キャメロット陥落⁉
黒狼のモンスターを撃退したラクスとエクスレイド。
しかしそれは嵐の前触れであった。
動き出す邪智狡猾なる女吸血鬼、その凶悪な手下にラウンドナイツはバラバラになっていく。
嵐を察知したアルフレッドは、邪悪犇めくベースキャメロットを救えるのか?
ある曇り空の日の事。木々が揺れ、轟音が響くと同時に、舗装された道に巨大な黒い狼が叩き付けられる。
「ゼヤッ!」
起き上がった黒い狼へ向けて構えたラクスは、牙を剥き出して威嚇する黒い狼と睨み合う。
『ゲブライカンはどうなった!』
『スイングによる叩き付けも効いてませんね。この野郎めちゃくちゃ頑丈ですよ』
ゲブライカンは鋭い犬歯を剥き出してラクスに向かおうとするも、三機のベディヴィアによる連携攻撃を喰らって怯み、そこへ向かって吠え立てて跳躍して噛みつこうとした所、アストロイドボムが飛んで来てバランスを崩す。
「オオオッ! ゼッ!」
ラクスはデルゴラスの力を開放すると右手にアストロイドボムを形成し、サテライトハンマーをゲブライカンの顔面に叩きつけ、空高く打ち上げる。
『アル! マティアス! 今よ!』
『ああ! 最終魔術砲解禁!』
『ヴェルク君! 決めますよ!』
『おっしゃぁ! サンライトパワー充填!』
エクスレイドが攻撃準備を整える間、ラクスは両拳を胸の前に合わせ、腕を開いてリダブライズサークルを展開する。
『ジュースティングショットォッ!』
『プロミネンスバァァアアアンッ!』
「ゼィヤアアアアアアッ!」
ジュースティングショットとプロミネンスバーン、そしてラクスのスパークルシュートが空中へ打ち上げられたゲブライカンに直撃し、空中で爆発を起こす。
「ゼワッチッ!」
分厚く灰色の曇り空で小さくなっていくラクスには目もくれず、アルフレッドはゲブライカンについてあれこれ考えていた。
『アル?』
「……すまない。少し考え事をしてたんだ」
『大丈夫か?』
「問題ない、帰ろう」
操縦桿を握りながら、アルフレッドはぽつりと呟いた。
「近いうちに……嵐が来るな」
ベースアヴァロンに帰還した探査隊は、各々の仕事をこなしながら雑談していた。
「なんか最近、変な事ばっかりよね」
「んだな、明らかにモンスターが強くなってやがる」
そもそもモンスター災害とは言っても三十メートル級が偶に出るぐらいが関の山で、こんな週に何度も五十メートル級のモンスターが出るようになったのはつい最近の事である。
「変な事と言えば、ルイス・ゲーナーですよ」
キルゴレムとメルゴレムの製作者で、バッド・ハンズ・エリアに潜んでいた魔術師であるルイス・ゲーナーはあの戦いの後、腑抜けになって発見された。
「何か分かったの?」
「体内スキャンの結果、彼の脳は何かしら別の物体に置換されていた事がわかりました」
「えっ? 怖っ、なにそれ」
ルイスの頭どころか体には外傷はなく、まるで最初からそれが頭にあったかのような有様だったという。
「確かに彼は生きているし、五感もあるようです……しかし脳の代わりに入ったモノは、彼から意識と記憶を悉く奪い去った……こんなものを僕は初めて見ましたよ」
奇妙なんてものじゃない、こんなものは最早怪異だ。それともあるいは。
「〝神業〟というやつでしょうか」
ウェンディの呟きに、皆の脳裡にロールシャッハのように焼け爛れた皮膚を持つ悍ましい天の使いの姿が過る。
「思い返せばなんか色々おかしくなり出した時期からあの連中が出てきたよな?」
「ええ、おまけに奴らは忘れ去られた神々と手を組んでいたと」
