故郷の森
森で暴れたモンスターの調査をしていると、モンスターの腕に謎のマークが刻まれている事が発覚。
人為的に造られたモンスターだと判断して調査を進めていくと、どうやらラウンドナイツのラファエロ・ヴィエルヌの過去に関係している事が発覚。
思い出が怒りに変わる時、悲しい真実が明らかになる!
ベースキャメロットの隊長執務室にて、バーンズはホログラム魔術通信を始めた。
「もしもし、大丈夫かね?」
『ええ、僕の方は大丈夫です』
通信の相手はイーライであり、最近の情勢について話し合う為にこの場を設けたのである。
「ルミナス・ギガントについて何か分かった事はあるかね?」
『学術的には以前報告した所からまだ何も……ですがひとつ、確信している事が』
イーライは間を置き、声を低くして告げた。
『ラクスはエクスレイドの中に居る』
「……そうか」
青いルミナスが人間の女に憑依していたのは聞いている。
それを聞いた頃からバーンズはもしかするとエクスレイドの誰かがラクスなのではないかと思っていたが、イーライも同じことを考えていたらしい。
『ラクスは度々こちらが立てた作戦を理解していたり、解明した新種モンスターの特性を理解している節が見られます。エクスレイドの中にラクスと融合している者が居ても何ら不思議ではありません』
「君の所のリヒト隊員は? 俺は彼が怪しいと思っているのだが」
『リヒト君が? あり得ませんよ』
怒るでもなく自然な調子で首を振って、イーライは否定する根拠を述べた。
『彼をラクスだとすると迂闊すぎます、こちらに情報を与えすぎている』
「それもそうか……俺の方でも気になる事があれば報せるよ」
『ありがとうございます。話は変わりますがここしばらくはモンスター災害に加え、炎の道及び忘れ去られた神々の暗躍が加わり、これからは戦いがさらに激化すると考えられます』
「ラクスやシエロの手助けで何とかなっているが、いつまでもあの二人に頼り切りという訳にはいくまい」
眉を顰めてこめかみのあたりを指で抑えたバーンズに、イーライはぼそりと言った。
『〝王の要塞〟を解禁するべき時が来たのかもしれません』
〝王の要塞〟という単語を聞いたバーンズはゆっくりと目を瞑り、肯定とも否定とも取れない声を漏らした。
「俺は〝あれ〟を見た時、過ぎた力だと言った。だが最近の情勢を鑑みるに、そうも言ってられなないように思えてきたんだ。やはり君の先見は正しかったよ」
『当たってほしくはありませんでしたが……とりあえずいつでも動かせるような状態にしておきます。あとは……』
「俺の声ひとつか。なるべく解禁しないで良いように願いたいね」
エクスレイドに秘められた〝王の要塞〟。果たしてこれを解禁する時は訪れてしまうのだろうか。
そんなやり取りがあっての数日後、探査隊に一つの調査指令が下された。
「今回の場所は森か」
「ええ、アーブ付近に出現したので我々に調査の指令が回って来たようですね」
長い牙と鼻の辺りから伸びた太い一本の角が特徴的な、二足歩行のトカゲめいたモンスターが燃える森の中で咆哮している様子が収められた写真がクォーツモニターに表示された。
「うーんまあアーブ付近にモンスター出たから出動ってのは分かるんだけど……なんで調査なの?」
「僕もそう思いました、ですがどうやら……」
イーライがクォーツパッドから写真を投影する。
「こういうものが見つかったそうです」
それは人為的にデザインされたロゴマークであり、木の幹に焼き印されていたものと、モンスターの肩にあるものが一致していた。
「なるほど、人為的に造られたモンスターという事ね」
「何らかのメッセージを伝えるべくモンスターを放って暴れさせ、わざわざこんな印を残したと」
「ま、テロだな。なんかどっかしらに送りつけられたメッセージとか辿れば見つかるんじゃねぇの?」
まずその線から当たろうとしたその時、メッセージと共に通信が入る。
「『その必要はありません』……相手は……ラファエロ?」
