バッド・ハンズ 後編
キルゴレムの反応を追い、無法地帯バッド・ハンズ・エリアにやってきたエクスレイド。
ウェンディの親友ロッテの助けを借り、スティーリーギャングの工場へ向かった一行が見たものとは?
無法地帯で正義の怒りが炸裂する!
突如アーブ王国に出現したゴーレムと魔術機械を組み合わせた謎のモンスターキルゴレム。
その謎を追ってエクスレイドは、危険な無法地帯バッド・ハンズ・エリアに向かった。
スティーリーギャングの襲撃を受けつつも、白吸血鬼ドン・ゴルバスや情報提供者にしてウェンディの友人ロッテの支援で、ついにこの一件の裏に居る炎の道の存在を突き止める。
炎の道と結託したスティーリーギャングの下へ乗り込まんとするエクスレイド、果たして初めての国外任務はどうなるのであろうか?
それから一時間後、ブリーフィングを終えたエクスレイドとロッテは工場兼アジトの間取りを頭に叩き込み、黄昏の薄闇に紛れてその近くに向かった。
「作戦はわかっているな?」
「はい」
「よし、イーライ、ウェンディ、ロッテ。工場に」
この三人とリヒトが小走りで工場の方へ向かったのを確認し、アイリスは他のメンバーにハンドサインで指示すると全員武装してアジト周辺に散らばり、壁に爆裂術式をワンドブラスターで刻んでいく。
「……バン」
アイリスの小さな囁きと共に隊員達により刻まれた術式が一斉に起動して大爆発が起こり、何事かとスティーリーギャングが一斉に現れる。
「な⁉ なんだぁ⁉」
「あっ! あいつらは!」
ヴェルクがハンマーを担いでニヤリと笑い、アイリスが背中からクレイモアを抜いて突き付ける。
「キルゴレムの返礼にこちから出向いてやったぞ、光栄に思え!」
エクスレイド数名に対し、スティーリーギャング全て。
激突が始まる。
アイリス率いるエクスレイドが騒ぎを起こしている間、リヒト達四人はまんまと工場の裏へと侵入に成功していた。
「うん……すっごい混乱してるな」
この四人は工場に潜入する役割を与えられており、リヒトはその護衛役なのだが、あまりにも混乱が大きかったせいかここまでは全く何もなかった。
「そりゃあれだけ派手な花火を上げればするでしょう。僕が特別に書いた術式ですからね」
「さすがゴルドスタイン先輩です……ウェンディの話や噂に聞く以上ですよ」
「イーライで良いよ、あまり自分の苗字が好きじゃないから」
そんな会話をしながら、イーライは魔道具を取り出してその先端を工場の壁へ当てる。
「無事混乱はこの工場まで波及してるみたいだ」
どうやらこの魔道具で壁の向こうの会話を聞いているらしい。
「そうか、じゃあここから開ける?」
「いいや、もう少しこの先に行った方が良いですね。目的地までの距離は少し長くなるけど、修正が効く範囲内です」
イーライに従って移動し、丁度いい場所を見定めて、遂にこの四人での本格的な作戦が開始された。
「ロッテ、お願い」
「うん、仕立人に自作の魔道具を見られんの……ちょっと緊張するなぁ」
そう言いながらロッテは白い作業着のポケットからテニスボール大で半球型の魔道具を取り出し、工場の外壁に取り付ける。
「下がって!」
半球を中心に紫電が走り、外壁に人が通れるサイズの大きな穴が開いた。
「なるほど、面白い魔道具だね」
イーライに褒められて頭を掻きながら、ロッテは穴から工場に入り、他三人も後に続く。
「侵入に成功っと……まずどこに行く?」
「まあ先にデータの回収と破棄からでしょうね」
「OK、じゃあ行こう」
リヒトを先頭に工場内を進み、ラボ兼データ管理室前に辿り着いた。
「見張りが居るな」
「この事態だからさすがに警戒するか」
「ちょっと行って来る」
リヒトは音を立てず見張りに忍び寄り、至近距離から麻痺術式が描かれたパッチを首筋に張り付け、一瞬でダウンさせてしまう。
「エクスレイドってこんな事もするの?」
「いや? 今回が初めて」
やけに手馴れてるリヒトの手口に舌を巻きつつ、三人は手招きに従ってデータ管理室へ侵入した。
