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守護者の背中

モンスター災害で親を失った子供達の養護施設に向かったリヒト達は、子供達と楽しいひと時を過ごす。

だがそんな安息を打ち破るかの如くモンスターの襲撃が発生!

ヴェルクの故郷トゥルムの巨人族に伝わる悪魔の化身ズオーギランに似たそれは、児童養護施設へと進撃を始める。

果たしてエクスレイドは子供達を守ることが出来るのか!

 我々とは異なる世界に存在するハイポリア大陸では、近年狂暴かつ危険な性質を持つ巨大モンスターが次々と現れ、様々な人々の暮らしを脅かしている。

 そんな中、ハイポリア大陸の魔法技術開発を牽引するアーブ王国では、加速するモンスター災害に対抗するべく国営冒険者パーティ・エクスレイドを結成、汎用戦車型対モンスター魔術兵装チャリオッツをはじめとする魔法技術の粋と、厳しい試験を突破した精鋭が今日も危険なモンスターへ勇敢に立ち向かっている。


 だがエクスレイドの仕事はモンスターと戦う事だけではない、広報を置いてアーブ国民へモンスターに遭遇した際の対処法を啓発したり、学校等で避難訓練の指導、モンスターの生態研究などあらゆる角度からの対策に余念がない。


 今回探査隊が行う任務も、そうしたモンスターと戦う以外のエクスレイドの任務である。



 

「いやー、それにしてもエクスレイドがこんな事もやってるとはね」

「そっか、リヒトさん初めてですもんね~」

「終わるとクタクタになるけどよ、結構やりがいがあるんだなこれが!」


 スカイモードではなくグランドモードのケイで道を進んでいると、(クォーツ)ナビが目的地付近を告げた。


「もうすぐ着くってよ、後ろのガウェインと新人達もきっと待ちきれねぇだろうな」


 探査隊と攻撃隊(ラウンドナイツ)のガウェイン小隊とベディヴィア小隊が挑む任務とは一体何なのだろうか。

 

 

 しばらく道なりに進んだ後、門が見えてきた所でヴェルクはケイを止めた。


「あードモドモ、こちら探査隊のファブロ・ヴェルクです」

『ああ、いらっしゃったのですね! お待ちしておりました、お通り下さい』


 ケイを先頭にした七機のチャリオッツが門をくぐると、見えてきたのは児童養護施設。そう、今回彼らが与えられた任務は、養護施設への訪問である。


「フゥ、着いた着いた」

「私達いつぶりだったっけ?」

「うーん、半年ぶりじゃなかったですかね?」

「半年か、みんな元気にしてるかな?」


 チャリオッツを停めた探査隊の六人と、ガウェイン、ベディヴィア両小隊の六人は、施設職員の案内で別で建てられたホールへと向かった。


「では入ってきてもらいましょう! 今日来てくれるのはこの人達です!」


 十二人のエクスレイド隊員がホールの中に入ると同時に、子供たちの沢山の拍手が彼らを出迎える。


「今日を待っていた子達も多いんじゃないかな? エクスレイドの団員さん達に来てもらいました! じゃあみんな立ちましょう!」

 

 立ち上がってから職員の音頭でこちらへ挨拶をする様々な種族の子供達を見ながら、リヒトはふと元居た世界の事に思いを馳せた。


(彼女も……こんな光景を見ていたんだろうか?)


 月面での戦いの後でこのドリーム・ワールドに飛ばされた時、リヒトにはすぐに元の世界に戻るという選択肢が無い訳ではなかった。

 それでもここに残ったのは、モンスターと戦い続ける彼らを放っておくことが出来なかったからだ。

 その事に一切後悔は無い、だが元の世界に残してきた両親や地球防衛に携わっていた仲間たち、そして最も愛した彼女(ひと)のことを思うと、胸の奥から飲み込むことのできない何とも言えない感覚がせり上がって来る。


(元気にしてると良いけど……なんて思うのは流石に身勝手すぎるかな)


 そんな事を考えていると、子供たちのへの自己紹介で自分の番が回って来た。


「あら? このお兄さんとはみんな初めましてだね! じゃあ自己紹介してもらおう、お願いします!」

「初めまして、別の世界から転移してきたタツガミ・リヒトと言います。今日はね、いっぱいみんなと遊びたいと思ってます。よろしく!」


 その後新人であるミラとアルフレッドとマティアスが自己紹介した後、一緒に歌を歌ったり風船バレーといったレクリエーションをして交流を深めるのだった。



 