ラウンドナイツのランスロット小隊の長、ラファエロ・ヴィエルヌからであった。
「なんでだろう、まあいいや」
応答ボタンを押すとクォーツモニターにラファエロが映し出される。
『いきなりすみません、今頃作戦会議中だと伺っていたので通信で聞いていました』
ラファエロの寄った眉根から、なにか物憂げな事態が起こったのだと察する事が出来た。
『この案件、我々ランスロット小隊も調査に参加させていただけないでしょうか?』
「それは構わないが、何か理由でも?」
『見つかったマーク……心当たりがあるんです』
これは驚いた、もしかしたらこの一件に潜むものの正体に大きく近付けるかもしれない。
「それは心強いですね! 合流して調査しましょう」
「ではこうしよう、合流後に実地組とデスクワーク組に分かれて調査を開始する。合流地点は最後にモンスターが目撃された場所だ。作戦開始!」
かくして探査隊とランスロット小隊による合同調査が始まるのであった。
森林地帯とアーブの中間地点に到着した一行、イーライ、ウェンディ、そしてランスロット小隊のルシアンはケイに残ってハイポリア大陸内で何かしらメッセージが発進された形跡を調査し、他の者は森へ繰り出して実地調査を開始する。
「しっかしラフの心当たりってぇのは何なんだ? 特に何も言わねぇしよ」
映像越しに見た時以上に眉間の皺を深くして現れたラファエロに、誰も何も聞く事が出来なかった。
「訳アリなのはわかるけど……あれじゃ聞きづらいよ。ねえコレット、何か聞いてない?」
ヒオがランスロット小隊の紅一点であるコレットに質問するも、コレットは肩を竦めて首を振るのみ。
「私もルシアンも何も聞いてないんだよね。ただあのモンスターを見た時、今までにないぐらいショックを受けてたように見えたのは確か」
「うーむ、あのモンスターってぇより、モンスターの肩のマークを見てショックを受けたんだろうな」
そしてその頃ラファエロはひとり森の中を進んで行き、リヒトとアイリスはその後を追いかける。
「待て待て、そんなズンズン進んだら迷うぞ?」
「それに聞きたいことが山ほどある。行きがけで良いから話してくれないだろうか」
リヒトとアイリスの言葉を背中で受けたラファエロは、しばらく後ろを向いたまま固まっていたが、やがて大きく息を吐いてゆっくりと振り向いた。
「すみません……思い悩むあまりに周囲が見えていなかった」
ラファエロは作り笑いを浮かべると眉間を抑えて首を振り、二人に向けて語り出した。
「この案件、もしかすると俺の過去が関わっているかもしれないんです」
「ラファエロの……過去?」
ラファエロ・ヴィエルヌはクオータブリードである。
妖精の血が入ったハーフブリードと人間の間に生まれた彼は、七歳程度までは両親と共に森で暮らしていた。
「そうだったのか⁉ いやてっきり人間だと思ってた」
「あんまり言ってこなかったからな。まあ妖精の血はそんなに濃い訳ではないから、ほぼ人間みたいなもんだよ」
そんなラファエロには、幼馴染と呼べる間柄の友人がいた。
「ファビアン・アルベール、彼は俺とは違って純粋な妖精でしたが、そんな事は気にせず俺達は実は双子の兄弟なんじゃないのかと揶揄われる程に仲良しでした」
やがてファビアンとはヴィエルヌ一家が森を離れてアーブに移り住み、ラファエロが学業に専念する年になるにつれ疎遠となっていった。
普通なら楽しかった思い出として永遠に美しい思い出の中に残るべき子供時代の話だったが、それは最悪の形で記憶の中から引っ張り出される事となる。
「あの焼き印やモンスターの肩のマーク……あれを考えたのは俺とファビアンなんです」
子供時代の思い出がこんな形で蘇るとは、ラファエロが険しい顔をしていた理由がよくわかる。
「そうか、だからずっと思い詰めた顔してたのか」
「そうなんだ、もっと早く言うべきだったな」
「無理もないさ、君は子供の頃の親友に疑いの矛先を向けさせたくはなかったんだろう?」