「よし、誰も……いた!」
データ管理室の机に、一人の男が座って作業を続けていた。
「なんだお前達のボスから催促か? 今忙しいから……ん? お前たち見ない恰好で……ああ! ロッテ・ヒースじゃないか!」
「やっぱりあんただったか、ルイス・ゲーナー」
このいかにも傲慢で小狡そうな男の名はルイスと言うらしい。
「誰?」
「ルイスは流れ者の魔術師で、主な専攻はゴーレムに関する技術……おそらくキルゴレムを作ったのはこの男です」
「キルゴレム? ああ、あれをお前達はキルゴレムと呼んでいるのか……うん、気に入った」
「気に入ってくれてありがとうよ、返礼としてなんでこんな事しでかしたか教えてはくれないか?」
リヒトに促されたルイスは忌々しいものを思い出した時のように話し出した。
「目的か! 私を否定したハイポリアの碩学サマに復讐する為さ!」
「ルイス・ゲーナー……思い出したぞ! 対モンスター用ゴーレムの構想を打ち立て、学会を追放されたっていう……」
「あぁ? よく見りゃ仕立人じゃないか! そうか……ハハッ! 奴らはキルゴレムをアーブに放ったのか、エクスレイドが釣れるとは思わなかったぞ」
邪悪な笑みを浮かべながら、ルイスは更に続ける。
「わざわざここまで来たという事は、キルゴレムはハイポリアで最も発展している対モンスター組織を手古摺らせたという事だな……私は正しかった!」
「正しいだって? あんな多くの命を危険に晒す真似をしておいて、よくもそんな事が言えたな」
「連中がどこにキルゴレムを放とうが私の関知する事ではないわ。私は研究結果を得ることが出来ればそれで良いのだよ」
ルイスには何を言っても無駄そうだと、リヒトは首を振って溜息を吐く。
「連中って……スティーリーギャングと手を組んでいる組織の事?」
「ああ、確か炎の道とか言ったか。奴らは新しい世界を作るためにモンスターを一掃しようとしているんだと、そのために私の力が必要だと言った。ただの宗教団体だと思っていたが、案外見る目はあるらしいな」
「他に居ただろ? もう一人」
そういえばロッテはもう一人の外部の協力者が居ると言っていた。
「ああ、変な格好をしていた女か、名前は知らないが、私に新しい閃きを与えてくれたんだよ。おかげで……メルゴレムが完成した」
この言葉の意味を理解した四人に激震が走り、即座に部屋を出て工場の中央へと急ぐ。
「ハハハハ! どうせメルゴレムは起動する! 言っておくがその強さはキルゴレムなど比ではない! せいぜい無駄な足搔きを続けるがいい!」
新型ゴーレムの存在が明らかになった一方で、陽動組は不意を突いたこともあってかアジト内部に侵入して大暴れしていた。
「アイリス隊長! 俺達は地下を調べます、探査隊は上のエリアを!」
「了解した、気を付けろよ!」
クリフとバイロンとカイの三人は地下に繋がる扉を蹴破り、一斉に地下へ雪崩れ込む。
「敵は⁉」
「いな……待て、なんだこれ」
バイロンが困惑したのも無理はない、事前に得ていた情報と地下室の間取りがかなり違う。
「なんだよこれ、滅茶苦茶広くなってるな……とりあえず報告だけ」
アイリスに地下空間がかなり間取りと異なる事を伝え、三人は地下に足を踏み入れる。
「つっても……広すぎるぜ」
「三手に分かれよう」
ガウェイン小隊はワンドブラスターを構え、地下の探索へ向かうのだった。
ワンドブラスターの銃口の先端から放たれる灯りで薄暗い地下階を探っていたカイだったが、奇妙な扉を見つけた。
「檻?」
まるで牢屋に使われるような鉄柵で作られた扉があり、まるで押し殺したかのような息遣いが聞こえる。
「これは一体……」
扉に手を掛けたが開かず、鍵をワンドブラスターで吹き飛ばして中へ潜入し、周囲の情況を確認する。
「なっ!」
カイは目を疑った。そこには無数の牢屋が立ち並び、中にはボロボロで汚れた布切れを纏った子供や女が囚われており、全員カイを見て怯えるような諦めたような目で見上げている。
