ヴァンパイアハンターズ
イーライの魔道具保管庫で装備を強化したエクスレイド探査隊は、女吸血鬼カーミラとその手下のカルンシュタインの子供達が潜むベースキャメロットへ向かう。
カルンシュタインの子供達を退けたものの、ボスのカーミラは強敵だった!
カーミラを倒し、ベースキャメロットを取り返すことは出来るのか?
ギルモアスを中心にハイポリアを恐怖に陥れ、数年前突如姿を消した女吸血鬼カーミラが再び活動を開始し、エクスレイド攻撃隊ラウンドナイツの基地であるベースキャメロットを奇襲、その圧倒的な力で占拠してしまう。
絶体絶命かと思いきや、かつて彼女に作り出されたカルンシュタインの子供達の一人であるアルフレッドによって窮地を脱し、探査隊に助けを求めることに成功する。
今、エクスレイド及びハイポリアの明日は探査隊の六人に託された!
イーライ導きによりやって来た魔道具保管庫の光景を見て、皆はただただ言葉を失った。
見渡す限りの武器武器武器。リヒトとヴェルクは反射的に口角が上がっていた。
「イーライ、ここは一体……」
「エクスレイドの対小型モンスター部隊やダンジョン事案対策部隊の装備研究の為に作ったんです……半ば趣味と実益を兼ねたものですけどね」
「どうしてここに寄ったんだ?」
「僕達はこれから直接吸血を行っている吸血鬼と、そのダンピールが蠢く所にたった六人で向かわなくてはなりません。今の装備じゃ貧弱ですから、ここにあるもので武装してから行ってもらおうと思ったんです」
アイリスの問いに答えながら、イーライはクォーツモニターが埋め込まれた机に向かって手を叩いて皆を見る。
「さてと……一人一人来てください。必要な武装を僕が見繕います」
そうして真っ先にやって来たのはヴェルクで、まるで無邪気な子供のように笑いながら言った。
「いいモン見繕ってくれよ」
「当然です。まずオススメするのは……これですね」
机になっているクォーツモニターを叩くと二振りの武器が転送され、ヴェルクはそれを受け取ってしげしげと眺める。
「特殊メイスです。ヴェルク君の場合は体躯を活かした戦い方が良いでしょうから、狭い場所ではそちらを使うと良いでしょう……そして」
今度は手に収まるサイズのディスクとグローブが転送され、イーライはそれを持って説明する。
「これはアシスト付きのボディアーマーとチェインメイルです。これを胸につければ一瞬で展開します。そしてこっちが手甲」
「ただの手甲かよ?」
イーライがウィンクしたのを見て、ヴェルクは何かを察して頷いた。
「各種説明書は送付しておきますので、今のうちに読んでおいてください」
次にやって来たアイリスに、イーライは少し難しい顔をする。
「どうした?」
「そうだなぁ……隊長は隙が少ないんですよ。何か欲しい武器とかあります?」
「ふむ……遠距離攻撃手段と防御を兼ねた武器が欲しいな。フフ、欲張りすぎたかな」
イーライは笑って頷くと、モニターを叩いて巨大な盾を転送する。
「ありますよ。取ってください」
アイリスは感心したように盾を取り、グリップのボタンを押すと、盾が分割して銃身が覗く。
「シールドブラスターです。ワンドライフルと盾を一体化させてみました」
「痒い所に手が届くとはこの事か」
「最高の誉め言葉です……こちらもどうぞ」
手甲と脛当てを受け取り、アイリスは満足そうにシールドブラスターを眺めるのであった。
リヒトに促されてやってきたヒオは、少し不満げだった。
「どうしたんですか?」