アイリスの気遣いに、ラファエロは胸に手を当てて静かに感謝の意思を表す。
「ここまでの経緯は分かったけど、どこに行こうとしてたの?」
「ここらへんに昔、俺とファビアンとその家族で、小さな木造小屋を作ったんだ。まあ子供がよくやる秘密基地さ、もしかしたらそこに何か秘密があるんじゃないかと思っていたんだが……」
「一人で行こうとしてたんだな」
ラファエロは頷き、力なく笑いながら続ける。
「しかしこうしてバレてしまったって訳さ」
「うーん、気持ちは分かるけど、一人だけ行かせるわけにはいかないな」
「私達が共に行こう、有事の際には三人で事に当たるんだ」
ラファエロは大きく息を吐いて頷き、三人は共に行動を開始するのだった。
ラファエロの先導でリヒトとアイリスが森の中を進んでいくと、次第に古ぼけた木造小屋が見つかった。
「あれか」
「ああ、場所も間違いない」
アイリスが周囲の罠を走査した後、三人は小屋に近付く。
「これは……」
古ぼけた小屋の外壁に、あのマークの焼き印が押されていた。
「このマーク、記憶にないのか?」
「ああ、焼き印なんて六歳の子供に持たせないし、火炎魔法なんてもってのほかだろ?」
「入ってみよう」
小屋は大人が四、五人やっと入るかといった大きさで、土埃に塗れていて目ぼしいものはない。
「……何もないな」
「俺の思い違いか? それにしてはしかし……」
「……ん?」
アイリスは微かな違和感を捉えたらしく、しきりにその場で足踏みをしている。
「隊長、どうしたんです?」
「ちょっと静かに、よく聞いてろ」
そう言うとアイリスは右足を三度その場で踏み鳴らして音を立て、しばらくして別の場所で右足を踏み鳴らした。
「ああ!」
奇妙な事にその足音は異なっており、何かがこの下にあるのはこれでハッキリとした。
「みんなを呼ぼう」
ヴェルクとヒオ、そしてコレットが小屋に集まり、皆の目の前でリヒトはワンドライフルを構えた。
「それじゃあ……」
アイリスのアイコンタクトでリヒトは開錠魔術と浮遊魔術を同時に撃ちこみ、一分弱して小屋の床が徐々に上昇して隠された地下階段が木漏れ日の元で露わになる。
「こんなものは見た事が無い……少なくともここを作った時は地下なんて無かった」
幼い頃の思い出に蜘蛛の巣状の亀裂が走って壊れていく、そんな感覚にラファエロは目眩を覚え、コレットはいつも頼れるラファエロの見た事が無い様子に、胸の内から不安が込み上げてくる。
「……これは俺が突き止めるべき事だ、これから俺は地下へ行くよ」
「そうか、では探査隊の中で誰か同行者を」
「僕が」
「私も行く」
ラファエロの同行者はリヒトとヒオに決まり、三人は地下に向かって足を踏みだした。
「ラフ!」
最後尾に居たラファエロの背中に、コレットが絞り出すような声を投げかける。
「帰ったら……ちゃんと説明して。ルシアンにも」
「……当然だ、必ず戻る」
いつものラファエロらしい笑顔を残し、三人は怪物の口を思わせる地下階段をゆっくりと降りていくのであった。
「真っ暗だな」
「明かりも無いなんて……何考えてここを作ったの?」
「ああ、だが妖精の中には光源を作り出したり、夜目が利くのも居る。だからわざわざ灯りなんてつける必要が無いと考えていたのかもしれないな」
恐らく小屋があった場所の地下にこんな地下空間を作ったのだろうが、それにしてはしっかりしている。
「何の目的でこれを作ったんだろうな」
ラファエロは兜の機能を調整する側面の部位に手を掛けながら、暗視フィルターが掛けられた視界を眺める。
「少なくともここに何かがあるのは確かなんじゃないかな」
そうして歩いていると、突然ヒオが背後を振り返って弓を番えた。
「どうした?」
「……何か居る、近付いて来てる」
暗視フィルターには何も映っていないが、リヒトにも確かに何かが近付いてきている事は感じられる。
全員大きく息を吐いて五感以外の感覚を研ぎ澄ますと、ぽつりぽつりと周囲に潜む気配が増えていくような感覚がするではないか。
(居る……囲まれてる!)