「なんだか世界というか……宇宙全体がますます変な方向に進んで行ってる気がするぜ」
「まるで何かに……流れを変えられているかのように」
嵐は確かに目前まで迫っていた。
しかし個々人が抱える胸騒ぎとは裏腹に、その日は何事もなく終わろうとしていた。
「杞憂だったか?」
そう呟いてアルフレッドは自分の金色の髪を撫でながら、あの黒雲とゲブライカンから感じた嫌な気配を振り返る。
あの嫌な感覚は確かにあいつのものによく似ていた。
「警戒するに越したことはないか」
「オイオイどうした? 今朝から元気無さそうだけど」
隣で顔を覗き込んで来たマティアスに、アルフレッドは小さく笑いかけて答える。
「なに、思い過ごしさ。こんな天気だから色々考えてしまってな」
「そっか、なんか悩みとかあったら俺に言えよ。同じ仲間なんだからさ」
「ああ、その時が来たらな」
やがて退勤時間となり、皆が寮や自宅に戻ろうとしたその時の事。
「おわっ⁉」
「あれ?」
「あーもう、最悪ね」
急な停電である。
「まあ落ち着け、どれどれ」
バーンズがクォーツシーバーで電力を復旧させるも、灯りは完全に戻らず薄暗い光が指揮所を照らす。
「なんだこれ、変ですね」
「まあ待ってろ、連絡を……あ?」
どういう訳か外部との通信が出来ない。
「さっきの停電の影響かな」
「とりあえず外に出てみますね」
そう言って指揮所から出たフーリーだったが、数分後に青い顔をして戻って来た。
「出られない……」
「なんだって⁉」
全員転移方陣が刻まれた装置に向かって試すも、うんともすんとも言いやしない。
「ま……まだ出られないと決まった訳じゃないさ」
ルシアンがテラスに繋がるドアを開けようとするも、ドアノブは固く、全く動かない。
「……」
「……ねぇ、これって」
「閉じ込められた……のか」
パニックにこそならないが苦々しい雰囲気が広がる中、アルフレッドだけは何が起こったのか察しがついていた。
(嵐が来た! よりによってキャメロットに!)
数年ぶりに鎌首をもたげた自分の因縁に決着をつけるべく、アルフレッドは音もなくその場を立ち去るのであった。
とはいえ何もしない訳にはいかない、バーンズは隊内通信と転移方陣がベースキャメロット内部では使えることを把握すると、階下のエネルギー制御室へ向かう事にした。
「とりあえずベースのエネルギーを戻せば外には出られる筈だ、誰か手伝ってくれるか?」
「それじゃあ私が行きますよ」
マルヴィナが名乗りを上げ、バーンズと共にエネルギー制御室に向かった。
「ここだった、さてとブレーカーは……ん?」
エネルギー制御室は無人であるという予想と異なり、見知らぬ黒衣の金髪の二人の男女が滅茶苦茶に荒らしており、その異様な光景にマルヴィナもバーンズも一瞬反応が遅れてしまった。
「あなた達何をして……! ぐあっ!」
「マルヴィナ!」
二人ともワンドブラスターを向けるもマルヴィナは背後から殴られて気絶し、バーンズは寸での所で回避するも、今度は四人に囲まれてしまう。
「お前達! 何者だ!」
にやにやと笑いながらゆっくりと近付いてくる美男美女の集団に、バーンズは攻撃が出来ずにいた。
「ねえ」
「うん」
「こいつじゃない?」
「虎の獣人、赤い毛並み。こいつだよ」
「間違いない」
どうやらベースキャメロットに侵入したこの者達の目的は自分らしい。
「ママに言おう」
「そうだね、言おう」
「ふん縛るか」
「いや、もっと確実な方法があるよ」
