラクスの特殊能力に優れ、第五元素である空の力を秘めた形態、ラクス・エーテルバーストである。
「ハッ!」
ラクスが戦いの構えを取ると同時に、バレットテイルが起き上がって咆哮した。
「なにあれ? 本当に弾丸みたい……」
マルヴィナの言う通り、バレットテイルはまさに手足の生えた弾丸そのもので、それが咆えたり生物のように動いているのを見るとなんだか不気味な違和感を覚えてしまう。
「いや、おそらくあれは亀の甲羅のように頭を引っ込めている状態なんだ。つまり防御態勢でこれから顔を出すに違いない」
チャーリーの予測通り、バレットテイルの頭部の先端が五つに分かれて反対側に捲られ、やがてその顔が露わになる。
「これは! 奴は水棲生物だったのか!」
バレットテイルのその顔はイルカやシャチなどの水棲の哺乳類にそっくりであり、どうして衝撃波の如くソナーを発射することが出来たのかこれで納得がいった。
「ゼッ!」
バレットテイルとラクスが同時に走り出し、腕に備わった刃状の装甲でラクスを攻撃しようとしたバレットテイルだったが、その刃は空を切ってしまう。
「……瞬間移動した⁉」
自分の横に回り込んで腕組みしているラクスを見たバレッドテイルは怒りに任せて咆哮して、再び腕の刃を振り上げて向かうも、ラクスはまたもや瞬間移動して別の所に回り込み、腕を伸ばして指を曲げて挑発する。
それに完全に火が付いたバレットテイルは、再び全身を弾丸状に変えると、旋回を始めて滞空する。
「また突進する気⁉」
「いや違う……ラクスに一際強烈なソナー衝撃波を浴びせる気だ」
それを見たラクスは腕を下ろして拳を開閉した後で、肩の力を脱力する。
「何をする気なんだろう……」
「いずれにせよ、勝負はきっとこの一瞬でつく!」
バレットテイルの回転速度が徐々に上昇していくが、ラクスはまだ動こうとしない。
「……」
しばらく周囲にはバレットレイルの旋回音とトリスタンが出す魔法エンジンの音のみがしていたが、正確には七十三秒後、バレットテイルの出す音が微かに変わった。
「!」
その刹那、ラクスが粉塵を巻き上げながら足を大きく広げ、両手を左腰へと当てると腕を思い切り振り抜き、桜の花弁を思わせる無数のソリッドレイを放った。
「セッ!」
光の花弁は旋回しながらバレットテイルの放つ衝撃波を相殺し、更に残った花弁がバレットテイルの首と腕部の装甲を切り裂き、飛行能力を奪ってしまった。
「決まったな、光線抜刀術」
「まだ腕は錆びていなかったな」
光線抜刀術・桜花、格闘技のインストラクターであるリヒトの父の知り合いから体得した抜刀術に着想を得た技で、多彩な技を得意とするエーテルバーストと最も相性がいい技である。
先程の技は桜花の派生である桜花・乱舞であり、複数の花弁を同時に射出する事で相手の攻撃を相殺しつつ、複数の場所を切断することが出来るようになっている。
「神獣バリードの言った通り、僕は一瞬をモノにしたぞ」
リヒトはブリザニングになった際、バレットテイルが衝撃波を放つ瞬間に頭部を展開する事を看破していた、そこで挑発を続ける事でバレットテイルを苛立たせ、衝撃波を使わせようという作戦を立てた。
地上での戦闘では全てリヒトの作戦通り事が運んだのである。
「手間取ったが、最後のトドメだ」
「ああ、皆と決めるぜ!」
ラクスはトリスタン小隊の方を振り返ると、こちらに来るように手招きし、三人は自分の乗機を急行させた。
「最後は一緒にってことか!」
「ええ、確実に仕留める為にね!」
のたうつバレットテイルをトリスタン、Gイゾルテ、Wイゾルテが取り囲み、最後のトドメを刺すべく特殊魔術砲を展開する。
「皆準備はいいか? 最終魔術砲解禁!」
最終魔術砲の準備をしている横でラクスは両手を左上に伸ばし、右腕のみを動かして広げてから左腕を上に、右腕を水平に伸ばして全身のエーテルの力をチャージし、右腕を垂直に立ててエネルギーを開放する。
「クルテナ……ボンッバァーッ‼」
「ハァッ……ゼェイヤッ!」
トリスタンに備わった特殊魔術砲から放たれる強力なエネルギーを収束したクルテナボンバーと、第五元素エーテルの力を全て解放したエレメンツシャワーが直撃し、多くの人々を苦しめたバレットテイルはついに爆散してしまった。
延々続くと思われていたバレットテイルとの戦いが無事終わった事に、トリスタン小隊は心の底から安堵した。
「やったよ……バレットテイルを倒せた!」
「ふぅ……これで空の旅も一安心だね」
「ええ、それと……ラクスに感謝しないと」
カリスタは内心、ラクスの事が気に食わなかった。自分達が命がけでやってきた事を、万能かつ神の如き存在に横取りされたように思えたからだ。
だが今回共に戦う中で、彼も決して万能ではなく、自分達と同じように必死で命がけで戦っているのではないかと思うようになった。
「そうだね、ラクスに敬礼!」
チャーリー、カリスタ、マルヴィナは二本指を額に当てて敬礼を送るとラクスはそれを見て頷き、両腕を上げて飛び立って行った。
「ゼワッチ!」
トリスタン小隊はそれを見送ると、ベースキャメロットへと帰還するのだった。