何も見えないが、確かに自分達の周りに居るのがわかる。
三人とも背中合わせになって各々の武器を構えていると、ある一点から光が灯って三人とも一斉に武器を向けた。
「……待ってくれ! 二人とも武器を下ろしてくれ」
訝しがりながらもリヒトとヒオが武器を下ろすと、ラファエロはゆっくりと灯りへ近付いて声をかけた。
「ファビアン……君なんだろ?」
暗闇の中の仄かな灯りに、整った顔立ちの男が現れる。
「ラフ、久しぶりだな」
「ああ、十七年ぶりかな」
話だけ聞くと朋友の再会を喜ぶものに聞こえるが、互いの顔にはそんな様子は微塵も見られず、むしろファビアンの目には招かれざる者を見るかのような色が浮かんでいた。
「久しぶりに俺に会いに来たのか?」
「もう分るだろ?」
ラファエロはジャケットの肩に縫い付けられたエクスレイドのエンブレムを見せると、ファビアンは観念したように大きく息を吐いた。
「明かりをつけろ」
周囲の気配が一気に引いて行き、それと同時に暗闇がほんのわずかな薄闇となり、全員兜のフィルターを解除する。
「最初に言っておく、俺達は悪事を働く為にやってるんじゃない。お前も俺達の目的を聞けば賛同してくれるんじゃないか?」
「そんな事……」
一歩前に出ようとしたヒオを、リヒトが手で制して首を振る。
「まず聞こうじゃないか」
「ついて来い」
ファビアンが背を向けて歩き出し、三人もそれに続く。
「ラフ、あのマークの意味覚えてるか?」
「団結と不断の意志、だっけか?」
子供向けQVでやっていた番組か、流行っていた児童書の影響を受けたものだと思われるが、今になっては何故こんな意味を込めたかは覚えていない。
「ああ、今でもあのマークの意味には変わりない、あれを作ったのは俺とお前だが、近所の仲間達みんながあれを付けてた」
思い出した、こっそり彫刻刀を持ち出して紙に書かれたあのマークを見ながら、一人一人木のメダルに彫り込んだのだった。
「懐かしいよな、あの頃は全てが楽しかった」
この時だけファビアンの声色が優しくなってたような気がして、ラファエロの緊張がほんの少し解れる。
「さてと……ここで話すか」
足を止めたファビアンの背中に、ラファエロは意を決して尋ねる。
「お前達の目的は?」
「そうだな、一言で言うなら……森を元の姿に戻す為かな」
森を元の姿に戻す為とは、一体どういう意味なのか。
「元に戻す? 俺が居ない間に森がおかしくなったのか?」
「おかしくなった? いいや違う。俺達が生まれた頃から森は既におかしかったのさ」
ファビアンはまるで内に秘めた怒りを絞り出すかのように言った。
「アールヴ共のせいでな」
それを聞いてリヒトはヒオを横目で見ると、何か心当たりがあるらしく額に汗を浮かべていた。
「アールヴのせいで森がおかしい? どういう意味だ?」
「ハイポリアの森林地帯は一国に匹敵するレベルの面積がある……けどその殆どはルミン・アールヴが占有して他の種族を締め出してる……だからおかしいって言いたいのね」
「よく知ってるな……いいホワイト・アールヴも居るとは」
この森の現状に対し義憤を抱えた者が集まり、団結と不断の意志のマークを掲げたのだ。
「百年千年単位で続いたこの現状を打破するにはもう全てを破壊するしかない。だから俺達は……取引でこいつを作った」
ファビアンが腕を広げると周囲の薄闇が蹴散らされ、背後のモンスターの姿が露わになる。
「!」
「安心しろ、こいつはここでは動かない」
「そいつで何をするつもりだ⁉」
「こいつで森の真ん中に攻め込み、アールヴの森を開放する!」
ヒオは咄嗟に矢を引き絞ってファビアンに向け、それに対してファビアンはニヤリと笑って腕を広げる。
「やはり故郷が大事か……どうだラフ、俺達に協力しないか? 昔から曲がった事が嫌いなお前なら、俺達の大義に共感してくれるだろ?」
どこか懇願めいた口調に対しラファエロは目を瞑り、大きく息を吐く。
「お前の怒りはわかるよ」
そう告げたラファエロに、ヒオはぎょっとして視線を送る。
「クオータブリードの俺よりも妖精の血が濃いお前なら、なおさらこの扱いは我慢できないよな……」