金髪の美男のひとりが床の上で唸っているマルヴィナの襟首を掴むと、頬をその手で掴んだ。
「その銃を捨てろ、部下の命が惜しいだろ?」
バーンズは歯軋りしてワンドブラスターを捨て両手を挙げる。従うのは癪だが、実力が未知数の集団相手に部下の命を握られていては背に腹は代えられない。
「あらあら、やるじゃない」
その黒衣の金髪の集団の背後から声がしたかと思うと、何処かから烏が翼をはためかせて現れ、長身の美女に姿を変えた。
「吸血鬼か!」
女は色の濃い左足の出たドレスを纏い、その髪は金色混じりのブルネットの長髪で顔の右半分を隠しており、何より大きな女優帽が目を引く。
「貴様はまさか!」
「察しが良いのね、キャプテン・キラヴ・バーンズ」
「そうか大方ここに来た理由は分かった……しかし、私に何の用がある?」
「そうねぇ……あなたが一番厄介だから真っ先に来たの。あなたの頭脳と機転、そしてなにより毒と精神攻撃が利かないのがねぇ……フフフフ、ではしばらく眠ってもらおうかしら」
毛皮と鍛えた筋肉すら貫通する打撃がバーンズの体を揺らし、女吸血鬼の元に倒れてしまった。
「う……あぁ……」
「運んでおきなさい」
「はいママ」
バーンズは金髪の集団に三人がかりで運ばれていき、ブルネットの女吸血鬼はニヤリと笑った。
「今日ハイポリアは久しく忘れていた闇夜の女王の恐怖を思い出す事になる」
顔の右半分を撫でながら、女吸血鬼はより一層低い声で続けた。
「塵は塵に還る……この血の縁から逃れられぬ事を思い知るがいいわ、グラキアス」
女吸血鬼という嵐が、静かにエクスレイドを侵し始めた。
バーンズとマルヴィナが一向に帰ってこない事を心配している中、ずっと眉を顰めて黙っていたカイと、震えながら何か言いたそうにしていたケラスが口を開いた。
「なあ」
「あっ……あのっ!」
二人が喋った事で一斉に視線が集まり、カイは首を捻ってケラスに言うよう促した。
「あの二人に……何かあったんじゃないんでしょうか」
「マルヴィナとキャプテンに?」
「ああ、さっきから嫌な予感が止まらない。これは何かあるぞ」
二人ともアールヴ特有の感知力で、キャメロット内部に充満する嫌な気配を感じ取っているのだろう。
「点呼した方が良い」
各小隊で点呼が始まったが、ここでまたもや異変が起こる。
「あ……アルが居ない!」
「なんだって?」
「さっきまで……俺話してましたよ⁉」
制御室に向かった二人と連絡が取れず、その上アルフレッドの姿が消えた。
嫌な予感が的中したケラスは目を見開き、カイは苦虫を嚙み潰したような顔で溜息を吐く。
一層重い雰囲気になった所で、クリフが手をパンと叩いて雰囲気を変える。
「アルフレッドやマルヴィナの行方も気になるが、それ以上にここで何が起こってるかを知ることが優先だ。トリスタン小隊とベディヴィア小隊は居なくなった隊員の捜索を、あとはベースキャメロット内部を探索し、事態の把握に勤めよう。行動開始!」
かくして三者に分かれ、ラウンドナイツは知らず知らずのうちに嵐の中に飛び込むのであった。
「マルヴィナ……何があったの?」
カリスタが薄暗い廊下を歩きながら不安を吐露するのを聞きながら、チャーリーは腰に提げたワンドブラスターに触れる。
「きっと無事さ、彼女は強い。それにキャプテンも一緒だろうから何が来たって大丈夫」
「でももしもの事があれば……」
「大丈夫さ、警戒するには越したことはないが、不安を増大させては……」
その時、背後を何かが駆け抜ける音がし、二人は一斉にワンドブラスターを向ける。
「……居ましたよね?」