「こんな集団ゲームみたいなことやったの久しぶりだな」


 子供達との昼食後、次の子供達との自由遊びの時間に備えて一休みしていると、リヒトに声をかけてきた者が居た。


「よう」

「ああ、お疲れ」


 彼はガウェイン小隊の小隊長(リーダー)であるクリフ・アッシャー、所属する隊は違うものの、エクスレイドに入ったばかりのリヒトを何かと気にかけていた面倒見のいい好青年である。

 年が近い事もあってかリヒトはクリフとすぐに仲良くなり、今では休みが重なった日に一緒に飲みに行く仲である。


「どうだったか? 午前の部を終えた感想は」

「みんな元気だね、まあ元気なのは一番なんだけどさ」

「そうだなどんな子供であれ元気なのが一番の財産だぜ」

「ここの子達がどんな子達かは話に聞いて心配だったけど、それを吹き飛ばすぐらいのやんちゃっぷりだったね」


 実はこの児童養護施設、エクスレイドが設立に関わっている。

 というのもここで暮らしているのは、モンスター災害で親を亡くしたり、またそれに伴って養育が不可能な状況になってしまった子供達が暮らす施設なのだ。


「まあ俺達が来た時はそう見えるけど、ウチのカイが言うにはそんな事ないみたいだな。抱え込んでる子は普段おくびにも出さねぇけど、結構いろいろ考えてる」

「そっか、子供とはいえ……いや、子供だからこそ色々考えてるんだろうね」


 パス=カイ、クリフが率いるガウェイン小隊の一員の物静かな男だ。

 ノクス・アールヴである彼は故郷の森を襲ったモンスター災害によって両親を失っており、似た境遇のここの子供達を気にかけて、仕事の合間を縫って定期的に施設を訪問しているのだ。


「僕達エクスレイドはモンスターを倒す戦士ってだけじゃなく、子供達にとってはある種のヒーローみたいなものなんだね。だから少しでもここの子供達の精神的支えになればいいと思う」

「良い事言うじゃん、大人に守られる実感ってのをしっかり味合わせてやらねぇと。確かにそれは俺達にしか出来ねぇ事だろうからな」

「ああ、これからが本番だぜ、へばるなよ小隊長?」

「誰に向かってモノ言ってんだ! 俺はガウェイン小隊のリーダーだぞ?」




 子供というのは不思議なもので、午前中あれだけ体を動かしたのにもかかわらず、ちょっと休んだだけで体力が回復する。

 地球防衛に携わるようになる前は宇宙飛行士の選抜を通過していた事もあり、リヒトは体力にはかなり自信がある方だが、子供の無尽蔵の体力の前には敵わない。


「リヒト兄ちゃん! 打ってよ!」

「僕が最初か! よぉし……かっとばすぞ」

 

 ハイポリアではクリケットと魔法を組み合わせた『マジケット』という伝統的なスポーツが存在する。

 基本的にクリケットとルールは変わらないが、最大の相違点は魔法の使用が認められている事だ。

 勿論怪我への配慮やスポーツとしてのルール崩壊の観点から、使用できる魔法は公式ルールブックで定められており、ボールやベイルに直接魔法を当てたり、守備から打者(バッツマン)への体に直接作用するようなものは禁じられている。


「リヒトさん、頼みますよぉ」

「おうおう、任せろ」


 リヒトの相方の走者(ノンストライカー)として選ばれたのはベディヴィア小隊のマティアスで、守備の殆どは子供達である。


「いやークリケットなんて初めてやるな」

「マジケットだよぉ」

「リヒトさんマジケット舐めてたらヤバいっすよ? 魔法の妨害怖いっすからね!」

「大丈夫大丈夫、打って走る! 要はそれだけでしょ」


 余裕綽々にバットを構えるリヒトを見た投手(ボウラー)の吸血鬼の少年アーロが、ニヤリと笑って自慢の鋭い犬歯を見せる。


「全力で行くよ……オォラッ!」

「⁉」


 子供とはいえ吸血鬼のパワーが乗った投球はバウンドしながらも凄まじい速度でリヒトに迫り、全感覚を駆使してバットを振り抜くと、なんとバウンダリーに到達して4ランとなった。