ラクスは遥か空中へ向かい、そこで分離しようとした所、謎の空間に引き込まれた。
「おわっ! これは⁉」
手を見ると人間のもの、つまり強制的に分離させられたらしい。
「どうなってるんだ?」
「さあ……私にも分からない」
自分の横にエメラルドグリーンの光を放つ光球がある、ソルティアだ。
「僕とソルティアが分離して……いや、そんな筈はない。ここは精神世界か?」
「いや~ちょっと違う、俺の家だ」
リヒトが振り返るとあの突如現れた神獣バリードがおり、それを見たソルティアは光球の状態から姿を変え、女性的な姿の人型の光になり、目とメテオシンボルのみ他の色に変化した。
「いきなり連れ込んで悪いな、伝えたいことがあってお前さん達二人を呼んだ」
「あなたは……どうやら敵ではなさそうだ」
「とんでもない! 俺はあんた達二人に感謝したい。すぐにでも帰れたのに、わざわざここに残って災厄の化身どもを倒してくれてるのには、本当に頭が下がる思いだ」
バリードには敵意は無いどころか、むしろ友好的な反応を示している事に、リヒトはとりあえず警戒を解いた。
「早速本題に入ろう、今後お前さんやその仲間達が出会う俺の同僚についてだ」
「同僚? つまり神獣の事か」
「そう、ハイポリアの危機を察知してこれから次々と神獣達が目醒める。俺はこんな性格だけど、中にはその……カタブツも居るんだ。だから目醒めたばっかの頃はちと粗相があるかもしれんが、命までは取らないでやってくれないか。俺の大切な友達でもあるし、今後のハイポリアに必要なんだ」
「わかった、頭に入れておくよ」
「ありがてぇ! まあ粗相があった時は容赦なくぶん殴ってもいいからよ、俺が許す!」
リヒトはこのフレンドリーな大型鳥類の神獣が最初に出会った神獣で良かったとつくづく思った。
「あともう一つ、俺達の王についてなんだがね」
「王? ああ、ハイポリアの真の支配者っていう」
「そうだ、どうも最近になって新たな王が目醒めたようでな、俺はそれを感じて駆けつけたんだ」
リヒトはあまり肌身に感じないが、ヒオやヴェルクから聞く限り、ハイポリア人にとって新しい神獣の王の覚醒はそれは大層めでたい事らしい。
「王はきっとどこかに居る、だがまだ十全にその力を発揮できる状態には無い。だからもし良ければ、見つけ次第お前さんたちの仲間で保護してやってほしい、災厄の化身どもに王が殺されるような事になれば、ハイポリアの未来は閉ざされるだろうからな」
「ちょっと待ってくれバリード、災厄の化身どもってモンスターの事だよな? 何でそんなものが現れるのか分からないか?」
「あぁ~……そうだな」
バリードはしばらく考えた後、低い声でゆっくりと告げた。
「別の世界からやって来た宇宙の歪みが、この世界に潜んでいたおぞましいものと融合して生まれたものさ。これは俺達神獣とハイポリアの民が乗り越えるべき問題だ、だがここにお前さんが居る間は、どうか力を貸してくれないだろうか」
リヒトとソルティアは頷き、バリードはそれを見て満足そうな表情をした。
「ありがとうよ、昔の誓いでハイポリアの事は民に任せる事にしたからあまり出られないが、もし何かあったらすぐに駆け付けるからな。それじゃあまた会おう!」
バリードが翼を広げて飛び立つと、リヒトとソルティアの目の前が急激に明るくなり始めた。
気が付くとモルドレッドのコックピットの中で、小波に揺られて漂っていた。
「ああ、そっか。撃墜されたのか」
各計器を操作してとりあえず動く事を確認すると、上から聞き覚えのある魔法エンジンの音がした。
「おお、迎えに来てくれたのかか」
ケイのゴレムアームによってモルドレッドが回収され、リヒトも無事に帰還することが出来たのだった。
一時間後ベースアヴァロンの扉が開き、探査隊が自室に戻って来た。
「いや~今日はあんまり活躍できなかったね」
「それでも良いじゃないですか! 今日は神獣が見れたんだから!」
「そうだな、まさか生きてるうちに見られるとは」
「これからいろんな神獣も目醒めるのかな!」
「ええ、きっとバリード以外の六体と、神獣の王もきっと……うおっ!」
皆の目の前を何か高速で通り過ぎ、全員一斉に身構える。
「なんだァ⁉」
「小型のバレットテイル⁉」
「……ハハッ! 違うよ、ほらおいで」
リヒトが手招きすると、それは空中で回転しながら彼の頭の上に乗った。
「なぁんだ、ピースか」
リヒトの頭に乗ったピースはこころなしかいつもより笑顔に見えた。
「何か嬉しい事でもあったのかな?」
「モンスター同士として、神獣が目醒めたのが嬉しいのかな?」
ピースは言葉を返さず、元気よくぴぃと鳴くだけ。
それだけでも探査隊の六人は、今日一日の疲れが全て吹き飛ぶのであった。
To Be Continued.
初登場、ハイポリアの守護神獣です。
バリードのような神獣はまだまだたくさん居ます。
これから次々と登場していく予定ですのでお楽しみに。
ラクスのタイプチェンジはこの四種類のみですが、今後新たに出るかも?
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ではまた来週この時間で!