「私は弓があるから良いのに……」
「そういう訳にはいかないでしょう。ヒオさんには近距離武器が必要です! アールヴなら……これかな」
そう言いながらイーライが取り出したのは、鎌のような形状をした二振りのナイフだった。
「おお、これって」
「アールヴが獲物を解体する時や護身用に使っているというナイフをイメージして作りました。どうです? これなら使ってもらえますか?」
「……そうね、私の負け」
ヒオは笑ってナイフを仕舞おうとしたが、イーライはそれを制止し、更に手甲を渡す。
「これは何?」
「ナイフとこれはセットです。弓を引くとき邪魔しないように指貫になってますよ。ついでに毒効果のある投擲用のディスクもつけときましょうかね」
結局色々と武装が増えた事に、ヒオは嬉しいやら複雑な気分になるのだった。
そして最後にやって来たリヒトは、イーライの前に来るなり言った。
「フルコースを頼む。最高級のやつを」
「用意してますよ、リヒト君にはいろいろ試してほしい武器がありますからね」
そう言うなりイーライが出したのは、二十センチ程の三股に分かれた金属製のブレードだった。
「前菜を飛ばしてまずスープから、ワンドライフル用の特殊バヨネットです。銃口に取り付けるとより強力な魔術弾を放ち、そして近接武器としても使えます」
「いいねぇ……魚料理は?」
イーライがモニターを押すと、極端に短い槍のようなものが出現した。
「伸縮自在のマジックパイク。穂先にも色々仕込みがありますよ」
「槍ねぇ……長物は好きだよ」
「ではいよいよ……メインディッシュの肉料理を」
まるでこれを見せるのを待っていたと言わんばかりにイーライが取り出したのは、もはや片手持ちの砲と言ってもいい巨大な銃口を持つ異質な銃型魔道具だった。
「おほほ……こらまたすごい武器だな」
「魔法陣砲サークルキャノン。内部に仕込まれた魔法陣から強烈な一撃を叩き込む……僕のお気に入りです」
試しに握ってみると銃身が展開して四つの補助銃身が現れ、排熱の為か銃各部のパーツが開く。
「結構癖のあるじゃじゃ馬ですが、それだけに使いこなせると強力無比です」
「気に入った、変形する所が最高だね。デザートは?」
イーライは目を細めて口角を上げると、机の下から手足用の防具を取り出した。
「リストレッグアーマーです。防御力は言わずもがな、仕込みがそれはそれは盛りだくさん」
「全部頼むよ、いいフルコースになりそうだ」
「ご賞味あれ」
直接戦闘を行う者全員に装備が行き渡った所で、イーライは更に人数分の追加装備を用意した。
「これ何だろ……コンタクトレンズ?」
「ええ、各種魔術センサーを可視化するものですが、今回の主な用途は視線による魅了対策の装備と思ってください」
「おお、おお、必須防具じゃねぇか」
アイリス、ヒオ、ヴェルク、そしてリヒトはコンタクトをした後、イーライから貰った各種武器を装備して準備を整える。
「似合ってっか?」
「パーフェクト、では行きましょう。僕達の仲間を救いに!」
それから三十分も経たないうちにベースキャメロットの前へケイが辿り着き、正面入り口に四人と一匹の影が降り立った。
「出来るだけ外部からのサポートに徹します」
「何かあったらすぐ連絡してくださいね!」
ケイに残ったイーライとウェンディにハンドサインを送り、四人は大きく息を吐いてベースキャメロットを見上げる。
「さてと、狩りとしゃれこもう」
「了解」
「ヒッヒッヒ……久しぶりの狩りだ」
「戦う相手を間違えた事、骨の髄にまで知らしめてあげないとね」