「すっげー! 全然捕まえられなかった!」

「これで初めて⁉ やっぱエクスレイドの団員ってすごいんだ!」

「そ、そうかな? それほどでも?」


 しかしこれはビギナーズラックだったらしく、その後十回程1ランを稼いだ頃にベイルを倒されてしまい、リヒトはアウトとなってしまった。


「いやービギナーズラックだったみたいだ」

(いやビギナーズラックで十回アウト取られないのすげーよ)


 その後マジケットは白熱に白熱を極め、あまりの白熱ぶりに室内で大人しい子供の相手をしていたアイリスが様子を見に来た。


「何かと思えばマジケットか。私も昔やったっけ」

「隊長もやりません?」

「いいのか?」

「アイリスさんも来るの⁉ じゃあバットどうぞ!」


 この空気では断る事は出来ない、アイリスはバットを受け取るとフィールドに立った。


「おお、相手(ボウラー)はキーフか」

「アイリス隊長が相手といえ、容赦しないよぉーっ!」

「フフ、私のバット(けん)捌きの神髄を見せてやろう」


 巨人族の少女キーフがボールを構え、アイリスはバットを構えて睨みあう。


「うぅっしゃァッ! 行けっ!」


 キーフの投げたボールが地面を削りながらバウンドし、アイリスの方へと迫る。


「ハァァァァァアアアアアッ!」


 クレイモアの素振りで鍛えた背中の筋肉が余すところなく動き、アイリスはバウンドしたボールを全力で下から上へ振り抜き、太陽に向けてかっ飛ばしてしまった。


「すっげぇ! シックス(ホームラン)だ!」

「ああ……さすがにアイリス隊長には敵わなかったかぁ」

「フフッ、こんなものさ」


 最初は得意げにしていたアイリスだが、敷地を超えた辺りから表情が曇り始め、裏山へ入ったのを見て完全に固まってしまう。


「し……しまった……」

「わぁお、隊長ってあんな顔するんだ」

「後で……取りに行くの……手伝ってくれ」

「了解」




 とんでもない大ホームランをぶちかましたアイリスに沸き立っていた子供達だが、突然地面が大きく揺れ出した。


「なんだ⁉」

「なになになに⁉」

「落ち着くんだ! 大丈夫だから!」


 リヒトとアイリスとマティアスは子供達を落ち着かせ、とりあえず身を隠せる場所に誘導しようと試みていると、モンスターの鳴き声と思わしき大音声が響き、室内からヴェルクとアルフレッドが駆け出してきた。


「モンスターが出たんですか⁉」

「分からない、だが近くに何かいるのは確かだ」

「とりあえず建物の中にこの子達を避難させよう!」


 皆で誘導していると、クォーツシーバーにウェンディから通信が入り、室内の子供達は安全な場所への避難が完了したと伝えられた。


「マティアス、アルフレッド、攻撃隊(ラウンドナイツ)を呼んで来てくれ! 今から原因を突き止め……」


 その時、施設の数百キロ先の山肌が割れて巨大な四本の牙が現れ、山を崩しながら巨大なモンスターが出現した。


「あれは!」

「とんでもない奴だ、一目でわかる」


 そのモンスターは全体的にゾウに似ていたが、天に屹立する巨大な牙が六本もある上、胴体は屈強なナックルウォークする類人猿のものであり、更に尻尾はムカデを思わせる形状で独立して動いているなどまさに異形そのものである。

 

「イーライに聞いてみよう」


 イーライと魔術通信を繋げ、モンスターが暴れている映像を見せる。


『あいつは……少し待ってください! 確か似たようなものが記録があります!』


 即座に写真と共に各種データが転送されてきた。


『エレフェンテピテクス。像頭の類人猿型モンスターです』


 確かに似ている事は似ているが、送られてきたエレファンテピテクスのイラストでは牙は二本であり、あんな変な尻尾は生えていない。

 しかも記述を見るとおかしな点がいくつかある。

 

「待ってくださいシュナイダー、こいつ何十年も前に絶滅したって書いてありますけど?」

「しかも生息地はグレート・ブルカ大火山の周辺とある……北と南で真反対ですよ?」


 ハイポリア大陸北端にグレート・ブルカ大火山があるのだが、アーブ王国は南端にある為、生息地域がまるっきり合わないのだ。


「おい待て、エレファンテピテクスつったか?」


 ヴェルクが長い鼻を振り回しながら山を崩し始めたモンスターを見ながら聞いた。

 