「……ああ」
自分達が来た道に何かが潜んでいた、そんな事実に跳ね上がる心臓を抑えながら、二人はゆっくりと歩を進めていたところ、視界に入るか入らないかの所で笑い声と共に金色の髪が横切り、二人は銃口の向きを変える。
「何か居る! 私の後ろを頼む!」
「はい!」
チャーリーとカリスタは背中合わせとなり、周囲を警戒する。
「出るなら出なさい! こんな真似してないで顔を見せろ!」
二人はゆっくりと回りながら周囲を確認すると、突如目の前に人影が現れた。
「……マルヴィナ!」
「無事だったのね!」
二人が駆け寄ろうとしたその時、マルヴィナは声の限り叫んだ。
「近付かないで‼」
目を見開いて歯を食いしばったマルヴィナに、チャーリーとカリスタはぎょっとして足を止める。
「どうして⁉」
「マルヴィナ、君に一体……」
チャーリーが事情を聴き出すよりも早く、マルヴィナがワンドブラスターを向けて発砲してきた。
「ッ!」
咄嗟に二人とも回避したものの、何が起こっているか分からず困惑する。
「マルヴィナ!」
見開いた目から涙を流し、ワンドブラスターを向けたままぎこちない動きでこちらに向かいながら、マルヴィナは絞り出すように言った。
「これは罠! 私は二人を傷つけたくない! 逃げて!」
何が起こっているかは見当もつかないが、とにかくマルヴィナが何かに抗っているのは確かだ。だからこそ、二人はマルヴィナを置いて逃げる事など出来なかった。
「逃げる訳ないでしょ!」
「何が起こっていようが必ず助ける!」
マルヴィナに銃撃されながら近付くと彼女の首に二筋の切り傷のようなものが見えた。
「この傷は……吸血種族の!」
洗脳因子破壊光波でマルヴィナを解放しようとしたチャーリーだったが、ワンドブラスターの射線を突然何者かにずらされた。
「お前は!」
「本当に便利だね、エクスレイドのワンドブラスターは」
チャーリーは何処からともなく現れた黒衣の金髪の男に殴り掛かろうとするも、反対側の腕を金髪の女に掴まれ、無理矢理その場に膝をつかされてしまう。
(なんてパワーだ!)
チャーリーが取り落としたワンドブラスターを拾い、金髪の男がぼそりと言った。
「こいつを作った奴もいずれ相手になるんだよな」
「そうねぇ、アーブトピアに居るらしいわ」
「お前達は何者だ!」
金髪の男が首だけを動かしてチャーリーの方に顔を向け、腹から胸、そして顔と今自分が掴んでいる手の指先まで、まるでねっとりじっくり嘗め回すように見る。
「お前、ママ好みの女だな」
「は、はぁ?」
「そっちはどうだ?」
金髪の男が向いた方を見ると、カリスタも同じく両手を掴まれて組み伏せられていた。
「多分だけど、こういうの屈服させるのママ好きだと思うよ」
「そう、呼ぶか」
「呼ばれなくても来るわよ」
背後から声がして、薄暗い廊下に長い影が伸びていく。
「ママは鼻が良いんだね」
「当然よ……さあ、顔を見せなさい?」
そう言いながらブルネットの長身の女吸血鬼は、チャーリーの前にやって来て見下ろす。
「ウルフカットの中性的美女ねぇ、フフ……でかしたわね、私好みの女よ」
女吸血鬼はチャーリーの頬を掴んで引き寄せ、やけに甘ったるい息を吹きかける。
「生憎だが……私は女同士とする気は無いよ」
「そう? まあすぐ骨抜きにしてあげるわ」
女吸血鬼はそう言うなり無理矢理チャーリーの唇を奪った。
「んうっ⁉」
自分の中から急速に力が抜けていき、同時に体の中に何かが流し込まれていく感覚がする。
(こいつ……まさか!)