リヒトは肩にピースを乗せると、四人横一列でゆっくりと入り口のドアに向かって歩を進める。
「ん?」
硬く閉ざされていただろう扉がひとりでに開いた。
その有様はまるで、獲物を前にした巨獣の大顎そのものだった。
「誘われてるね」
「あえて乗ってやろう」
四人は立ち止る事なく歩みを進めてキャメロット内部に入り、広い玄関ホールで立ち止った。
「……」
聞こえる、幽かだが確かにクスクスというこちらを愚弄するような笑い声が。
「お出ましか」
瞬き数回の間にホール内は金髪の黒衣の美男美女に埋め尽くされ、薄闇の中にやけに映える白い歯がちらちらと瞬いている。
「ようこそ、ママの砦に」
「お前達がカルンシュタインの子供達か」
「知ってるんだ」
「なのに立ち向かってくると」
「馬鹿な奴ら、私達には絶対に勝てないのに」
クスクスという笑い声を響かせるも、探査隊が全く表情を変えないのを見て子供達は怪訝な顔をする。
「なんで余裕そうなの?」
「なんでって?」
「そりゃねぇ」
四人と一匹対圧倒的多数、数と能力の上では自分達の方が圧倒的有利である。
それなのに探査隊の余裕ぶりに、カルンシュタインの子供達の間に緊張が走る。
「そんなに殺されたいんだ」
「どうかな、試してみっか?」
そう言うなりヴェルクの両手の指全てから光弾が発射され、前に陣取っていた子供達を貫いて次々と子供達を負傷させる。
「撃ったぞ!」
「ヤバい! 何人か消えてる!」
初めて探査隊を脅威と認識したカルンシュタインの子供達は一斉に武器を取り出して縮地で散開し、この隙に四人は自分の武器を準備する。
「まずはホールを奪還する。目についた個体は全て駆除する勢いで臨め!」
「了解!」
一斉に上空から襲い掛かって来た子供達に向け、アイリスが斬撃を飛ばして統率を乱し、着地した所でシールドブラスターを叩きつけてバランスを崩す。
「余所見すんじゃねぇ!」
バランスを崩した子供たちの頭をヴェルクのメイスが粉砕し、これに怒った子供達は次々ヴェルクに群がって武器や牙を立てるも、ボディアーマーに阻まれて攻撃が通らない。
「ヴェルク!」
「目を瞑ってろ!」
ヒオの矢とリヒトのワンドライフルがヴェルクに群がるダンピールの群れを引き剥がし、無数のダンピールが縮地で二人へと押し寄せる。
「お気に入りを使わせてもらうぜ! イーライ!」
サークルキャノンから電光が迸って十人近い人数の子供達を蒸発させてしまった。
「……すっげ」
凄まじい威力に感動しながらリヒトは機能を切り替え、爆炎弾を放ってダンピールの群れを焼き尽くしていく。
「ひょろ長い方を先に殺せ!」
リヒトに向けて一斉にカルンシュタインの子供達が押し寄せ、ワンドライフルとサークルキャノンを駆使して耐久するも、押し寄せる波に銃だけでは耐え切れなくなる。
「ええいっ!」
リヒトが回避しようとしたその時、眼前に盾が割り込んで子供達の攻撃を防ぎ、薙ぎ払いで数人一度に吹き飛ばす。
「隊長!」
「半分引き受けた、私の後ろを頼む!」
「任せてください!」
背中合わせになったリヒトとアイリスは、自分達を取り囲むダンピールの群れと睨み合う。
「ハッ!」
「イヨッ!」
リヒトはワンドライフルのバヨネットにエネルギーを送り込み、槍のように振り回しながら突き刺し、次々とダンピールを葬っていく。
「ハッ! おおっ?」
今までリヒトの肩にしがみついていたピースが離れ、目から放つ光線でダンピールを牽制した後、角の間から放つ光条でまとめて数十人単位で塵芥に帰してしまった。