「確かなんだな? あいつはエレファンテピテクスなんだな?」

「分からないけど、多分その確率が高い」

「あいつ……多分ズオーギランだ」

「ズオーギラン?」


 ゆっくりとこちらを振り返ったヴェルクが、眉を顰めながら語り始める。


「俺の生まれはトゥルムでな、トゥルムじゃ巨人族がいっぱい暮らしてるの知ってんだろ? 俺の母ちゃんもそうだった」


 ヴェルクによると人の味を覚えた事で性質が変わって狂暴化し、悪魔の化身と恐れられたエレファンテピテクスの生き残りがおり、それがズオーギランであるという。


「実際の姿を見た奴は居ねぇ、俺含めて巨人族全員が伝説だと思ってたし、悪ガキにはズオーギランが来て食っちまうなんて脅しに使われてたぐらいだ。けどよ……ありゃどう見てもガキの頃の俺を震え上がらせたズオーギランそのものだぜ」


 伝説の悪魔の化身が突如出現し、児童養護施設へと襲来しようとしている。


「ここからは私が指揮を執る! 子供達の避難が完了次第チャリオッツで出撃だ!」

「了解ッ!」




 アイリスの指示で集合した一同は、まずベディヴィア小隊がグランドモードで庭に陣取って守護に回り、ガウェイン小隊はスカイモードでズオーギランを迎撃、ケイがそのサポートに回るという作戦が立てられた。


「人食いオバケ像め! 子供達には指一本触れさせはしねえぞ!」


 ハイポリア防衛に命を燃やす熱血隊員であるバイロンが、自分の乗機のガウェインを起動しながらこちらに迫り来るズオーギランを睨みつける。


「ああ、これ以上あの子達から何も奪わせるわけにはいかない」


 普段は物静かなカイも、この事態だけに熱量が高いようだ。


「ガウェイン、発進ッ!」


 三機のガウェインが暴れ回るズオーギランへ近付き、魔術砲の掃射を浴びせる。


「おいおい、なんて硬さだ、怯むどころか気付きもしねぇ!」

「だったらこいつだ! 太陽熱波魔術砲!」


 眩い熱線がガウェインから放たれ、これにはズオーギランも苛立ったらしく鼻と尻尾を振り回して叩き落とそうと試みる。


「効いてるぞ! 続けよう!」


 自分の周りを飛び回って攻撃を仕掛けるチャリオッツへの苛立ちが頂点に達したズオーギランは、尻尾の先端から寒波を放出し始めた。


「うおっ⁉」

「奴は寒冷地のモンスターだからな、火には弱いと……」


 顔を狙うべく正面へと回り込んだガウェインに、ズオーギランは鼻から炎混じりの熱波を放出した。


「どっちも行けんのかよ!」

「そうか、火山地帯の出身だから炎も氷も行けるってか! 厄介な奴だぜ!」


 尻尾から寒波、鼻から熱波を放出して暴れ回るズオーギランに苦戦するガウェインだが、そこへケイが割り込んできて混淆魔術砲マギ・カノン・ミクスチャによる穿孔魔術砲が撃ち込まれ、さすがのズオーギランも痛がって後退する。


「ガウェイン小隊! 一気にカタをつけましょう! 僕達とベディヴィア小隊で時間を稼ぎます! だから最終魔術砲ファイナル・マギ・カノンをヤツに叩き込んで下さい!」


 クリフ、バイロン、カイは同時に頷いて空高く機体を上昇させ、その間にケイと三機のベディヴィアが魔術砲でズオーギランを攻撃する。

 

最終魔術砲ファイナル・マギ・カノン解禁!」

「ソルエネルギー充填開始!」

 