「なに?」
「誰ですか?」
ろくなものを食べていないのだと容易に想像できる子供たちの痩せた体を見て、カイはかつて孤児だった頃の自分を思い出して歯軋りする。
「伏せてろ!」
カイは静かにそう言うと牢屋の鍵を撃ち抜き、牢屋に囚われていた者を全て解放した。
「あ……あなたは⁉」
「俺はエクスレイドだ」
「エクス……レイド?」
「知らないか……すまない。俺はアーブから来た、君達を助ける!」
カイの言葉に皆一瞬喜びの色を浮かべるも、すぐに不安げな顔に変わる。
「どうした?」
「実は……」
「ここの看守は手強い奴で……」
「大丈夫だ、俺も多少心得はあるし、仲間もいる。どんな奴が来ても必ず守るよ」
囚われていた者達は皆、このノクス・アールヴの青年の物静かだが力強い言葉に、不思議と賭けてみたい気持ちになった。
「他に囚われているのは?」
「あっちに労働力用の男の人達が……」
「わかった、彼らも連れて行くぞ!」
カイは囚われていた者を全て解放すると、クォーツシーバーでクリフとバイロンに今起こった事を報告する。
『そうか、俺達もそっちへ向かった方が良さそうだな。最初の入り口で合流だ』
「ああ、大人数の護衛になるから、一人よりも三人の方が確実だろうしな」
『音の反響を頼りにしてるから不完全だが、クォーツシーバーとワンドブラスターを使ってマッピングしてみた、使ってくれ』
「おお! 助かる」
バイロンから送られてきた地図を頼りに、カイは最初の地下室の入り口を目指すことにした。
「みんな来てるな?」
「はい!」
ちゃんと揃っている事を確認したカイは、扉のノブに手を掛ける。
「扉が狭いから一列に……」
「お兄さん前ッ!」
カイが前を見るより早く腹部に強烈な一撃が刺さり、訳も分からぬまま世界がぐるぐると回って全身に激痛が走る。
「嫌あっ!」
「ひいっ!」
大勢の悲鳴を聞きながら、腹を殴られて投げ飛ばされたのだと察知したカイは、自分を投げ飛ばした者を視界に収める。
(身長約二百二十……筋骨隆々、種族人間! こいつが例の看守か!)
カイは気合を入れて痛む体を跳ね上げ、看守の背中に飛びついてチョークスリーパーをかける。
「逃げろ! 俺の仲間を探せ!」
自分の黒い肌に容赦なく太い指が食い込んで骨が悲鳴を上げるも、カイは意地でも腕を離そうとしなかった。
そして最後の捕虜がこのエリアを抜けたことを確認したカイは、ようやっと腕を話すことが出来た。
「アアッ!」
ポケットから薬草を固めたバーを噛み千切って嚥下し、回復と痛み消しを同時に行う。
「俺に組みついて奴隷どもを逃がしたのは立派だったな。後で全員連れ戻すがね」
「仕事が増えて大変だな……だが喜べ、お前は今この瞬間から休暇が取れるぞ!」
カイは看守よりも素早く動いて仕掛けるも、逆にまた投げ飛ばされて硬い床を転がされる。
「ううっ! はっ!」
落としたワンドブラスターを向けるも踏み潰され、背中を踏みつけられる直前に脱し、軸足を払ってマウントポジションから打ち据えようとするも腕を掴まれて揉み合いになり、再び徒手空拳の睨み合いとなる。
(こいつ、なんて馬鹿力だ)
この看守はノクス・アールヴであるカイと互角どころかそれ以上の腕力を持っており、このまま一対一で戦い続けるのはかなり難しい事が予想される。
(やむを得ないな……)
「ハッ!」
カイは殴り掛かるフリをして屈み、ブーツの隙間からナイフを取り出して看守の胸元目掛けて突き刺すも、看守はニヤリと笑って首を振って見せた。
(こいつ⁉ 本当に人間なのか⁉)
咄嗟にナイフの柄尻を叩いてより深く突き刺そうとするも、その前に胸倉を掴まれて壁に叩き付けられ、顔面を掴まれて後頭部を打って意識が遠のきかける。
「カイ! 今助けるぞ!」
窮地を聞きつけてやってきたバイロンだったが、看守は胸に刺さりっぱなしだったナイフを引き抜いて投げつけ、怯んだところにカイを投げつけて行動不能にする。