「クソッ! 退却!」
一斉に逃げ出したカルンシュタインの子供達に向けて追い打ちするも、数人を取り逃がしてしまった。
「こちらアイリス、ホールは奪還した」
『了解です、二手に分かれた後、片方はキャプテン・バーンズの救出へ向かってください』
イーライの指示でヴェルクとヒオ、アイリスとリヒトとピースに分かれ、ベースキャメロットの内部へ向かうのだった。
道中襲い来るダンピールを次々と撃破しながら進んでいると、ピースが突然何処かへ向かって飛び去ってしまった。
「なんだ? 何か見つけたのか?」
「ついて行ってみましょう」
ピースについて行くと物陰から大量のカルンシュタインの子供達が現れ、リヒトのサークルキャノンによって次々と撃ち抜かれ、残った者はアイリスによって盾で押し潰されてしまった。
「これを知らせたかったのか?」
しかしピースはそのまま進み、リヒトとアイリスはそれに従って進む。
「どうやらこの部屋に行きたいらしい」
ピースはドアをすり抜け、リヒトとアイリスは扉を破壊して中へ入る。
「やけに固められてますね」
「まるでバリケードみたいな……」
その時、リヒトとアイリスの首筋がぞわりと毛羽立ち、部屋のある一点へ銃を向ける。
「うわあっ! クソッて……えぇ? え?」
「……ロベルト⁉」
リヒトとアイリスの前に居たのは、ガレス小隊の小隊長ロベルト・ハスローであった。
「助けに来てくれたのか! クラーラ! ケラス! リヒトとアイリス隊長だ」
「本当に⁉」
「良かった……」
どうやらガレス小隊で固まって籠城していたらしい。
「お前達どうしてここに? 他の小隊は?」
「俺の判断で逃げたんだ」
ラウンドナイツはなんと一度カーミラに遭遇し、そのまま戦闘に発展した。
しかしロベルトは同じ種族としてカーミラの圧倒的な強さを感じ取り、即座にクラーラとケラスを連れて離脱したという。
「俺も吸血鬼だから、今でも直接吸血してるヤツの恐ろしさはよ~く知ってるんだ」
籠城した後は敵の襲撃を掻い潜りながら連絡手段の確保を画策していようだ。
「じゃあ他の皆は……」
「カーミラの瘴気に操られているものかと」
「生きてはいるんだな?」
「カーミラは何らかの目的で俺達を生かしているみたいなんです。グラキアスの見せしめがどうとか言ってたような」
グラキアスはアルフレッドのミドルネームである、どうやらキャメロットを狙ったのは、半ばアルフレッドへの当てつけもあるらしい。
リヒトは少し考えた後、三人のクォーツシーバーへ向けて魔術式を転送する。
「これで通信が強化されてイーライと連絡が取れる。まともに装備も無い状態だろうから生存を優先して発進ドックに向かってくれ」
「発進ドック? 出撃しろって?」
「カーミラの手駒がカルンシュタインの子供達だけとは思えない……もしかしたらモンスターを差し向けて来るかも」
それを聞いたガレス小隊の三人は姿勢を正し、再び武器を取って部屋を出た。
「ありがとう、本当に助かったわ」
「そちらも気を付けてください!」
「ご武運を!」
去って行く三つの影を見送った後、アイリスはリヒトに聞いた。
「モンスターを差し向ける可能性があると言っていたが、どうしてそう思うんだ?」
「吸血鬼は黒い犬を使役すると聞いたことがあります。もしかしてゲブライカンはカーミラの手先だったんじゃないかと、そう思ったんです」
「確かに……今朝から既にカーミラは動いていたのかもしれないな」