 怒り狂ったズオーギランがベディヴィアに狙いを定めて走り出したその頭上で、三機のガウェインはさながら太陽を纏ったかの如く輝いていた。


「今だ!」

「ガラディーンバーストッ! ディスチャァァァァアアアアアアジッ‼」


 チャリオッツ全機の中で、最も火力が高いのはこのガウェインである。

 太陽の光を機体全体に纏って放たれるこのガラディーンバーストが直撃してしまえば、いかなるモンスターだろうと跡形もなく消え去ってしまうのだ。


 もっともそれは、直撃すればの話だが。


「なにっ⁉」

「嘘だろ⁉」


 ズオーギランは鼻と尾を頭上に向けると寒波と熱波を同時に放ち、それが合わさった灰色の光波をガラディーンバーストにぶつけてあろう事か霧散させてしまったのだ。


「冗談じゃないぜ! ガラディーンバーストを無効化しやがった!」


 この絶望的な光景は、ケイにも施設で待機していたヴェルク、ヒオ、そしてリヒトにも見えていた。


「イーライ! 何が起こったんだ⁉」

『まさか……マクスウェル・デーモン⁉』

「は⁉ マクスウェルの悪魔⁉」


 マクスウェルの悪魔とは、熱力学に関する思考実験に登場する存在であり、簡単に言えば分子を操作して温度差を作り出すことが出来るという存在である。

 まさかこの世界でその名を聞くと思わなかったリヒトは思わず聞き返してしまった。


『そうか、奴の放つ熱波と寒波はマクスウェル・デーモンと同じ働きをするんだ。それら二つを合わせる事で……ありとあらゆるエネルギーを虚無に還す光波を放つ! だからガラディーンバーストが霧散したんですよ!』

「なんて……デタラメな野郎だ」


 ヴェルクはいま、心の底から何故ズオーギランが悪魔の化身と呼ばれていたのかを理解した。

 人を喰らい、巨体を以て力任せに暴れ回り、悪魔の名を冠する技を使う。

 丈夫で長寿かつ勇敢、滅多な事では倒れない巨人族の先達ですらズオーギランを恐れた理由をたった今心から理解した。

 

 そんな奴が、今自分達が居る方向へ全力で走って向かってきている。


「だから……何だってんだ!」


 ヴェルクが愛用の巨大ハンマーを両手に持ち、こちらに迫るズオーギランへ啖呵を切る。


「来るなら来やがれズオーギラン! もう俺はベッドで震えるガキじゃねぇ! 守るモンがあんだよ! お前なんか逆に食ってやる!」


 ヴェルクの発言に更に怒ったズオーギランが牙から放電し、ヒオがすかさず前に出て矢を放つと、無数の矢に分裂して避雷針変わりとなる。


「そうよ! ここに居る全員! 誰もあんたを恐れていない! 悪魔如きに屈する私達(エクスレイド)だと思うなッ!」

「彼女の言う通りよ! 爆裂魔術砲発射ァッ!」


 ベディヴィアからの一斉砲撃を喰らってズオーギランは怯むも、怒髪天に達したズオーギランはドラミングしてこちらへ突進し始めた。


「来るぞっ!」

 


 

 皆が身構えたその時、眩くも優しい光が周囲に降り注ぐ。

 

「ゼヤッ!」


 聞き覚えのある掛け声が聞こえ、その光と共にやってきた者がズオーギランを吹き飛ばす。


「……おお!」

「ラクス!」


 吹き飛んで後退したズオーギランは頭を振って前を向き、自分と同じ大きさの巨人へ再び突進を仕掛ける。


「ンンッ!」


 ラクスはズオーギランの牙を掴みこれ以上の進撃を止めようと試みるも、容易く山を崩すような怪力を前に苦戦する。


「オオッ……ヌィワッ!」


 なんとか鳩尾に膝蹴りを叩き込んで後退させ、アストロイドボムを放つ。


「チィ……アストロイドボムでもダメか」


 アストロイドボムは鼻から放つ熱波によって相殺され、更にズオーギランは尻尾から寒波を放ちラクスはハニカムシャッターでそれを防ぐも、鼻の熱波を合わせてマクスウェル・デーモン・フォトンを放ってシャッターを消失させてしまった。


「ギヨワッ!」


 光波の直撃を喰らったラクスは吹き飛び、何とか立て直してリダブライズサークルを展開せずにスパークルシュートを放つも、同じくマクスウェル・デーモン・フォトンで無効化されてしまう。