前に未解決事件記録か何かで読んだことがある、突如消失した女吸血鬼の話がチャーリーの脳裡に過り、急速に点と点が結ばれていく。
(どうして……ここに……)
あれこれ考えるよりも前に体に流し込まれた何かの力により意識を保てなくなったチャーリーは、ついに完全に脱力して倒れてしまった。
「敵は……カルン…………シュタ……」
カリスタとマルヴィナが自分の名を呼んだ気がしたが、それよりも早くチャーリーの意識は落ちてしまった。
「うう、どうしよう」
ミラがクォーツシーバーを叩きながら漏らす。
無理もない、事態の把握に向かった本隊や、マルヴィナとバーンズを探しに行ったトリスタン小隊と連絡がつかなくなってしまったのだ。
「なんでこんな事になったんだ……」
「アル……何かあったのあかな」
思えばゲブライカンとの戦いからアルフレッドの様子がおかしかった、もしかしたらそれがこの謎の一件関わっているのかもしれない。
「もっと話しとけば良かった」
「縁起でもない事言うなって、生きてるよアルフレッドは」
「そうだよね、ごめん。変な事言っちゃった」
しかし連絡がつかなくなったのはかなり心細いものがある。
まるでこの広いベースキャメロットに二人きりであるような錯覚に陥り、どんどん足が重くなる。
「どうにかならないのかね、この薄暗いの」
「どうにかしに行ったキャプテンとマルヴィナ先輩が消えちゃったから仕方ないじゃない」
「んだな……我慢するしか……」
角を曲がって廊下を照らした途端、何かの影がさっと飛び退いたのが見えた。
「!」
ミラとマティアスがワンドブラスターを向け、影の主に呼び掛ける。
「誰!」
「……逃げる時点で味方ではねぇな」
「そうね」
二人はゆっくりと影が消えた方へ向かって行くも、背後で足音がして振り返って銃を向ける。
「何者だ!」
マティアスの気迫ある声にも、二人の前に現れた黒衣の数人の金髪の美男美女達は、にやにやへらへらとした態度を崩さない。
「二人だけか」
「簡単だね」
「若いし経験もそんなにない」
「すぐ終わらせる」
「終わらせよう」
随分舐められている事は分かるが、目の前の集団が何をするか全く見当がつかず、おのずとワンドブラスターを握る手に力が入る。
「近寄らないで! それ以上近付くと撃つわよ!」
「撃ってごらんよ」
「どうせ当たらないよ」
二人はトリガーを引くも、金髪の集団はその場から消え失せてミラとマティアスを取り囲んでいた。
「うっ!」
即座に格闘戦に移行するも、どういう訳か一切攻撃が当たらず、拳や足が空を切る。
「なんなんだ!」
「紙一重で……避けられる!」
くすくすという笑いと黒と金の残像を残しながら、金髪の集団がミラとマティアスを翻弄し続ける。
「そろそろ仕留めるか」
「ああ、潮時だろうね」
くすくす笑いと共に金髪の集団が一斉にミラとマティアスに体当たりを仕掛け、ただの何の技術も無い連続攻撃に二人して地面に転がされる。
「いぃ……」
「なんなんだこいつら……」
自分達を見下ろす黒衣の集団が、やけに大きく見える。
「これで分かったろ? 僕達とお前達の差を」
「ハイポリアはママが支配する……エクスレイドはその第一歩さ」
「さあ、私達の配下になりなさい」
何とか抵抗するべく立ち上がろうとするも、痛みによって動けない。
必死に打開策を考えていると、聞き馴染みのある声がした。
「そこまでだ!」
全員が振り返った先に居た者は、なんと消えた筈のアルフレッドであった。
「アル!」
「その……姿は!」
アルフレッドはいつものエクスレイドの隊服ではなく、今ミラとマティアスを甚振ろうとしていた者達とは対照的な白いコートを着ており、後ろで纏めていた髪を下ろし、左手には薄闇に輝く鞘に納まったサーベルを持っていた。
「裏切者だ」
「逃げたわけじゃなかったのか」