「くそ……」
「バイロン……すまない」
この場を去ろうとした看守に二人は食らいつくも、足に組みついたカイは顎を蹴られ、体に組みついたバイロンは胸に肘打ちを喰らった。
「ブグッ!」
「あがはっ!」
「ふっふっふっふ……ぬおらっ!」
バイロンは棚に向かって投げ飛ばされ、破壊された木材や棚の中の空瓶の破片が降り注ぐ。
「クソが……」
視界の半分が赤く染まりながらもバイロンは釘が刺さったままの木材を取ると、カイに向かおうとした看守の後頭部目掛けて思い切り叩きつけた。
「がああああっ!」
木材による打撃に加え、釘が首筋に深い傷を残し、看守の鮮血が飛び散る。
「この……こん畜生がァ!」
看守渾身のタックルを避け切れず、バイロンは組みつかれたまま壁に叩き付けられ、壁を粉砕したうえで地面に叩き伏せられた。
「アァッ……くぉぉ……」
「顔面ぐちゃぐちゃにしてやる! おおおおっ!」
看守が両腕を振り上げた直後、真横に吹き飛んで壁に叩き付けられる。
「大丈夫か?」
何とか首だけを動かすと、クリフがワンドブラスターを構えて立っていた。
「……遅いぜクリフ」
「悪いな、囚われた人達を上に案内してたら遅くなった」
「みんな……無事なのか?」
「ああ大丈夫だカイ、探査隊に引き継いだよ」
起き上がった看守に向けてクリフは更に衝撃波弾を浴びせて怯ませ、バイロンとカイを抱き起して脱出を図る。
「待てェ! 殺す! 絶対に殺す!」
怒髪天に達した看守が血走った眼でガウェイン小隊を追いかけ、クリフの衝撃波弾も回避しながらこちらに迫ってきた。
「まずい!」
看守が三人へ飛び掛かろうとしたその時、三人の頭上から拳が飛んで来て看守の顔面を殴り飛ばしてしまった。
「悪ぃ! 遅れた!」
「来てくれたかヴェルク!」
自分以上の巨躯を持つ相手にも関わらず、看守は怒りに任せて立ち上がった所を、ヴェルクは足で抑えながらハンマーの柄尻に仕込んだ術式を起動する。
「うるせぇから黙って……ろっ!」
ハンマーの柄尻が地面に叩き付けられた直後、看守の身体が結晶化して動かなくなってしまった。
「よし、行くぞお前ら、怪我がひどいなら負ぶってやるけど、どうする?」
「大丈夫に決まってんだろ?」
「かすり傷だ」
「そうか、頼もしいこって」
四人は結晶化した看守を残し、地下室を後にするのであった。
その頃工場では、リヒト達四人が迫り来る敵を次々と薙ぎ倒しながら『メルゴレム』を求めて内部を疾走していた。
「もしここで起動されたら大勢の人達が!」
ここバッド・ハンズ・エリアはアーブとは異なり避難誘導などはほぼ不可能である。
よってここでの最善策はそもそもメルゴレムを起動させない事に限る。
「多分あそこだ!」
「みんな下がって!」
ロッテが投げつけた空間掘削球で空いた穴に入り、広い空間の中を見上げる。
「……ビンゴだ」
「確かに後継機って感じですね」
まだドックに入ったままだったが、もう殆ど完成しているのがわかる。
「おい! お前達何者だ!」
「どけ! お前達はあれがどんなに危険か分かってない!」
「知るか!」
襲い掛かってくるスティーリーギャング配下の者達を、リヒトは徒手空拳で全て片付けながら、イーライにアイコンタクトを取る。
「二人とも急ぐぞ! メルゴレムの遠隔停止を試みる!」
「はい!」
「任せてください!」
メルゴレムの状態を示しているクォーツモニターを見つけ、そこから魔術的アクセスをかける。
「センパイ……どうですかね?」
「……出来るところまではやる」
イーライはモニターからブロックを次々と解除し、ウェンディとロッテの助けを得つつ、ついにメルゴレムの遠隔操作パネルを表示させることに成功した。
「大丈夫か?」
ある程度敵の襲撃を捌き切ったリヒトが、魔術師組の様子を見に来る。
「大人って子供を安心させるとき、どんな状況でも大丈夫って言いますけど、そういうのって大抵嘘ですよね?」
「え?」