ファビアンは自分の思いが通じたのかと笑みを深くしたが、ラファエロは目を見開いて毅然と告げた。
「だからこそお前は! やり方を間違えてはいけなかった! こんな多くの人達が傷つき命を落とすようなやり方を選んではいけなかった!」
呆気にとられたかのような表情のファビアンを前に、ラファエロはワンドブラスターを向ける。
「せめて俺に撃たせるな……大人しく来るんだ」
まるで雨の中行く当てのない子犬のような表情を浮かべたファビアンだったが、すぐにラファエロを睨みつけて歯軋りしながら言った。
「そうかそうか、またお前は俺を見捨てるのか……だったらそこで見ていろ、こいつがアールヴの森を蹂躙するのをな!」
「やめろファビアン!」
「行けぇっ! カッティダイヤーッ!」
その名を呼ばれたモンスターはぎょろりと開く目を見開いて周囲を一瞥すると咆哮し、足元の転移魔方陣に吸い込まれてその場から消えてしまった。
「急ぐぞ! あのモンスターを止める!」
「行かせるか! お前達!」
ファビアンの仲間達が一斉に三人を取り囲むも、リヒトは兜の通信機能を作動させる。
「イーライ! 転移だ!」
リヒトはヒオとラファエロの肩を掴むとその場から転移し、何とか窮地を脱するのであった。
ケイに転移した三人は、イーライとウェンディとルシアンの三人に取り囲まれた。
「どうしたんですか?」
「まずいぞ、森のどこかにモンスターが出た」
「本当かい⁉」
「ああそうだルシアン、ランスロットで出るぞ!」
コレットも呼んで小隊はランスロットに向かい、ケイと別れて森の上へと飛んで行く。
『探査隊はファビアン達を捕えに行きます、君達はカッティダイヤーを!』
『了解! 頼んだ!』
暫く森を飛んでいると、木々よりも高いあの特徴的な鼻の角が見えた。
『カッティダイヤーはファビアンが操っているか、高度な知能を持っている可能性が高い! 慎重に臨むぞ!』
『了解!』
上空から森の中心部へ進撃していくカッティダイヤーを見つけたチャリオッツは急降下し、攻撃を仕掛けようとするも、カッティダイヤーは振り返って口から赤い光線を吐いてきた。
『危なッ!』
赤い光線を回避してエルム・ショットや特殊魔術砲を撃つも、カッティダイヤーは全く意に介す様子が無い。
『こいつやたら固いぞ!』
なんとか有効打となる場所を探すも、カッティダイヤーは腕を振り回したり、長い牙を活かしてランスロットに噛みつこうとして妨害する。
『厄介な奴だな!』
更にカッティダイヤーは口と背鰭からあの赤い光線を放ってその場で旋回し、ランスロットは一時離脱を余儀なくされる。
『あの光線ヤバいッ!』
『いや待て……あれは光線じゃないぞ!』
ルシアンが指摘した通り、カッティダイヤーが放ったものは赤い高圧水流であり、その上飛び散った飛沫から白い煙が上がり、広範囲の木々に引火して燃え始めた。
『攻撃を止めて消火にせんね……』
ラファエロが指示を出したその時、カッティダイヤーの足元から優しげな光が発せられ、そこからラクスがカッティダイヤーの顎に強烈なアッパーカットを見舞いながら現れた。
「フオッ!」
『ラクスだ!』
ラクスはブリザニングとなるとグリッドスパークを空中に放ち、冷気を撒いて燃え盛る木々を一瞬のうちに消し去ってしまった。
『良かった、これで攻撃に集中できる!』
グリッドスパークを回収するとランスを形成し、振り回してカッティダイヤーを後退させてから穂先を向けて戦闘態勢を取る。
「ゼヤッ!」
口から灼熱の高圧水流を吐き出したカッティダイヤーに対し、ラクスはグリッドスパークランスを旋回させて防御し、穂先から氷の斬撃を繰り出してカッティダイヤーをその場に縫い留める。
「フッ! ゼオッ!」
ラクスは左拳を上に振り上げてエーテルバーストに姿を変えると空刀を取り出してカッティダイヤーの凍り付いた胸に突き刺し、腕を交差して電気をスパークすると、突き刺した空刀に向けて電撃を放った。
『内部への電撃が効いてる!』
カッティダイヤーを縫い留めた氷は全て弾け飛ぶも、体内に流れた電気により体の所々が破裂して流血する。