「リヒト、なぜリダブライズサークルを展開しなかった?」

「あんなの全力で撃ったら施設に影響が出る!」

「そうか……どうにかして奴を施設から引き離さなくてはならないという事か」


 光線は悉く無効化され、その上ラクス・ラディアンスではズオーギランのパワーに競り負ける。

 更に背後には何としても守らなくてはならないものがあるのだ。

 決して負けるわけにはいかないこの戦い、果たしてリヒトはどのように切り抜けるのか。



 ズオーギランは益々猛り、長く力強い腕を広げてラクスへ襲い掛かり、ラクスはなんとか防御するも牙から放つ電撃を喰らって片膝をついてしまう。


「ギヨワッ……ヌィァァアアアアッ……」


 片膝をついたラクスにズオーギランが拳を振り上げて渾身の一撃を放つも、ラクスは咄嗟にハニカムシャッターで防御していなし、ハニカムシャッターでズオーギランの顔面を殴りつける。


「ゼヤッ! トゥワァーッ!」


 怯んだズオーギランの隙を見逃さずラクスは地面に手をついて足刀蹴りを叩き込み、アストロイドボムを直接ズオーギランの体へ叩き込もうとするも、尻尾の寒波を喰らって後退してしまう。


「ドゥワッ!」


 続けざまに放たれた熱波を喰らってラクスは倒れ伏し、その上にズオーギランがのって連続で拳を叩き付ける。


「アアッ……ギヨワッ!」


 ラクスのメテオシンボルが赤く変わった。

 リヒトとソルティアの魂の融合によって高次元から呼び出される無敵の戦闘用肉体(アバター)は、三次元宇宙上に数分間しか顕界することが出来ない。

 メテオシンボルの輝きが青から赤に変わるとき、融合可能時間の限界が迫っている事を示し、リヒトの魂は融合しているソルティアの魂によって焼尽して消滅してしまう。

 残された時間は僅かだ、立ち上がれラクス。




 ズオーギランに対して劣勢なラクスを見て、エクスレイドは苦い思いを抱えながらその様子を見守っていた。


「ラクスを援護するいい方法は無いの?」


 ズオーギランの皮膚は硬く、普通の魔術砲ではほぼダメージを与えられない上に、一定以上の威力を持つ攻撃にはマクスウェル・デーモン・フォトンで無効化される。

 おまけにラクスを圧倒する程の怪力を誇る、攻守共に隙の無い悪魔の化身と呼ぶにふさわしいモンスターだ。


「ラクスの活動限界時間が近付いてます、このままだとマズい!」

「最後の砦は……俺達って訳か!」

 

 エクスレイド全員が覚悟を決め、身構えたその時だった。


「ラクスーッ!」


 施設の方から子供達の声が聞こえ、見上げると窓から子供たちが顔を出して叫んでいた。


「頑張れ! ラクスはもっと! 強い筈でしょ!」

「俺達のヒーロー! モンスターをやっつけるヒーロー!」

「立って! あいつなんかギタギタにしちゃえ!」

「手からビーム出して! やっつけろ!」


 子供たちの声援が、吠えるズオーギランにも負けない程の声援が、青空へとこだまする。


「……一瞬でもいい、奴の隙を作り出す! ラクスを援護するぞ!」


 アイリスの言葉と同時に三機のガウェインがケイと並び立ち、魔術砲の照準をズオーギランの眉間に合わせる。


「ガウェイン、ベディヴィア、準備は良いですね⁉」

「いつでも」

「ええ、とっくに!」

「魔術砲……()ェッ!」


 岩石魔法により作り出された砲弾がケイから放たれ、それをガウェインとベディヴィアが背後から撃ち抜いて威力をより増し、ズオーギランの脳天に直撃する。


「よしっ!」


 狙い通りズオーギランはよろめき、苦悶の声をあげる。


「頼むぜラクス」

「立ち上がってくれ、あの子達の為にも」



 ラクスの精神空間内で、リヒトは大きく息を吐いた。


「皆の声……しかと届いたぜ」


 打ち据えられた痛みすら力に変え、リヒトは気合を入れて立ち上がる。


「僕は……必ず勝つ……まだ何も終わっちゃいない……これからが! 勝負だ!」



 ズオーギランが怯んだ隙にラクスは、その巨体を掴んで持ち上げながらついに立ち上がった。


「ラクスが!」

「立ち上がった!」


 メテオシンボルが赤く輝く際は活動限界を示す、だがそれだけではない。

 赤く輝くメテオシンボルに刻まれた古代文字の意味は強き力、この古代文字に込められた力により、ラクスは四倍もの力を発揮することが出来るのだ。


「ゼェェィイヤァアアアアアッ!」


 赤いメテオシンボルによって倍増した力でズオーギランを数十キロも投げ飛ばしたラクスは、跳躍してズオーギランの後ろへ着地した。


 