訳の分からないことを言い始めたイーライは目を見開き、半笑いでリヒトに告げた。
「万事問題ありません」
イーライの言葉と共にメルゴレムのセンサーアイが起動して光が灯り、各部位から駆動音がして本格的な軌道を始めた。
「上手く行ってたんじゃないんですか!」
「出来るところまではやるとは言った! 逃げるぞ!」
起動しつつあるメルゴレムから逃げながら、イーライはアイリスに報告する。
『そうか……すぐにその場から離れろ、チャリオッツでメルゴレムを迎え撃つ!』
「わかりました!」
四人が出口を目指そうとした直後、真後ろから轟音が響きその衝撃で全員吹き飛んでしまう。
「うわっ!」
「ウェンディ!」
「だ、大丈夫です! 今のは一体……」
振り返るとメルゴレムが手を地面につき、ドックから這い出そうとしていた。
「ルイスの野郎、なんてものを作ったんだ!」
メルゴレムはセンサーアイから強烈な光条を発して工場の屋根を破壊すると、周囲を破壊しながら外界へとその身を露わにする。
「早く……逃げないと!」
メルゴレムが滅茶苦茶にしたせいで、今にも建物全体が崩れようとしている。
「ウェンディ! 危ないっ!」
ウェンディの真上に折れた梁が落下してきて、イーライが咄嗟に覆いかぶさった。
「ソルティアッ!」
リヒトの腕にスパークルトランサーが現れると同時に、体が眩い光を放って周囲の薄闇を蹴散らしていく。
月に照らされた工場の瓦礫から優しげなエメラルドグリーンの光の柱が伸び、それと同時に瓦礫を粉砕しながら手を天に突き出したラクスが現れ、手の上に乗せたイーライ達を優しく地面に降ろした。
「ラクス!」
「あれが……アーブに現れた巨人!」
ラクスは三人を見て頷くと立ち上がり、メルゴレムに向けて構えた。
「ゼヤッ!」
振り返ったメルゴレムへ肉薄し、アストロイドボムにデルゴラスの力を加えたサテライトハンマーを叩き込むも、多少よろけるだけで即反撃に転じてきた。
「フッ!」
ハニカムシャッターでセンサーアイから放たれる光条を防御して跳ね返すも、キルゴレムと同じようにシールドを展開して無効化する。
「あいつ……しっかりキルゴレムの後継機だな」
「キルゴレムの弱点と言えた強烈な攻撃手段を持たない所も克服されている。手強い相手だぞ」
リヒトは迷った末、グランサンダージェムを取り出した。
「渾身の力でぶっ飛ばす!」
ラディアンスからグランサンダーとなったラクスは、全身に電撃のエネルギーを迸らせ、その力を右腕に収束して渾身の力でメルゴレムを殴りつけた。
「おお!」
「メルゴレムの腕が!」
ラクスの強烈なパンチを腕を交差させて防御したメルゴレムだったが、そのあまりにも強烈な力に耐えられず腕が損壊してしまった。
「フッ! ヌオッ!」
畳み掛けようとしたラクスだったが、メルゴレムはセンサーアイから光条を放って距離を取り、同時に損壊した両腕を修復してしまった。
「なるほど、わざわざゴーレムの技術を使った理由がこれで分かった」
「そうか、ゴーレムは疑似とはいえ生命体、だから回復能力が使えるという事ですね」
「そういう事だ、しかもメルゴレムは完全にゴーレムじゃないから呪符の言葉を書き換えるだけじゃ止まらない。相当厄介だぞこのメルゴレムは」
両腕を回復したメルゴレムは再びラクスへ向かおうとするも、横から攻撃を喰らって何事かと振り返る。
「ゼッ!」
『待たせたなラクス!』
『俺達も居るぞ!』
ガウェイン小隊とケイが援護に駆けつけ、ラクスは再び構えてメルゴレムへ向かって行く。
「ゼアァッ!」
マグメーザーを放ってわざとメルゴレムにバリアを展開させ、そこに思い切り拳を叩き込んで無理にバリアを突破し、その隙にチャリオッツがメルゴレムを攻撃する。
『奴の装甲は硬いが、温度差によるダメージは有効だ』
『グリアンゲロへの対策がこんな所で生きるとはな!』
冷熱魔術砲がメルゴレムへ降り注ぎ、右側胸装甲にヒビが入る。
「フゥオッ! ゼイヤッ!」