あるいはもっと早い段階から、カーミラはエクスレイドに目を付け、キャメロットを落とす方法を確立していたのかもしれない。
「敵は狡猾で強大だ、今でこそ何とかなっているが、いつ窮地に陥るともわからない。細心の注意を払って事に挑むぞ」
二人は武器をしっかり握り直すと、ベースキャメロットの薄闇へと果敢に向かうのだった。
一方ヒオとヴェルクは、クォーツシーバーの反応を頼りにバーンズの居場所を探していた。
「近いよ、ここをまっすぐ」
「だとしたらよ、この先めっちゃ金髪共が固まってると思うから俺が先に行くぜ」
「私の事守ろうとしてる?」
「ちげーよ、路地が広くないから俺の体に隠れて撃てば撹乱になるだろ?」
「あんた天才」と言わんばかりにヒオがヴェルクの腕を叩き、二人は場所を入れ替える。
「と言ってたら来たぜダンピール」
鉈や鋏、果てはベル砂漠の部族の狩猟用ナイフを持った大量の子供達が現れ、メイスを両手に構えるヴェルク目掛けて縮地で迫る。
「どぉらっ!」
ヴェルクがメイスに仕込まれたスイッチを押すと、ヘッド部分が射出されてモーニングスターのようになる。
「オラオラオラオラオラァッ!」
ヴェルクの膂力に遠心力が乗った衝撃が炸裂して次々とカルンシュタインの子供達が吹き飛ばされ、その後ろからヒオが矢を放って着実に数を減らしていく。
「デカブツの後ろに何か居るぞ!」
ついにヴェルクの後ろに居るヒオの存在に気付いた子供達は、コウモリや蟲に変身してヴェルクの後ろに回り込み、ヒオの前に立ちはだかる。
「ホワイト・アールヴか」
「|珍味《ホワイト・アールヴの血》ならママも喜ぶかな」
「人の事珍味呼ばわりとはいい度胸じゃない」
ヒオは弓を背に担ぐと、腰元から二振りの鎌型ナイフを取り出す。
「弓を使わないアールヴなんて……全く怖くないねッ!」
縮地で迫り来る子供達を前に、狩りで鍛えた動体視力を駆使してナイフを振い、首や頭を掻き切っていく。
「ハァッ! ラアッ! そぉりゃっ!」
鎌が文字通り命を刈り取り、子供達はヒオを侮った事を今際の際に後悔する羽目になった。
「ヴェルク危ないッ!」
ヴェルクの項に爪を立てようとしたダンピール目掛けてヒオがナイフを投げつけ、振り上げた腕に刺さったナイフに身を取られて壁に縫い付けられる。
「グウッ! クソッ!」
ダンピールがナイフを抜くよりも早くヒオの矢が心臓と脳天を貫き、跡形もなく消滅してしまった。
「フッ……」
向かってきたダンピールを粗方片付けた事を確認した二人は、バーンズ探しを再開した。
「助かったぜヒオ」
「今度何か奢って」
「花で良いか?」
「ヴェルクのセンスの見せ所ね」
そう言っているとある部屋に辿り着き、クォーツシーバーで反応を確かめる。
「ここだ、キャプテンはここ」
「開けるか」
閉ざされた扉をヴェルクが容易に引き剥がすと、椅子に縛られたバーンズと、その首に刃物を突き付けた二人のダンピールがいた。
「武器を捨てろデカブツと白アールヴ!」
「この毛玉男がどうなっても良いのか!」
ヴェルクとヒオは顔を見合わせると肩を竦め、ヴェルクは指先から光弾を放ち、ヒオは投擲用ディスクを投げつけて二人とも消滅させてしまった。
「よっ」
フライングディスクの軌道を操ってバーンズを戒めていた魔導縄を切り裂き、帰って来たディスクを取って腰に提げる。
「キャプテン・バーンズ、大丈夫ですか?」
「ああ……ヒオ隊員とヴェルク隊員か……助けに来てくれたのか」