「まあいい、殺すか」
向けられた複数の殺意に対しアルフレッドはゆっくりと歩きながらサーベルを抜き、鋒を向けてからその場から消失した。
「ハッ!」
「なっ! ギャッ!」
再び現れたアルフレッドは集団のうち一人の女の胸をサーベルで貫き、返す刀で二人の男女を切りつけて焼滅させてしまった。
「焼き消えた……それじゃあこいつらって!」
「吸血種族か!」
金髪の集団はアルフレッドから距離を置き、ナイフや手斧、そして鉈を取り出して構える。
「力は衰えてなかったのか!」
「ママから離れてどうやって力を保った?」
「残念だったな、俺はお前達のような量産品の出来損ない共とは違うんだ!」
牙を剥き出し、金と黒の残像を残して向かって来る敵に対し、アルフレッド金と白の残像を残しながら迎撃する。
「裏切者!」
「あの女のコバンザメ共が!」
薄暗い廊下で複数の残像が入り混じっていたが、黒い残像は徐々に数を減らしていき、ついに二人だけとなってしまった。
「うわっ!」
高速の戦いは終わり、二人してアルフレッドに弾き飛ばされてしまう。
「くっ……」
「終わりだ、塵すら残さず消えろ」
壁際に追い詰めた金髪の男の心臓を刺し貫いて焼尽させ、最後に残った女を向いたその時だった。
「そこまでだグラキアス!」
必死の形相で女はミラとマティアスの首を掴んで人質にしていた。
「アルフレッド……」
「アル……」
「こいつらがどうなっても良いのか!」
「下衆が、今すぐ二人から離れろ」
女は冷や汗をかきながらも、ニヤリと笑って続ける。
「お前の縮地と私の爪が首に食い込むの……どちらが速いかな?」
女の勝ち誇った表情にアルフレッドは相手を睨みつけながらサーベルを下ろすも、即座に持ち替えて思い切りサーベルを投擲した。
「ぐおわっ!」
放物線を描きながらアルフレッドが投げつけたサーベルが女の心臓を正確に貫き、女の身体がミラとマティアスから離れて壁に縫い留められる。
「うおおわああっ! グラキアス! 貴様ァッ!」
「塵すら残さず消えろ。お前達にはそれがお似合いだ」
「フ……フハハハ、どうせお前もママには勝てない! カルンシュタインの血族ならそれをよく知ってる筈だ!」
アルフレッドは女の胸に刺さったサーベルを引き抜くと、女はゆっくりと焼尽し始めた。
「ハイポリアはママが支配するんだ!」
「そんな事は俺達がさせない」
アルフレッドがサーベルを納めると同時に、ミラは首の痛みに気付いてその場に崩れ落ちてしまう。
「ミラ!」
「ミラ! あいつめ……最期まで余計な事しやがって!」
痛みに抗いながら、ミラは駆け寄って来たアルフレッドに聞いた。
「待ってアル……何が起こってるか説明して」
「そうだぜ、あいつらは何なんだ?」
「……すまない、二人にはあらかじめ言っておくべきだった」
アルフレッドが悲痛に顔を歪めながら、静かに口を開いた。
「今ベースキャメロットを襲ってるのは、ある女吸血鬼とその配下……しかもそいつは未だに生きた知的種族から直接血を吸って生きてる危険極まりない奴だ」
現在の夢境では吸血種族は人口血を食すのが一般的であり、多種族を害するような行為はせず、直接吸血をする者は禁忌を犯した危険人物と見做される。
今ここを襲っているのはその超危険人物という事になる。
「奴の名はマーカラ・カルンシュタイン……通称、女吸血鬼カーミラ!」
その名はミラとマティアスも知っている、主に隣国ギルモアスで悪名を轟かせ、突如失踪した有名な未解決事件の中心人物である。
美しい同性愛者の女吸血鬼の失踪というセンセーショナルな話題は、今でも様々な場所で話題を攫っている。
「マジかよ……じゃあさっきの金髪共は?」
「あれはカルンシュタインの子供達と呼ばれるカーミラが作り出したダンピールだ。だからカーミラをママと呼ぶ」