ラクスはガウェイン小隊が作った隙を見逃さず、ヒビが入った部位へビートプレッシャーウェイブを叩き込んでトドメを刺そうとする。
「フッ⁉」
ビートプレッシャーウェイブによって射出された結晶体が粉砕し、その直後にラクスを凄まじい衝撃が襲った。
「ギヨワッ‼」
『ぐおっ!』
『うわあああっ! くっ……大丈夫か!』
ラクスは吹き飛んでアジトを押し潰し、チャリオッツは船体が大きく揺れて高度が下がる。何が起こったか分からず困惑する者達だったが、イーライ達は何が起こったかしっかりと目撃していた。
「今のは何⁉」
「メルゴレムの切り札か!」
メルゴレムの頭部から放射状にエネルギーが放たれ、直撃したラクスは勿論、余波でチャリオッツも一時制御不能に陥ったのである。
「ラクス! 大丈夫⁉」
「ニォオオ……」
完全に崩壊したアジトからラクスは何とか起き上がって構えるも、もはやメルゴレムは完全回復している。
「あんな隠し技があったとはな」
「どうする?」
「ブリザニングで撹乱して、オメガバニッシュマイトで……」
『それよりもっといい策があるんじゃない?』
テレパシーで聞き覚えのある声したと同時に目の前がセレストブルーの力強い光で覆い尽くされ、その光の中からシエロが現れる。
「オトハ! ゼフェル!」
『奴の攻撃は俺達が封じる! それまでトドメの準備をしていろ!』
「シェアッ!」
突如現れたシエロは構えるとメルゴレムへ向かって行き、メルゴレムは腕から魔術砲を展開して迎撃する。
「トワッ!」
魔術砲を跳躍して回避したシエロは、全身を紫色の霧に包んだ。
「あれは……」
「まさか……フォゴンの霧?」
フォゴンチップの力によって纏った霧でメルゴレムの魔術砲を無効化し、センサーアイから放たれた光条もグロウエッジで相殺する。
「ジェッ! ムウンッ!」
メルゴレムはセンサーアイから放つ光条の威力を更に上げて放とうとするも、ゾーペントチップによって放たれた衝撃波により頭を粉砕され、頭部に大きな損傷を受ける。
「シェアッ!」
「ゼッ!」
シエロに促されたラクスは立ち上がってエトワールギアを纏い、エトワールアイギスを取り出す。
「今回は助けられたな」
「ああ、最後は共に決めるぞ」
エトワールアイギスのカバーを開けると、コメット、デルゴラス、ラディアンス、ブリザニングのジェムを装填する。
「ファーレンハイトッ! ソーサァーッ‼」
エトワールアイギス円周を囲むようにノコギリ状の光輪が発生し、シエロもアストラルハルバードを取り出して刃先にエネルギーを収束させる。
「フッ!」
「ムウンッ!」
ラクスとシエロは頭部が抉れたメルゴレムへ向けて走り出し、二人同時にメルゴレムの胸を切りつけて内部機構を露出させる。
『ラクスとシエロがやってくれた!』
『俺達で決めるぜ! 最終魔術砲解禁!』
三機のガウェインの魔術砲にエネルギーが収縮していき、同時にケイの特殊魔術砲のエネルギーが向上していく。
『プロミネンスバァァァァアアアアアンッ‼』
『ガラディーンバーストッ‼ 行けぇぇぇぇえええっ!』
プロミネンスバーンとガラディーンバーストがメルゴレムの胸の穴に直撃し、内側から大爆発を起こした。
『やったぞ!』
『どんなもんだスティーリーギャング! エクスレイドとルミナスは無敵だぜ!』
安心したように胸を撫で下ろすイーライ達を見て、ラクスとシエロは頷くと、月夜に向かって飛び去るのであった。
「ゼワッチッ!」
「ジュワッ!」
エクスレイドとメルゴレムの壮絶な戦いを見ながら、一人の男がほくそ笑んでいた。
「……クックックック」
キルゴレム、メルゴレムを作った男、ルイス・ゲーナーである。
「これがルミナスの力か……いいものが見れた」
いずれスティーリーギャングは潰れるだろう、その前に炎の道に頼んでバッド・ハンズ・エリアを脱し、彼らが作る新世界で自分の有用性を証明すればいい。