「さっきは散々やってくれたな、お返しにこいつでカタをつけてやる!」


 リヒトは銀色の縁に深緑色のジェムをスパークルトランサーに装填すると、レバーを押し込んでジェムに込められた力を開放する。


「おおおおおおおおっ! ハァッ!」



 ラクスが腕を交差したと同時に、その足元から宝石の混じった猛烈な竜巻が発生しラクスの全体を包み込む。


「あっ! あれは!」

「ラクスがまた変わるぞ!」


 輝きと共に姿を現したラクスは、重厚な鎧に身を包み、より強固でマッシブな印象を受ける形態に変化していた。

 これがラクスのパワーに特化した姿、ラクス・グランサンダーである。


「なんかあれ……強そうだぞ!」


 起き上がったズオーギランはラクスに殴り掛かるもラクスは微動だにせず、逆に拳を痛めてしまった。


「ハァッ!」


 ラクスは身を屈めて戦いの構えを取ってから、素早くにじり寄ってズオーギランを投げ飛ばし、倒れたズオーギランの尾を掴むとハンマー投げの要領で振り回す。


「すごい! どうやらグリアンゲロの時のと異なり、パワーに特化した形態のようですね!」


 遠心力をつけた状態でラクスはズオーギランを地面に叩きつけ、これまでいかなる攻撃でもダメージを受けた様子の無かったズオーギランは苦悶の叫びを上げつつも立ち上がって、ラクスへ牙からの放電を浴びせる。


「フンッ……ゼヤッ!」


 ラクスは胸部に受けた電撃を吹き飛ばすと、頭部の兜についた三つの鶏冠状の装飾に手を掛けると、ズオーギランへと手を振り抜いた。


「頭の飾りからなんか出たぞ!」

「風魔法に似たエネルギーのようです!」

 

 頭部の装飾から風のエネルギーで形成された刃を放つウィンドトライスラッガーは、ズオーギランの牙のうち四本を切断してしまった。


「アダマスナイフッ!」


 ラクスが叫んだ野太い掛け声と共に手刀が残った牙をへし折り、ズオーギランはあまりの痛みに周囲をばたばたと駆け回る。


「ハァッ……ゼヤッ!」


 再びトライスラッガーに手を掛けたラクスは、今度は風の力から派生させた雷の刃を生成し、三つの電光の刃をズオーギランへと投擲する。


「どうだ!」

「今度こそお願い!」


 しかしこれもマクスウェル・デーモン・フォトンで無効化されてしまい、ズオーギランは跳躍してラクスへ襲い掛かってきた。


「ヌゥンッ!」


 ラクスは飛び掛かるズオーギランの胴体目掛けて正拳突きを見舞い、その拳は腹の皮膚どころか背中を突き抜け、ズオーギランはかつてない程の激痛に叫び声を上げる。


「おお! やったぞ!」

「次で最後だ……頼むぞラクス!」


 腹を抑えてのたうち回るズオーギランに、ラクスは最後の一撃を放つべく太極拳のような構えを取った。



「リヒト、奴のマクスウェル・デーモン・フォトンはソリッドレイを無効化するが、実体には効果が薄いようだ」

「ああ、ビートプレッシャーウェイブだ!」



 太極拳のような構えからラクスはそのまま腕を回し、自分の前に輝く結晶体を形成し、まるで弓を絞るかのように右腕を引き、狙いをしっかりとズオーギランに定める。


「ゼェイヤァァァアアアアアッ‼」


 大地の力で作られた超硬質の結晶体を、風と雷と振動の力を使って放つビートプレッシャーウェイブがズオーギランに直撃し、ついに悪魔の化身は大爆発を起こしてしまった。


「よっしゃああああああっ!」

「ラクスの逆転勝利だ!」


 エクスレイドと子供たちは歓喜に湧き、ガウェイン小隊の三人はホッとしたようにシートに背を預ける。

 