どうやらここに居たダンピールに甚振られていたらしく、バーンズは少し疲れている様子である。
「大丈夫ですか?」
「なに、今までもっと修羅場を掻い潜って来たからな。この程度……ああ、ありがとう」
ヒオから受け取った薬草バーを噛み千切り、バーンズは一旦傷を癒す。
「どうして奇襲に気付けたんだ?」
「アルフレッドから聞いたんスよ」
「アルフレッドか……良かった、あいつは無事だったんだな」
どうやらバーンズもアルフレッドの事情は知っていたらしい。
「イーライがキャプテンと話したがっていたんですが、何か心当たりありますか?」
ひとつだけある、おそらく〝王の城塞〟の事だろう。
「まあ色々とな……」
「そうですか、これを」
ヴェルクはバーンズに会ったら渡すように言われていた転移術式が仕込まれた魔道具を渡すと、バーンズは少し渋った様子を見せる。
「俺だけ逃げるのは抵抗がある……」
「逃げるんじゃありませんよ、あなたにしか出来ない事をしに行くんです」
「俺達が全員仲間達を無事に救い出しますから。キャプテンは安心してイーライの所に行ってくださいよ」
二人の言う通りだ、大局的勝利の為にはやらなければならない事がある。
「わかった、俺の部下を頼む」
転移で消えてくバーンズを見送った二人は、クォーツシーバーに地図を表示する。
「それじゃあリヒトと隊長に合流して、親玉を叩きに行こうかね」
「そうね、ベディヴィア小隊の方も探さないと」
リヒト達は合流した後、クォーツシーバーの反応を頼りにアルフレッドを探す。
「皆さん!」
すっかりイメチェンしていたアルフレッドに驚きつつ、彼の案内で会議室に入る。
「探査隊の! 助かったぁ……」
安心するマティアスの隣で、机の上に寝かされていたミラが力なく微笑む。
「まさかミラは……」
「ええ、少量ですが瘴気を首に流されました」
これは困った事になった。
これを治すにはしっかり整った設備がある病院に行くか、瘴気の根源を倒すしかない。
「……もしもしイーライ? ちょっと見てほしいんだけど」
リヒトのコンタクトの映像を通し、イーライはミラの状態を確認する。
『エネルギーが十分に通っていないベースキャメロットのメディカルセンターでの治療は残念ながら非常に難しいでしょう。ですが対処療法によって症状の軽減が可能です、マティアス君にやってもらいましょう』
「俺に⁉」
『ええ、アルフレッド君は探査隊と共に……カーミラの討伐へ向かってください』
ついにカーミラとの直接対決となり、にわかに緊張が走る。
「なるほど、だからマティアスに頼んだんだね」
「いよいよか……」
アルフレッドがサーベルを取り、襟を正して四人の方を向く。
「カーミラは強敵で、ここ数年で全盛期よりも更なる力を身に着けたと考えられます。それでも共に戦ってくれますか?」
「言わせるな、所属する隊は違えど、我々はエクスレイドだぞ」
「モンスターを倒す為に協力する、いつもと同じ事じゃないか」
「ありがとうございます……でしたら、俺の因縁に付き合ってもらいます」
アルフレッドが足元に向けた銀のサーベルにアイリスが自分のクレイモアの鋒を重ね合わせたのを切っ掛けに、他の三人も自分の得物を重ねる。
「行こう、エクスレイド出動だ」
夜景がよく見える談話室で、カーミラは自分の力で生成した専用の玉座で欠けた月を眺めていた。
「感じるわ……」
血を分けた存在がこちらに向かって来る、数年前に骨肉相食む壮絶な戦いを繰り広げ、今なお顔に残る傷を負わせた〝息子〟が。
「来たわね」