『コレット! ルシアン! 今のうちだ!』
『わかった! 最終魔術砲解禁!』
ランスロット各機の機体下部に巨大な砲門がせり出し、魔的エネルギーが収束して剣の形を形成する。
『ファビアン……』
苦悶して咆哮するカッティダイヤーの顔が、膨れ上がった怒りを吐露した時のファビアンのものに重なり、ラファエロは無意識にレバーを握り込む。
友の怒りの化身を自分は打ち砕く事が出来るのか、そんな権利があるのだろうか。
『アロン……ダイトッ!』
いいやそうではない、むしろ自分がやらねばならない。
やり方を間違えたファビアンを止めることが出来るのは、このラファエロ・ヴィエルヌを置いて他に居ない。
俺がやらねば、ならぬのだ。
『アロンダイトォッ! スラァァァァァァァァアアアアアアアアッシュッ‼』
紫がかった三本の光の剣がカッティダイヤーに突き刺さり、そこへ後押しするようにラクスがスクリューバーンを開いた口目掛けて放って体内で反応させ、ついにカッティダイヤーは大爆発を起こしてしまった。
「ゼワッチッ!」
森に広がった炎を全て衝撃で掻き消してから飛び去るラクスを眺めながら、ラファエロは大きく息を吐いてコックピットの座席に背を預けるのだった。
カッティダイヤーとの戦闘を終えて引き返した頃には、既にファビアンのグループは探査隊によって鎮圧されており、治安維持兵によって次々と連行されて行っている所であった。
「ほら、来たわよ」
ヒオに促されて立ち上がったファビアンは、乱れた髪と服の様子から必死に抵抗していた事が伺えた。
「カッティダイヤーは負けたか」
悔しそうでもなく自然な調子で言うファビアンに、ラファエロも平坦な調子で返す。
「ああ、ラクスに負けたよ」
「……違うね、お前が撃ったんだろ?」
全てお見通しだったのかもしれない、ラファエロは息を吐くと、意を決して自分の中にあった疑問をぶつけることにした。
「お前……なんであのマークを刻んだ?」
「こういったのには証が要るだろう? 色々考えてたが、結局あれがしっくりきた、それだけさ」
「それだけか?」
ファビアンは首を傾けると、ラファエロは更に続けた。
「お前、本当は俺に止めてほしかったんじゃないのか?」
それを聞いたファビアンは、一瞬呆気にとられたような顔をするも、それを鼻で笑って首を振る。
「そんな訳ないだろう、計画を止められたがる奴が何処に居るんだ?」
「じゃあお前はどうして……今そんな顔してるんだ?」
そう言われたファビアンは頬を撫でると、まるで憑き物が落ちたように笑った。
「フッ……そうか」
自分の心に膨れ上がっていた怒りが、不思議と霧散している事に気付いたファビアンは、ラファエロに向けて両腕を突き出した。
「お前が掛けてくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
ラファエロはファビアンに手錠を掛けると、治安維持兵に引き渡すのだった。
「ラファエロ」
治安維持兵に連れられる前に、ファビアンは振り返って言った。
「気を付けろ、エクスレイドは狙われてる」
「なに?」
「これ以上は言えない、俺が消される」
連れて行かれるファビアンを眺めながら、リヒトは眉を顰めてソルティアに語り掛ける。
『狙われてる?』
『思い出してみろ、カッティダイヤーは取引で手に入れたと言っていた。その取引相手の事じゃないか?』
『相手は炎の道?』
『かもしれない、一つだけ言えるのは、思った以上に君達を狙う銃口は多いという事だ』
意味深な言葉に、リヒトは眉を顰めて仲間達を見回す。
そして水面下で新たな敵が動いていたのを、リヒトはまだ知らなかった。
To Be Continued.
友情と使命に挟まれながら、ラファエロは今でも友情を感じるからこそ、使命を遂行するという選択を取りました。
そしてファビアンが残したあの言葉とは一体?
これからの展開に目が離せません。
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また来週お会いしましょう。