こんな掃き溜めは所詮踏み台に過ぎない、しばらくの間身を隠せる場所があればいい。
そう思いながら去ろうとすると、後ろに誰かが立っていた。
「おお! あんたか」
奇抜な服装をして顔面の半分を白塗りにした背の高い美女。
彼女こそルイスに技術的アドバイス伝えた親切な者である。
「今のはあんまり面白くなかったな」
「面白くないって……どこがだ!」
「結局キルゴレムと似たようなやられ方をした、そこが気に食わない」
「そうか……だが次回は大丈夫だ。メルゴレムの後継機、ギルゴレムの構想はすでに出来てる! 今度は楽しめるさ!」
女は興奮気味に今後の展望を語るルイスの話を半笑いで聞いていたが、突然頭を鷲掴みにする。
「な……何をするんだ!」
「そうかそうか、もう構想はあるのか……じゃあお前の頭だけ貰うよ」
「なっ⁉」
「後は私が作る、ゴレムに関してはそっちの方が楽しそうだ」
夜の薄闇に人知れず、ルイスの絶叫が響き渡った。
「良かった良かった! 無事に解決できて何よりでございます!」
翌日の朝の事、ドン・ゴルバスは満面の笑みで拍手し、エクスレイドの健闘を称えた。
「スティーリーギャングの地下に囚われていた者達は本当に連れ帰って良いのですか?」
「ええ、|バッド・ハンズ・エリア《ここ》ではなくアーブの温かい環境で保護なさると良いでしょう、この件に関しては他ならいざ知らず、私は止めません。ああ、そこで腑抜けになってるルイスとかいう魔術師も連れ帰って構いませんよ」
ゴルバスの答えを聞き、カイはホッと一息ついて小さく笑みを零す。
「ドン・ゴルバス、あなたの恩義に報い……」
「いえいえ、あなた方が気にする事ではない。私は既に……」
「数十回分の抗陽光症薬をお送りさせていただきます」
それを聞いたゴルバスの目が見開かれ、より一層笑みを深めた。
「そうですか! でしたら頂いておきましょう。届くのを楽しみにしておきます」
その後で二言三言別れの挨拶を交わし、エクスレイドはチャリオッツに乗り込んだ。
「良いんですか? 協力者とはいえ反社会的勢力に贈り物なんてして」
「下手に恩を着せられるより、ここで貸し借り無しにしておいた方がよっぽどいい」
「……確かに言えてるかも」
どこかやりづらく張り詰めた無法地帯の任務もこれで終わる。やはりアーブが一番である。
「それではお元気で! これからも頑張ってください!」
ゴルバスとその部下に見送られながら、エクスレイドはチャリオッツを飛ばしてその場を去るのであった。
『このまま帰らせて良かったのですか?』
上機嫌のボスに側近が聞き、ゴルバスは笑いながら返した。
『良いんだ良いんだ、これでとうとうスティーリーギャングをぶっ潰せる、そのうち抗争を起こすつもりだから準備しておけよ?』
そのやり取りを聞きながら、サラダボウルの酒場のカウンターでロッテは一息つく。
「まあ……目的はそんなものか」
盗聴用の魔道具を仕舞いながら大きく伸びをする。
「どうしたんですかい?」
「いやなに、これから忙しくなると思ってさ」
ロッテがバッド・ハンズ・エリアに来たのは、ここがこれ以上悪くならないようにするためである。
「どこまでやれるかわからないけど、ちょっと頑張ってみるよ」
「あんたはよくやるね、究極のお人よしっていう奴も居るけど、俺はあんたみたいなの、好きだよ」
「そう? まあこの命続いて手が伸びる限り、一つでも多くの命を守りたいからさ」
巨大モンスターと日々戦っている敬愛する親友の背に少しでも追いつくことが出来るようにと、今日もロッテは奮闘するのであった。
To Be Continued.
ハイポリア各地で暗躍する謎の道化メイクの女が再び登場しました。
果たしてこの女の正体と目的は一体?
事態は解決しましたが、なぞはまだまだ深まる事となりました。
感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。
また次週、よろしくお願いいたします。