背後から荒々しい音が響き、椅子ごと振り返るとすっかり逞しくなった我が子と、その仲間と思わしき男女が立っていた。
「久しぶりねぇグラキアス」
「数年ぶりかな、ママ」
一見温かみのある言葉とは裏腹に、親子の中にはもはや憎しみしかない。
「また私を邪魔しに来たの?」
「その通り、お前の野望は潰えるんだ。その命と共にな」
「私を殺すつもり? 飛んだ親不孝者だこと」
カーミラが手を挙げると、床から臓物のようなもの噴出し、それが二人の人影に変わる。
向かって右の人影はフルフェイスの兜をつけた異様に発達した筋肉を持つ女で、左側は狡猾そうな笑みを浮かべた痩身の女だった。
「ローラ、ベルタ。殺りなさい」
ローラは巨体を揺らしながら、ベルタは一瞬でエクスレイドの前に肉薄する。
「こっちは引き受けたから!」
「お前は自分の因縁を清算して来い!」
ローラとベルタに仲間達が立ち向かい、同時にカーミラが立ち上がったのを見て、アルフレッドはゆっくりと前に出て、母だった女を一瞥する。
「わざわざ銀のサーベルに対ナイトウォーカー用の術式がびっしり……そんなに私を殺したくないの?」
「相変らず嫌な言い方をする女だ」
「お前の能力とその程度の武器では……」
カーミラの美しい繊手が血と臓物に塗れ、骨で形成された細身のフランベルジュが出現する。
「私の足元にすら及ばないッ!」
互いに縮地を発動して同時に駆け出し、銀と骨の刃が重なり合う。
「どうかな? 俺が得た新しい力を甘く見るなよ!」
ベースキャメロットで、ついに本格的な戦いが始まった。
拳を振り上げて向かって行ったローラだが、即座にアイリスはシールドブラスターを反射モードにして防御し、逆にローラを吹き飛ばしてしまった。
「デカいのには俺が行くぜ!」
ローラへヴェルクが向かうも、その足をベルタが斬りつける。
「っと! 何しやがる!」
「足元がお留守よ、小さい巨人族さん」
「俺はドワーフとのハーフだっての!」
もう一度縮地でヴェルクを斬りつけようとした所で、ヒオの矢が飛んで来て方向転換を余儀なくされる。
「チィ!」
「あんたの相手は私と」
「僕だ」
ベルタは持っていた山刀を逆手に持ち替えると、再び縮地で向かってきた。
「サァッ!」
リヒトは銃ではなくマジックパイクを取り出し、ヒオと共に動き回るベルタを相手取るのだった。
戦いが始まって数分、早くもカーミラとアルフレッドとの優劣が滲み始める。
「ヌゥッ……クッ!」
やはりカーミラは臥薪嘗胆の日々を経て強くなっている、アルフレッドはサーベルを両手で使っているが、対するカーミラは片手でフランベルジュを繰っている。
カルンシュタインの館での壮絶な戦いの時以上の力をカーミラが身に着けたのをアルフレッドは肌身で感じ取っていた。
「クフッ、傷が疼くわ、お前につけられたこの傷が」
そう言いながらカーミラは髪に隠れた顔を露わにし、美しい顔に似合わない毒々しく紫に変色した十字傷と、濁って瞳が明後日の方角を向いている右目をアルフレッドに見せつける。
「美しいこの私の体を……息子とはいえ男が傷つけるなんて言語道断よ」
「ピッタリじゃないか、お前の醜い本性そのものだ!」
「ほざけオスガキが!」
カーミラの傷が赤黒く変化すると同時に県船がより早くなり、アルフレッドは防戦一方となる。
(まだだ……まだ耐えろ!)
カーミラが大振りの一撃を放とうとフランベルジュを振り上げたその瞬間、アルフレッドは素早くカーミラの懐に潜り込んだ。
(今だ! 頼む!)