それで納得がいった、吸血鬼やダンピールは凄まじい身体能力を持つため、ミラとマティアスを翻弄する事が出来たのだ。
「……ん? ちょっと待ってくれ、お前はどうやってあのダンピール達と渡り合ってたんだ?」
「それに……あいつらが言ってた裏切者って……」
「……俺のフルネーム、知ってるよな?」
アルフレッド・グラキアス・C、それがフルネームである。
苗字に当たるCについてはこれまで聞いてもはぐらかされ、本当の名を知る事は無かった。
「まさか……あんたのCって!」
「カルンシュタインのCさ……俺はカーミラの子供だった」
アルフレッドの告白に驚く半面、ミラとマティアスはどこか納得していた。
強い日差しが苦手なのも、あまり自分の過去を話したがらないのも、自分の過去を忌避しての事だろう。
「俺はかつて……このハイポリアの支配を目論んだカーミラに反抗し、壮絶な戦いの末命からがら逃げ出した……共に育った兄弟姉妹を全員皆殺しにしてな」
壮絶な過去を語るアルフレッドに、珍しく悲痛な色が浮かんでいる。
「そんな事があったなんて……」
「怖かったんだ……俺の過去を誰かに語るのが。だがもっと早く話すべきだった」
目を瞑って歯を食いしばるアルフレッドの頬を、マティアスが思い切り張った。
「バカ野郎め、お前の過去が何であれ、俺達の仲が変わるとでも思ってンのか!」
「マティアス……」
「そうよ……たとえカルンシュタインの子供でも……あんたはあんたでしょアル?」
「ミラ……」
頬を中心に広がる痛みに、アルフレッドは微笑んで二人の方を見た。
「すまなかった……そしてありがとう」
「おう!」
「うん!」
蟠りは解消できたが、分からない事がまだまだ多すぎる。
「それでだ、カーミラはなんでエクスレイドにカチコミをかけたんだ?」
「分からない、奴はヒステリックだが感情任せな行動は取らない。もしかすると再びハイポリアを支配する計画に目途が立ったのかもしれないな」
「じゃあ今頃みんなは……」
「ああ、子供たちの手で制圧され、吸血鬼特有の洗脳因子によって配下にされかかってるだろうな」
言わずもがな危機的状況である、それにアルフレッドにはもうひとつ懸念点があった。
「ミラ、首の傷を見せてくれ」
「え? これぐらい……」
今際の際にカルンシュタインの子供によってミラの首につけられた傷を見たアルフレッドは、若干諦めが混じった溜息を吐いた。
「体が怠くないか?」
「こんなのなんでも……」
「カルンシュタインの子供達の爪は瘴気を発する。ミラの体内にはその瘴気が回りつつある」
ミラは目を見開いて首を抑え、同時に体がさらに重くなるように感じる。
「命に別状はない、普通ならそれを使って配下にする所だが、瘴気が完全に回り切る前に俺が殺したから体が重くなる程度で済んでいる」
命には関わらないものの、これでは戦う事はおろか移動すらままならない。
「どうする? ミラを守りながらだと難しいぜ」
「私はどこかに隠れてるから……」
「いいや、ダメだ。三人で固まっておいた方が良い」
「じゃあどうすればいい?」
暫くアルフレッドは考えていたが、何か思いついたかのように目を開いて言った。
「適任が居る!」
その頃エクスレイド隊員寮の一室で、リヒトとオトハは濃厚なキスを交わしていた。
時刻はすっかり夜で若い婚約者同士、久々の大盛り上がりである。
ベッドの上で衣服を乱れさせながら手足と唇舌を絡めていると、机の上に置いたリヒトのクォーツシーバーに緊急通信が入った。
「……ああなんだ! 今は止せ! 空気読めよ!」
「仕方ないよ、ほら、行って」
文句を言っても仕方がない、これがエクスレイドという仕事である、オトハに謝りながら衣服の乱れを整えて通信に出た。
「はいはい、どうしたんですか?」