「美味しい所取られちまったな」

「でもいいじゃないですか」

「……見てくださいよ、ほら」


 下を見ると、施設の子供たちの多くが喜んでラクスへ手を振っている。


「そうだな、これが最高の宝物だぜ」


 子供たちの笑顔を見届けたラクスは頷くと、空を見上げて手を伸ばした。


「ゼワッチッ!」


 空の彼方へ小さくなっていくラクスを見ながら、子供たちは手を振って感謝の言葉を声の限り贈るのであった。




 エクスレイドの協力もあり無事にズオーギランを倒した事で施設にはすっかり平和が戻り、むしろラクスとエクスレイドの活躍の事でズオーギラン襲来前よりも子供達は盛り上がっていた。


「美味しい所持って行かれたって思ってたが、案外俺達(エクスレイド)の活躍も見てくれてたんだな」

「結構見られてると思うとなんか緊張するよね」


 ラクスが放ったビートプレッシャーウェイブの真似をしたり、チャリオッツに乗っている様子を真似して遊んでいた。


「それにしてもなんでいきなりズオーギランが現れたんだろうね」


 突然現れてそれどころではなかった為、特に気にしていなかったが、ヒオの疑問もその通りである。


「そもそもエレファンテピテクスはグレート・ブルカ火山帯に住んでて、ズオーギランもヴェルクが言うようにトゥルムに住む巨人族の伝説なんでしょ? だったらなんで縁も所縁(ゆかり)もないアーブの山の中から出てきたんだろ?」


 確かにズオーギランの出現はおかしな事だらけである。


「まさか……」


 リヒトの二つの(まなこ)がアイリスの方へ向き、アイリスはびくりと身を震わせる。


「い……いやいやいや! あんなので目覚めるわけないだろ!」

「本当かなぁ? 案外あれが山に落ちた振動で……」

「やっ! やめろ! 私じゃない! 絶対私のせいじゃない!」


 マジケットの6ランボールでモンスターが目覚めましたと言えば笑い話だろうが、起こった場所が場所なため、もしもの事態があれば洒落にならない為アイリスも焦っている。


「隊長を揶揄わないであげてくださいリヒト君、それに原因は多分これです」


 後ろからやって来たイーライがアライグマのぬいぐるみを持って現れた。


「ん? それがズオーギランを目覚めさせたの?」

「お待ちを」


 イーライはリヒト、ヒオ、アイリスそしてクリフが見ている前でぬいぐるみの腹をナイフで裂き、中に入っているものを見せた。


「これです」


 アライグマのぬいぐるみに入っていたのは、何やら毒々しい雰囲気を放っているハートの形をしたペンダントで、一目で何かろくでもないものだと理解することが出来た。


「これが……ズオーギランを引き寄せてたってのか?」

「おそらくは。施設の子供が言うには、この前アウトレットモールに立ち寄った際、ピエロのメイクをした玩具売りから特別にプレゼントされたそうです。まあどこかで仕入れたのに混じっていただけだと思うので流通元を辿るのは難しいかと」

「子供達を危険に晒す真似しやがって……ろくでもねぇ事する奴も居たもんだ」

「何はともあれ、無事に事態が収束して良かった、今後ともこの子達と……この子達のような思いをする子供を増やさないように、お互い頑張って行こうじゃないか」


 リヒトの言葉にクリフが頷き、お互いの腕を絡ませて友情を確かめ合うのだった。




 ハイポリア大陸のどこかの商店が立ち並ぶエリアに、何も書いていない看板が掲げられた店がある。

 ショウウィンドウを見る限り、どうやらそれは玩具屋らしい。

 仄かな灯りはついているが店主の姿は表にはない、だが耳を澄ますと裏から若い女の声がする。


「ふーん、負けたのかお前さん。悪魔の化身の名が泣くぞ?」


 相手の返事はない、女は一体誰に話しかけているのだろうか。


「まあ星の戦士の新しい姿を見せてくれたのは良かった! じゃあまたいつか使ってやるからそれまで待ってろ」


 店のカウンターに掛けられたカーテンの仕切りから、ズオーギランの形をした木彫りが飛び出してカウンターに置かれた蓋の開いたビックリ箱に入り、バタンと音を立てて閉じられた。


「さてと、次のゲームを始めようか……グリウェも動き出したし、面白くなって来るぞ!」


 楽しそうな女の声が、店の中に響き渡るのだった。




To Be Continued.

タイプチェンジ二つ目。

グランサンダーは結構書いてて楽しかったですね。

ズオーギランも結構気に入ったのでまた再登場させたい処。

さて、最後に出て来た謎の女は一体?

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ではまた来週お会いしましょう。

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