耳元で髪の毛が切れる音と、頬に滴る生暖かいものを感じながら、アルフレッドは確かに手ごたえを感じていた。
「なっ?」
訳が分からないと言った様子のカーミラの肩に、アルフレッドの銀のサーベルの先端が刺さっていた。
「よしっ! 喰らえっ!」
アルフレッドが脳内で呪文を唱えると刀身が光り、カーミラの肩から白い煙が上がる。
「ぬぅっ! ああっ!」
カーミラはアルフレッドを蹴飛ばして距離を取り肩の傷を回復させる。
「残念だったわね、絶好のチャンスを失って」
アルフレッドは脇腹を抑えながら血反吐を吐き出し、サーベルを杖代わりにしてカーミラの方を見る。
「……なによ、その顔?」
なんとアルフレッドは笑っていたのだ。
「お前を倒そうなどとはハナから思っていない、さっきのは剣を通して瘴気を解毒しただけさ」
「その程度の事で?」
アルフレッドは気道に残った血をすべて吐き出すと、力を振り絞って立ち上がる。
「俺は新しく得た力を行使したのさ、俺を信じる……仲間の力を!」
カーミラの眉がピクリと動き、アルフレッドはサーベルを突き付けて更に続ける。
「目が覚めた俺の仲間はすぐにでもお前を探し当て、俺達に加勢する! 十八人に囲まれれば、さすがのお前も太刀打ちできないだろうさ!」
カーミラは片頬を吊り上げて骨のフランベルジュを投げ捨て、心底不快そうにアルフレッドを見る。
「おいたが過ぎたわねアルフレッド・グラキアス・カルンシュタイン……私の真の力を見せてあげるわ」
そう言ってカーミラはローラとベルタを引っ込め、外へ向かって手を翳す。
「おおおおお……ぬああああっ!」
カーミラの唸り声と共に地面が揺れ、ベースキャメロットの前に角の生えた熊を思わせる五十メートル級のモンスターが現れる。
「五十メートル級モンスターだと!」
「私は取引で神の力の一端を手に入れたのだ! 行けぃ! マナランッ!」
大熊マナランは咆哮するとベースキャメロットに向かい巨腕を振り下ろそうとしたが、突如現れた青い光にそれを阻まれる。
「シェアッ!」
「シエロだ!」
マナランの腕を防御しつつ、シエロは蹴りを叩き込んでベースキャメロットから距離を離す。
「ルミナス・シエロ……邪魔しおって!」
(オトハ……頼むぞ!)
シエロはアストラルハルバードを取り出してマナランに斬りかかるも、分厚い毛皮に阻まれて攻撃があまり通っていない。
「ムウンッ! ジェアッ!」
バイオクローチップとゾギガチップの力でアストラルハルバードの切断力を増し、思い切り振り下ろしてマナランの胸に大きな傷をつける。
「今だオトハ! 畳み掛けろ!」
「わかった! 行くよゼフェル!」
シエロはアストラルハルバードを地面に突き立てると腕を広げて回し、アストラルバリオンの構えを取る。
だがしかし、突如それは夜闇から飛来した何かに阻まれてしまった。
「ヌオワッ! ジュオッ!」
アストラルバリオンを阻んだのは巨大な怪鳥であり、マナランの近くでホバリングしながら、共にシエロを睨みつける。
「よくやったコレドゥルス、マナランと共にシエロを捕えろ!」
怪鳥コレドゥルスは空を覆い尽くす程の巨大な翼を広げ、何度も羽ばたいてシエロを防戦一方に追い込む。
「ジュエオッ……オオッ!」
なんとかグロウエッジを放って危機を脱するも、コレドゥルスの体当たりとマナランのパンチに地面へ転がされてしまう。
それが大きな痛手となった。
「よくやった! ハァッ!」
カーミラとマナランが地面に手をついたのと、コレドゥルスが何かを吐き出したのは同時だった。
「ネアッ⁉ ジュオッ‼」
シエロの体を何か血と臓物と骨のような組織が覆い始め、何とシエロを逆十字の逆さ磔にしてしまった。
(オトハ! ゼフェル!)
「シエロが!」
カーミラの哄笑が夜空に響く。
強大なモンスター二体と、それを操る神の力の一端を持つ女吸血鬼、圧倒的不利な状況下、エクスレイドは勝利を掴むことが出来るのか。
逆転の一手は紡がれるのか、次回へ続く。
To Be Continued.
シエロ危うし!
星の戦士すら磔にする力を見せたカーミラ、その力を前にラクスは、リヒトはどう立ち向かうのか。
そしてオトハとゼフェルの運命は?
次回、後編にして三章最終回です。
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ではまた来週お会いしましょう。