『分からないが……ベースキャメロットが緊急事態らしい』
キャメロットが危ないという情報に、集められた探査隊全員は困惑している。
『……えますか……聞こえますか?』
ノイズが入ったアルフレッドの声が聞こえ、皆更に困惑した。
『アルフレッド隊員、どうしたんですか?』
『なんでこんなに環境悪いんだ? ベースキャメロットからかけてるんだろ?』
『すみません……間が無い……で、手短に……』
アルフレッドは今ベースキャメロットで起こっている出来事をかいつまんで伝え、それを聞いた六人の顔がにわかに強張っていく。
『ヤバいなんてもんじゃないでしょこれ……』
『よく無事だったなオイ』
モンスターが出たとかそういった事案かと思っていたが、想像以上の緊急事態に皆絶句している様子である。
『こ……に居るラウン……イツを救う事が出来るのは……なた達……ん査隊しか……ません……うか……お願いします……スレイドを……頼みます』
通信が切れ、ホログラム越しに六人の視線が混ざり合う。
今やエクスレイドの運命は、この六人に託されたのだ。
「隊長、どうしますか?」
アイリスは暫く黙って思考し、やがて力強い口調で宣言した。
『女吸血鬼カーミラ及び、カルンシュタインの子供達を対話不可能且つ局所的災害と認定。よってこれをモンスター災害と見做し……エクスレイド探査隊、これより緊急出動だ!』
全員ニヤリと笑ってガッツポーズし頼りになる隊長を称える。
『私の全責任で出動する。なに、事後承諾なら文句は言われない』
『超特急で準備しますよ!』
『集合場所はケイの発進ドックで良いですね?』
各々準備を始める中、リヒトは着替えながらオトハに向かった。
「ごめんなぁ、今日はお預けだ」
「いいよいいよ、その代わりその吸血鬼はボコボコにやっつけちゃって」
「当然、そうするつもりさ」
「もしモンスターが出たら、今日は私も行くからね」
「頼りにしてるよ、行って来る」
「気を付けてね」
額を合わせてキスを交わし、リヒトは自室を出た。
「ん? おお」
廊下を歩いていると、いつの間にやらこの時間には寝ている筈のピースがリヒトの後をついて来ていた。
「なんだ、ピースも来たいのか。いいよ、おいで」
リヒトはピースを抱き寄せて、転送装置でベースアヴァロンの発進ドックに向かうのだった。
全員揃ったのを確認した探査隊はケイに乗り込み、いざベースキャメロットへ向かおうとした所、イーライが制止してある地点へルートを入力し始める。
「どうしたイーライ?」
「先に行くべき場所があります。そこに寄ってからキャメロットへ行きましょう」
イーライが入力したルートに従ってついた場所は、アーブ郊外の高級住宅地だった。
「そこのポートに止めてください」
「お、おう。いいけど、ここ何処だよ?」
「僕の別荘です」
「別荘⁉」
ケイをポートに停めた後、イーライに従ってガレージに向かい、エレベーターに乗って地下室へと向かう。
「どこに行くの?」
「それは見てのお楽しみです」
珍しく楽しそうに笑うイーライを不思議に思っていると、エレベーターが到着して地下室の電気が灯り、その中のものが露わになる。
「おお……」
「これは……」
驚いて目を白黒させている仲間達の顔を見て満足げにほほ笑むと、イーライは微笑んでから両手を広げて言った。
「ようこそ、僕の魔道具保管庫へ」
To Be Continued.
いかがでしたでしょうか、新人三人組にスポットを当てた第三章ラストエピソードでございます。
果たしてカーミラの邪悪な能力とは、そもそも倒すことが出来るのか。
これをお楽しみに次回、中編をお待ちください。
感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。
ではまた来週この時間にお会いしましょう。




